「こいつ急におかしくなりやがった」
時が動き出した直後、苦しんでいる俺を見て困惑した様子の男。女剣士の方もまるで様子を伺うように立ち止まる。
リピカによって呑まされたカクテルは、この俺の魂が歩んできた様々な人生の情報の断片を混ぜ合わせたもの。
その情報は濃縮で、頭が可笑しくなりそうなほどの歯がゆさの感情。
何れもが身体中をかきむしりたくなるよう内なる感情という情報の波に、俺は地面に膝をついて頭を抱えた。
「うあああああああああああああああ」
「ああうるせえよガキ。本当に狂っちまったようだ。煩くてかなわねぇ。殺してしまえ」
女剣士がこくりと頷き剣を構えた時、俺はゆっくりと立ち上がっていた。
「はぉはぁ・・・・・・馴染んだ」
「あん? 何言って」
俺は召喚用の魔石を握り締めていた手を開いて地面へと放り投げた。
そこに散らばったのは虹色に輝く魔石である。
「おい! それ魔石なのか! なんで虹色なんだよ!」
「人間は生まれたときから平等じゃない。公平でもない。お前のクラスが何か知らないが、俺のクラスはデスペラード。俺の敵はお前みたいな雑魚じゃない。お前みたいな雑魚でも駒として扱う神という存在とそれが定めた魂の理」
「意味わかんねぇこと抜かした挙げ句、俺を雑魚呼ばわりとか・・・・・・楽に死ねると思うなよ! やれ! アリアンロッド!」
男が女剣士の真名を口にした瞬間、女剣士の兜が消失し、甲冑が灰色のものから白銀色のファッショナブルなものへと変化する。
見れば男はスマホを仕切りに操作していたことから、“課金”して強化したか、それによって得たアイテムを使用したのだろう。
一瞬だけフラッシュバックする、誰かの人生の断片。大自然に囲まれた森の中で一人傷つき倒れる銀色の円剣を持つ女性。
幾つもの屍の転がる場所で、彼女が眺めていたのは空を飛び回る鳥であった。
同時に地面に転がった魔石を中心に広がる魔方陣が、空中に浮かび上がると、魔法陣が浮かび上がると同時に魔方陣の下側からイリュージョンのように人が現れる。
いや、少女だった。
背丈に合っていない魔法使いのローブのようなものを羽織り、頭にはとんがり帽子をかぶった左目を眼帯で覆う少女を。
「我を呼び出したのはお前か?」
「ああ」
少女の問いにそう答えると、少女は持っていた分厚い書物をスタイリッシュに片手で閉じる。
が、その手はプルプル震えているばかりか、本が逆さまになっていた。
「・・・・・その本逆さまなんじゃないか?」
「我が魔導書の正位置と逆位置を見抜くとは流石我が契約者だ。これは君を試したのだよ」
なるほど。流石虹色の魔石を使用して召喚された聖女だ。
「で、お前は何が出来るんだ?」
「私は知恵の泉の力を用いて知識を得て、世界を見渡す玉座にて今を視る。ふはははは! 見えるぞ! そこの男がここに来る前に自室でエロ本読んでたところとか、最近ちまたで流行ってる通り魔殺人をネットで知り、ちょっと狂ったふりしてれば外に出ても怖くないとか人と目を合わせないで済むし、この際勇気を振り絞って通り魔っぽく演じてみたりとか」
いきなり相手の恥ずかしい話を暴露し始める少女。
「やめろおおおおおおおおおおおおおおお」
いきなり頭を抱えて少女に背を向ける男に指を指し、
「どうだ! これが私の力! 戦わずして相手の黒歴史とか恥ずかしい秘密をバラして精神的に潰すことができる!」
「え、あ、うん。確かに知られたくない秘密があると困るよな・・・・・」
得意気に自慢することでもない。それよりもちゃんとした痴からを見せて欲しいんだがな。
「なんだそのしょっぱいものを視るような目は! 君は全知の力を持つ
まあそれくらいならいいとしてだ。百歩譲ってだ。
「ちなみに物理的な力は?」
「バッタを捕まえて食べることが得意だ」
「「完全に外れ枠じゃねぇかああああああああああああ」」
何故か俺だけではなく男まで叫ぶ。
「くそ! ビビって損したぜ。まさかのところで人の痛い腹を探るとか驚きはしたが、戦う力がないとわかった以上、ここで叩き潰させて貰うぜ」
