フォルトナ   作:氷雨蒼空

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第三話 俺の論理

『昨晩未明、風見市の路上で起こった殺人事件は、県警の発表によりますと、先月から続いている通り魔殺人───』

 

気がつけば俺はソファーに横になっており、いつの間にか眠っていた。

 

この間なら変な夢を見たなぁという程度で、直ぐに考えるのを止めていたものだが、今回ばかりは完全に覚えていた。

 

あの気持ちの悪さは今でこそ感じないが、思い出しただけで再び気持ち悪くなりそうである。

 

取り敢えず俺は点いていたテレビを消して、暫く部屋の中を静寂にして目を瞑り考え事に耽ろうかとしていると、スマホに突如通知メッセージが入る。

 

もしかしてと思い慌ててスマホを手に取ったが、相手は真菜姉で、

 

『ゲームプレイした? 感想聞かせてよ』

 

何とも忙しい人である。未だにプレイしてないしする気も今は起きない。

 

既読スルーしてスマホをテーブルに置き再び目を瞑ると、今度は呼び鈴がなり始める。

 

「何なんだよ全く!」

 

イライラしたあまりに俺は勢いよく出ていくと、扉が開く際に何かにぶつかり、盛大な衝突の音がした時に俺はしまったと慌てる。

 

だが時既に遅く、目の前には額を押さえながら無表情に上目遣いで此方を睨む少女が立っていた。

青みがかった艶やかなボブヘアーに、欧米よりの高身長と発育した胸と、すらりとした美脚の彼女は、俺が実家にいた頃の幼馴染みのヴェロニカ=ヴァレンタイン。

昔は体が病弱だったのだが、今では健康そのもので、その幼かったときに暴れられなかった反動があるのか、現在は怒るとたまに手をあげてくるじゃじゃ馬だ。

 

中学時代に親の仕事の都合で引っ越すまでの彼女は、感情表現の乏しい顔と静かな声音で、女子バレーボールのクールビューティー等持て囃されていた。

女子バレーボールの試合となると、我が校の男子のみならず他校の男子までもが見学に訪れるほど。

 

それ故に俺としては結構な男子に合コンのセッティングを頼まれたり、仲立ちを頼まれたりもしたものだ。

 

尤も中学に入ってから俺は彼女と話すことはほとんど少なく、幼馴染みというポジションは聞こえはいいが、実際は形骸化した同級生的なもの。。

 

 

 

「え、えとどうしてヴェルがここに?」

 

言葉の代わりにつき出されたのはビニール袋であった。

 

その中にはタッパーに入れられた食事の数々。

 

 

「何かイライラしてた見たいだけれど、もしかして彼女とイチャイチャしていたところを邪魔でもしたかしら?」

 

質問を質問で返してくるあたり、相当機嫌が悪そうだ。こいつが機嫌が悪いときは素直に相手の質問に答えない傾向がある。

 

「そう言うお前は彼氏とイチャイチャしなくていいのか?」

「質問してるのは私」

先に質問を下のは俺なんだけど。誰だよこの女をクールビューティーとか言った奴。今すぐこいつの今の姿を見せてやりたいんだけど。

 

「彼女なんて面倒くさいの作るかよ」

「負け犬の遠吠えね」

「わざわざ負け犬を笑いに来るほど暇なのか?」

 

「別に来たくて来たわけじゃないわ。生きてるかどうか確認しただけよ」

縁起悪いことを言いやがって。

「こっちは変な奴に明日お前は死ぬと言われてイライラしてるところなんだ。むしろ怯えてるくらいだ。そう言うわけで別に用がないなら帰れよ」

 

俺はそう言って扉を閉めるた。

 

思えば、どうして彼女にたいしてこんなに冷たく当たるようになったのだろう。

 

どうして最後かもしれないのに彼女に対して素直にありがとうと言えなかったのか。

 

暫くして足音が遠ざかっていき扉を開けると、扉のノブの所には先程のビニール袋が掛けられていて、中にはグシャグシャになった手紙が入っていた。

 

何かで濡れた後があったが真新しく、今現在晴れていることから、それが涙で濡れたものであると言うことに気付くのは!さして時間がかからなかった。

 

手紙には“高校入学おめでとう”と綺麗な日本語から始まる文章が、上からペンでぐしゃぐしゃに塗りつぶされ、白い部分に“死ねばいい馬鹿”と殴り書きされていた。

 

