フォルトナ   作:氷雨蒼空

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第二話 死の宣告

「あっはっはっは。すっぽかされたかと思ったよ」

 

慌ててバイト先にやって来た俺に、叔母の娘であり、バイトリーダーの館花真菜(たちはなまな)こと真菜姉が笑いを向けてくる。

 

小さな惣菜屋として商店街に軒を連ねるこの店は、近所でも評判の店で、かなり忙しい。

 

流行病対策の為か、店と外の窓口となる場所にはビニール製の透明のカーテンが垂らされ、商品の受け渡しと代金の受け渡しは、直接顔を付き合わせることがないように小窓が用意されている。

従業員は皆使い捨てのビニール手袋をはめ、常に消毒用アルコールを使用したりしているし、業者との荷物の受け渡し等も工夫がされていた。

 

「他の飲食店は軒並み休業だけど、うちは何気に忙しいからね」

「でしょうね。商店街が寂れてるように見えますけど」

 

「去年の年末までは賑わってたんだけどね。今年は結構な数の店がなくなるかも」

 

真菜はそう言って寂しそうに肩を竦めた。

 

ニュースでやっていた飲食店の閉店は、ついこの間まで遠い場所の話と思っていたが、今では身近なものになってしまった。

 

やってくる客の中には飲食店経営者もいたが、うちが忙しそうにしているのを見て、皮肉や嫌味を口にしていく人もいた。

 

普段はそんなことを言わない人かもしれない。このご時世で追い詰められてのことかもしれない。

 

それ故に思わず言ってしまったのかもしれないが、それでも真菜や叔母は嫌な顔一つせずに応対していた。

 

「早く落ち着くといいですけどね。そう言えば真菜姉も大学が休校なんでしょ?」

「まあね。お陰で単位がヤバかったのよ。はぁ。まぁ、大学が色々と単位足りない人の為の救済案を出してくれたから助かったけどさ」

 

「真面目に行ってれば単位が足りないってことはないのよ。最近はバイト代を注ぎ込んでゲームしてるみたいだし」

 

 

そう言えば真菜姉はゲーマーだったな。幼い頃に夏休みの間、俺の実家に真菜姉達が墓参りを兼ねて泊まり掛けで来たとき、真菜姉はわざわざ据え置きタイプのゲームをもってきたっけ。

 

何せうちにはテレビゲームがない。

 

別に貧乏というわけではなく、むしろ金持ちなのだが、両親はゲームする時間に関して凄くうるさい人間なのだ。

それ故に小言を言われるのが嫌でねだりもしなかった。

 

真菜姉が遊びに来たときなんかは、真菜姉は言われることはないが、一緒に遊ぶ俺がいつまでも遊んでいると怒られる。

 

それ故に、ゲームとは時間に余裕があるものの特権なのだと自然と思うようになっていた。

 

が、今の真菜姉を見ていると、真菜姉は時間に余裕があるのではなく、ただのゲーム廃人みたいになりかけているような気がした。

 

「楓もやってみなさいよ。私は二台VR装置持ってるから、一つ貸してあげるわよ。どうせ休み中暇なんでしょ?」

 

「アンタと違って楓は成績優秀なんだから勧めないの。成績落ちてゲームが原因だと兄さん達が知ったら私が大目玉を食らうわ」

 

叔母が軽く真菜姉の肩を小突くも、

 

 

「でも遊びがなさ過ぎるのも目につくんだけどけどね。兄さんは幼い頃に父さんの放蕩のせいで家族が苦労したのを見て、誰よりもお父さんを嫌ってたから」

 

 

そう叔母さんが話してくれたことには心当たりがある。父さんは若い頃に起業して社長となり、現在は嵯峨財閥と言われるほどにまで家を大きくしたが、ほとんど家に帰ったことがない。

 

お陰で母さんに愛想つかされ離婚されたが、母さんとは時々会ってるらしい。

 

ちなみに俺は母さんが離婚した際に母さんについていったが、姉さんと妹は親父の家に残った。

 

もっともその時姉さんは既に社会人で、二人の関係については好きにすれば位にしかみていなかったらしい。

 

妹は中学一年生ながらも、ファションモデルにスカウトされるなどしているので、経済的なことを含め、父さんの会社がバックアップすることから、母さんは妹を父さんに預ける形にしたらしい。

