うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる   作:インスタント脳味噌汁大好き

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小学生名人

毎年5月に行われる小学生名人戦。テレビでも放送される小学生名人戦は、原作通りに神鍋歩夢の妹である神鍋馬莉愛が優勝していたけど、原作通りじゃないところもある。馬莉愛の師匠が、兄である歩夢なのだ。釈迦堂さんへの弟子入りを認められていない、という状態じゃないとおかしいのだけど、歩夢にはガッツリと俺が関わっているのでこういう変化もあるのだと受け入れる。

 

小学5年生で優勝とのことなので、まあ将来有望だろう。名人でも小学生名人戦で優勝したのは、6年生の時だしな。九頭竜は小4で、空さんは小2で優勝しているのが頭おかしいけど。優勝者一覧を眺めていたら、明らかに抜きん出ている。俺?小学生名人戦には出ませんでしたが何か?

 

『マスターも、小5か小6で小学生名人戦に出ていれば優勝していたでしょう?中1で中学生名人になっているんですから』

(いやー、どうだろ?優勝出来る可能性があったことは否定しないけど、難しかったと思うぞ)

 

馬莉愛の話題になった理由は、九頭竜の家に馬莉愛が押しかけたからだった。原作で馬莉愛は、財布を落とした所為で九頭竜の家を訪問している。本当に、ロリが集まる家だな。原作ではこの後の対処、どうしてたっけ?

 

『九頭竜と歩夢の顔見知りで関東奨励会の幹事である鳩待五段に預けるはずですが、鳩待五段は今日関西に来ているのでしょうか?』

(ああ、鳩待五段が来ていない可能性もあるのか。ちょっと調べてみるわ。

…………おい。今日の鳩待五段の対局、普通に関東であるんだけど?何が影響した?)

『マスターも、対局したプロ棋士の数は多くなったので必然的な原作崩壊ですね。どうします?』

(天衣を回収するついでに九頭竜の家によって、のじゃロリに会うか)

 

今日は関西将棋会館の棋士室へ行っていた天衣を回収して、馬莉愛と顔合わせをさせるために九頭竜の家へと向かう。……天衣は、本当に素直に言うことを聞くようになったな。面白い奴が来ているから九頭竜の家に行くぞと言ったら、二つ返事で行くという回答が返って来るなんて会った頃だと考えられないことだし。

 

そして歩いて5分で九頭竜の住むマンションに到着。俺の住む所から関西将棋会館に寄って、九頭竜の家に行くまで10分しかかからねえ。馬莉愛は家に上がって待っているのかと思ったら、まだ玄関先に居た。九頭竜と、バスタオル姿のあいも見える。いや、あいは早く着替えろよ。

 

「き、きさまはソフトイーター!それに、フィアスゴッドまで」

(ヤバい、英語が分からん。ふぃあす?)

『fierce godじゃないですか?夜叉神を無理やり英語にすれば、そんな感じかと』

「師匠が言った面白い奴って、この子?随分と変わった格好ね」

「そりゃ、歩夢の妹だからな。てか九頭竜は、ご近所迷惑にならない内に家に上げてやれよ」

 

せっかくの機会なので天衣に馬莉愛と指させようかと思ったけど、明らかな手合い違いなので顔合わせだけに済ませようか。そう考えていたら、馬莉愛が暴走した。

 

「くくく。慌ててしもうたが、ニュークイーンに勝てば、正真正銘わらわが小学生最強なのじゃ!おいドラゲキン!将棋盤を出せぇ!」

「いやマリアちゃん、天衣女王はこう見えても奨励会二段の実力で……」

「そのぐらいは知っておる!だからこそ、わらわは挑むのじゃ!」

 

「……指すか?」

「別に良いわよ。何枚落ちかしら?」

「今年の小学生名人相手に2枚落ちは流石にきついから、手合いとしては飛車香落ちぐらいだ」

「なら、2枚落ちで良いわ。どう見ても、駒落ち将棋が苦手そうだし」

 

天衣が馬莉愛に、対局を申し込まれる。うーん。2枚落ちは流石に負ける可能性の方が高そうだけど、向こうが駒落ち将棋が苦手なら勝てるか?飛車香落ちでも、わりとキツい手合いなんだけど。

 

「な……な……きさまはわらわと同い年であろう!?何故駒落ち将棋になる!?平手で良いのじゃ!」

「あなた、今年の奨励会で5級受験をするんでしょ?二段の私と5級の奨励会員が戦うなら、6級差だから奨励会の手合いでも飛車落ちよ?」

「……そうか。負けた時の言い訳が欲しいのか。それなら駒落ちで構わないのじゃ」

「良いわよ平手で?全駒されて、泣くんじゃないわよ?」

 

そして始まった天衣対馬莉愛の試合は、思っていたよりも馬莉愛が善戦している。一瞬だけ天衣の不調を疑ったが、これかなり手加減しているな。……力を抜くのが上手い所まで、似なくて良いのに。

 

『挑発に乗って平手で指しているのに、きっちりと手加減しているのは精神的な成長も見られますね』

(挑発に関しては、乗ってあげたんじゃない?馬莉愛は平手じゃないと嫌々病を発症してるし)

『アマチュアには多いですよねー。駒落ち将棋で勝てないのに平手なら勝てると思い込む馬鹿すらいますし』

 

原作ではあまり将棋の描写がされてなかった馬莉愛だけど、まあ小学生名人だから強い。ただしそれは、アマチュアの中ではという枕詞が付く。所々、ソフトが好きそうな手も指しているけど、指しこなせてはいない。

 

天衣と馬莉愛が将棋盤を挟んで向かい合って、そのすぐ傍にはあいがいる。この3人だけ切り取れば、微笑ましい光景だな。現実にはすぐ隣に、俺と九頭竜と晶さんがいる。流石に6人も入ると、少し部屋が狭いか。竜王戦で賞金は入ってるんだし、九頭竜はもう少し広いところに住めよ。

 

「晶さんも、将棋を指せるんですか?」

「つい先日、大木先生からアマ2級だと言われた。会館の道場の方では、恥ずかしながらまだ3級だ」

「1年前は銀と金の動かし方すら分からなかった状態のことを考えたら、かなり伸びてますよ。そろそろライバルの男の子にも、勝てるようになったでしょう?」

「……あいつは、先に1級になった。もうすぐ研修会に入ると、意気込んでいたな」

 

『小学生男子の伸びは凄まじいですから、晶さんが追い付くのはかなり厳しいですね。そもそも女性で、将棋を始めて1年でアマ2級なら女流棋士を狙えるレベルですよ?』

(アマ初段ぐらいまでなら、わりとすぐ上がるイメージだけど?)

『それはマスターの感覚の方がおかしいでしょう。九頭竜だって驚いてますし』

(……うん。まあでもアイの丁寧な解説や指摘を聞いて、棋力が伸びない方がおかしい気もするけどな)

 

九頭竜が晶さんに将棋を指せるか聞いて、アマ2級という返答には驚いていた。まあ純粋に、将棋を指せる女性って珍しいからな。天衣のことを理解したい一心で、アマ初段に手が届きそうなのはわりと凄い。

 

……残念ながら棋力の伸びには早くも陰りが見えているし、ここから成長するのはかなり苦労すると思うけど。仕事をこなしながらだと、アマ初段を目指すのも厳しいものはあるのが現実だ。


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