 

「これだから女って面倒くさい」

 

完全に負け犬の遠吠えとか、最低な男の発言であるとわかっていても、俺はそう言うことしかできなかった。

 

 

 

2

 

 

 

休校解除後の説明会と言うことで翌日の朝早くに、俺は徒歩で通学路を歩いていた。

 

ちらほらと同じ学校の制服の生徒も見かけることもあれば、ヴェルの通っているお嬢様学校の制服姿の女子も時折見かけられた。

 

お嬢様学校と言えば金持ちばかりが通っているイメージがあったが、基本的には大半の女子生徒は徒歩通学で、政財界の大物クラスの令嬢となれば送迎車での通学となっているとか。

 

真菜姉が聞いてもいないのに教えてくれた情報である。

ちなみにヴェルは生粋のお嬢様で、学校にはリムジンで通っている。昨日も俺の家に来たときはリムジンで来た筈。

 

中学の頃に俺の実家近くに住んでいたのは、元々父親が日本と大和撫子が大好きな親日家で、ビジネス上の関係で知り合った父さんと仲良くなり、日本の一般的な生活を体験すると言うことで、中学までは普通の暮らしを父親としていたそうだ。

 

尤もお手伝いさんや警護は常についていたらしいけどな。

 

それでも中学の頃のあいつはそれなりに一般的な暮らしを楽しんでいたように思える。

 

何にしても今後会うことはないだろう。

 

俺は行き交う人々の姿から視線を外し、交差点のところで信号待ちをしている時であった。

 

まさかと思ったのだが、立体交差している信号待ちの中で、右側の道路を挟んだ先にヴェルが友人達と共に歩いていたのだ。

 

珍しいこともあるもんだと思った俺だが、ちょうどその後方には、こんな時期に珍しいフードを被った男が、顔を俯かせてヴェルの方向へと向かって歩いている。

 

そのパーカーのポケットに手を突っ込んでいるフードを被った男だが、そのポケットから黒塗りの何かがはみ出し、ポケットが若干鋭い形で盛り上がっていた。

 

まさかナイフじゃないよな。

 

こんな時に昨晩ニュースで流れていた情報が浮かび、嫌な予感が頭を過る。

 

 

そして、俺はいても立ってもいられず、結局本来の通学路である真っ直ぐ行く方角の交差点をわたらずに、ヴェルのいる方向の交差点を渡ると、ヴェルが歩いて近づいてくる俺に気づいたが、昨日の件があったせいで、あっさりと視線を逸らされた。

 

いや、それは別にどうでもいい。

 

昨日の喧嘩を最後に、こいつに何かあったら寝覚めが悪いと思った。

 

ふと頭に過る今ではない昔の映像。

 

俺が今の俺とは違う、泥と血糊で汚れた人生を歩んでいた時、ゲリラの尖兵として潜入した集落に、ヴェルに非常に似た少女がいたことを思い出す。

 

あれだけゲリラの手伝いで殺人や略奪をしていたのに、俺はあの集落で初めて人の優しさに触れて、俺は人間になった。

 

それを思い出したとき、俺はヴェルや他の女子生徒達がいる前で一度立ち止まり、その手にスマホを握りしめて耳に当てると、

 

 

「ここから全力で走れ。絶対に振り返らず、警察を呼ぶように叫び続けろ」

 

一瞬きょとんとした顔を浮かべるヴェルや女子生徒達だが、俺はそのまま向かってくる男に向けて一歩歩みを進めて声を大きめに

何処にも繋がっていないスマホに向けて話し出す。

 

「事件です! 今しがたポケットにナイフを忍ばせている不審者をみつけまして。」

 

110番すると必ず事件か事故か尋ねられるということを知っていた俺は、相手に縁起とバレないようにそれっぽくちゃんと話を始めた時、男は俺の言葉を聞いて驚きの様子を浮かべて立ち止まった。

 

もし前世の記憶が無く、あの最後の時を思い出すこともなければ、絶対に俺は間違いであった時のことを強く想像し、絶対にこんな大胆な縁起も出来なければ、そもそもヴェルの近くまで来るようなことはしなかっただろう。

 

 

これはきっと前世の俺が成し遂げたかったことなのかもしれない。

 

