うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる   作:インスタント脳味噌汁大好き

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次話がエピローグなので今話が最終話です。




棋帝戦の第3局、天衣がいきなり倒れたと思ったら、そのままの体勢で手を読み始めて「ええ……」となった。寝っ転がって将棋を指すとか中継もされていることを考えたら前代未聞のことだな。たぶんニコニコでは大騒ぎになっているはず。あと呼吸で上下する天衣の大きなおっぱいがエロい。

 

『いつも見ているものでも、和服で見ると新鮮ですね。変態馬鹿マスター』

(うるせえ。ガン見はしてないだろうが)

 

そして元の体勢に戻って続きを指し出した天衣は、随分と消極的な将棋になった。何かあると思ってアイが少し時間を使って先を読むと、千日手があるとのこと。そしてその千日手で、こちら側から打開する手に勝ちがあるとのこと。

 

おそらくは千日手狙いで引き分けようという魂胆なのでしょうというアイだけど、これ向こうからも打開できないか?しかしこの千日手の手順に入ること自体は回避不可能だ。そして案の定、天衣の方から打開をされる。一応、アイの読みだとこの先こちらが負けることはないとのことだけど……。

 

(おい、これ入玉狙いかよ!?)

『これは……本当にギリギリでこちらの攻めを躱せますね。悪手に悪手を重ねるような逃げ筋ですので、気づくのが遅れました』

(筋悪な受けと逃げで強引な入玉か。入玉してしまえば、歩も金も同じ1点だしな。大駒を安全圏に逃がしたのはそういう理由か)

『どうします?今からでも点数勝負ができないように大駒を取りにいきます?』

(……いや、無理だ。大駒を狙っていたら、向こうの遅い攻めが間に合ってしまう。持将棋に、応じるしかないな)

 

持将棋狙いということに気付き、俺が読むも打開は不可能だった。というか千日手の入り口のところで打開は不可だったな。天衣はよくこの筋を発見したというか、何手読んだんだろう。

 

(というかあの時、確実に寝てたよな?)

『数秒ですが、ピクリとも動きませんでしたからね。記録係が駆け寄ろうとしたのもそのためでしょうし』

(……夢でお告げでもあったのかな。千日手までの手順は、こちらにとっては不可避の手順だけど天衣は仕掛けて誘導した側だ。そしておそらく天衣は、持将棋の筋まで読み切って指した。持将棋になったのは奇跡じゃなくて、不意を突けた天衣の実力だよ)

『不意を突かれた自覚があるということは、やっぱり手心を加えているじゃないですか。次勝たなかったら1か月間騒ぎ続けますからね?』

 

案の定、要所要所でしか参戦出来なかったアイは不満たらたらで次局に負けたら1か月は寝ない宣言をした。それは流石に死ぬ未来しか見えないので、第4局はきっちりと勝って棋帝の防衛を決める。

 

そしてそれから少しの時間が経過した後、改めて俺から天衣に告白する。天衣からの返答は「待たせすぎちゃってごめん」だった。個人的には天衣がタイトル挑戦するの、もう少し先になると思っていたから全然早かった方なんだけどな。

 

『14歳の弟子相手にプロポーズ成功おめでとうございます』

(棒読みでの祝福やめろや。……世間的には大バッシングは避けられないだろうな)

『九頭竜が内弟子と婚約していて、その上で空さんと付き合っていることは世間にもばれてますし、案外叩かれなさそうですけどね』

(夜叉神家のネット工作技術は凄まじいからな。本当に違和感なく話題のすり替えをするし、ネットに強いヤクザは心強いわ)

『ネットに強いどころか、ソシャゲのアプリ開発もしますからね。……あの萌え系将棋アプリの評価が好評でよかったですね?先月の収益はプラス19億でしたっけ?所詮男は下半身にくるキャラが居ればそれで良いのですか』

(何当たり前のことを言ってるんだ)

 

アイがいつも以上に毒舌だけど、どこか喜んでいるような気がするのは気のせいだろうか。しかしまあ、俺が誰かと付き合えるようになるとは思わなかった。前世では彼女いない歴=年齢だったしな。何なら今世も彼女いない歴=年齢だったので、40年以上は1人身だったということになる。

 

 

 

大木が天衣に告白した次の日の朝。天衣は目を覚ますと、視界に大木の顔が映る。昨夜のことを思い出し、急激に体温が上がっていくのを天衣は感じた。

 

(この状況って朝チュン!?まさか本当に実在していたの?

……どうやって声をかけたら良いのかしら?「気持ちよかった?」とか?)

 

ぐっすりと眠る大木に対し、頭の中の暴走が止まらない天衣は昨夜のことを思い出してさらに顔を真っ赤にした。しかし大木の頬を突きながら、徐々に冷静になっていく。

 

(流石に「気持ちよかった?」はないわね。……いつも通り「おはよう」と声をかければ良いかしら。今までの「おはよう」と、これからの「おはよう」は、まったく意味が違って来るわよね?今日の「おはよう」は、彼女として初めての「おはよう」になるわ)

 

天衣が目を覚ましてから十数分後、大木もようやく目を覚ます。大木は視界に大きく映った天衣の顔に驚き、昨夜のことを思い出して顔を赤くした。そして天衣から、朝の挨拶をする。

 

「おはよう、師匠」

「おはよう。顔真っ赤だぞ?大丈夫か?」

「それは師匠もよ。鏡見てきなさい」

「俺は自覚あるから天衣が先に見てこい」

 

2人ベッドの上に並び、大木は寝転がっていたら身長差は気にならないなと感じた。そして朝から頭の中で五月蠅い頭の中のもう1人の自分を相手に、大木は1人脳内会議を行う。

 

その後は血涙を流しながら複雑な笑みを浮かべて晶が天衣と大木を祝福し、天衣と大木の2人は行為がバレていたことに気付いて2人して顔を赤く染めた。


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