うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる   作:インスタント脳味噌汁大好き

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原作開始

何か九頭竜から助けてくれLINEが来ていたので既読無視をしておく。内容は雛鶴あいという小学三年生が云々で、要するにようやく原作が開始したのか。

 

「何の連絡だったのよ」

「九頭竜竜王が修羅場になりそうだから助けてくれってSOS出してた」

「あらそう。お相手は空銀子と、もう1人は誰かしら?」

「九頭竜の弟子入り希望の子。石川県から1人で来たんだって。天衣と同い年っぽいね」

「ふーん。

それで、今日のレッスンは何かしら?」

「パンサーには勝てるようになったし、今日から本格的に独自ルートだよ」

「独自ルート?」

「いやなんでも無い。忘れてくれ」

 

一方で天衣ちゃんは、もう原作で出て来たパンサーに勝てるようになった。……はい。原作通りに真剣師と戦わせました。これが将棋連盟にバレると、恐らく1年ぐらいは活動を自粛させられます。変装していたから大丈夫だと思いたいけど。わざわざ通報する人なんていないと思いたいけど。

 

一応、原作通りの成長もさせようと思って新世界で真剣をさせたけど、これだけの棋力を持つ少女に奇襲戦法の知識が無かったことには少し驚く。まあ独学なら、仕方のないことではあるのかもしれないけど。

 

しかし九頭竜の名前を出しても何の反応も示さなかったところを見るに、原作の九頭竜大しゅき少女は何処に行ったんだと顔をしかめる。いやまあ、天衣のお父さんが九頭竜を知るきっかけは潰れていたから色々と仕方ないんだけど。

 

とりあえず天衣の屋敷に持ってきたのは、俺が昔使っていた古いスマートフォン。それを10台用意した。起動はするし、将棋アプリを使うだけならこれで問題無い。

 

「ネットでの対戦は、したことがあるんだよな?」

「ええ。何回かはあるわ。それとこれとにどういう関係が」

「じゃー、これらを使って最終的には10面指しをさせるから。最初は3面指しだから、まず初段のアカウントを3つ作れ」

「……は?」

 

ずらっとスマホを並べて、最初は3面指しの準備をさせる。ネット将棋というのは、実に勉強になるものだ。強い奴はプロに迫る実力を持っているし、いつでもどこでも指すことが出来る。

 

なんなら、右手で25面指し、左手で25面指しをすることもできる。その全部の試合に集中し、経験値を吸えれば、あっという間に強くなることができる。……もちろん、出来ればの話だ。

 

「3つの対局は、同時に開始させろ。全部の試合に勝てたら、次は二段で4面指しな。どれかのアカウントが昇段したら、作り直せ。どうせ無料だ」

「ちょ、ちょっと。多面指しって、そんなもので強くなれるの?」

「そんなもので強くなった奴が、目の前にいるから安心しろ。とりあえず奨励会を抜けられるだけの実力は、俺が付けさせてやる」

『途中で投げ出した奴が何か偉そうなこと言ってますね。私が口出ししなければ、三段リーグで何期足止めを食らっていたか……』

(うるせえ。アイは少し引っ込んでろ)

 

恐る恐る、3面指しを始める天衣。原作の方で明言されていなかったが、多面指しはしたことが無かったはずだ。1対1の将棋と多面指しとで違うのは、考慮時間。

 

よくプロがアマチュア相手に100面指しとかをしているけど、そういうのは一々細かい局面まで憶えていないし、省略できるところは省略して憶えている。可能な限り、盤面を簡単にもしていて、自身の考慮時間を削ぎ落している。

 

一方でネット将棋での多面指しは、全力を出さないと負ける相手と3人同時に戦える。全勝しようとすれば全ての対局に集中力を割かないといけないし、必然的に読みは速くなる。

 

「はぁ……はぁ……3面指しは、クリア出来たわよ」

「お、初段クラスは余裕か。えらいえらい。

じゃ、二段で4面指しな。ここからきつくなるから、頑張れよ」

「待ちなさいよ!こんなの、集中力が持たないわ」

「それはお前の集中力の使い方が下手なだけだし、面倒なら途中まで直感に頼れ」

 

このサイトの初段は、実際のアマ初段より少し強い程度。それを3面指しで完封出来るのは、今までの指導もあるけど、才能のお陰だな。やっぱりそこら辺の凡人とは違うか。

 

『そこら辺の凡人が言うと、妙な説得力がありますね』

(そーだな。

これで、天衣は強くなると思うか?)

『このままでは無理ですし、集中力を保つ方法を直接言ったところで、今はまだ虚言扱いされるでしょうね』

(じゃ、別の答えを見つける可能性すらあるな。既に、女流棋士には手が届くレベルだ。これに読みの速度が加われば、奨励会には届くな)

「……ん、九頭竜から電話か。すまん、少し出る」

 

声をかけて部屋の外に出るけど、天衣はこちらを向かなかった。凄い集中力だし、既にアマ三段ぐらいの実力はある以上、二段の4面指しはわりとすぐにクリアできるはず。

 

ここで九頭竜から電話がかかってきたので、仕方なく出る。要件は、間違いなく雛鶴あいの件だろう。

 

「はい。大木です」

「大木ィ!とりあえず姉弟子から匿ってくれ!」

「今どうなってんの?」

「ドアを挟んでの攻防戦中なう」

「……ちゃんと向き合って話せよ。弟子希望の子には、選ばれたんだろ?

それならそのことを素直に話せ。あと清滝先生のところには連れて行け」

「……そうか、そうだな」

 

どうやら、弟子希望の子がシャワーを浴びている最中に姉弟子が来たから逃げたかったらしい。その後の展開は向こうが通話を切り忘れてくれたから色々と会話を聞けたけど、ほぼ原作通りじゃないかな?細かな会話まではちょっと記憶にないから、自信は無いけど。

 

向こうが切り忘れに気付いて通話を切ったところで、部屋に戻る。額に大粒の汗を流している少女は、うつむきながら俺のスマホをタップした。すると相手玉は詰み、勝利の演出が流れる。

 

「全勝したわよ。三段を5面指しでね」

「あ、そう。じゃあ次は四段の6面指しだな。アカウントを作れるのは四段までだから、四段をクリアしたら次はそれぞれのアカウントを五段に育成するところからだ。これは7面同時進行でしろ。対局が終わったら、すぐに開始だ」

「……これって、最終的には」

「このサイトの最高の段位になる八段の10面指しになるな。八段にもなると、プロや奨励会員も交じっているから辛いぞ」

 

そして床に置いた四面のスマホと、手に持つスマホを見せつけてどやぁとする天衣。まさか今日中に、三段の5面指しまでクリアするとは思わなかったし、これはどんどん伸びそうだ。

 

と言っても、五段の7面指しになるともうほとんど勝てなくなるだろう。四段までは新規にアカウントを作れるから弱い人が交ざるけど、五段以上はアマチュアの中でも猛者しかいない。そいつらを相手に、多面指しはより集中力と速い読みが必要になる。

 

既に四段の6面指しで、指し分け程度になってしまっている。6面指しで全勝する日は、遠いだろうな。


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