 

「走れ! 今すぐ走れ!」

 

俺の怒声に驚きながらも、何かを感じ取ったヴェルがいの一番に女子の誰かの腕を引っ張り走り出す。

 

「走って!警察を呼ぶのよ!」

 

女子達がようやく事態に気付いて走り出した時、フードを被ったいた男がポケットからサバイバルナイフを出して構えた。

 

「てめええええええ。邪魔しやがってよおおおおお。ぶっ殺してやるよお!」

 

その目は焦点が定まっておらず、口の回りには泡が溜まったような感じで、唾を撒き散らしながら叫んでいる。

 

ネットとかで見かけたことがあるが、こういう奴って薬物中毒者っぽいな。

 

何にしても昨日聞いていたオカルト的な状況は何一つないので、俺はこいつに殺されることは無いだろうと思っていた。

 

だが男の行動に俺は目を丸くしてしまった。

 

「んだよ! てめぇも“プレイヤー”かよ! だったら“経験値稼ぎ”の邪魔すんじゃねえよ!」

 

男は俺にスマホを向けて何かをぶつくさ喋っていたのだ。

それは昨日の帰りに、俺がサラリーマンにスマホを向けた時の行動と一致している。

 

そしてスマホがぶるぶると震え画面をみると、再びカメラが起動しており、そのカメラを向けた時、カメラ越しに見た男の姿はナイフを持った小汚ない格好の姿となっていた。

 

「いーひっひっひ! てめぇまだ初期設定すらしてねぇな? アルカナも不明になってやがる。まあいい。ルーキーは大した経験値持ってねえから旨味はねえが、社会的リスク以上に、殺しは快感だ。もう、俺はこの世界のことはどうでもいい。盗賊から成り上がってお気に入りの聖女を侍らせ囲うんだ」

 

「おいおい。頭が可笑しいと思っちゃいたが、よりによってゲーム脳かよ。救いようがないな」

 

「あん? お前プレイヤーに選ばれたくせに何も知らねえのか? まあ殺すついでに教えてやるよ。俺達はプレイヤーに選ばれた時点でレブナントの力を覚醒させられる。これは所謂“魔力覚醒”ってやつだ!」

 

 

男はそう言って通りすぎようとした車に右手を向けると、その手から土の塊みたいなものが、飛び出して車にぶつかり、車はそのまま操作が失われて電柱に激突した。

 

「みたか? 俺のレベルは3。取り敢えずプレイヤーが何れも雑魚ばかりで経験値が少なくてよぉ。取り敢えずレベルアップ時に得たポイントは魔力に振り込んだが、土魔法もまだ大した強度にならない土つぶて程度だ。だがこうやって事故を起こさせる程度に混乱させることができる。一般人殺しても経験値入らねぇから、今回はお前みたいな雑魚でも有り難く殺させて貰うぜ」

 

ここに来て昨日の予言の的中危機が訪れるとは。予言と言うより決定事項か。

 

悲しいことに俺はリピカと契約したけれど、そう言った力云々について詳しく聞けなかった。

 

「殺されるついでに教えてくれ。何で女子生徒を狙った?」

 

「へへへ。俺は慈悲深いから冥土の土産に教えてやるよ。あの中にハーフの美人がいたろ? あれは聖女召喚の素材だ。ゲームでよくあるだろ? ミッションこなしたりクエストこなすと報酬にガチャが引けるって。そのガチャを引くアイテムがこれだ。入手方法は省くが、こいつで聖女を召喚できる。聖女適性がある奴を召喚に用いれば、そいつに聖女の力を憑依させることも出来るばかりか、命令権を付与して従わせることも可能だ。そうすればあのエロい体を好きに出来るだろ? 飽きたら殺して経験値にして新しい女を素材にすればいい」

 

「OK。これでお前に殺される理由はなくなった。むしろお前をここで止めるために全力を尽くす」

 

「笑わせんなよ? ここで運良く俺に勝って僕が君の王子様ですって言うのか? 最もお前に勝てる要素何一つねえ。何せ俺はフロントメイデンのゲームはやりつくしてんだよ! かのゲームがリアルになったとき確信したね。これは俺のために神様がくれたんだってよ! その証拠に見せてやる! 俺の戦乙女(ヴァルキリー)をな!」

 