「おいおい無理すんなよ。本当は人を殺したことねえんだろ?」
「べべべべべべ別に無理してねえし、そいつの言ってることの方が嘘だし! 既にプレイヤーなんて」
「殺した数を言うなよ。聞いてるこっちが恥ずかしい。ゲームでプレイヤーキルした数を言ったって脅しにならんよ。私は言った。今を視ると。この時代に今を生きる者の過去数十分前までなら視ることも可能だ。敢えて言うならリアルタイム録画視聴と同じだな。そして物理的な力についての質問には答えたが」
今しがた自分の発言を忘れたのだろうか? さっきのこいつの台詞は端から聞いていて恥ずかしいことこの上ないのだが。
少女は右手の平を上に向け、まるで槍投げのポーズをとると、その右手の平の空中に黄金の槍が顕現される。
いきなり凄いものを見せてくれやがる。
「戦う力がないとは言って・・・・・・・重いいいいいいいいい」
槍が右手に収まった瞬間に彼女は体勢を崩す。
そして、槍が突如輝きを放って明後日の方向へ、まるでロケットの如く飛んでいき、大空の中へと消えていった。
「私のグングニルがあああああああああああああああ!」
呆然とした少女を他所に、俺を含めた三人は星になったグングニルを眺める。
ありゃもうダメだな。
「おい。肝心の武器が無くなったぞ」
「ふん。良かったじゃないか。お前達命拾いしたぞ。あれは着弾地点を中心に半径一キロ×レベルの規模です大破壊を引き起こす戦略神器だ。最も私の今は神器レベル1なので、半径一キロ四方しか破壊できんが」
「次からそれくらいなら禁しな。他に使えるものを出せよ」
盛大にため息をつく俺の前では、話だけでビビったのか、男が震えている。
「では私の自慢の愛馬をお見せしよう!」
八本足の馬を顕現した少女を、得意気によじ登って股がるが、馬が明らかに不機嫌そうな態度を見せている時点でオチが読めそうであった。
「これはスレイプニールと言って、風のごとく疾走し、どんな障害すらもものともせず、こいつが走りぎやあああああああああああああ」
説明の途中でスレイプニールは一瞬にして音速を叩き出すと、周囲に大破壊をもたらしていなくなってしまった。
暴れ馬の疾走によって大破壊がが起きて、その後馬は失踪して残された俺は失笑するしかない。
最も馬の進路付近にいた男やアリアンロッドが吹き飛ばされたのは勿論、上に乗っかっていた少女に至っては、物凄い勢いで後方に飛ばされて壁に激突。
「あ、アリアンロッド! こんな小物相手にする必要は無さそうだ! か、帰るぞ!」
「・・・・・・了解しました」
最早、今ので戦意をくじかれたのか、はたまたこれ以上関わりたくないと思ったのか、かろうじて無事だった男は、逃げるように俺に背を向けて歩き出す。
そるに従う女剣士の姿は再び最初に出会った頃の甲冑姿へと戻る。
「それでは失礼」
やけに丁寧だな。てかこのまま見逃していいのだろうか?
「早く逃げないと警察に捕まるぞ」
「け、警察なんかこわいもんかよ!」
俺の脅しのような冗談を真に受けて、男はナイフを放り投げてその場を走り去って行くのだった。
「ふははははははははははははは! 私のグングニルのすさまじさに恐れて逃げたか。ふん小物め」
逆さまにひっくり返った状態で勝ち誇るのはやめて欲しい。パンツ見えてるし。
「おい。で、グングニルは? 貴重な武器なんだろ」
「あれ一日一回しか使えないんだよ。明日になればまた使えるさ。」
いや、あれは使えなくていい。俺が心配したのは他の誰かに奪われないかの心配だけだが、こいつに持たせるのが一番危険のような気がする。
「馬は何処行ったんだ?」
「私は馬じゃないんだから馬の気持ちなんて知るわけないだろ。大体にしてあれは霊体の一時的具現化だから自然消滅する。次に呼び出せるのは明日かな」
「あれも俺の許可無く呼び出すなよ」
この惨状を目の前にすれば、あの馬の使いどころは殆どないだろう。こいつは歩く大量破壊兵器なのか?
