うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる   作:インスタント脳味噌汁大好き

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京都旅行中編

「凄い……わね」

「天衣も、流石にそういうのは分かるのか。俺にはわからん」

「ちょっと!じゃあ何でここに連れて来たのよ」

「まあ、見るだけ見ておこうと思って。せっかくここまで来たんだし」

 

九頭竜と別れた後は、天龍寺の曹源池庭園を眺める。いや、歴史とか風情っぽい何かは感じる気がするけど、そういう知識は全然無いし、感性もわりと死んでいる。社会常識とかも基本的にはアイ任せだし、考えてみると結構な駄目人間だ。

 

『童顔、童貞、ダサ男、ダメ男、低身長、感性零、ゲームオタクで跳満ですけど、あと一つ増えたら倍満ですよ?』

(何か増えてない?前まで低身長って無かったじゃん)

『16歳から17歳という1番身長の伸びる時期に伸びなかった以上、マスターのチビはもはや確定的です』

(……夜更かしして、ゲームをしていたせいか?というか、探せば後1個ぐらいは欠点なんて出て来そうだな)

『探さなくても、マスターの欠点なんて叩けば埃のように出て来るでしょう』

 

最近、ポンコツAIポンコツAIと言い続けていたからかアイが冷たい。そんなアイにグサグサと背中を刺されながら、対局の方を見に行くと、昼休憩の時点で既に少し月夜見坂さんの方が優勢だった。これは、原作通りに第3局まで行なわれるな。

 

「……月光会長は、これで月夜見坂さんの方に九頭竜先生を向かわせたの?」

「まあ、第3局が行なわれなかったら大損だからな。念には念を入れているんだ。一応、タイトル戦で行なわれない可能性のある対局を準備しているところは了承している話だけど、それでも将棋関係者は最後までタイトル戦をやり切りたいんだよ」

 

天衣にタイトル戦の裏事情を話したら、師匠はどうなのよと突っ込まれる。はい。俺も関係者泣かせの棋士です。俺のタイトル戦は今まで、3連勝か3連敗だからな。盤王戦も結局3連勝で終わったし、どうしようもない問題です。

 

……だからか、一部で三番手直りの復活を望む声すら出ている。三番手直りとは5番勝負や7番勝負のタイトル戦で、3連勝した方は上手として第4局を香落ちで指すことになる制度だ。決着が付いても、最終局までは指すからスポンサーも損をしない。

 

竜王戦なんか、4局目で終わる時と7局目で終わる時とで動くお金の額が全然違う。そして昔存在した三番手直りのルールは3連敗した後、平香交じりと言って平手と香落ちを交互に指すルールだったけど、今提唱されている三番手直りは違う。

 

平手で3連敗した後、香落ちでも3連敗すれば、第7局は角落ちで行こうと言い出しているのだ。タイトル戦で第7局まで指すのは名人戦と竜王戦と帝位戦と玉将戦と賢王戦。要するにこの制度、底が見えない俺の本気を引き出させたい連中が考えた制度だ。

 

まあ、現状は反対多数だし復活しない制度だろうけどね。そもそも名人や九頭竜相手に、角落ちで勝つのはアイでも難しいんじゃないか?

 

『ソフトを相手にする以上に、駒落ちの対人戦はキツイですからね。角落ちだと、絶対に勝てるとは言い切れません』

(まず、九頭竜相手に香落ちで3連勝出来るかも怪しいだろ。最近の九頭竜の成長スピード、普通におかしいぞ)

『それを把握出来ている時点で、マスターも結構な勢いで成長しているはずですよ。

……まあ、九頭竜相手なら10回指して1回は勝てるんじゃないですか?』

 

天衣に今後の将棋の展開について話をしながら、アイとも脳内会話をする。今の九頭竜を相手に、勝率1割って凄いのか?珍しくアイが俺のことを褒めているような気がするけど、貶しているような気もする。

 

昼食休憩後、九頭竜があいに将棋界の厳しさについて説いていたので盗み聞きする。わりと重要なことでもあるので、天衣にも聞かせておいた。当たり前のことではあるんだけど、隣に立つ者こそ最初に叩く相手って言い方はなんか誤解を与えそう。

 

「要するに、師匠に苦手意識を植え付けろってこと?」

「おいこら。何でそういう解釈になった。いや、出来るものならやってみろって感じだけど」

「……いつか、出来るようになるかもしれないじゃない。

まあ、将棋界で戦っていくなら全員が覚悟している当たり前のことね」

 

九頭竜の言うことを、真剣な顔で聞くあいという構図はわりと珍しい。天衣は、話半分に聞き流した感じだけど。その後は月光会長がホテルを用意してくれるという話だったけど、既に宿は確保しているので断っておいた。下手したら、大盤解説の解説役がこっちに来るからな。

 

「この後の記者会見は、聞かなくて良いの?」

「聞かなくて良いよ。それに温泉入りたいし」

「風風の湯、だったかしら?日帰り温泉に入って宿に直行?」

「そーなるな。九頭竜の方は、新京極をぶらつくみたい」

 

京都有数の観光地とはいえ、少し前から予約していれば美味しい夕食の出る宿は確保できる。値段はお高いが、その分丁寧なおもてなしを受けるし、ぶっちゃけ金は余るようになって来た。もうパソコンで、廃課金出来る部分が無い。合計で200万円ぐらいは突っ込んでるし。

 

風風の湯に行って混雑具合に驚き、仕方なく宿のお風呂で我慢した後は宿の豪勢な料理を食べる。1人になったタイミングで、ちゃっかりと天衣のボディーガードさんから今日の宿代のお金を受け取ったけど、こんなに使ってないっす……。返そうとしたら、お釣りなんて要らないと言われる。マジで夜叉神家が大金持ちだということを、再認識した。

 

『女子小学生と一緒の宿に泊まるとか、タイトル保持者としての自覚無いんですかあ?』

(うるせえ。月光会長のセリフで煽るな。寝る部屋は分かれているだろうが。

それに、今日も明日も九頭竜のヤバいイベント群のお陰で俺の行動は一切目立たねえよ)

『……月夜見坂さんとVIP席には感謝ですね』

(very important pedo席がわりと大真面目に用意されているのは、九頭竜の影響力の強さを感じる)

 

明日の第3局は、このまま行けば目隠し将棋だったか。天衣やあいがおかしいだけで、女流だと目隠し将棋で複雑な終盤を読み切るだけでも凄いんだよな。……こういう思考の時点で、俺が女流棋士のことを見下しているのはよく分かる。早く空さんや天衣がプロ棋士になれたら良いけど、空さんの方はフラグがバッキバキに折れてるからどうなるかは分からない。

 

……地味に天衣を女性初のプロ棋士にしたい欲も出て来たし、空さんには悪いけど、天衣の強化を止めるつもりはない。そろそろ天衣の二段昇段も見えて来たけど、空さんも椚に負けた後は連勝しているから、このまま行けば天衣の二段昇段と空さんの三段昇段が同タイミング。ということは、ぶつけられるだろうな。


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