うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる 作:インスタント脳味噌汁大好き
椚が最年少タイトル挑戦者記録を塗り替えてから半年。天衣がその記録を塗り替え、14歳6ヶ月という若さでタイトルの挑戦者になった。そのタイトルの名は棋帝であり、俺が初めて取ったタイトルでもある。
先日の棋士総会の結果、このタイトル戦が最後の三番手直りのタイトル戦になるようで、今度のタイトル戦は三番手直りじゃなくなる。まあもう三番手直りは俺を含む全棋士にとって不都合でしかない制度になっていたしな。角落ちで俺に勝てたの、名人と九頭竜だけだし。
というか椚も天衣も中学3年生でタイトル挑戦者になるとか将棋界の低年齢化が激しすぎる。……天衣も椚も上に九頭竜や歩夢といった層が居たからタイトル挑戦が遅くなったということは、本来ならタイトル挑戦がもっと早かった模様。
流石にタイトル戦間近にタイトルを争う相手と会って対局とか指導をすることは出来ないので、天衣と会えない日が続くのはちょっと寂しい。なので晶さんと会って将棋のソシャゲ開発に勤しんだ。何か天衣に似たキャラも作ってしまったけど、今時のゲームには必ず一人はツンデレ高飛車キャラがいるのでセーフ。容姿も似ている気がするけど、俺と晶さんが作るんだから仕方ない。
『名人戦のタイトル戦期間中に何をやっているんでしょうね……』
(ぶっちゃけ八冠になるとタイトル戦期間外の方が少ないぐらいだから、こうなるのは仕方ないだろ)
『三番手直りが解消されるなら、わりと暇になる予定ですが。特に今年の玉座戦から竜王戦までは、1か月ぐらい対局が無いんじゃありませんか?』
(そこ以外もわりと暇になるかもな。……おい、事前登録者数が50万人を突破したぞ)
『内容は育てた女の子が将棋で戦うのを見るだけというシュールなゲームなのに、随分と人気ですね』
(人っぽい将棋AIを作れるようになったからこその企画だよな。低レアでも育ち切るとアマ六段クラスの実力はあるんじゃない?)
アイからも突っ込まれたけど、八冠になったためにタイトル戦期間が今の俺はずっと続いているので、タイトル戦のために食生活を気を付けたり、規則正しい健康的な生活を送るといったことはしていない。元々していなかった気もするけど……他の棋士からすればふざけるなと言いたくなるだろうな。
しかしまあ、天衣といよいよタイトル戦か。数年前には考えられなかったことだけど、挑戦者決定戦で九頭竜に勝ってのタイトル挑戦だから価値がある。今までに九頭竜にはタイトル戦のトーナメントで何度負けたか数えきれないぐらいだろうけど、天衣は今までの戦績を気にせずにこれから勝ち越していけばそれで良い。
『天衣の対九頭竜戦の成績、3勝13敗ですね』
(まぐれでも、挑戦者決定戦で九頭竜相手に2勝1敗と勝ち越せたのはヤバイわ。まあその時九頭竜は名人戦でアイに遊ばれてたんだけど)
『遊んではいませんよ。むしろ香落ちでも負ける可能性があると踏んで、新手を出しただけです』
(その新手の初手1四歩はどこからどう見ても遊んでいるようにしか見えないんだよ。何で香車落とした側の端歩を突いたのか、対局中悩みっぱなしだったんだからな)
そして迎えた棋帝戦の第1局は、天衣の先手番で始まる。こうして真剣な場で向かい合うと、マジで天衣は美人さんだな。中学3年生とはとても思えないし、高校3年生でも通用しそう。公式戦初手合いだから、天衣も緊張しているようだけど、それがまた可愛い。
『マスターにとって理想的な女性は、計算したところ日本に4人だけでした。その女性と出会える確率は人生で30000人の人間と会えると仮定して、0.065%ですね』
(その確率はどうやって計算したんだよ。あれか、全人口から項目ごとに計算する奴か。どうせ俺のことを好きになってくれるという条件で、無理な設定したんだろ?)
『ちゃんと3%で計算しましたよ?』
(お?思っていたよりも妥当な確率で計算してくれていた。じゃあ何の項目が低かったんだ)
『マスターの性癖を受け入れる、を1%にしました』
(……そんなに変か?男なら普通じゃね?)
『普通ではないですね。普通の男性は、ノーパソの4TBの容量の半分以上がR-18にはならないでしょう』
天衣の長考中に、アイは暇になったのか俺の理想的な女性と出会える確率を計算し始めた。天衣以外に日本に3人も俺にとって理想的な女性がいるとは思えないけど、その人と出会える確率は0.065%って低いなぁ。
どうせ成人男性の過半数は自前のパソコンに大量のエロが詰まっているんだよとアイと脳内で言い合っていたら、天衣が仕掛けてきた。うん、まあ、完全にアイの読み筋だな。長年ずっと天衣の指導をしてきて、俺ですら雰囲気で攻め始めるなとか苦しそうだなとかわかるんだから、アイに天衣の攻めるタイミングが分からないはずがない。
どう足掻いても、天衣は惨敗を免れないだろう。九頭竜以外のA級棋士、そいつらと遜色のない将棋を指すようになったというか、何なら超えている部分もあるけど、人並外れた強さを手に入れたわけじゃない。
『棋帝戦が1日で終わるタイトルでよかったですね。天衣も持ち時間を使い切りませんでしたから、2日制のタイトル戦ならまた途中で切り上げでしたよ』
(いやこの将棋、天衣側から見て勝ち筋なかったように見えるんだけど。アルファゼロ相手に後手番で引き分けに持ち込んだ筋使ったでしょ)
『天衣ならこの対局の研究をしているかと思いましたが、どうやら突破口は見えなかったようです。ミスもしてますし、まあ平手ではどうあっても勝負にはなりませんね』
今年の電脳戦でとうとう俺が0勝2敗1引き分けとアルファゼロ相手に勝てなくなったので、タイトル戦では電子機器の持ち込みは禁止が決定された。次のタイトル戦である帝位戦から適用されるらしい。周囲への根回しは月光会長が念入りに行っていたため、俺一人が騒いでもどうしようもなかったな。三番手直りの撤廃の代わりとして受け入れるしかなかった。
あと、電脳戦は来年で最後らしい。最終年ということで、前哨戦もなくしてソフト連合対人類代表の団体戦にするとか。たぶん人類代表の面子は俺、九頭竜、歩夢、天衣、篠窪さんの5人。何かトップ5の中に天衣の名前があると感慨深いな。十七世名人と十八世名人が現役のままなら入っていたかは怪しいけど。
天衣との対局は、あっさりと夕方前には終局する。……そろそろ九頭竜のように頭の中から将棋盤がなくならない状態に入っても良い気がするけど、まだ時間がかかるのかな。