俺はこいつを引き当てるまで、アリアンロッドみたいにスマートに戦う戦聖女を期待していた。
しかも虹色の魔石というレア素材まで使ってだ。
その結果、力はあるが全く使えないばかりか、うっかりでもやられた日には大量虐殺に繋がりかねない残念な奴が呼び出されてしまった。
「あれだ、もっと落ち着いた戦いかたは出来ないのか?」
「・・・・・・じゃんけん」
顔をプイッと背ける少女。
まるっきりただの子供じゃねえか。
その後、俺は通報を受けて巡回していた警察官に回収したナイフを渡し、目撃者の証言から俺も被害者であるとはっきりしてところで、警察の事情聴取から解放された。
警察署を出る頃にはすっかり空は茜色に染まっていて、結局この日の高校の休校解除の説明会に行くことが出来ずに終わってしまった。
まあ警察が高校に連絡してくれたことで事なきを得たけれど、今後どうしようかな。
主にこの呼び出した聖女の扱いにて。
「早く帰ってアニメの録画をするぞ楓!」
この通り、うちの契約聖女はこの世界のこの時代の日本アニメがお好きらしい。
そもそも俺は聖女の存在について詳しく知らない。
「なあ、お前らって何者なんだ?」
「戦聖女について無学とはな。まあいい。戦聖女とは人々の伝聞や伝承によって語り継がれた奇跡だよ。戦聖女が起こした奇跡ではなく、戦聖女ひっくるめて奇跡全てが聖女の“格”となっている。私の場合は北欧の伝承や神話によって語り継がれた奇跡。他の世界ではジジイだったらしいけどな。ジャンヌダルク等が分かりやすいが、先ほどのアリアンロッドも伝聞の存在だ。古のウェールズの戦いの中で、円剣を使って戦った女騎士がいたが、それご大層な美人で、結果、ウェールズに語り継がれた美しい女神アリアンロッドのごときという表現が、いつしか戦場のアリアンロッドと変遷していった。つまるところ、私たちは過去の存在である」
なるほど。過去に活躍もしくは何かで有名となった奇跡の体現者が、召喚で呼び出される聖女と言うわけか。
ただ問題なのは、ゲームでは聖女に関わっていくとあったが、この戦いは一体何の為に起こっているのかが疑問だ。
「ふふふ。世界は究極の奇跡を常に追い求めている。プレイヤーに求められているのは奇跡の体現者たる聖女達を集め、奇跡と対を成す
俺の疑問にそう答えたオティヌスだが、結局わからないことも新たに出てくる。
あの襲撃者の男が語った戦聖女資質を持つ人間の存在とかだ。
おまけにあの男は結局口だけであったが、実際にこの力を持った者の中には、一般人を襲っている奴もいるかもしれない。
「なぁ、俺達プレイヤーは実際にヴェルサスなんて存在と遭遇することあるのか? 昨日の今日でそれらしいものを見かけたことないぞ」
「存在するよ。特にここ風見市ではおあつらえ向きのものがね。では今晩のアニメの為にさっさとチュートリアルを終わらせよう。ついてきたまえ」
「まだチュートリアル続いてたのかよ」
随分長いチュートリアルであるが、俺は得意気顔なオティヌスについていくと、そこは閑散とした住宅街の通り。
「ここって・・・・・・・・ニュースに出てた場所?」
「そう。通り魔殺人だよ。ここの被害者は悲惨だな。死ぬまでの間に随分と長く意識があったようだ。そのせいで」
オティヌスの言葉に呼応するかのように、そこには漆黒の泥、いや血液にも似たドロリとした赤黒い存在がスライムのように蠢くと、突如人の姿を形成する。
「な、なんだこいつ!」
「救済の奇跡を望み得られなかった人間の絶望が、憎悪と入り交じって生まれる存在だよ。あのヴェルサスは被害者の憎悪と絶望。そして現場に残された通り魔の狂気も入り交じってる」
『どうして・・・・・・どうして・・・・・・私は何も悪いことしてないのにいいいいいいいいいいいいいニクイニクイニクイコロスコロスコロスコロス』
被害者によって産み出されたヴェルサスの狂気染みた叫びに、俺は思わず顔をしかめてしまった。
「おい契約者。同情浮かべてる余裕はないぞ。チュートリアルのラストだ。さっきはまともに戦えなかったが、私にだってスーパーレアなりの価値がある所を見せようじゃないか。我が声と言の葉に応えよ!
