うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる   作:インスタント脳味噌汁大好き

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ホテルネオアワジ

棋帝戦の第2局は67手という短手数で名人を降し、俺の2連勝で迎えた第3局。棋帝戦では毎年恒例となる会場のホテルネオアワジに到着したので、今年は淡路牛の料理を楽しむ。昨年は、天衣に構ってばかりで自分のことは後回しにしていたからな。淡路牛のステーキもハンバーグもうめえ。付け合わせの玉葱もうめえ。

 

『タイトル戦の楽しみが豪華な料理だけになってしまった男』

(やめろ。それ大体、アイのせいだし。……去年は椚が記録係だったけど、今年は鏡洲さんか)

『そう言えば原作の方で、鏡洲さんは記録係の時、正座が辛いとか思うようになったという描写がありましたね。三段リーグのこと、聞かなくても良いんですか?』

(んー、聞いておくか)

 

「鏡洲さんお疲れ様です。三段リーグの方、好調ですね」

「はは。何とか、首の皮一枚繋がっている状態だよ。……このまま全勝で、終われるとは思ってない」

「椚に勝てたのは、辛香さんのお陰ですか?」

「あの対局は、椚が疲れていたから勝てた対局だったな。辛香さんのお陰とは言わないが、影響が大きかったのは認めるしかない」

 

記録係が鏡洲さんだったので、ついでに椚が負けた原因を探る。このまま行けば、椚は天衣の四段昇段の最大の障害になるからな。直接話を聞くと、やっぱり辛香さんに粘られて疲れていたのが大きいらしい。あの天才が真価を発揮するのは、深くまで読める持ち時間の長い対局。三段リーグは持ち時間が短いから、十全に力を発揮することは出来なかったのだろう。

 

三段リーグも後半に入り、トップ勢同士はまず辛香さんと鏡洲さんがぶつかった。その結果は、鏡洲さんの勝利。坂梨さんと鏡洲さんが10連勝でトップを走り、辛香さんは9勝1敗となる。椚は7勝3敗だから、原作の空さんと同じ星。……ということは、まだ椚にもチャンスはあるということだ。既に今の段階で、椚の昇段は他力だけど。

 

まだ2敗で昇段のチャンスが残っている人達と全勝勢の対局は残っているし、最終的にどうなるかは全然分からない。ただ現状、鏡洲さんと坂梨さんはかなり有利だ。この状態から昇段を逃したこともあるから、鏡洲さんは29歳まで奨励会にいるんだが。

 

『それでも現時点では、鏡洲さんか坂梨さんか辛香さんの3人に絞られましたよ。そして鏡洲さんの昇段は、ほぼ確定的です』

(現状、この三人の中で唯一次点を持っているからな。昨季の順位も高いし、最後にして相当大きな昇段のチャンスだ)

 

空さんは女王を失冠した後、少しだけ調子を落としたけど、元々夏には弱い人だし、来季の三段リーグまでの三段昇段は十分に間に合う成績。確か今、10勝3敗だっけ?あとの3試合を2勝1敗で昇段だから、何とかなる範囲。天衣は二段昇段後、5連勝しているから何も心配していない。女王戦終了後、多面指しと指導対局で矯正した結果、波はかなりマシになったからな。

 

『ネット将棋の方も八段で勝率8割を超えましたし、10面全勝する日も近いですね』

(大体10%ぐらいで達成してしまうのか。こりゃ、もうすぐってレベルじゃないな。明日明後日には攻略完了してそう)

 

そうこうしている内に、前夜祭も終わり次の日。棋帝戦の第3局は名人の先手で始まり、名人は中住まいを選択。居飛車同士の対決で、お互いに飛車が浮いた空中戦。若干、ソフト同士の対決にも似ている将棋だ。

 

『名人はしくじりましたね。ソフトに似たような手やソフト発祥の手で、私に追い付けるわけないじゃないですか』

(ここから新手連発もあり得るんだから、一応備えておけよ。……何か名人の手、震えっ放しなんですけど)

『今までの価値観からすればあり得ないような新手の連発なんですから、名人の手も震えますよ。私にとっては、既知の範囲ですが』

(……単純に、アイの既知の範囲が広すぎる)

 

ソフトのカンニングを疑うわけじゃないけど、ソフトのような手を連発していた名人は、途中から盤面を複雑化させることに注力していた。だが残念。その変化はアイにとって既知の範囲だ。というわけで、ノータイム着手。ぶっちゃけ九頭竜戦の方が、アイは消耗していたと思う。

 

わざと自分から複雑にして、一手毎に多くの持ち時間を消費している以上、アイがノータイムで指せるのは仕方のないことだ。名人が考えている間も、アイは考えているわけだしな。

 

そしてここで俺としては珍しくホテルに頼んだバニラアイスが届くけど、事件が起きる。名人もバニラアイスを頼んだからか、アイスが対局場に届いた段階で溶けていたのだ。

 

2人とも溶けたアイスを見て、まず名人がズズズとバニラジュースとなったアイスを飲み始める。続いて俺も、ごくごくと溶けたアイスを飲み始めた。何だこの図。後で知ったけど、今回のニコ生で1番盛り上がったシーンらしい。

 

事件を起こしたホテルネオアワジ側は、正式な謝罪もした。一応、飲んだバニラアイスはそれなりに冷たかったし、溶けていない部分もあったから、時間経過で持ってくる時に溶けてしまったんだろう。もうそろそろ、夏本番の時期だしな。

 

第3局は名人が慎重に攻めて来たせいで手数は長かったし、途中の盤面はかなり複雑だったけど、アイは持ち時間を消費せずに勝ち切った。九頭竜と名人とでそこまで力に開きはないし、何なら名人の方が難しい将棋を指すけど、単純にアイとの相性が悪い説まで出て来た名人。しかしまあ、速攻を試したら今度は持久戦と、名人も色々と試してくるな。

 

(間違いなく今回は俺が指していたら負けていた件)

『途中でマスターが思い浮かべた手順は、どれも微妙でしたからね。伊達に今まで、将棋の神様と言われていた人じゃないですよ』

 

今回で棋帝を防衛したので、三冠は変わらず。次のタイトル戦では名人から玉座を頂く予定だけど、地味に名人の玉座に関する経歴がヤバいな。今までの名人の玉座戦に関わる記録は、25回連続出場、玉座在位通算24期、連続19期。何なら1992年から今年まで、ずっと名人が玉座戦に出場している。今回で26期連続出場だけど、流石に前例がない。

 

『地味にじゃなくて、派手にヤバいですよ。他のプロ棋士は何をしていたんだってレベルで、玉座は名人の独占状態です』

(まあ今年は勝ちに行くし、大記録もここで止まる。……ここだけは、ヘイト買いそうだな)

『名人が複数冠では無くなりますし、九頭竜も帝位は獲得するでしょうから世代交代は叫ばれるでしょうね』

(むしろまだ叫ばれていないのがおかしい件。それだけ名人の存在が、世間一般では大きかったということだけど)

 

6期連続ストレート防衛とか、名人も結構なことをやってんなと思いながら、福島の家に帰る。そう言えばそろそろ、夏祭りの時期か。天衣と夜叉神家が関わるから、色々と変わるだろうな。

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