 

そう言って男が懐から数個の宝石を取り出すと、それが光と共に消滅して男の前に一人の騎士甲冑の存在が顕現する。

 

「ち! コモンかよ。まあいい。こいつ殺した後に経験値にして新たな奴を呼び出すか。まぁその前に女として俺に奉仕してもらうがな」

 

顔の上半分を兜で覆った剣士は、命令を待つ忠臣の如く俺に剣先を向け構える。

 

「殺せ」

 

「イエスユアハイネス」

 

女剣士は人間離れして駆け出しから一気に加速すると、急発進した自動車かのように突進してきた女剣士を前に、俺は真横に飛び避けた。

 

幸いにも車が道路を走っていなかったからいいようなものを、下手すれば車にひかれていたかもしれない。

 

 

「逃げ切れるかわからないがどうにかして逃げないと!」

 

ヴェル達とは反対方向へと走った俺は、握り締めていたスマホの画面をチラリと見ると、画面にはアプリのスタート画面が映っていた。

 

走りながらの操作をしていると、背後で盛大な破壊音が聞こえる。

 

同時に建物の壁を破壊して目の前に女剣士が現れた。

 

「こいつターミネーターかよ!」

 

もしくはとある戦争に呼び出された英霊とか何かか。

 

すぐ横の道に入って逃げる俺を、まるで余裕をもって追いかけてくる女剣士。

 

「早く逃げないと私の剣の錆びになるぞ少年」

「はぁ・・・はぁ・・・・おいてめぇ! 早すぎんだよ・・・・はぁはぁ。くそ。これなら先に女の方を追うべきだったか」

 

息切れをしながら男も追いかけてくる。

 

あいつレベルが上がっても体力は一般人以下なんだな。普段は不摂生なんだろう。

 

何にしても俺は男はナイフと魔法が驚異。

 

もしかしたらスキルというのもあるかもしれないが、今はそんなことよりも女剣士から逃げることが優先だった。

 

合間合間にスマホを操作するのだが、名前を含めた個人情報は、どういうわけか勝手に入力が完了しており、そしてアルカナと呼ばれる個人特性が表示される。

 

 

《貴方のアルカナは理から外れた者(デスペラード)です》

 

画面に表示されたそれは、自分に刃を突き立てた八本腕の甲冑に身を包んだ人物。

曰く、それは神を冒涜し、神を信じず、神を否定した業の深き存在。24番目のアルカナであり、神々の審判後の世界を否定する存在。

 

そう説明が書いてある。

 

個人特性のアルカナとは、その者の魂に強く影響されると書いてあったが、神を信じないとか冒涜とか、何故にそんなものが俺の魂に深く結び付くのか?

 

その時、俺の頭の中にフラッシュバックの如く思い出される記憶。

 

 

 

それは潜入した集落で起こったこと。

 

集落で俺が手引きすることになっていたあの日、俺は自分に優しくしてくれた集落の人達を助ける為に、あのヴェルに似た少女を守るために一人行動を起こした。

 

集落の外に隠しておいた銃を持ち、偽の情報に騙されてきたゲリラ達を、これまで教わった方法で一人ずつ殺害していった。

 

 

だが、不運にも悲劇は起きた。

 

俺がいつまでも戻ってこないことを心配した少女が、俺を探して集落の外に出て捕まってしまったのだ。

 

いい加減、仲間達の殺され方に、相手が誰であるのか気付いたゲリラ達は、少女を人質に俺に降伏を迫り、俺はゲリラに降伏したものの、俺はそのまま拷問を受け、少女は目の前で犯され殺された。

 

彼女は何も悪くなかった。

 

悪くないのに殺されてしまった。

 

薄れそうになる意識の中で、俺は最後の悪足掻きとばかりに男達からナイフを奪って、何発か銃弾を腹に受けながらも、一人一人殺していった。

 

なぜ自分にあんなことが出来たのかわからず、何故それが彼女を助ける為に発揮できなかったのかわからず、気がつけば傭兵達を引き連れて俺達を探しに来た集落の人達に抱き抱えられていた。

 

 

もう、謝罪の言葉を口にすることも出来ずに、俺はそこで命を終えた。

 

神はいない。神は気まぐれで公平ではない。

 

その時に俺はそう思ったのだと思う。

 

