うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる 作:インスタント脳味噌汁大好き
九頭竜とあいの師弟はゴキゲンの湯でバイトをしながら生石玉将に振り飛車を教えて貰っている、ということを九頭竜から教えて貰う。ごめん知ってる。けど一応、驚く素振りは見せておこう。
『くふふ、マジで竜王がバイトとして扱き使われてますよ』
(俺の時も、泊まる時は少しお手伝いしてただろ。天衣は番台のバイトもしてたし)
「香落ちの対策をするってことは、奨励会に入れるのか?」
「今年の夏、1級か2級で受験させる」
「1級!?それは幾らなんでも無茶じゃ……そうでも無い、か」
「ああ。そうでも無い。そしてうちの天衣は、女王のタイトルまで奪取するつもりだぞ」
ここで九頭竜の姉弟子である空さんから天衣がタイトルを奪いに行きますよー、と言ってみるけど反応は微妙。何でこの人、どっちを応援しようか悩んでいるの?普通、空さん一択じゃないの?ああそうか、天衣は姉弟子に勝てないと思ってるんだな。
そしてゴキゲンの湯に着くと、天衣も九頭竜もあいも指導を断られる。ん?今日が空さんとの研究会の日なのか?ここで天衣と空さんをエンカウントさせるかは考え物だけど、まあなるようになるか。
この後でJS研のメンバーが来ることは分かっているので、とりあえず入ってあいと天衣の勝負を見守る。初めての対戦から、約3ヵ月ってところか。あいがどれだけ強くなったのかと、天衣がどれだけ強くなったのかは今後のものさしとして使えそうだ。
「あいちゃんもマイナビ女子オープンには出るんだろ?
どこまで勝ち進めると思う?」
「組み合わせ次第、だな。それこそ天衣が同じブロックにいれば、チャレンジマッチを勝ち進むのは難しいかもしれない」
「ふーん。
……なあ、どこまで生石玉将から聞いたんだ?」
「角落ちで、天衣が生石玉将に勝ったことは聞いた。後は大木が後手番で、中飛車を指した時の棋譜は受け取ったな」
「……うえぇ。何で簡単に渡すかなぁ」
「今度の玉将戦の二次予選の2回戦で、俺とお前が当たるだろ?出来れば俺に大木を倒して貰いたいとか、そういう意図はあるのかもしれないな」
九頭竜は生石玉将から色々と聞いたようで、俺がソフトに勝った時の棋譜も渡されていた。ただし、その数は100局分。厳選した50局分は、伏せたんだろうね。確か半分ぐらいは雑に勝っていたと思うけど、それを見せたということか。
まあ生石玉将が九頭竜相手に勝手に棋譜を見せたことはどうでも良いし、生石玉将が50局分隠したことをわざわざ指摘する気もない。あれはもう生石玉将のもので、どう扱っても良いものだしな。
俺と九頭竜があまり研究会みたいなものを開かないのは、同じ関西所属のプロ棋士で対戦する回数が多いからだ。しかしまあ、玉将戦の二次予選ですぐに九頭竜と当たるとは思わなかった。ちなみに俺が徹夜した後の玉将戦一次予選決勝は、ある意味で伝説になった。
【オーキロボ】大木晴雄七段応援スレ Part461【常勝将軍】
356:名無し棋士
このタイミングで長考は自然か?
358:名無し棋士
今までノータイムだったのに何で動かなくなったの?
360:名無し棋士
オーキもこういうところで長考するのか
361:名無し棋士
寝てない?
363:名無し棋士
長考とか珍しいな……え?
366:名無し棋士
船漕いでるぞwwwww
368:名無し棋士
盤面崩して反則負けに一票
371:名無し棋士
地味に事件じゃね?
生中継される対局で記録係が居眠りするのは前例あるけど……
374:名無し棋士
>>371
タイトル戦でも普通に対局者の居眠りはあるぞ
377:名無し棋士
うwごwかwなwいw
380:名無し棋士
大木のツウィッター「昨日徹夜して取ったマゾバッジの数々です」
382:名無し棋士
>>380
マジでプロ意識の欠片もねえ
383:名無し棋士
>>382
この人ゲーマーとしてもプロ級だから……(震え声
386:名無し棋士
久々にやらかしたなあ
持ち時間尽きるまで寝るんとちゃう?
389:名無し棋士
いつまで寝るんだコイツ
789:名無し棋士
起きた
790:名無し棋士
めっちゃ目をぱちぱちさせるの可愛い
793:名無し棋士
そしてすぐに着手
この時間帯になってまだ中盤とか
799:名無し棋士
互いの持ち時間が少ないからどんどん手が進むな
808:名無し棋士
持ち時間ほぼ全部居眠りに使って勝つ男
811:名無し棋士
本当に持ち時間が要らないんだな
818:名無し棋士
あれで勝つのか……
……あまりの眠気に、アイが必死に叫んでいたのにも拘わらず爆睡。持ち時間が3時間で、俺は2時間40分ぐらい寝ていたらしい。徹夜して3時間弱で起きれたのは、わりと奇跡だったと思う。もう少しで時間切れ負けをするところだった。あとから考えると、別に時間切れ負けしても良かったところではあるけど。どうせ玉将戦の挑戦者まで勝ち残らない予定だしな。
言い訳すると、相手が考えている最中に寝る人は結構いる。長時間の対局だと、控室で少し横になる人もいるし、眠気と戦いながら悪手を指すよりかは、一度寝てスッキリしてから指した方が良いと言う人もいる。何を言っても、あそこで爆睡して良い言い訳にはならないけど。
天衣とあいの対局は、今回も天衣の勝ちで終わった。途中でJS研のメンバーも来て、対局を取り囲んで見ていたけど、2人の気迫に押されていたように見える。前回と違うのは、あいの得意な終盤に入る前に勝負が終わったこと。特に序盤の力量差は、かなり開いた。
その後も何局か対局するけど、終盤に辿り着く前に将棋が終わっている対局が多く、天衣が気まぐれに攻めさせて終盤戦に移行しても、あいは天衣の陣地を突破出来ない。
……確かあいには、わざと序盤の勉強をさせてないんだっけ?まっさらだからこそ、逆境に多く立たせて、逆境の中で殴り合いを続けさせる。それも良いと思うし、わりと俺の教育方針とは近いものなのかもしれない。
だけどたぶん、逆境時の殴り合いの回数自体も天衣の方が多い。ネット将棋で、自分と同等以上の存在を相手に8面指し。当然ミスもするし、ミスをしなくても劣勢になることはある。そんな状況で、天衣は常に短時間で答えを求められ続けていた。
『持ち時間15分の秒読み30秒で、あい相手に5戦5勝は強いですね。マイナビ女子オープンのチャレンジマッチに関しては、安心できるかもしれません』
(チャレンジマッチは持ち時間短いし、早指しの天衣には有利だな。……地味にあいも、伸び幅は大きいよな?)
『天衣の伸び幅の方が上ですが、あいの伸び幅も驚異的ではあります。……ですが、地力の差は大きいものになりましたね』
最後の6戦目。九頭竜の提案で、天衣は角を落とした。どうやらあいは、駒落ちの定跡だけはきちんと勉強していたらしく、先程までよりずっと強く見える。序盤のディスアドバンテージが無くなった上に、角落ちの差はやはり大きい。
駒落ち対局まで、天衣に負けたくない。そんなあいの心の叫び声が聞こえるようで、終盤に突入してから天衣は押されっ放しの将棋になった。あいの「こうこうこうこうこう……」が出た後、長手数で即詰みになる手をあいは指し、指された直後に天衣も即詰みに気付いたのか投了した。