 

俺も中学卒業時には自分のことはなるべく自分でやるように母さんに言われていたので、学費と最低限の生活費の援助は母さんにして貰っているだけで、小遣いやスマホに関してなどは自分でバイトしたお金でなんとかするようにしていた。

 

 

「確かにゲームはやりたいですよね。まぁ、ハマり過ぎて真菜姉みたいになるのも嫌だけど」

「オタクを敵に回したわよ今のセリフ」

「アンタこそオタクにあやまんな! オタクでもちゃんとしてる人がいるんだからね! 私みたいな」

 

自称オタクを豪語する叔母だが、叔母はアニメオタクである。

 

もっとも無類のアニメ好きからすればライトな方だと叔母は言うが、声優や監督等含めたスタッフを毎回確認したり、アニメの限定商品や同じ円盤を保存用とかに買う辺りは、ライトと言うべきか俺はわからない。

 

でも叔母はの凄いところは、人の好みを的確に当てることである。

 

父さんが仕事一辺倒の人間であるのだが、時折ハリウッド映画のDVDなどを視聴するくらいには趣味を持っている。

 

そんな父親に無理矢理アニメのDVDを見せたら、なんと親父がアニメを見るようになってのだ。

 

元々戦争もの等含め、アクションにコメディが好きだった父さんだが、50過ぎて、ライトノベルが原作のアニメを観ている話を聞いたときは心底驚いた。

 

角川の“この素晴”とか“GATE”とか異世界モノ等。

 

そう言う意味で、うちの叔母はこの人はこう言った趣味趣向を持ってるので、こういう作品を好むかもしれないっていう、観察眼が優れているのはわかったが、同時にそれが今の客商売に行かされてるんだなあと思う。

 

「はいはい。私だってゲームオタクですから。そうだ! 楓みたいなコツコツ派の性格に合いそうなゲームあるから貸したげる」

 

「はぁ。一体どんなもの?」

 

戦線聖女(フロントメイデン)って言うのなんだけど、プレイヤーはヴァルキリーと呼ばれる魔物の軍勢と戦う聖女に、様々な形で関わることが出来るの。例えば商人だったり鍛冶屋だったり、時には国王だったりとかね。自由度の高いゲームなんだけど、各職業に共通しているのは、皆が聖女を助けるために動くんだけど、それぞれキャラクターメイキングによってアルカナが与えられるとかあるかな。細かいことはゲームをやりながら覚えるということで、帰ったら今日早速やってみてよ」

 

 

「やるも何も装置は持ってないけどね」

 

「だから貸すから」

 

そう簡単に言うけれど、バイトが終わったら叔母の家に取りに行けということだろうか。面倒なのでまた今度にして欲しい。

 

「また今度ね。取りに行くのバイト終わってからだと遅くなるし」

「いやいや。実はもう持ってきてるんだ」

 

この発言には俺ばかりか叔母さんも呆れていた。

 

「ったく。こう言うときだけはアクティブなのよねぇ」

 

好きなものに関してはとことん行動力が早い真菜姉のお陰で、俺はこの日初めてテレビゲームを自室に置くことになったのだった。

 

ちなみに、俺は自分の部屋にゲームを置くという初めての行為に、内心では嬉しかったりもする。

 

 

2

 

 

バイトが終わり自宅に帰る電車の中は、だれも彼もがマスクをしていた。

最近ではマスクの品切が続出しているけれど、俺も一応の為に数少ない洗って使えるマスクを持っていたので、何とかそれで凌いでいる形だ。

 

そんな片道20分ほどの電車の中で、俺は暇潰しにスマホでフロントメイデンについて調べていた。

 

このフロントメイデンというゲームはスマホアプリとも連動しているので、始める前にスマホアプリをインストールすることをお勧めするとある。

 

「今はこう言ったものが流行ってるんだな」

 

スマホのアプリでは、ゲームのキャラクターとコミュニケーションが取れたりするだけじゃなく、マイルームと言われる場所のレイアウトを好きにカスタマイズし、そこへ選んだお気に入りのキャラクターを住まわせたりすることができるとあって。

 

なるほど、キャラクターへの親近感が増すというわけだ。

 

もっとも俺はそこまでオタクじゃないので、そんなものに没入することはない。

 

大体、画面越しのキャラクター相手に好意を持つとか、到底理解が及ばない。

 

現実を見ろ現実を。

 

そう自分に言い聞かせ、スマホをポケットに入れたところで電車が目的駅に到着。

 

そこから雑踏に流されるまま改札を出た俺は、軽い目眩に一瞬襲われ頭を押さえた。

 

一瞬景色が変に歪んだように見えたのは、もしかして自分が知らない間に今ニュースで取り上げられている病気にかかっている可能性があるということか?

