フォルトナ   作:氷雨蒼空

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第五話 アリアンロッド・ヴェルサス

ヴェルがまさかの戦聖女へなってしまった日の翌日。

学校からの連絡網が回ってきて、翌日から登校することになったので、俺は制服に身を包んで通学路を歩いていた。

 

「おはよう楓」

 

お嬢様学校である星蘭高校制服に身を包んだヴェルが、髪の毛を青髪のまま登校してきた。

 

「大丈夫か?」

「何がかしら?」

「髪と瞳」

「大丈夫よ。ちょっと拗らせてしまいましたと言えば済むもの」

「勘違いされるからやめような」

 

髪の毛を染めてくればいいのにと思ったのだが、彼女の髪が突如、戦聖女になる前の色へと戻った。

 

「あれ?」

「驚いたかしら。私の場合は自在に変えられるみたい。最も力が強いせいでデフォルトは青の方になったみたいだけれど。それと昨日気づいたらスマホにこんなアプリが入っていたわ」

 

プレイヤーでもないのにどうしてアプリが?

 

「それは私からの特別サービスだよ」

 

突如背後から聞こえた声に振り替えると、スーツ姿の女性が立っていた。

 

それは、まさしく女性教師姿のリピカである。

 

「誰?」

 

初対面のヴェルが俺に対して不機嫌そうな視線を向けてくる。

 

 

「初めましてヴェロニカ=ヴァレンタイン。私は今年から彼の学校の臨時教師務める明石光(あらかしひかる)。本名はリピカで、彼のアルバイト先のマスターでもあるかな」

 

ご丁寧に自ら自己紹介をするリピカ。

 

「プレゼントと言うことは、このアプリは貴方が?」

 

「そう。最もオリジナルである彼のプレイヤー専用アプリを解析して即席で造ったものだから、色々と改良の余地が残されているけれど、今後も彼が契約者を増やしたら配っていかつもりだ。わからないことがあったら何時でもヘルプでメッセージを送ってくれたまえ」

 

そう告げるハスキーボイス美人は、さっさとその場から立ち去ってしまう。説明するだけに現れたみたいで意外と便利な奴だな。、

 

「謎の人ね」

 

まさかヴェルも初対面でそう感じるとは中々だね。

 

 

「まあな。俺にはあの人が何を考えているのかわからん。何にしてもヴェルも気を付けろよ。プレイヤーは戦聖女が誰かはすぐにわかるみたいだ。お前を手に入れようと動く奴だっているかもしれないからな。学校にいるときは」

 

「問題ないわ。私、来週から貴方の学校に転校するから」

 

「はぁ?」

まさかの発言に思わず声が上ずってしまった。

 

「一緒にいた方が都合がいいのでしょう? お金をちょっとばらまけば簡単に完了したわよ」

 

実に無茶苦茶なやり方であるのだが、うちの父さんと違い、ヴェルの親父さんは、娘に頼まれたら喜んで動きそうだ。

 

「所でオティヌスは?」

「一応連れてきている」

 

そう言ってスマホを見せると、スマホの画面の中でオティヌスがテレビを見ながら寛いでいた。

本来なら景色に浮かんでいるホログラムのボタンで確認出きるのだが、それを見れるのは俺だけだ。

最もヴェルのアプリもリピカ手製なので、似たような仕様になっているようだが、お互いのホログラムウィンドウは見えないようになっている。

 

流石プライバシーにうるさい現代仕様だな。

 

「随分と大人しいわね。っていうかホーム用意出来たの?」

「六畳一間の1Kな。全部で15万」

「そんなお金よくあったわね」

「ないよ。だから借りたんだよ」

今しがた立ち去っていった人物だけどな。お陰で後から面倒を押し付けられそうな予感もするけど、それは仕方ないと割りきろう。

 

「えーと、取り敢えずオティヌス一人だけならまだいいけど、そのうち戦聖女が増えたら大変ね」

「そう言うわけで早い段階から動くので、協力してほしい」

「しょうがないわね。わかったわ」

 

簡単な話だけで済ませた俺は、ヴェルとその場で別れて通学路を進むと、警察のパトカーが数台通りすぎていく。

 

巡回なのか新たな事件でもあったのかわからないが、ここ最近物騒なことばかり起きている。

 

そしてその一つである通り魔殺人事件は、凄惨な爪痕を残すばかりか、ヴェルサスと呼ばれる魔物を産み出す原因ともなっていた。

 