「ようやく追い詰めたぜ」

 

行き止まりになってしまった場所で、フードの男がナイフを指示棒代わりに俺めがけて振る。

 

「さぁやっちまえ! そいつをぶっ殺したら褒美に俺のイチモツをてめぇに咥えさせてやるよ」

「つくづく下品だな。お前ってゲームにも友達いないだろ? ちなみにクラスも大したことなさそうだ」

 

 

俺はやや芝居じみたジェスチャー混じりに挑発すると、男は一瞬動きを止めてナイフをおろす。

 

「やめだ。、てめぇを殺すのは俺だ。おい。そいつを拘束しろ」

 

女剣士が剣を鞘に収めてゆっくりと俺に向かって歩いてくる。

 

「ちなみにお前のクラスを言い当ててやるよ。アルカナで言えば挑戦者(チャレンジャー)。旅路の始まりは強い憧憬から始まる。アルカナの最初の数字は0。そのチャレンジャーは人間の旅路とも言われ、その次の1は火を使うことを覚えた者を指す魔導師。これは火を使うことを覚えた人間の本当の始まりを意味し、魔導師とは魔法使いでも何でもなく、神の定めた理を、科学という神の理とは程遠い方法を模索する道を選ぶ者の存在を意味する」

 

「あん? 急になんだよ? 俺のクラスはどうだっていいだろう」

 

 

「まあ聞けよ。何でプレイヤーに個人特性があるのか考えたか? 人間ってのは生まれながらにして環境が違う。決して平等でも公平でもない」

 

誰かが何処かで暖かい食事を食べている中で、俺は泥水をすすり、草木を口にいれ虫さえ食べた。

 

誰かが暖かい布団で眠っている間に、俺はダニや虫が這う地面で、時に雨風に晒され寝過ごした。

 

それでも生きていた。まるでこの世の地獄を体験しろと言わんばかりに。

そして目の前で仲良かった少女を犯され殺されているなか、世界では誰かが平和に暮らしている。

 

決して平等や公平ではない。

 

 

そして俺は日本という国に生まれ、今度は暖かい場所で雨風の心配をすることもなく、器に盛られた暖かで健康的な食事を食べることが出来ている。

 

だが、それでも今目の前に危険分子が現れ、ヴェルの命が脅かされた。

 

もし本当に平等で公平ならば、少なくとも俺にこのようなトラブルが起きず、不意音無事に過ごせてもよかった筈だ。

 

でもそんなことを考えたら、まるで宝くじの当選の順番待ちのようである。

次は俺の番だと。

 

現実は違う。宝くじの高額当選に連続で当たる人もいれば、10年買ってもかすりもしない人もいる。

 

その差は何かなんてわかる奴はいない。

 

宗教に熱心な人は言う。

 

それは前世で徳を積み上げた人の差だと。そんなもの前世を知らないくせに語るなと言いたい。

要は、最後の最後で神様の思し召し。

 

良いことも悪いことも神様のせいにする責任転嫁だ。

 

抽象的で耳障りのいいことば取り繕うが、現実は結局のところ、人間は生まれながらにして不平等なんだ。

 

「それでも・・・・・・・・俺は神とか運命とか抽象的な言い方で自分の不幸を責任転嫁したりしない」

 

「あん? 急に何いってんだお前。急にトランスっちまったんか? まあどうでもいいが早く拘束しろやボケ! てめぇ呼び出すのに貴重な魔石消費してんだからよ!」

 

そう言って男は女剣士に歩み寄ると、その体を思い切り手で突き飛ばす。

 

「・・・・・・」

 

《運営からのプレゼントとメッセージ、それと宛先不明者からのメッセージとプレゼントがあります》

 

スマホに通知されたメッセージから、俺は運営からのメッセージを確認する。

 

 

『24番目のロストクラスを与えられたプレイヤーよ。君の運命に抗う姿を見届けさせてもらおう』

 

プレゼントとはプレイヤー誰にでも配られる、スタートの召喚用の魔石であったが、もう一つの宛先からのメッセージは、予想がつく相手からだった。

 

 

『これを見る頃には君はまだ生きているだろう。さてここからがチュートリアルだ』

 

突如世界がセピア色に染まり、フードの男を含め女剣士が動かなくなる。

 