 

何だか嫌な予感がしたものの、別に目眩以外の症状もなく、熱もない。

 

「何にしても体調に少しでも異変を感じたら病院いかないとな」

 

俺は駅を出て自宅に向けて歩き出す。

 

そうして人気も次第に疎らとなり、自宅アパート近くの住宅街に差し掛かると、完全に人気は無くなっていた。

 

まるで世界に自分だけ取り残されたかのような空気感だが、恐らくバイト中に真菜姉があれこれゲームの話をするから、つい変なことが頭によぎってしまったのだろうな。

 

中二病じゃあるまいし。

 

自宅アパートまでもう少しの距離というところで、突如スマホが震えだし、何事かと思ってスマホをポケットから出すと、スマホの待ち受けに覚えの無い通知が入っていた。

 

「エロサイトを閲覧してるとこういうのあるって聞いたことあるけど、見たこともない俺の所に来るってことは、何か別なサイトかな」

 

迷惑メール等が送られてくるようなサイトにアクセスした覚えがないだけに、鬱陶しく感じた俺は、その通知を取りあえず消そうとホーム画面のロックを外した際に、カメラが勝手に起動する。

 

「またかよ」

 

 

世間一般の新機種にあるスマートカメラという機能。

 

これが勝手に起動する度に不快感を覚えるのだが、俺がスマホを持つ手を上げたとき、スマホのカメラが向かってくる人を捉えたときにそれは起こった。

 

「え? なんだこれ・・・・・」

 

トリックアートと呼ばれる壁画が知られているのだが、そのトリックアートは裸眼で見るよりもカメラ越しに見るとリアルに見えるということがある。

 

カメラと裸眼の違いについては、俺はトリックアートで知っていたつもりだったのだが、今カメラ越しに見えたのは明らかにそれとは大きく異なっていた。

 

そんなものとは全く別種の違いというべきだろう。

 

俺の裸眼には普通のサラリーマンに見えたのだが、カメラに映っていたのは明らかに、西洋甲冑に身を包んだ人の姿。

 

俺はゆっくりとサラリーマンが通りすぎて行くのを待って、もう一度その背中をカメラで見た時、やはりその人はカメラの中では西洋甲冑の姿をしていた。

 

 

「あら楓君じゃない。どうしたの?」

 

ちょうど声をかけられ慌ててスマホを下げた俺が声の方へ振り返ると、俺のアパートの大家さんが家から出てきたところだった。

 

大家さんはアパート近くにあるこの一軒家に住んでいたらしい。

 

「えと、どっかで見たことあるなあと思って」

 

適当に嘘を並べて誤魔化すと、大家さんは先程のサラリーマンの小さくなっていく姿を遠目に眺め、にこりと微笑む。

 

「ああ。楓君と同じアパートの方よ。IT会社に勤めてる真田さん。この時間帯に出勤することもあれば、泊まり込みで仕事をすることも多いみたい。このご時世なら、在宅勤務にしても飯豊思うのだけれど」

 

「IT企業って大変ですね」

「そうよねぇ。でもITって最近の女優さんにモテるんでしょう? うちの息子もIT会社にに入ってるけれど、毎日女の人達と打ち合わせがあるって言って、お酒を飲んで帰ってくるのよ」

 

それって打ち合わせじゃなく合コンだと思います大家さん。あとIT企業に勤める人がモテるんじゃなく、IT企業の一部の社長さんがモテるんだと思います。

 

「あははは。毎日お酒を呑めるなんて凄いですね」

「馬鹿言っちゃいけないよ楓君。毎日外食してたらお金なんていくらあっても足りないわよ。家で引きこもってくれてたほうがよっぽどいいわ。あぁ、うちの子が早く昔のように引きこもってくれないかしら」