魔導書のページから発光した文字が次々と飛び出していき、ヴェルサスの体へと鎖のように巻き付いていくと、文字が黄金の鎖へと変化した。
「みたか! 現物は諸事情で手元にないが、我が魔力とルーン文字によって再現されたグレイプニルも現物以上の」
だが、ヴェルサスはいとも容易く鎖を破壊してゆっくりと前に進んでくる。
「現物以上に耐久力無かったな」
「私は泣く子も更に泣き出すオティヌスだぞ! 英雄王すら裸足で逃げ出す主神を前に、今さら許しを乞うなよヴェルサスめ!」
こいつスーパーレアの割にはちっとも使えない気がするんだが。
定番なフラグを盛大におっ立てたオティヌスは、魔導書をから無数のルーン文字を浮かび上がらせては炎弾に変化させて放つ。
まるでグレネード弾が連発したかのような攻撃に、俺は攻撃が止むと同時にオティヌスの首根っこを掴んで走り出す。
「やっぱりお前は馬鹿だ! こんな閑静な住宅街でとんでもない攻撃手段を出しやがって!」
まさかちょっとした魔法でもこれだけの威力を出すとか、考えなさすぎにもほどがある。
「おい楓! 今のは私の片鱗のさきっちょでしかないぞ! こんな中途半端では欲求不満になってしまう! それに今のはうっかりしていた」
「おし、少し黙ろうか」
こいつは自分の力が意外と凄まじいことを忘れたいたらしい。
やはりこいつはポンコツだ。
2
同じプレイヤーと戦いを行い、警察署で事情聴取を受け、呼び出した聖女がうっかりを発動し騒ぎを起こす。
この一日の流れを思い出したとき、俺はもし次来世に生まれ変わるときは、この部分だけリピカに削除してもらえないか、もしくは永遠に封印してくれないか等と真剣に思っていた。
家のソファーで今日一日の疲労のせいでぐったりしていると、オティヌスはインターネットの動画サービスで配信されているアニメを、正座して真剣に眺めている。
黙っていれば見た目相応の子供なのだが、口を開けば結構残念で、聖女として戦わせれば、さらにうっかりのおまけ付きの更に残念な性能を発揮する。
俺は完全に外れとしか思えない者を引いたらしい。
主武装のグングニルは一日一回限定の破壊兵器で、肝心の本人は槍を扱う筋力がない。
こいつに固定砲台でも取り付けた方がいいのかな? ガンダムみたいに。
「おお! 絶対怪獣戦線面白いな! ジャガ村さん最高!」
聖杯戦争をモチーフにしたゲームのアニメに感動しているオティヌスは、まるで俺の懸念に気づいてないように思われる。
そんなオティヌスを眺めていた俺は、リピカがシステムいじって便利にしてくれたことを思いだし、ホログラム投影されたゲーム内の項目を色々と確認してみた。
「巡礼なんてあるんだ。艦これで言う遠征みたいなものか」
びく!
俺の目の前で一瞬体を震わせたオティヌス。
えーと、沢山の戦聖女をを抱えてしまった場合、沢山のお金もかかるし、それなりに新たな装備の素材なども不足する。
それを防ぐのが毎日の巡礼である。
巡礼とリアルタイムの時間は別個で、遠征項目では五分や十分から始まる、初心者でも行える巡礼から、中レベルから高レベルまでの者に対応した大規模演習など様々。
それらを毎日こなすことでプレイヤー経験値と戦聖女の経験値を得ることができるし、遠征先からの素材を入手することができる。
ちなみにゲーム内のホーム画面にある“ホームへ移動”をタップすると、ホームを購入した場合にのみ移動出来るという。
鍛冶屋を営んでいれば工房だったりとか、傭兵だったら屋敷のような拠点、提督なら○○鎮守府とか、マスターならカ○デアとかなど、自由にカスタマイズが可能と言うのだから、正直運営者である神の著作権無視には驚きである。
そしてホーム画面には、俺にだけ存在するリピカの店への入り口もあった。
今は用がないので行かないけど。
それよりも俺は、自分のステータスやオティヌスのステータス、資金やホームについて等色々と今後の方針を決めなくてはならない。
まずは俺のステータス。
《嵯峨楓》 プレイヤーLv2
《クラス》
《
【アンブレイカブル】・・・目的を達成するまで何度でも蘇る。また蘇る度にそれまでのあらゆる状況を経験値とする。一度発動した場合の目標設定数とタイムリミットは×レベル。