『君達プレイヤーは前世の亡霊(レヴナント)と呼ばれる力に目覚め、魔法やスキルの覚醒、レベルアップの恩恵が受けられる』

 

いつの間にか目の前に現れたリピカ。こいつ何でもありだな。

 

「ゲームみたいだな」

『君達の為にそう言うシステムにしたのさ。“神々”はね。そしてアルカナ特性はそのままレヴナントの性質に影響される。そして召喚される聖女にもね。最もシステム的には公平だよ。スタート地点がレベル1からということと、最初から強力な力を持っていないことはね』

 

「・・・・・あんた最初に力を貸してくれる話じゃ」

 

『これでも貸してるほうじゃないか? チュートリアルなんて他のプレイヤーには存在しないし、誰もが手探りの現実の中で、君だけは私からの助言が受けられる。最も運営に近い私からね。そして君は私の店の臨時であれど従業員。こんなにも特別な存在である状況に不満かい?』

 

 

確かに普通なら自分で何とかしなきゃいけない状況だろう。

 

「うっかり騙されるところだったが、あんたは俺を利用したいんだろ」

 

『人を疑いすぎるのもどうかとおもうね』

 

あんたは人じゃないだろうに。

 

「で、プレゼントがチュートリアルだって言うのか?」

 

『まさか。私のプレゼントとはチートさ』

 

そう言うと、リピカは俺のスマホを指差した。

 

『神連中は実にアナログ過ぎる。そこでわざわざスマホを媒介にしなくても、使い勝手がいいように仕様を変更してみた。景色に情報や操作コマンドがホログラフィーとして投影される仕様をね。それと私の店の従業員用のアクセスキーだ』

 

突如景色にホログラムが浮かび上がると同時に、リピカが一枚のホログラムカードを俺に渡してくる。

 

『そして、従業員特典として、君に前世の戦闘経験値をプレゼント。結構な数を殺したからね君は』

「一般人とか殺しても経験値入らないんじゃ」

 

 

俺の言葉を無視してリピカは舌を鳴らしながら、人差し指を左右に振った。

 

『正しくない情報だ。彼がいってんだを殺しても経験値が入らなかったのは、何の戦闘経験もしていないからさ。この平和ボケした日本で殺し合いを経験した人はどれくらいいると思う? 戦闘能力も何もない低レベルの一般人を殺しても経験値として得られるのは、殺害に対する抵抗感を失くす方法くらいなものさ。肉体的な力は得られる訳もない。それと比べたら君の前世は戦争のオンパレード。最も前世の記憶と体験を君だけが得られる特権さ。でも超具合悪くなるよ?』

 

そう言って、いつの間にかリピカの目の前にはカウンターテーブルが用意され、そこにはカクテル作りに必要なシェイカーと、数本のボトルが置かれていた。

 

「まさかと思うが」

 

 

『これよりお客様だけの特別のカクテルを作らせて頂きます』

 

そう言って、俺がそれ以上何かを言う前に、ボトルの液体をジガーカップに注ぎ、次々と計量していった液体をシェイカーに注ぐ。

 

そして、それに氷を入れて蓋をすると、プロのバーテンダーさながらにシェイクし、その液体をトールグラスへ注ぎ込むと、炭酸らしき液体を足してステアした。

 

 

「なぁ、滅茶苦茶ヤバい色になってんどけど?」

 

紫っぽいどろどろした液体が溶岩のようにコポコポ泡を出している。

これはメシまずヒロインの作る栄養ドリンク的なものにしか見えないんだが。

 

『実は私の性別は女性で、男装の麗人という設定なのだけれど、それを聞いたら私はヒロイン枠に入るかな?』

 

悪戯な笑みを浮かべるリピカに、

 

「こんなにもグロテスクな液体出す女がヒロインなら、俺は迷うことなく主人公辞退するけどな!」

 

そう言いながらも、俺はその液体を一気に飲み干す。

 

そして頭を突き抜けるような痺れと共に、頭痛と吐き気に襲われてその場にうずくまった。

 

吐き出したくても吐き出せない苦しみ。

 

『さて、タイムリミットだ楓。その苦しみを自力で押さえ込まないと、時間凍結が解除された後、君は殺される。足掻いて見せたまえ』

 

 

そんなリピカの捨て台詞と共にセピア色の世界が元の色を取り戻すのだった。

 

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