うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる   作:インスタント脳味噌汁大好き

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竜王vs帝位

いよいよ対局が始まり、盤面自体は目まぐるしい速度で進行している。初手から36手目までお互いにノータイムってことは、原作と将棋自体は変わってなさそうだな。形勢は今のところ、先後同型なので有利不利はない。ソフトも人間も、ここまではお互いに最善手の応酬だと思っている。

 

『見慣れた形で退屈な将棋ですね』

(ハイハイ。ただでさえやべえ成長速度が寝ただけで1.15倍になったスパコンは黙ってろ)

『最近マスターが冷たくて悲C』

(うるさE)

 

関係者控室では、観戦記者の供御飯さんが天衣にインタビューしている。というか、天衣の周囲に記者が集まり過ぎだろう。史上初の小学生プロ棋士&史上初の女性プロ棋士の可能性がある存在とはいえ、師匠より注目を集めるか。俺も最近、玉座への2年連続挑戦が決定したんだけど。

 

『マスターが四冠になるのは、将棋界では既に確定事項のことのように扱われていますから』

(名人相手に、あれだけ大勝していたらそらそうなるわな。……そろそろ目ざといファンなら、俺に二面性の棋力があることにも気付くんじゃないか?)

『可能性としてはあり得ますね。既に気付いているプロ棋士は、結構いそうですよ?』

 

「小学生の間に、プロ棋士になれるとは思いますか?」

「まだ分かりませんが、まずは目の前の一局一局に集中していきたいです」

「空女流玉座と同時に昇段したわけですが、ライバル意識は?」

「当然ありますし、ずっと意識している相手です」

 

天衣がインタビューに対して教科書通りの回答をしていると、九頭竜がトイレに行き、於鬼頭帝位も席を立つ。今頃、2人はトイレの前で密談しているのかな?めっちゃ聞きてえ。

 

と言っても、対局者以外は入ってはいけない場所で密談しているので、その会話を聞く事は出来ない。会話を盗み聞き出来る=会えるということだし、会えるということは助言を受けられるということになってしまう。……たぶん、会話の内容は原作とはある程度違うだろう。俺という、異物のせいで。

 

『録音機でも仕掛けておけばよかったですね』

(それはそれで問題だろ。というか、アイまで倫理観ゆるゆるになるんじゃねえ)

『おや、倫理観が緩いという自覚はありましたか』

(反社への協力、八百長、年齢偽装&賭博、インサイダー取引。満貫レベルじゃねえ。役満だな)

『インサイダー取引は、インサイダー取引になっているか微妙ですけどね。あとそれにロリコンを追加して、ダブル役満にしておいて下さい』

 

その後の展開は、九頭竜の長考が多いせいで盤面が進まないので、スマホのゲームをしながら天衣と将棋でもする。脳内5面指しなら、天衣も全ての面で全力を尽くせるだろう。供御飯さんが天衣を見る目、一気に化け物を見る目に変わったけど、脳内5面指し程度なら出来る人は出来る。

 

「天衣との指導対局は、いつもこのようにやっているわけじゃないですよ。

1番7五歩2番4四銀3番3一角。

ちゃんと解説する時には将棋盤の上で駒を動かしますし、対局にはスマホも活用しますからね。

4番2二玉5番9五歩」

 

供御飯さんに天衣といつもこのようなことをしているのか聞かれたので、脳内多面指しは移動中とかにたまにする程度だということを伝えておく。基本的にはスマホを使っての10面指しだしな。しかしまあ、手加減しているとはいえ平手でもある程度はアイと殴り合いが出来ている辺り、成長速度が凄い。

 

『常に天衣の一つ上の棋力で指しているんですから、殴り合いにならないわけがないでしょう』

(そういう手加減を、プロ棋士相手の時にもやってくれていたら楽だったんだが?)

『もう下位のプロ棋士と指す機会は少ないですし、ソフト相手には全力にならざるを得ない以上、遅かれ早かれこうなっていましたよ?それに公式戦で負ける可能性が出てくるのは嫌です』

 

対局は徐々に九頭竜が押される形になる。これは、単純に於鬼頭帝位の研究範囲が広いからだな。於鬼頭帝位は初手から終局までを思い描いているし、ソフトでの研究結果を遺憾なく発揮している。ここから九頭竜が勝つのだから、魔王呼ばわりはわりと納得できる。俺のせいで「西の魔王」というあだ名はそこまで定着してないけど、原作でも九頭竜の耳に入らない程度だからどこまで流行っていたのかが分からねえ。

 

1日目の終了間際、原作通りに記録係を務めていた二ツ塚未来四段は、そのまま帝位戦の対局をしていた対局室で寝ることが決定。こういうホテルでの対局は、そのホテルの1番良い部屋で対局が行なわれるけど、対局者達は対局室に寝泊まりする訳にもいかないので自室が設けられている。立会人やその他関係者も、別で部屋を用意していることが多い。

 

だから、記録係が1番良い部屋で寝泊まりするという現象が起こる。明日になったらこの人、九頭竜の力に驚愕するんだけど、この広い部屋に1人で寝泊まりするのはちょっと羨ましい。

 

(九頭竜に対して、人間じゃないって発言はちゃんとしてくれるのかな)

『マスターがいるせいで、インパクトは下がっているでしょうし難しいでしょうね。こいつもソフトを超えた、みたいな発言は期待出来ますが』

(あくまで、九頭竜に関しては一部の領域でソフトを超えたというだけだけど。流石に終盤の計算力とかで、ソフトを超えたら怖いわ。

……あいは、ソフトの終盤力を超えてるか?)

 

アイを除けば、人類最強の詰将棋力を保有しているのはあいだ。そしてそれはそのまま、終盤力の強さに繋がる。

 

伊達にあいは、タイトルホルダーを3人抜きしてマイナビ女子オープン本戦決勝へ進出したわけじゃない。既に女流玉座戦の方でも予選を勝ち抜いて本戦出場を果たしているし、女流玉将戦も予選突破して本戦を勝ち抜いている最中だ。

 

女流棋士になって半年以上が経過するのに、無敗というのは色々とヤバい。俺が適当に付けた小魔王というあだ名が、マジで浸透しているのはビビる。

 

「……4番負けました、ありがとうございました」

「ありがとうございました。

最後は攻め合いで指し過ぎたな。途中の攻防の角までは良かったけど、攻めに拘り過ぎだ」

「攻め合いじゃないと、勝てないじゃない。受けたら潰されるし」

「正しく受けていたら、そう簡単には潰されないぞ。とりあえず1局目の67手目と3局目の61手目はどう受けたら良かったか考えておけ」

 

天衣との指導対局は、アイが全勝。可愛い弟子相手でも容赦なく全勝しに行く姿はいつも通り過ぎて安心する。と、そろそろ封じ手の場面か。控室では九頭竜が不利になっているけど、明確な不利でもない。明日の大盤解説は、先を知っているから解説自体は楽に出来そうだ。

 


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