うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる   作:インスタント脳味噌汁大好き

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指し初め式

九頭竜が竜王を防衛した。まおー化フラグ折れてなかった良かった。12月の末、劇的な勝利で竜王を防衛した九頭竜は、称賛と罵倒の嵐を受けているけど、俺は俺で少し忙しかった。

 

去る12月10日。天衣の誕生日ということで亡くなっている天衣のお父さんの字を彫った駒を用意した。案の定天衣は泣き崩れて感謝されたんだけど、ここは俺の手柄にもしたくないので言い切っている。

 

お父さんの字の駒のアイデアは九頭竜のもので、お父さんの字を集めたのは鏡洲さん。とある知り合いの盤屋の職人に駒師を紹介され、実際に駒を作ったのはその駒師さん。人との繋がりを構築していなかったら、このプレゼントは実現していなかったこと。人生において人との関わり合いを切るという行為は、損をするということ。

 

天衣は泣き止んだ後にもう分かってるわよと言ったから、そろそろお淑やかになるんじゃない?そしてこの駒の製作に携わった人達には感謝。俺は金しか出していねえ。

 

(ちなみに竜王戦の将棋自体はどうだった?俺は最終局の九頭竜の切り返しがヤバかったことしか分からん)

『……竜王戦後半の成長速度は、弟子であるあいすらも超えてますよ。西の魔王の異名はピッタリですね』

(そのあいは、タイトルホルダー2人をぶっ倒してマイナビ女子オープンの本戦を勝ち進んでいるぞ。何だかんだいって、カウンター型の将棋はあいにピッタリだよな?)

『大逆転特化と合わせて、普通の女流棋士ならもうあいを止められないでしょう』

(天衣も成長しているけど、あいに100%勝ち切れるとは言えなくなったか。こりゃ最悪の展開も想定しておくべきかな)

 

九頭竜の異名は現在、ロリ王や西の魔王、史上最強のロリコンなどなど。一方で俺は、何か色々と混在している。寝ている方が強い男だのエンターテイナーだのブロークンロボだのプロフェットだのデーモンジェネラルだの……キリが無いし、最後の2つは歩夢作だな。いい加減にしろ。

 

そして年が明けて新年。今年の目標は天衣の女王奪取と俺の盤王奪取です。玉座戦の時、名人から次は本気で戦いたいと言われていたので盤王戦ではアイが名人をぶん殴ると思う。……最近、アイさんはまた強くなりました。もう2枚落ちでも俺は勝てません。いい加減にしろ。

 

俺と天衣は、新年ということで関西の指し初め式に出席。月光会長が関東の指し初め式に出るから、そっちに行こうかと思ったらこっちに派遣されたでござる。わりと本気で、月光会長には嫌われているんじゃないかと思う今日この頃。まあ中学生の時、月光会長に勝ってるからな。アイが。

 

「あっちにいるのが、清滝先生と月光会長の師匠の兄弟子の蔵王達雄九段。流石に名前ぐらいは知ってるか?」

「流石に、名前ぐらいは知ってるわよ。……今年で、引退するのよね?」

「ああ。最終戦は九頭竜との順位戦だな」

「あのロリ王と?

それは可哀想だわ。勝てるわけがないじゃない」

「いや?案外どうなるか分からんぞ?

経験の違いというのは、馬鹿に出来るものじゃないしな」

 

天衣は年が明けてから、さらにお嬢様っぽくなった。もちろん良い意味だし、丸くなりつつも時々毒を吐くのは俺に似たかもしれん。

 

(まー俺の場合、毒はアイに吐くことが多いんだがな。アイが居て良かったわ。今年もよろしくお願いします)

『今年もよろしくお願いされましょう』

 

今年もあちこちで将棋を指しているので、天衣も近くに居たプロ棋士と指している。あいと天衣は顔を合わせて挨拶したけど、流石に将棋を指すまでには至らなかった。このまま勝ち進めば、2人はマイナビ女子オープンの本戦決勝で当たる。もしも決勝で当たれば、どちらが勝っても史上最年少での女王挑戦になる。

 

俺は俺で、酔った大人達を介抱する。何か「大木ィ!本気で指せやゴラァ!」とか絡まれるけど「いや中盤で途端に手が見えなくなることがあるんすよ」と言うと向こうも「分かる~」と返してくれるからあしらうのは簡単だ。

 

……まだ、ギリギリ誤魔化せている人は誤魔化せているんだよな。誤魔化せてない人だと、よく関わってない人からは気持ち悪いものを見るような目で見られることもあれば、畏怖の眼差しを頂くこともある。奮起する者がいれば、嫉妬する者もいる。だけど将棋界を壊すような発言をする奴はいないし、俺の異質さが表面化する前にファンの多くは九頭竜と名人の対局に夢中になった。

 

俺が発言して解説したからか世間では竜王戦挑戦者決定戦の名人の6六銀が普通の好手扱いになったし、発言する人が大事ってことはよく分かるね。この後の指し初め式では、痴女が乱入するんだけどもうそろそろかな?

 

「お○んぽおおおぉぉぉ!おち○ぽさせろおおぉおおぉ!」

「ひゃっ!?な、何よ!?」

「天衣の耳は俺が塞いでおきますので、晶さんはあの痴女を怪我させずに無力化させてください」

「あ、ああ。分かったが、あいつは何者だ!?刀を持っているぞ!?」

「アレでも一応人間国宝級の人間です。可能な限り、殺さずに迅速な処理をお願いします」

 

と思っていたら、ちょうど酒瓶と日本刀を持ったしゅーまい先生が入って来たので天衣の耳を塞ぐ。即座に晶さんと連盟の職員が連携して捕縛を試みるが、刀を振り回すのでめっちゃ怖い。

 

……あ、晶さんがチャカを取り出した。やめて。日本刀を銃で弾こうとするのやめて。バトル漫画始まっちゃうから。

 

数分間の格闘の末、無事にしゅーまい先生は取り押さえられて連盟の職員に連行された。たぶんすぐに解放はされると思うけど、しばらく将棋界からは出入り禁止だろうな。

 

「今の誰よ?」

「囲碁の本因坊のタイトル保持者で現代に残る数少ない盤師」

「……まさか、知り合いの盤師って」

「そう、アレ。

酒が入ってない時はまともだぞ。普通の会話も出来る」

 

『酒は入っていない時の方が珍しいですけどね』

(……俺も、お酒が飲める年になったら酔いながら指すか?)

『やめて下さい。沢山飲まれると私が壊れます。復旧に丸一日かかりますよ』

(えー。いや、俺も飲む気はないけど。そんなに好きでもないし)

 

指し初め式はその後、九頭竜と空さんがいちゃついているところを記者達に撮られて騒いでいた。ぶっちゃけ見慣れた光景なので、早よくっ付けと思っておこう。一方であいの機嫌はどんどん悪くなり、相手をしているプロ棋士の方が幼女怖いとか言ってた。というかC級1組で負け越す勝率4割程度のプロ棋士になら、あいは角落ちで勝てるのか。

 

……まだ天衣には、届いてないか?とりあえず、女王挑戦への最大の障壁ではあるから天衣には乗り越えて欲しいな。


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