うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる 作:インスタント脳味噌汁大好き
「……負けました」
『序盤から時間を使ったのに結局負けるんですか』
(九頭竜がミスしなかったから仕方ないだろ。九頭竜は、そろそろ揺さぶりが効かなくなってきたな)
俺の6連勝で迎えた竜王戦の第7局。九頭竜相手に5回目の角落ち上手での対局となり、とうとう俺が負けた。名人に名人戦で負けた後の帝位戦では九頭竜と3年連続の帝位戦となり、角落ち上手でも負けるかなと思っていたら、その時は勝てたけど今回は駄目だったわ。
『角落ち上手は、相手のミスがなければどうしようもないですからね』
(何なら相手がミスをしてやっと五分という。まあ、5局も指せば1局は負けるわ)
今回の竜王戦は第5局の香落ち戦でも負けかけたし、名人亡き今、九頭竜は俺に唯一対抗できそうな存在としてメディアでは持ち上げられている。いや名人死んでないけど。
今年の夏以降のイベント、俺や九頭竜や歩夢といった若い世代の徴用される回数が減ったのは名人の影響が大きい。何ならあいや天衣すら呼ばれる回数が減ったからな。
何だかんだ言って、20年以上将棋界のトップに君臨し続けたんだ。知名度は今回八冠になって、ようやく俺と名人の知名度が並んだと思えるぐらいには名人の知名度は高い。
永世竜王を獲得している九頭竜だけど、当然知名度は名人に劣る。来年以降は竜王戦の優勝賞金が入らなくなるから、色々と大変そうだな。まあタイトル挑戦回数は九頭竜が1番多いし、タイトル戦は負けても多額の賞金が入るから賞金ランキング2位の座はそう簡単に明け渡さないだろうけど。
『一般棋戦の優勝回数は九頭竜が1番多いですからね』
(俺が序盤でさっさと敗退するから、そりゃ九頭竜が勝ち上がるよねって感じ。止められるの、歩夢や生石さん、山刀伐さんぐらいしかいないし)
『A級棋士でも、九頭竜相手の勝率は3割程度ですからね。そしてその九頭竜がA級に昇級したことで、A級棋士のレベルはさらに上がりました』
(今年度の3連単はもう九頭竜、歩夢、山刀伐さんが鉄板だな。ほぼ確実に、来年の名人戦は九頭竜が相手だろう)
『飯盛さんは、A級に上がれるかも怪しいですね。早指しは得意ですが、持ち時間の長い棋戦は早々に敗退しているので……順位戦でB級1組まで上がったことがおかしいぐらいです』
天衣は14歳の誕生日を迎え、そろそろ少し見上げないといけなくなってきた。165センチってマジ?将来的に170センチ近くまでは本当に伸びそうで困る。なおあいも同じぐらいの身長の模様。最近の子は発育良いな。俺も最近の子のはずなんだけど。誰か九頭竜辺りと身長を入れ替えて欲しい。
『順位戦といえば、女流名跡のリーグで晶さんがあの後4勝1敗して5勝4敗でリーグに残ったのは想定外でした』
(まあ知ってる人がリーグには多かったからな。晶さんをラジコンするのはちょっと楽しかった)
『運もありましたし、容姿も相まって、中々に人気も出てきた感じですね』
(世間的には焙烙さん2号なんだろうけど。3連敗してからの5勝1敗だからな)
晶さんの棋力自体は微増傾向というか、たぶんアマ四段はない。まだアマ三段レベルだろうけど、ある程度は俺から伝えられる指し手の意味を理解できるので何とかなっている状況。
天衣以上のパワーレベリングをしているのに育たないので、将棋を始めるのが遅くて才能が皆無、天衣の付き人としての仕事もこなしているならここが限界なのだろう。まあ他の棋戦でも女流棋士相手に勝った負けたは出来ているので問題はなさそう。少なくとも即引退だけは無いと思いたい。
竜王戦が終わり、盤王戦の挑戦者決定戦。勝ち残っているのは椚と天衣なので、どちらが勝っても九頭竜の持つ最年少タイトル挑戦記録を塗り替えるということで話題になっている。九頭竜が歩夢に負け、その歩夢が椚に負けるという波乱が起こった盤王戦は、天衣も於鬼頭さんと歩夢を破って挑戦者決定戦まで勝ち進んでいる。
まあ九頭竜は来月から行われる玉将戦の挑戦者にもなったし、竜王戦のタイトル戦中に行われた盤王戦のトーナメントで負けるのはしゃーない。歩夢が椚に負けたのも、昨年の竜王戦の挑戦者決定戦で起こったことか。天衣が椚に勝てばタイトル挑戦者になる大きなチャンスだけど、問題は天衣が敗者復活戦から勝ち上がっていること。
盤王戦の挑戦者決定戦は、2番勝負だ。挑戦者決定トーナメントの優勝者は椚で、天衣は準決勝で歩夢に負けている。そこから同じく準決勝で椚に負けた於鬼頭さんに勝ち、挑戦者決定トーナメント決勝で敗れた歩夢に敗者復活戦の決勝でリベンジを果たした。
この敗者復活戦の勝者と挑戦者決定トーナメント優勝者で2番勝負によるタイトル挑戦者を決める仕組みだけど、敗者復活戦で勝ち上がった側は2勝しないといけない。盤王戦は準決勝以降、2敗すると敗退するシステムだから、ここまで一度も負けてない椚は1敗できる余裕がある。
『わりと面倒なシステムですよね。誰が考えたんでしょう』
(さあ?現行ルールになってから、敗者復活戦から勝ち上がった方がタイトル挑戦者になる確率はどれぐらいだ?)
『過去30期中、10期だけですね。持ち時間が長い椚を相手に2連勝しないといけないのは辛いです』
プロ棋士になってからも天衣は何度か椚相手と戦って勝ってはいるが、当然負けてもいる。天衣より1つ上の椚は、本来なら来年から高校生だけど進学はしない模様。まあそこまで学業を重視するタイプにも見えないし、進学しない方が椚にとっては良さそう。
挑戦者決定戦の二番勝負は、初戦で天衣が椚に勝ち、約束まであと一勝に迫った次局。秘めていた新手が無事空回りして天衣は椚に負けた。これで最年少挑戦者記録は椚が更新したけど、天衣はこの記録を更新するチャンスが一年残っている。しかしまあ椚も強くなったというか、成長してるわ。成長しているのが天衣だけじゃないのはよく分かる。
この対局の後、しばらく天衣は元気がなかった。天衣は自分の才能に疑いも持っていたけど、原作で三段リーグをトップ通過、小学生棋士になった椚創太と、空銀子に結局黒星を付けられなかった女流棋士夜叉神天衣の生まれ持った才能の差は確実にあるわ。
『次にタイトルを狙うとすれば、決勝トーナメントの組み合わせが良かった棋帝戦ですか』
(決勝までに強い人があまりいないからな。強いて言えば飯盛さんだけど、天衣は相性良いし)
『今回の団体戦で1番盛り上がったの、大将戦で起こった天衣対飯盛さんの対局ですよね』
(2人とも狂ったように自陣に駒を打ち付けて持久戦にしたからな。お互いに相手が持久戦を苦手だと踏んで、自分から泥沼に突っ込むのは見ていて面白かったわ)
天衣が次に勝ち上がるとしたら、棋帝戦のトーナメントだろう。それまでに三番手直りの制度を無くすのが、来年の俺の目標かな。