MAXは10
《クラススキル》・・・・・ディスペラー Lv1
【ディスペラー】・・・・全ての他クラスのクラススキルを無効化する。複数ある場合、×レベルによる個数と、指定が出来る。
《能力値》
腕力 10
知力 9
体力 12
魔力 8
俊敏 9
技術 6
幸運 3
《契約戦聖女数》 1/2
《ホーム数》 1/1
《オティヌス》 Lv3
《クラス》
《
【グングニル】・・・戦略級神器。一日一発のみであるが、その威力は絶大で、槍の着弾地点を機転にレベルに応じた破壊を巻き起こす。高レベルになれば、槍の通過した場所も盛大に抉るほどの破壊も巻き起こす。正直持ち主が馬鹿なので、制御できないうちはレベルは上げない方がいい。
おっと、この時点で運営からの個人的な感想が述べられているのだが、恐らく心の底からの心配が感じられる文面だ。
そもそもこんなやつを戦聖女に選ぶなよ。つうかこいつ神だろ。
明らかに奇跡の体現者から外れてる気がする。
【
こいつが男だったら封印指定してるスキルだな。
【
もはや親切心を通り越し、こいつを戦聖女に組み込んだ過ちをなかったことにし、何かあったら契約者の責任にする気満々なところがわかる。
本当にろくでもない神だな。
《魔法》・・・・・ルーン魔法 Lv1【専用】
火 Lv99/99
水 Lv99/99
土 Lv99/99
風 Lv99/99
雷 Lv99/99
うっかり LvMAX
ルーン魔法にうっかり項目があるのはなんでだろう。これいらない項目だと思うんだが、これは運営からのささやかな忠告ととるべきなのか?
《能力値》
腕力 10
知力 1
体力 999/999
魔力 999/999
俊敏 9
技術 6
幸運 3
うっかり 999/999
もううっかりの数値いれんなよ。
てか、ステータス表示が雑すぎる。運営の手抜きが見え見えだ。
そうして一通り、オティヌスのステータスまで確認した時、俺はそっと右手で口許を押さえてしまう。
「完全にポンコツじゃないか・・・・・魔力と頑丈さだけあっても知力が低いんじゃそりゃあな。しかもうっかり数値がカンストとか完全に要らない子枠だろ」
確かにミーミルの知恵の泉の力は知識を与えてくれるが、結局、こいつの知能の足りなさは補われていない。
知的な一面を見せることもあるみたいだが、それはミーミルの力によるものだろう。
つまり、こいつが力を使う際は常にそばにいなきゃいけないらしい。
何にしてもこれからこいつと共に戦わなくてはならないのだが、こいつを呼び出すのに虹色の魔石を使用してしまったので、後は通常の魔石で召喚するしかない。
ここは慎重に召喚を行うべきだろう。
俺は取り敢えず魔石をテーブルに並べて、個数を数えているときだった。
家の呼び鈴が鳴ったので扉を開けると、ヴェルが昨日と同じようにビニール袋を下げて立っていた。
「・・・・・えと」
昨日のこととか今朝のこともあり、とっさに言葉が出てこない俺。そして相変わらず何を考えているのかわからない表情の乏しいヴェルは、顔をうつ向かせたまま、暫く黙っていた。
沈黙に堪えきれずに何かを口にしようとした時だ。
「なあ楓! やはり人には向き不向きがあると思うんだ! ここは代わりに巡礼に行ってくれる奴を呼び出すべきだ!」
部屋の中で突如叫び出すオティヌスに、俺は思わずぎょっとした。
「誰あの子」
ようやく口を開いたかと思えば、物凄く冷ややかな視線と重たい無感情な声音。
なんだか凄く不穏そうな雰囲気であるのだが、俺は取り敢えずその場を誤魔化す。
「えーと知り合いの子供で俺の家に短期のホームステイだ」
「あん? 誰が子供だ! これでも私は」
「おーし黙ろうか!」
俺は咄嗟にオティヌスへ走りよって口をふさぐと、ヴェルも勝手に部屋に入ってきて部屋の中をぐるりと見渡す。
「ふーん。ここで二人ね。ベッドの数は? まさか避妊具も置いてるのかしら?」
「何を盛大に勘違いしているのか知らないが、こいつとは想像してるような関係じゃない」
むしろ何でヴェルがそんな踏み込んだことを聞いてくるのか不思議だ。たまたまオティヌスだったからいいようなものを、もしこれが美人の戦聖女だったら完全にアウトだったかもしれない。
