うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる 作:インスタント脳味噌汁大好き
歩夢対清滝先生の対局は原作通りに清滝先生が勝ち、清滝先生は結局C級1組に落ちたけど、引退を撤回して指し続けることを表明した。歩夢も無事にB級1組に昇級したので、次の順位戦も俺と九頭竜と歩夢は当たらないことが確定。多分来年も3人揃って昇級するだろうから、順位戦では当たらないんじゃないかな?
ホワイトデーのお返しは、恥ずかしくなって「帰ってから開けてくれ」と言って渡したけど、天衣にその場で開封されて少し悶絶した。
まあ普通に喜んでくれていたので、外しては無かったと思う。ダイヤのネックレスとは言っても、細くて小さいから気軽に着けられる奴だし、それから毎日、着けてくれているし。
本戦決勝も間近に迫った日、京都へ行くことにした。原作で九頭竜も見物に行った、山城桜花戦が行われるからだ。原作と違う点は1つ。現山城桜花の供御飯さんが、既にマイナビ女子オープンの本戦準決勝で敗北していること。原作では決勝戦で天衣に負けているから、タイトル戦の後に負けているんだよね。
「……不満か?」
「いえ、別に。
あいに負けたとはいえ、将棋の内容はほぼ互角だった。将来的に戦う可能性がある人の、タイトル戦を見物するのは無駄じゃないわ」
「まー、山城桜花戦は色々と特殊だしな。とりあえず春の京都だし、観光も楽しまないと損だぞ」
あいと供御飯さんの対局は、供御飯さんがいつも通りに穴熊を組もうとすると、あいはひたすら待ちながら穴熊を崩壊させる準備をしていた。まあ穴熊は、して来ると分かっていれば対策しやすい部類ではあるし、九頭竜と研究を重ねたのだろう。2四桂を狙う攻防の後、あいの1二角成が成立した時点で穴熊は本来の防御力を失った。後はあいが、いつも通りの終盤力を見せつけての勝利。
供御飯さんにとっては痛い敗戦となったし、このタイトル戦にも影響が出るかと思ったけど、1戦目は原作通りに勝ったんだよね。月夜見坂さんが完全に自滅した対局だったから、どちらにせよあいの影響が出ていないとは言い切れないけど、2戦目と3戦目はほぼ原作通りになるんじゃないかな?
天衣を連れて来たのは、純粋に女流のタイトル戦の雰囲気を味わわせるためだ。俺のタイトル戦には何回か来ているけど、女流のタイトル戦は雰囲気が違う。出来れば山城桜花ではなくて他のタイトル戦の方が良いけど、女王の前の女流タイトル戦ってこれしか無いんだよね。
もうそろそろ無くなるはずの泉の広場で天衣と待ち合わせをした後、阪急で梅田から桂まで移動し、そこから阪急嵐山線で嵐山まで。渡月橋を渡って、目的地である天龍寺へ行く。ゆっくりと観光しながら歩くと、渡月橋まで10分、天龍寺まで10分ってところだな。この時期の京都は観光客が多すぎてごった返しているから、少し歩くだけでも疲れる。ゲームと将棋しかやってない引き籠り野郎がこんな所に来るんじゃなかった。
「今日は暑いし、抹茶ソフトでも買うか。天衣はいるか?」
「欲しいけど、ここでもアイスなのね?」
「アイスクリームとソフトクリームは違うぞ?
まあ、似たようなものだけど」
抹茶ソフトを買おうとしたら、ここで九頭竜とエンカウント。今日は何処かで会うとは思っていたが、ここで会うか。
『突然後ろから「お、大木か……?」みたいな声掛けは心臓に悪いですねえ』
(唐突だったもん。ここにいることは分かっていたけど、まさか街中で鉢合わせるとは思わないわ。観光客で賑わっているのに)
『お互いに京都のことをそこまで熟知しているわけでもないですから、京都に来たら抹茶ソフト、なんでしょうかね』
(だろうな。おっと、天衣もあいとエンカウントだ。険悪そうな雰囲気にはなってないけど、少し空気がピリッとしてきたな)
ピリッとした空気にはなったけど、とりあえず俺は天衣に、九頭竜はあいに抹茶ソフトを渡して食べさせると一瞬で瓦解するシリアス。子供だからね。抹茶ソフトを食べるだけで笑顔になるよ。抹茶ソフトうめー。
……地味に九頭竜が抹茶ソフトを美味しそうに食べるあいと天衣のコンビをスマホの写真機能でパシャパシャ撮っているけど、傍からみたら完全に危ない人である。まあ、撮りたくなる気持ちは分かるけど。晶さんとか、素早く移動して色んな角度から写真を撮っているし。
「九頭竜は、もう天龍寺に入るのか?」
「いや、もう少し散策してから向かうよ。将棋関係者に見つかったら、もう観光してる時間なんて取れないだろうし」
「……ここにいるのも、将棋関係者ですが?」
「それはそうだけど、どちらかと言うと、大木の方がここで観光するのは不味いと思うぞ」
「五十歩百歩って言葉、知ってる?
まー、俺と天衣ももう少し時間経ってから行くけどな」
そしてそのまま合流して野宮神社へ。境内にある神石はお亀石と言って、触ると年内に願いが叶うという凄いパワースポット。あいは丹念に磨くようにナデナデしていたけど、天衣は触りに行こうともしない。
「触りに行かなくて良いのか?」
「神頼みは、したくないの。それに、非科学的よ。あれに触ったか否かで、今後の私の人生が変わるとも思えないもの」
「プラシーボ効果という便利な言葉も存在するから触ってこい。単に将棋が強くなりますように、でも良いぞ」
「……将棋は師匠が強くしてくれるから、別のことを願って来るわね」
ということで無理やり触らせに行ったら、天衣もやけに真剣にお願いごとを開始する。その2人の姿を、写真に収める九頭竜と晶さん。俺も写真を撮りたくなったけど、晶さんに後で貰えば良いか。というか晶さんは、本当に生まれる性別が女性で良かったと思う。顔を緩ませながら幼女達の写真を撮るの、男だったらアウトだよ。
その後は竹林の道で写真撮影会が開催された後、天龍寺に入る。時間はちょうど、お昼休憩の時間だな。継ぎ盤にいるのは、月光会長。賢王戦のタイトル戦期間中での、対面である。
「おや、竜王に雛鶴さん。それに夜叉神さんではありませんか」
「月光会長。ナチュラルに省かれるのは、泣きそうになるんですが」
賢王戦の第2戦は、アイが短手数で一刀両断したから空気は重い。プロレスをあまりするなと言った途端にこれである。融通の利かないポンコツAIだ。
『序盤優勢の場面から、手を抜くなという指示があれば誰が相手でもああなりますよ。私のせいにしないでくれます?』
(だからと言って、タイトル戦で68手決着は酷いだろ。急戦とはいえ、お互いに持ち時間が残りまくったんだぞ)
無視されて、わりとガチめの謝罪を月光会長から受けた後は、九頭竜に対して月夜見坂さんを励ませという指示が月光会長から出た。当然、会長からの指示を拒否することが出来ない九頭竜は、月夜見坂さんの控室へと行く。さて。天龍寺の観光でもするか。