 

それは親が願うことではないと思うんだけど、他所は他所はという言葉もあるのでそっとしておこう。

 

うっとりとした顔でとんでもないダメ発言をする大家さんに別れを告げ、俺は早々にアパートへと帰るのだった。

 

 

 

3

 

 

 

「凄い装置だな」

 

帰りがけに大きなバッグを真菜姉に押し付けられた時は、一体この中に何が入ってるのか驚いたけど、中を見て更に驚きはましていた。

 

普通にこんな高価そうなものを渡すなよと思いたい半面、この装置は凄そうだという胸の高鳴りが、目の前のVR装置のお陰で抑えられない。

早くも起動してみたいという気分になり、俺は居間に置いていたテレビを自室に運び、説明書を確認しながらVR装置と接続し、同梱してあったゲーム機との接続をする。

 

ゲーム機の初期設定はオフラインの分は出来たものの、ネットワークについてはWi-Fiの充電が充電器から外れていたせいでバッテリーがなく、バッテリーが回復してからとなる。

 

そうして完全に起動準備が整ったところで、早速頭にフルフェイス型の装置を被り、ビニールにしては丈夫そうな薄手の手袋をはめ、ゴーグルを降ろして目元にフィットさせると、説明書に書いてあった通りに、ヘルメットに備えられた電源ボタンを手探りで押すと、電子音と共にゲーム機本体の電源が起動した。

 

初期設定等を終えたところで、ゲーム機本体が突如インストール画面になったところで、俺は思わず説明書を見ていながらも失態を犯したことに気付く。

 

このゲームはソフトが入っておらずダウンロード形式なのだと書いてあった。

 

しかも姉さんの手書きで。

 

「マジかよ。やっちまった。逸る気持ちを抑えきれないとかどんだけだよ俺」

 

インストールされるまで時間がかかるので、体から装置を外そうとしてふと疑問が過った。

 

 

目の前の画面ではインストールの前段階であるダウンロードが行われている。

 

だが、それが出来ていることに最初あれ? っと思い、慌てて装置を体から外してWi-Fiを確認すると、電源が切れたまま充電されている。

 

Wi-Fi接続もしていないのに勝手にダウンロードが出来ていることに、俺はまさか勝手にどこかのネットワークを拾ってるのかと思ったが、ゲーム機をバックグラウンド状態にして、ネットワークを確認すると、切断された状態どころかネットワーク設定は未設定のまま。

 

 

「嘘だろ・・・・・・怪奇現象とか何かか?」

 

怖くなって強制シャットダウンを試みるも操作が受け付けられない。

 

そしてこのタイミングでスマホが鳴り出した。

 

《非通知設定》

 

おいおい! 非通知設定は着信拒否にしてた筈なのに!

 

俺が電話に出ないでいると、突然スマホの画面が勝手に応答状態へ移行した。

 

「何で勝手に!」

 

 

 

「それは私が君を呼び出したからだよ少年」

 

 

声に驚いて振り返ると、そこは洞窟にでも作られたバーの用な店の光景が広がっていた。

 

自分の部屋になんでこんなものがと思ったが、振り返ると反対側は店の入り口となっていた。。

 

俺は信じられないとばかりに扉のノブを掴むも、

 

「止めた方がいい。“君は覚えている”筈だ。ここがどのような場所であるかを」

 

「・・・・・・何で覚えてるんだ・・・・・いつも全く思い出すこともなかったのに」

 

「幻覚でもない。取り敢えず座りたまえよ」

 

そう男が口にするだけで、俺はいつの間にかカウンター席に座っていた。

 

「なんなんだよここは!」

 

「それについては先程も言った。君は覚えている筈だとね。さて無駄な言葉を並べている時間が惜しいので、君に尋ねようか。私は君に道を一つ用意した。ここの臨時アルバイトとして働くかどうかというね。その答えを聞かせて貰おうかと思ってね」

 

 

突然の出来事過ぎて俺は思考回路が追い付かない。そして、前にここで会った謎の鬼面甲冑の人物の姿が見えないことも気になった。

 

「まあ突然迫られても判断に困るか。ではこれを見せようか」

 

男は俺の目の前にボトルを一つ置いて見せた。

 