まあ、でもだからと言って、俺とヴェルは互いを意識しあう仲ではない。
気にする必要は本来なら無い筈。
でもやっぱり怪しいよな。
「ルビー? 貴方宝石なんて集めてるの?」
そう言ってヴェルがテーブルに並べられた魔石を数個取って手の平に起き眺め始める。
「まあ服飾の内職でもしようかなって。コスプレイヤーには売れそうだからな。ほら、中二病とかの人が、時折こう言った石を集めては“出でよ!”とか言うだろ?」
『召喚を始めます。聖女資質の素体を確認。高位召喚を始めます』
まさかの召喚システムが、音声に反応して勝手に召喚を始めてしまう。
「うわああああ! ストップ! まじストップ!」
俺の景色の中ではホログラムが召喚システムの実行シーケンスの文字を表示し、数々のプログラムが入り乱れ始める。
一方ヴェルは、自分の足元に現れた魔方陣が自分を呑み込んで行くことに、無表情の顔を始めて崩していた。
「ヴェル!」
俺は魔方陣からヴェルを引っ張り出そうと近づくも、見えない障壁によって阻まれ、ヴェルは魔方陣の中へと吸い込まれていった。
そして暫くすると、魔方陣の中から光の粒子が放たれ、青い髪と雪のような白い肌を持つ女性が姿を現す。
「ヴェルなのか?」
思わず俺は歩み寄ろうとしたものの、彼女が放つ冷気が尋常ではない程のもので、彼女の周囲の床が凍結していた。
「・・・楓」
ふと顔を上げたそれはヴェルの顔。先程まで来ていた衣服である制服は凍りついているだけで、先ほどのままだった。
「と、取り敢えず体を温めないと!」
俺は咄嗟に寝室に毛布や替えの着替えを取りに行こうとして、オティヌスに腕を引っ張られた。
「見ろ楓」
彼女が落ち着きを取り戻すと共に、冷気は収まり凍結もいつの間にか解除されていた。
尤も床もヴェルも溶けた氷のせいでびしょびしょになってはいたが、ヴェル自身の体は無事であった。
「一体これは」
「素体を使った高位召喚だろ。聖女資質を持っていた者が魔石を持つことでシステムが反応したんだ。しかもスーパーレアの力を憑依させたようだぞ」
《ヴェロニカ=ヴァレンタイン》 Lv1
《クラス》
《
【絶対凍結】・・・・・戦術級神器。雪の女王の力を有名にした一つで、分子運動から熱量を瞬時に奪い、奪ったエネルギーを魔力へと変換。冷気を操り、その冷気を媒介に触れたものから熱量を奪い凍結させていく。バリエーション豊富な技。MAXは10
【
《能力値》
腕力 20/999
知力 18/999
体力 15/999
魔力 800/999
俊敏 13/999
技術 9/999
幸運 17/999
うっかり 測定不能
先程から俺以外は皆うっかりの項目があるんだが、もしかして皆うっかりさんなのか?
もしかして今のもうっかりの範囲なのだろうか?
俺はふとメッセージログをみやると、俺のディスペラーが発動してヴェルのスキルを無効化させたらしい。
「どうやら私は戦聖女になったのね」
ヴェルは居間に置かれた鏡を見て、自分の青髪とエメラルドの瞳に若干の戸惑いを見せる。
「戦聖女って、お前わかるのか?」
「戦聖女には召喚された際に情報がインストールされる」
オティヌスは勝手に俺の買い置きのお菓子をとってきて、バリボリ食べながら説明する。
「そういうこと。貴方が変なことに巻き込まれているのはわかったし、そこの子も私と同じなのね」
「こいつは素体無し。純粋の戦聖女だけどな。なあオティヌス、ヴェルを戻す方法は?」
「ミミったが無理だそうだ。死ぬまでその力と付き合わなきゃいけないな。まあ悲観することはない。神霊クラスの力だ。安定すれば長い年月を生きるババアになれるぞ。私みたいにな」
「嬉しくないわね。まあ前向きに考えるようにするわ。それで今日襲ってきた男も関係者なわけ?」
鏡を棚に戻したヴェルは、俺の寝室で代わりの服に着替えをしながら尋ねてくる。
登校時の時のことから推測したのだろう。
俺は扉の向こうから聞こえてくる衣擦れの音に複雑な気分になりながらも、そうだとつげると、ヴェルは寝室を出てから俺の前に座り、
「早速お礼参りに行くわよ」
すごい冷気を放っていた。
こいつあれだ、力を持たせたら試したくなる残念な子である。
さっき