うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる   作:インスタント脳味噌汁大好き

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玉将vs帝位

九頭竜達の初詣が終わった次の日。九頭竜とあいのコンビによる大盤解説を見物するために将棋会館へ行く。天衣は既に棋士室へ行って、同期の方々と研究会中。……どんなに自分の方が強くても、他の人の発想というのは参考になるものだ。

 

今日のA級順位戦第七回戦の生石玉将と於鬼頭帝位の対局は、生石玉将が向飛車を指しているので天衣の勉強になりそう。新手も多いけど、筋は通っているから成立はするな。

 

「ではこれより、A級順位戦第七回戦、生石玉将対於鬼頭帝位の対局の大盤解説を始めます。司会は私、鏡洲飛馬三段が務めさせていただきます」

 

二階の道場で、大盤解説の司会をするのは鏡洲さん。流石に慣れていて、お客さん達にとってもいつもの人だ。

 

しかし何事にも初めましてはあるもので、今日は女流棋士になったばかりのあいが九頭竜の聞き手役を務める。あいが聞き手役をしてトラブルがあった時のために、同じくマイナビ女子オープンの本戦で1回戦を勝って女流棋士の資格を得た桂香さんが控えていた。

 

「本日の解説者は九頭竜竜王。そして聞き手役は、先日女流棋士になったばかりの雛鶴あい女流2級です!」

 

パチパチパチ、と拍手で迎え入れられたあいは、ペコリンと深くお辞儀をする。流石にここら辺は教育されていて、礼儀正しい。最初は和やかな雰囲気で始まった大盤解説だが、しかし九頭竜のミスにより、大きく場の空気は変わっていく。

 

「雛鶴さんは、大盤解説を見た機会もあまり無かったんじゃないですか?」

「はい、あまり……でも、師匠の解説している姿を見たことはあります」

「ほうほう。どこで?」

「東京の将棋会館です」

 

あいの発言を聞いて、即座に顔が青くなる九頭竜。地雷どころか、核爆弾を踏んでますがな。緊張していたはずのあいは、もう既に謎の光を瞳に灯して九頭竜を攻め立てている。

 

「ニコニコ生放送で、大木先生と篠窪先生の対局の解説を、女流棋士の先生と一緒にしていたのを見学したことがあります。その時の九頭竜先生は、とても楽しそうに鹿路庭先生と解説をしてらっしゃいました」

「そ、そんなこともありましたね。ではつ」

「師匠はずっと鹿路庭先生のおっぱいばかり見ていました」

「はあ!?そんなの見てないし!」

「見てらっしゃいましたよね?九頭竜胸見杉ワロタ、のコメントが流れるぐらいには、ガン見でしたよね?

師匠は胸の大きな方が好きなんですか?」

 

(俺は巨乳好きです。大好物です)

『いきなり性癖カミングアウトしないで下さい。知ってますし。

というかマスターは、小さくてもとりあえず無でなければ好きでしょう?』

(うん。まあ、B以上だったら良いわ)

 

あいが九頭竜のボロをどんどん出しているけど、まあそこら辺はある程度の将棋ファンなら知っていることだし、九頭竜は止めようとしているけど、悪乗りしている客達がもっとやれと言い出して収拾が付かなくなって来た。

 

「何見てるのよ、って思ったら、何やってるの?」

「九頭竜の性癖暴露大会。

大盤解説の方は一手も進んでねえ」

「……ちなみに、師匠は小学生と巨乳女流棋士とその他ならどれを選ぶのかしら?」

「その他。

外見はそりゃスタイルの良い方が良いけど、家族を大切にしてくれる女性なら外見はどうでも良い」

 

『何でガチ回答したんです?』

(気分)

『そうですか。天衣は、母親がそれなりに胸ありましたっけ?』

(詳しくは描写されてなかったはずだから分からんし、胸に関しては遺伝があまり関係無いとも言われてるぞ)

 

天衣はちょうど、大盤解説が無茶苦茶になりはじめた時に道場に入って来た。ちなみに天衣も奨励会員なので、この大盤解説の準備のお手伝いをしている。次の一手クイズで、九頭竜の選びそうな女性のタイプが三択で提示されるイベントがあったけど、とりあえず俺も小学生で提出した。マジで九頭竜は、JSが一緒に居ない時の方が珍しいからな。

 

結局、スタンバイしていた桂香さんが出て来て聞き手役は落ち着いた。と思ったら桂香さんも桂香さんで、空さんとの進展を聞き出そうとして九頭竜が慌てる場面もあったけど、まあ大人だし於鬼頭帝位がソフト相手に負けた最初の棋士という話はしない。

 

生石玉将対於鬼頭帝位の対局は、生石玉将が大きくリードを広げている。しかし終盤、徐々にそのリードを縮められていた。

 

『於鬼頭帝位の終盤力はお世辞込みでソフト並みですね。今の手順は、私が指しても似たような手順になったと思います』

(元々終盤力は群を抜いて強かったんだっけ?だけどまあ、今のところはどっちが勝つか読めない対局だな)

 

天衣を連れて棋士室に行くと、九頭竜と桂香さんも大盤解説がお開きになったのかこっちに来た。継ぎ盤には、生石玉将と於鬼頭帝位の対局が並べられている。確かこれ、ポカで負けるんだったよな?

 

『いえ?原作とは恐らく、将棋が違いますね。マスターは、心当たりがあるはずですけど?』

(……ああああああ!中飛車の棋譜!150局分!向飛車だから丸々採用はしていないけど、守りの筋に多用されてる!)

『ようやく思い出しましたかこのポンコツ。この対局、もう生石玉将の勝利は揺るぎません』

 

じっくりとあの棋譜を研究したのか、生石玉将の振り飛車にはソフトの影もちらつく。原作では一時的に居飛車を指すようになったけど、この様子だと居飛車は試さないだろうな。

 

もはや原作ブレイクってレベルじゃないけど、この試合は生石玉将が勝利した。この様子なら、玉将戦も生石玉将が防衛する可能性が高そう。ただ於鬼頭帝位の追い上げは凄まじいものだったし、生石玉将は背筋が冷えっ放しの将棋だったんじゃないかな?

 

玉将戦は、たぶん俺の渡した棋譜の中飛車が何回か出て来るはず。ソフトを狩るための筋も大量に含まれているし、於鬼頭帝位は原作通りに玉将を奪取、とは行かないだろう。個人的には生石玉将を生石さんと呼ぶのも嫌だったし、良い対局になるなら別に防衛してくれても一向に構わんけど。

 

こうなってくると、問題は九頭竜か。竜王戦の1試合目と4試合目の内容は原作通りかもしれないけど、他の対局や細かな手順まで一致しているとは思えない。しかも、将棋盤が起きてる時も寝ている時もずっと頭の中から消えなくて動き続けていると言っていた。

 

原作通りとはいえ、天衣の成長によっては第四関門になる関門を突破しているのは流石としか言い様がない。そりゃ、無限に強くなるはずだわ。竜王を防衛してからまだ対局数が少ないとはいえ、負けなしだしマジで魔王じゃん。


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