「これは・・・・・」

 

「そう。君の生年月日と没年月日。没年月日は明日になっているねぇ」

 

 

思わず俺は自分の死の日付がかかれたボトルを手から落とすも、ボトルは床に落ちることなくフワフワと浮いていた。

 

「例え君の記録でも大事に扱ってくれたまえ。それは君の魂の原典素材(オリジンベース)だ。さて、実のところこの死の日付はね、本来の人命に定められた運命によるものではない。超常的なものが関わっている」

「・・・・・・」

 

「うんうん。無駄に質問しないことは美徳だよ。ちゃんと説明するから安心してくれていい。超常とは日常で起こり得ないこと。またオカルトめいた出来事によるものをさす。魔法が存在しない世界で魔法で引き起こされたかのような出来事とかね。尤も魔法が本当に実在するかどうかは私は教える立場にないし、今はそんなことはどうでもいいことなので省くが、要は君は運命に定められていない死に見舞われる。それを回避するために、君は私が用意した道を選ぶかどうかという質問だ。尤もこの道を提示したことが原因と勘違いされては困るから言っておくが、私一切このことには無関係。最も私のお願いする業務には関係するかも知れないがね」

 

 

この男、リピカが言うには、死にたくなかったらアルバイトになれと言うことらしい。

ここまでで、この男が言うことを信じる信じないを考えることは、恐らく無駄なことなのかもしれない。

何せ今ここにいる時点で俺は既に超常的なことに見舞われている。

 

この先の選択肢如何によっては、俺の人生はきっと大きく変わるかもしれない。

 

それはトラブルに見舞われることかもしれないが、そんなこと言ったら既に死を予言されている時点で無駄な心配と言えるだろう。

 

 

「アルバイトの内容は?」

 

「時に命に関わる業務だよ。その代わり、アルバイト代は大いに弾ませて貰うよ大雑把に言えば、一人のプレイヤーとなり、戦争遊戯(ウォーゲーム)に“関わって”もらうのが仕事だ。ただし、その関わり方はどんな形でもいい」

 

「まるで俺の知ってるゲームみたいだな」

「あれは模倣(パスティス)だよ。実際はゲームのように簡単じゃない」

 

そりゃあそうだろうが、それでも今の説明だけでイメージが出来るかと言えば、はっきり言って無理である。

 

「複雑に考えているようだねぇ。それでは特別に」

 

リピカはカクテルグラスに俺のボトルに入った液体を注ぐと、俺に差し出してくる。

 

「一口だけ。一気に飲み干すと君は“酔う”だりう」

 

酒を呑ませるような気軽さで勧めてくるリピカに、俺はそのグラスを受け取って液体を一口だけ口に含んで呑み込んだ。

 

その瞬間、まるで食道を通って胃袋に入った液体が、まるで一瞬で気化して脳天に突き上げてくるような感覚に襲われ、その後にフラッシュバックのように情報が流れ込んできた。

 

 

気がつけば俺はテーブルに突っ伏し、意識を取り戻した時には涎を垂らしていた。

 

 

「盛大な潰れっぷりだったね。それで見えたかい?」

 

 

アイマスクの下の口元に笑みを浮かべるリピカ。

 

「VR装置で一人称視点の動画を見させられている気分だった。最も気分の悪さは凄い最悪だけどな」

 

「それは情報酔いさ。これでわかったと思うけど、君は明日死ぬ。それを回避するためには僕の示した道を選ぶしかない」

 

「今一要領掴めないんだけど、アンタのいう道を選ぶことでどうして助かるんだ?」

 

「正確には助かる可能性が増えるだけであって、確実じゃない。言ってしまえば君が選んだことによって、君は力を得る。最もそれは非常に弱い力だけれど、扱いによっては明日の死の運命をはね除けるかもしれない。尤もこれに関しては君がどんな力に目覚めるのかは私もわからない。何せこのラベルに掛かれている通り、君の死の結末以外書かれていないからね」

 

そう告げられた俺は、盛大にため息をつく。

 

尤も今のは気分の悪さを落ち着かせるための深呼吸を含めてのもの。

 

そして、覚悟を決めるための儀式のようなものであった。

 

 

 

「わかった。その話を受ける」

 

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