うちの脳内コンピューターが俺を勝たせようとしてくる   作:インスタント脳味噌汁大好き

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前期順位

三段リーグの最終日が終わり、4人が15勝3敗で並んだ。鏡洲さん、坂梨さん、辛香さん、椚の4人が15勝3敗だ。だけど前期順位が影響して、鏡洲さんと坂梨さんが四段昇段、辛香さんは次点という結果に。

 

結局椚は、次点も取れなかったか。最終日の坂梨さん対辛香さんの鬼勝負は、坂梨さんに軍配が上がって坂梨さんは1位通過。鏡洲さんは1局目で負けて3敗になったけど、最後の対局で辛くも勝利し2位通過。鏡洲さんは、本当に最後のラストチャンスをものにしての四段昇段だ。ドラマが多すぎる。

 

(やっぱり前期順位の差が大きいな。にしても、15勝3敗で上位4人が並ぶとは思わなかった)

『椚は、序盤の連敗が痛すぎましたね。成長速度は4人の中でもトップですし、才能自体はおっさん3人より遥かにあるのですが……将棋に絶対は無いですからね』

(俺だって、食中毒で意識不明の重体になったら負けるからな。食中毒になったことないけど)

 

とりあえず天衣のために対策をしておいた方が良い相手は、椚と辛香さんと空さんか。辛香さんは、将棋のスタイルや勝負に望む姿勢が独特だから、天衣もわりと苦労するかもしれない。椚も、辛香さんに負けてから調子を崩した。 

 

なお原作で起きた報道陣の大集合は起きなかった。小学生プロ棋士が誕生する可能性は僅かにあったのだけど、確率は低かったし、何よりも空さんが居なかったのは大きい。辛香さんが、空さんの身体のことを心配して報道陣を呼んだはずだし。

 

……椚は、次の三段リーグが最後の小学生棋士になるチャンスだ。一方で天衣は、3期もチャンスがある。一部のマスコミでは、もう小学生棋士が誕生することは確定事項のことのように扱っているけど、将棋に絶対は無い。もしも今季の昇段を後一歩で逃したとしたら、次の三段リーグに影響して負けが込む可能性すらある。

 

『前の三段リーグで3位だった人間が、開幕4連敗する世界ですからね』

(ぶっちゃけそれ、珍しいことじゃないんだよな。14勝1敗の断トツ2位から3連敗して昇段逃した人もいるし)

『マスターの狂信者のことですね。飯盛四段でしたっけ?』

(うん。最後に蹴落としたのはぶっちゃけ申し訳なかった)

 

飯盛四段は、原作には居ないキャラだけどもしかしたら見落としているのかもしれない。何だかんだ言って登場人物は多い方だからな。埼玉出身で関東所属の棋士だけど、よく関西に来る棋士だ。人によっては関西にほとんど来ない棋士もいる中で、わざわざ関西まで来るのは珍しい。

 

地味に強いから、将来的にはタイトル戦に出て来るかもしれないけど……今の時期に勝率7割はちょっと苦しいかな。プロ棋士になりたての頃は、言い方が失礼だけど弱い人としか当たらないから勝率は当然高くなる。たぶん鏡洲さんとか、今年や来年の勝率はえぐいことになるはず。あの人、奨励会員時代に新人王戦で優勝してるし。

 

三段リーグが終わり、昇段出来なかった三段の人は次の三段リーグに向けて準備を始めている。よく考えたら、天衣って1年弱で2級から三段まで上がったのか。俺が居なければ、前例のない昇段として大きく取り扱われていただろう。俺が居なかったら今の天衣はないけど。

 

そんな天衣にも、奨励会の後輩が出来た。お盆の時期にある入会試験を突破して、今年も新奨励会員が入って来たのだ。その中には馬莉愛の姿もあり、彼女は4級での入会に成功している。残念ながら二次試験は全勝とまでは行かなかったものの、4級受験で2勝1敗は立派な成績だ。

 

『というか、将来有望過ぎる成績ですね。小学6年生で4級なら、まず中学生の間には入品出来るでしょうし』

(それでも、三段リーグを抜けられるかは怪しいんだよな?)

『鏡洲さんや辛香さんを見れば、三段リーグが如何に魔境かは分かりますからね』

(鏡洲さん、原作ではプロ棋士になれて無いしな。30歳で社会に放逐される奨励会システムの残酷さはわりとえげつない)

 

この4級受験は、俺や天衣のせいかな。たぶん原作では6級受験で二次試験全勝だっただろうし、釈迦堂さんや歩夢にも気持ちの変化があったのだろう。6級受験と4級受験は、かなり違う。6級から4級に上がるのに普通の人なら1年ぐらいかかるし、6級受験で当たる5級や6級の奨励会員とは違って、3級や4級にはベテランも多い。

 

俺の同期にも、まだ4級で頑張っている人とかいるしな。たぶんその4級の人はそろそろ退会すると思うけど。馬莉愛に負けたみたいだし、気持ちにも踏ん切りがついただろ。俺と同期で同級生だから応援していたけど、14歳で6級入会、18歳で4級は厳しい。

 

「どうじゃソフトイーター。妾は凄いじゃろ。褒めて崇めても良いのじゃ。そしてニュークイーンに伝えるのじゃ。三段リーグで待っていろとな!」

「はいはい、おめでとー。

俺も天衣も、奨励会は1級受験で合格してるからなあ。あと三段リーグまで、お前は何年かかるんだよ。間違いなく天衣は小学生の内に三段リーグを抜けるわ」

「うぐ、そうじゃった。コイツら頭おかしいんじゃった……」

「そろそろ兄貴に代われや。何で歩夢のスマホに馬莉愛が出てるんだよ」

 

歩夢が今度の玉座戦第1局で天衣と大盤解説をすると聞き、連絡を取ろうとしたら馬莉愛が出て自慢し始める。実際4級での合格は凄いけど、自慢する相手が間違っている。どうせ自慢するなら、同じ関東にいる攻める大天使こと月夜見坂さんに自慢すれば良いのに。あの人、6級でも通用しなかったからな。

 

……奨励会6級で通用しなかった月夜見坂さんに、そこら辺の女流棋士は全く歯が立たない。天衣の残っている棋譜は、一番古いものだとマイナビ女子オープンの予選だからそういう相手と戦っている棋譜だった。三段リーグでは棋譜が公開されている分、天衣と空さんは不利を受ける。でも最初の頃の天衣の将棋って、わりと今の天衣からはかけ離れているんだよな。

 

『普通の人から見ればちょっと信じられない伸び方をしていますからね』

(基本的に、自分より強い相手との対局を繰り返しただけなんだけどな。悪手は指摘して、好手は褒めるという基本的なことしかしていない)

『その密度が、他の人と比べれば段違いに濃いでしょうに。ですが天衣は、よくついてきてくれました』

 

それで油断してくれればいいし、逆にあそこから1年ちょっとで三段に昇段する実力を付けたことに畏怖して貰っても良い。でも警戒はされるだろうし、過剰に警戒される分は確実に損している。その中で勝ち続けられると、断言することは出来ない。

 

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