うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる   作:インスタント脳味噌汁大好き

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連勝

C級2組の順位戦の序盤でずっこけた九頭竜を見て一安心し、一方で竜王戦の決勝トーナメントでどんどん勝ち上がっていく姿を見るに、マジで竜王戦の賞金目的でリソースを全振りしてるんじゃないかと勘ぐってしまう。

 

『順位戦のこんな序盤で黒星が付いたのに、竜王戦の決勝トーナメントで勝ち上がって行くのを見ると不思議な力が働いているように見えますね』

(九頭竜は、幾ら儲けるんだろうな。6組トーナメントの優勝賞金で100万円、決勝トーナメントで40万、60万、80万、120万、160万に挑戦者決定戦で450万。竜王を獲得するからこれに4320万円が加わる)

『今の金額を合計すると、5330万円ですね。マスターも欲しいんじゃないですか?』

(クズ竜王が竜王じゃなくなるのは嫌だから、挑戦したり挑戦しなかったりするよ。来年の竜王戦の決勝トーナメントは、名人に負けるつもりだし)

 

竜王戦の決勝トーナメントは1回戦から1局毎に対局料が出ていて、その金額はオープンになっている。というか、トーナメント表に小さく数字が書いていて、その数字が対局料だ。九頭竜は6組の1番下から対局料を総取りしていくから、合計金額は5000万円を余裕で超える。

 

一方で俺は朝火杯の早指しトーナメント戦を勝ち上がっており、賢王戦の予選も今のところ全勝中。帝位戦や玉座戦の予選も白星スタートと順調なプロ棋士生活を送っている。そろそろ対局日程の方が詰まって来たけど、アイに任せていれば勝てるので俺は疲れない。

 

(朝火杯の優勝賞金1000万円がほしー)

『入ったお金は、何に使うんです?』

(パソコンに廃課金してえーぺっくしゅすりゅ)

『想像以上にダメ人間化が進行していますね。別に良いですけど』

 

今のところ無敗を貫いているので、そろそろ最多連勝数の28は超えられるけど、帝位戦で歩夢辺りに負けておこうか。逆に玉座戦はタイトルホルダーが名人だし、原作であまり触れられて無かったはずだから容赦なく殺りに行ける。

 

でもまあ、まずは朝火杯かな。優勝賞金の1000万円が欲しいです。逆に欲しくない人が居ないです。後は、新人王は取りに行っても良いかな。出られるのは今年限りだと思うし、あまり原作には影響し無さそうだし。新人戦の優勝賞金は、200万円程度だけどそれでも大金です。

 

『何度も聞きますが、そこまで原作にこだわる必要あります?』

(何度も言うけど、俺は極力邪魔したくないの。好きなラノベのストーリーを、邪魔したくないという気持ちは分かってくれ)

『じゃあせめて九頭竜にVSを誘われた時、断って下さいよ。どんどん原作主人公を強化してどうするんです?』

(え?そんなに強化されてるの?)

『確実に、棋力の上乗せはされているはずですよ』

 

アイとの脳内会話を行ないながら、今月の順位戦の対局を指す。1敗してしまったら上がれない魔のC級2組だけど、全勝者は全員がC級1組に昇級するし、俺は全勝するから何も考えなくて良い。

 

今日の相手は蔵王達雄九段で原作では九頭竜が負けた相手だけど、普通に俺が指しても勝てそうだなと思えてしまう。向こうは持ち時間を一切使わない俺の将棋を見て何か言いたげだったけど、アイさんがフルボッコにしたので何も言って来なかった。

 

……ソフト指しって、速攻が基本で強引に攻める手も多いけどうちのアイは重厚な攻めが持ち味です。準備して、準備して、大盾で押し潰す感じ。相手は死ぬ。

 

今日の俺の持ち時間は、1分も消費していない。ずっとノータイムで指せるのは、アイの演算能力が高すぎるからだ。俺は何もすることがない。将棋自体も序盤、中盤、終盤と蔵王九段のミスが目立ったので感想戦も無し。順位戦なのに昼過ぎに終わってしまった。

 

(よっしゃ、帰りにヨド○シカメラへ寄るぞ)

『またパソコンの周辺機器を漁るんですか?っと、九頭竜八一ですよ』

(え、何でまたエンカウントするの?というかあいつも順位戦終わるの早くね?)

 

「よう、九頭竜。順位戦の方は終わったのか?」

「大木か。ちょっと気分転換に外を歩いていただけだよ」

「……なあ。もし竜王になれたら、竜王戦の優勝賞金で焼肉奢れ」

「ハハハ……。俺が本当に竜王になれたら、焼肉ぐらい奢るよ」

「言ったな?約束だからな?」

 

この時期の九頭竜は、竜王戦の決勝トーナメントを勝ち進んでいる最中だけど、まだタイトル挑戦も現実味が無い模様。順位戦の方は早々に負けて昇級の芽が潰れたし、世間からの評価もそこまで高くない。

 

竜王戦の6組トーナメントで優勝はしているから、将棋ファンの間ではようやく名が広まり始めた感じ。一方で俺はプロとしてスタートしてから、無敗の23連勝中なのでマスコミが注目してくれている。

 

このまま行けば30戦目が歩夢との対局なので、そこで負けよう。ちょうど記録を塗り替えた後に、次世代の名人にあとちょっとで負ける感じなら歩夢の方が評価の上がる結果になるはず。

 

『いえ、29連勝した時点で世間に将棋ブームが起こるはずですよ。大木晴雄の名前も、世間に広がります』

(えー。別に良いし嬉しいけど、タイトルも取ってないのに評価が上がるのは複雑な気分にもなる)

『私もマスターの醜悪な顔が世間に広まってしまうことは残念です』

(顔は普通だろ!九頭竜や歩夢のように整ってはないし、比較すると残念な顔かもしれないけど、醜悪は泣くぞ)

 

九頭竜とは軽く会話だけして立ち去る。まだこの時期は外に出ても良いし、ソシャゲもし放題だ。今回はvsの約束をきちんと断ったけど、わりと分かりやすくしょんぼりしていて罪悪感が募った。とりあえず九頭竜が竜王を取るまでは、なるべく関わらないようにしておくか。


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