うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる   作:インスタント脳味噌汁大好き

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京都旅行後編

(九頭竜の方はロリ王とかトップブリーダーとか言われているのに、俺にはそういう悪評が立たないのは何故か、そろそろ気になって来た)

『では選択肢を提示してあげましょう。

 

A:九頭竜の女性関係が酷すぎるから目立たない。

B:マスターが女性受けしない容姿のせいで嫉妬の対象にならない。

C:夜叉神家が総力を挙げて悪評が流れないよう工作している。

D:師匠が月光会長だから。

 

好きなのを選んで下さい』

(……アイがそう言う時は、全部答えか全部外れの時なんだよな。え?夜叉神家ってそういうのまで強いの?)

『現代のヤーさんは、ネットにも強いですよ。そういう人を専門に雇ったりもしますから』

(実業家!今は実業家だから!……いやでも、あれだけ人員がいるならネットに強い人もいそうだな)

 

京都旅行2日目&山城桜花第3局の日。九頭竜とあいを見に来たJS研の面々を見て、俺にそういう風評被害が出ないのは何故かアイに聞いてみたら、候補の一つに女性受けしない顔というのを挙げられた。あれ?そのわりには掲示板とかで可愛いというコメントをよく見かける気が…………うわ、気付かない方が良かった。

 

今日は九頭竜とあいの大盤解説も見れるので、一般立ち見席から見物。最前列のVIP席に座っているJS研の面々は微笑ましかったです。九頭竜がJSに囲まれる、良い写真が撮れた。

 

「み、みなしゃま……おひゃよーごじゃいまちゅっ!

聞き手役をする、雛鶴あいです。そして解説者は、ししょーじゃなくて……ええっと……」

「解説は私、九頭竜八一が担当させていただきます」

 

九頭竜が自分達は将棋界で2番目に幼い師弟だと言ったけど、1番幼い師弟は俺と天衣だな。誕生日の関係であいと天衣はあいの方が先に生まれており、俺と九頭竜は九頭竜の方が先に生まれている。まあ師弟の歳の差とか変わらないし、共に同学年だがな。

 

あいは緊張からか、途中でマイクを落とすハプニングはあったけど、お客さんはその姿を見て満足しているので特に問題はない。……聞き手役は直に解説役のプロ棋士から教えて貰える立場でもあるから、その立場を利用する女流棋士も多い。だから、多少は自分本位で質問してくる女流棋士もいる。鹿路庭さんとか。

 

『あいの人気が高いですね。女王挑戦まであと一歩だからでしょうか』

(天衣の人気の方が高いっぽいけどな。対局日はずっと黒い服を着ているから、外見で覚えやすいし)

 

あいも追っかけが出るぐらいには人気になったし、天衣は女流棋士になってないとはいえ、あい以上の人気を獲得している。本戦決勝は、かなり注目度が高そうだ。その天衣は、普段着だとただのJSだからか変装出来ているけど。

 

『マスターは、伊達眼鏡をかけるだけで変装完了しますからね。何なら、伊達眼鏡が無くても影が薄いからばれないですし』

(うるせーよ。目が見えないから、人を気配で感じ取る月光会長すら、たまに俺の存在を感知しないとなると、本当に影が薄いんだなと認識出来るけどさ)

 

山城桜花の第3局の方は、当初の予想通り居飛車対振り飛車穴熊となった。ただ、指している人が逆だ。本来なら穴熊が得意な供御飯さんが居飛車で銀冠に、居飛車が得意な月夜見坂さんは振り飛車穴熊を採用した。意地と意地のぶつかり合いだし、中々にハイレベルな戦いだ。

 

そして、強風が将棋盤を襲う。駒が全て吹き飛ばされ、1分将棋の最中に、将棋が指せない状態となった。本来なら時間を止めて駒を並べ直す場面だけど、月夜見坂さんが指し手を口頭で宣言。対する供御飯さんも口頭で指し手を言い、前代未聞の目隠しタイトル戦となった。

 

「……目隠し将棋だからって、悪手や緩手が多いわね」

「そう言うな。成立している時点で凄いんだよ。こういうのは」

 

原作ではこれで名局賞だと言う声も出て来ていたが、残念なことに名局賞候補を毎試合のように生み出している俺や九頭竜のせいでそのラインは上がっている。そのためか、名局賞だと言う人は出て来なかった。単純に、観客の誰かがポツリと呟いた発言だからその誰かが居ないと成立しないフラグなのかもしれないけど。

 

まあ、脳内将棋自体は奨励会有段者なら誰でも出来ると言うし、女流棋士でその域に到達しているということはこの2人もプロ棋士になれる可能性はあったということだ。でも脳内将棋自体は、アマ高段者でも出来る人は出来る。おそらくあいは、最初期から脳内3面指しぐらいは出来ていたと思う。現在12面らしいし。

 

一方で天衣も、八段10面指しというネット将棋での修練はこれが最終段階となる所まで来ている。……ぶっちゃけ七段9面指しがクリア出来た時点で、遠からずプロ棋士になれる実力はついたと思うけど、空さんに追い付いて、追い越そうと思ったらもう少し力を付けたい。だから、鍛錬出来る時期は鍛錬しておきたい。

 

月夜見坂さんと供御飯さんの対局は、結局供御飯さんが原作通りに勝ち切った。そう言えば月夜見坂さんが目隠し将棋になった時点で1手負けと言っていたけど、実は逆転する手段が存在した。それに九頭竜は早い段階で気付いていたようだし、あいも気付いている。ただし、天衣の方があいよりも早くに気付いていた。

 

「……まあ、何だ。これが今の女流プロ棋士のトップ同士の対局だ。不敗の女流棋士にしてやると最初に言った言葉は、嘘じゃねえ」

「ええ。嘘になりっこないわね。ただ、唯一の不安があいだったのかしら?」

「それも、今日の時点では不安じゃなくなったけどな。天衣の方があいよりも早く、逆転の手に気付いたし」

「……何でうちの師匠は、そういうのが分かるのかしら?頭の中にスカウターでもあるの?」

 

スカウターじゃなくて単に視界に映ったもの全てを分析できるアイさんがやべえんです、と言うことは出来ないけど、天衣もこれで、女流棋士のレベルについて正確に把握することが出来たと思う。

 

どこかからは「ぶっ殺すぞこのクズ!人がせっかく女版将棋マシーンに勝てるようアドバイスしてるのに!」という月夜見坂さんの声が聞こえて来た。女版将棋マシーンって、天衣か空さんかどっちのことを言ってるんだよ。

 

……天衣対あいは、もうすぐだ。その前に俺は賢王戦の第3局があるんだけど、サクッと勝ってタイトル防衛に王手をかけておこう。

 

この賢王戦だけは、アイのためのタイトルだからな。勝者は電脳戦で、ソフト相手に一騎打ちという罰ゲームが続く限り、これからは基本的にアイに任せようと思う。

 


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