うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる   作:インスタント脳味噌汁大好き

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小学生軍団

九頭竜がある日、大量の小学生を引き連れて関西将棋会館にやって来た。校外学習とのことで、今からあいと岳滅鬼さんの対局を見学するのだろう。結局、九頭竜は岳滅鬼さんの情報を集めるだけ集めて特に対策も立てなかった模様。別に原作通りだし何とも思わないが、今のあいを見るに逆転勝ちを狙わなくても力でねじ伏せられそう。

 

『岳滅鬼さん、初見なら奨励会有段者でも勝ち辛い人でしょうね』

(逆に言えば、初見じゃないなら対応出来るタイプの人だ。だから対策を練られやすい奨励会で、2級から上に上がれなかった。……それにしても、子供でごった返しているな)

『ロリコンのマスターの御眼鏡に、適う子はいましたか?』

(いねーよ。そもそもアイは、俺の限定的な好みやストライクゾーンを知っているだろうが。とにかく、ロリコンではないことだけは主張するわ)

 

40人もの小学生を引き連れる九頭竜を見て、将棋関係者は次々に「やべえ、本物だ」「あそこまで行くなら尊敬する」「本当に小学生が大好きなんだね!」と恐れおののく。もう九頭竜の評判は、色々と駄目かもしれない。

 

今日の対局は中継もされるので、俺と天衣は棋士室でその将棋を観戦する。天衣も、あいのことはずっと気になっていた。今まで必死になって勉強を重ね、奨励会に入り昇級昇段を重ねていったのに、差が広がらないからだ。それはこの前、歩夢の妹である馬莉愛が来た時に明らかになっている。

 

天衣と馬莉愛が指した後、あいとも早指しで将棋を指した天衣は、5戦5勝で終わる。初めて会った時から、平手で勝てることは変わらない。将棋のレベルは、お互いに高くなった。しかし差は広まったどころか、若干縮まっているような気すらする。天衣も気になって当然だろう。

 

「あのロリ王、また小学生と一緒にいるの?」

「ああ。今度は小学生を40人も連れて来たぞ。桁が違う」

「……よく問題にならないわねえ」

「まあ将棋連盟の方にも連絡は行ってるし、普及活動は大事だから許可は下りるよ」

 

岳滅鬼さんとあいの対局は、1局目はあっさりと千日手になった。先手番を握った岳滅鬼さんが、千日手を狙いに行ったのだから当然成立する。記録係は、確かあいと現在喧嘩中の水越澪か。小学生の奨励会員が記録係をするのは珍しいことじゃないけど、研修生の小学生は流石に珍しい。

 

「……理解不能ね」

「そうか?先手番でも持ち時間を多く残しているなら、千日手は手段の一つだぞ。後手番だって有利に見えるなら打開するかは悩むからな。

それに自身のスタミナや長期戦への備えが万全なら、指し直しを繰り返すことで相手の消耗も期待出来る。ある意味で、完成された戦術だよ」

 

千日手で指し直した結果、昼食休憩までにあいと岳滅鬼さんの差は出来なかった。……お互いに、待ちのスタイルで将棋を指しているからだ。あいの終盤力は異次元だけど、序盤は弱い。それを補うためにカウンター型の将棋にはなっていたけど、これよく考えたら岳滅鬼さんに対してあいは相当有利だな。

 

「中盤の山場になっても互角って、岳滅鬼さんに勝ち目は無いわね。

……お昼、どうするの?」

「モス」

 

お昼になったので、福島駅のすぐ近くにあるモスバーガーで散財。ここと近くのファミマは、プロ棋士から奨励会員、将棋道場に来る人まで幅広い層が使うから、思わぬ出会いもあったりする。前は生石玉将が普通にモスバーガーを利用していて、ビビった記憶があるな。

 

前まではこういうハンバーガーショップに入ったことも無かったようだけど、今は自分で注文して食べる程度には馴染んだ天衣お嬢様。最初は割高になるメニューを頼んでも一切気にしてなかった辺り、ガチのお嬢様感が出ていた気がする。俺も最近は気にしなくなったけど、クーポンは使います。感性が完全に庶民。

 

昼休憩が終わると、一気に攻め始めるあい。これはあいが、昼休憩の間に脳味噌フル回転で考えた手順だろう。それをノータイムで斬り返していく辺り、岳滅鬼さんの研究範囲は広くて深い。だけど途中で、その研究範囲の外に出たようで、途端に手が止まり始める。最後は、あいが罠ごと吹き飛ばして最短の詰みを披露した。

 

残念ながら、原作で幻視出来たのであろう翼で飛ぶ姿は見られなかった。……翼で竜巻を起こして、障害物を薙ぎ払うような将棋だったからな。ただ、高さを活かした別視点の強みは至る所で散見された。そしてそれは、天衣も見え始めている。遊び将棋の内、八方桂だけは今でも時々やってるからかな。

 

この後は日程的になにわ王将戦があるけど、ネット将棋で天衣が水越澪に指導はしているっぽいし、原作崩壊は無さそう。あいに懇願されたそうだけど、それで引き受けてあげる天衣はもう完全に人の良いお嬢様である。

 

賞金王戦で勝ち上がっている九頭竜は、歩夢と対局をすることになっている。賞金王戦に関しては俺が指して良い所まで勝ち上がったけど、途中で負けてます。アイのように何局もノーミスって、普通は無理だからな。

 

「あい女流初段の誕生か。こりゃ、女流名跡まで一直線かもな」

「そうなったら女流タイトルが、全部10代で独占されることになるのね。私と空銀子が女流棋士になる前に、あいは女流棋士のタイトルを全部掻っ攫うつもりかしら?」

「そのつもりだろうな。女流棋士は対局数が少ないけど、全部の棋戦で勝ち進んでいる最中なら対局数はかなり増えることになる。そこで経験値を稼いで、空さんと天衣を待ち構える算段じゃないか?」

 

女流棋士は、タイトルの数も少ないし対局数が少ないと言われる。だけど全部の棋戦で勝ち進んでいる状態なら、むしろ対局数は弱いプロ棋士よりも多いだろう。タイトルホルダーも、今なら全員バラバラで経験値を稼ぎやすい状態だ。

 

「奨励会には、入って来ないのかしら?」

「そこは分からん。ただこの前の棋士総会ではプロ棋士になると同時に女流棋士になれる規定ともう一つ、女流棋士がプロ棋士編入試験に合格した場合、女流棋戦、及びプロ棋士公式棋戦の両方に出場することが出来るという規定も出来た」

「……それってつまり、奨励会を抜けなくてもプロ棋士になれるってこと?」

「条件はかなり厳しいが、そういうことだ。……祭神が、プロ棋士相手に異例の勝率を稼いでいるからな。もしかしたら、あいつが最初に女流棋士でプロ棋士への編入試験を受けるかもしれん」

 

あいがどういうルートを辿るのかは、九頭竜次第なところもある。ただ今は、女流名跡だけに集中している状態だろう。そろそろ俺の知っている原作範囲からは抜け、将来的な予測も難しくなって来た。だけどまあ、この1年で天衣とあいの差がほとんど縮まらなかったのなら、もうこれから縮まることはないはず。あいが何らかのワープ手段を、手にしなければの話だけど。

 


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