うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる   作:インスタント脳味噌汁大好き

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ゴキゲン研

プロ棋士で、研究会を開かない人は稀だ。俺や九頭竜もそれぞれ研究会の人脈というのはあるし、空さんだって生石玉将と研究会をしている。天衣は一時期かなり色んな人と意見交換会みたいなことをしていたようだけど、今は同期との研究会だけに落ち着いている。

 

で、帝位戦の第2局が始まる直前ぐらいに、ゴキゲンの湯で大規模な研究会を定期的に開くことになった。場所の提供者である生石玉将の要求は、娘である飛鳥さんを参加させることだけ。地味に飛鳥さん、研修会に入ってるんだけど強くない?

 

『原作でもメンタルブレイクしている状態とはいえあいに勝ってますし、強くないわけがないでしょう』

(そういえばそうだったな。生石玉将の娘で、幼い頃に将棋を触らせた描写もあったし、客からも教えて貰っていたからな。

……この道場、アマ高段が普通にゴロゴロいるからその人達に勝てるようになれば女流棋士まですぐなんじゃないか?)

 

九頭竜も参加しているけど、お前は忙しい時期なのによく参加出来たな?確か原作では、生石玉将と九頭竜と空さんで研究会をしてたっけ?その面子と時期が、少し変わった感じかな。

 

研究会の名前は、場所であるゴキゲンの湯からとってゴキゲン研になる。やべえ研究をしてそうな名前だな。参加者は生石玉将を筆頭に、九頭竜と俺と天衣、空さんとあいと飛鳥さんの計7人。これでもわりと規模は大きい方だ。本当に大きいところは、十数人規模で研究会をしているけど。

 

「この研究会の最終的な目標は、ソフトに振り飛車を認めさせることだ。ソフトを相手に、振り飛車で勝つ。……約一名、振り飛車でも何でもソフトに勝てる奴がいるがな」

「生石玉将だって、前にソフト相手に中飛車で勝っているじゃないですか」

「露骨な嵌め手の方は、次の更新で使えなくなったわ。まあとにかく、関東は最近、いたるところで大規模な研究会を開いている。それに対抗するため、こちらも研究会を開こうという話になった」

 

今日は7人と奇数だけど、どうせこの面子なら仕事やイベントで1人や2人は欠席するから7人のままで問題無いな。生石玉将が振り飛車をソフトに認めさせると言ってるけど、別に振り飛車限定の研究会という訳でもない。まあここにいる面子、全員が振り飛車を指せるし最初の1局ぐらいは振り飛車同士の対決になるか。

 

最初の話し合いで、月に1、2回の定期開催を行なうと決める。内容は最初に早指しの対局をして、その後の感想戦に重きを置く感じ。誰かがタイトル戦をした後なら、その対局の検討もする模様。そして人数が奇数の場合は、誰かが2面指しをする。

 

最初は棋力が近い者同士で対局するけど、あい対飛鳥さん、空さん対天衣と分けるなら俺と九頭竜と生石玉将で3人のグループになってしまう。そしてくじ引きの結果、九頭竜が2面指しすることになった。

 

「ちょ、タイトルホルダーを相手に2面指しってマジで言ってます?それにこの面子なら、大木が2面指しをするのが一番妥当だと思うけど……」

「ここにいる3人、誰が2面指しをすることになってもタイトルホルダー相手に2面指しだろ。安心しろ。俺と生石玉将は1手30秒だが、九頭竜は1手1分だ。何とかなる」

 

2面指しをする九頭竜は、やるからには本気で来るはず。俺のアイ抜きの力が今、どの程度のものか試すには絶好の機会だ。

 

『賞金王戦でわりと無様なポカをやらかしたのに、またやるつもりですか』

(うるせえ。賞金王戦で振り飛車はやってなかっただろ。相振りとか、かなり久々だし指してみたいわ)

 

戦型は強制じゃないけど出来るだけ振り飛車を選ぶことになっているので、まあこの最初の対局ぐらいは全局相振り飛車になるだろう。そう思っていた時期が俺にもありました。

 

(隣の天衣対空さんの試合が、普通に相矢倉なんですけど。しかもお互い、殺意が高い)

『九頭竜対生石玉将の試合も、九頭竜側が居飛車ですね。相振り飛車になっているの、マスター対九頭竜の試合と、あい対飛鳥さんの試合ぐらいじゃないですか?』

(で、わりと普通に負けそうなんだけどどうしよう?)

『序盤で作戦負けしていて、形勢不明は頑張っている方なんだから最後まで粘って下さいよ。……今のところ、マスター334に対して九頭竜416って感じですね』

(……九頭竜相手なら、わりと頑張れている方か)

 

飛車交換をした後、こちらは馬を作って九頭竜の桂と香を回収していく。しかし九頭竜の攻めは早く、金底の香で防ぐも時間稼ぎにしかならない。互いの囲いの硬さは、ほぼ互角か。相手が先に飛車を降ろしている分、こちらが苦しいか?

 

(あ、時間に追われてミスしやがった)

『生石玉将との対局の方は九頭竜が苦しいですから、こちらに割く思考時間が短くなったせいでのミスですね』

(同時に考えられないのか?まあ、この対局はこっちの勝ちだな)

『そう言いながら、疑問手を指すのはやめてくれません?9割5分勝ちなのが、8割5分ぐらいまで下がりましたよ?』

 

結局九頭竜は、2面指しで序盤は負けていた生石玉将に勝ち、序盤は勝っていた俺に負けた。対局後の検討会で、俺と九頭竜の将棋は満場一致で九頭竜のポカが敗因だったし、タイトルホルダー同士の対局にしてはお粗末な将棋だった。一方で三段に昇段し、暇な時間が増えた空さんと天衣の対局は、早指しなのに高段棋士同士の対局にも匹敵するぐらいレベルの高い将棋だな。

 

「1三角は、早指しの中でよく見えたな。空さんは1一玉と成香を払う一手だし、この一手で勝敗が決まった感じか」

「見えたというより、角を使うならそこしかないじゃない。……いえ、前までは確かに見えなかったかもしれないわね」

 

結果は天衣の先手で、空さんにも見落としはあったものの、天衣の勝利。対策されていたのに、よく早指しで勝てたな?あい対飛鳥さんの試合は、あいが完勝。一応、あいのリベンジ成功ってことになるのかな。

 

対局が終わった後は指した対局の検討に移るけど、案外楽しい。7人もいると、色んな意見が飛び出るし、仮想局面で再度VSを勝手に始める自由奔放っぷり。これは天衣にとっても、良い環境だと思う。

 

(俺も考えるから、答え合わせは最後にしてくれ)

『良いですけど、どう見ても悪手な手を検討し始めないで下さいね。流石に違和感が大きすぎますし、全力で止めますよ』

 

ゴキゲン研は、延々と夜遅くまで対局と感想戦が続いた。途中からアイが九頭竜を本気で何度もボコっていたけど、何度も立ちあがってくる辺りマジで鋼メンタル。こりゃ帝位戦での敗北は、ちょっと想像出来ないかな。


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