普通に流行っているフロントメイデンと呼ばれる、この戦いをモデルにしたゲームの仕様では、俺達は別世界に行って戦聖女(ヴァルキリー)と共にヴェルサスと戦うことになっている筈だが、どういうわけか、この現実世界にて戦いが起こっている。

 

「確かゲームの方はあくまでもヴェルサスと戦う戦聖女の話がベースだけど、リピカは俺達プレイヤーの練習場所みたいな話をしてたしな」

 

それにまだ試していないことも沢山ある。

 

戦聖女の遠征任務、正式名は巡礼があるのだが、聖女の数が揃わないと解放されない。

 

その理由は、戦聖女を全て巡礼に出すと、契約者が無防備になるからだ。

そしてヴェルサスと戦うのは必ず戦聖女。

 

戦聖女でなければヴェルサスを消滅させることが出来ないのである。昨日みたいにプレイヤー同士の戦いはセオリーではないらしい。

 

本来はプレイヤー同士が戦うのは演習のみとされているのがフロントメイデン側の仕様だ。

 

そうなると、俺達のやっていることは、明らかにゲームの時と別物ということだ。

早い段階でこの問題に対して対処しなければ、きっと大変なことになるか想像以上に取り返しのつかないことになる。

 

 

そんなことを考えながら歩いていると、コンビニの前でうろうろとしている女がいた。

 

薄手のシャツにスラックスというラフな格好の女は、俺を見るなり慌てて駆け寄ってくる。

 

「助けてほしい!」

 

突然手を握られて懇願された俺だが、よく見れば女は昨日の襲撃者の召喚した聖女だった。

 

 

「え、えと一体何が?」

 

 

 

2

 

 

 

本来であればとっくに学校にいってなきゃいけないのだが、俺はこの日初めて不良の真似事をしてしまった。

 

つまるところ入学式のサボタージュである。

 

そして今は通学路の途中にある公園で、ベンチに座って隣で嬉しそうにコンビニ弁当を抱えるアリアンロッドの姿がある。

 

薄いピンク色の短めの髪は、明らかにこの世のものならざる存在の証。

それでもそれ以外は紛うことなき人の姿。

 

「ありがとう。あの男の注文は複雑すぎて、どれを買えばいいのかわからず。この時代この世界については情報はあったのだが、流石に万能ではないからな」

 

「あんだけ酷い言葉と扱い受けてよく尽くすな」

「・・・・・・かもしれない。でも私達戦聖女は契約者を選ぶことが出来ない。彼はゲーム好きでな、今は昨日の件で引きこもっているのだが、その間にゲームを見せられた。艦○れとかFGOとか様々なゲームだ。あれらもまたプレイヤーに呼び出された者達がプレイヤーの指示に従うものなのだが、不思議なことにあの被召喚者はプレイヤーを嫌うことなく従い戦っている」

 

そう言う仕様だからな。艦娘とか提督嫌って戦闘ボイコットした日には世界崩壊だろうに。

ましてやあのサービス開始当初のエラー娘の登場回数カウントしたら、軽く目眩がして、実はエラー娘がヒロインなんじゃないかって錯覚した程だ。

 

あれに感情持たせて好き好きアピールされたところで、何人の提督があれの登場を許せるだろうか。

 

俺は許すけどな。

 

「ゲームには感情はない。でもこれはゲームではなくリアルだ。フロントメイデンもまた戦聖女の物語や人物像を描いてもリアルな感情は描いてない。アイツが本当にフロントメイデンのゲームが好きで、戦聖女が好きなら、いずれ気づくと思う」

 

「何にだ?」

「例えあんたがアイツの望んだ戦聖女じゃなくても、この戦いがリアルであると受け入れたとき、アイツは決断を迫られる」

 

「君は世間一般の高校生の思考と違いますね。昨日も思いました。貴方の目は多くの戦いに身を置いた人間の目だ」

 

そう言われて俺は思わず俯いてしまった。

 

「いけない。そろそろ帰らないと」

そう言って立ち上がるアリアンロッド。

 

「もしまたアイツが俺と戦うことになったら?」

俺はふとそんな質問をしてみた。

 

 

「その時は胸を借りるつもりで挑みます。ですが殺し合いではなく、次は互いを磨くための演習で」

 

そう言ってにこりと微笑んだアリアンロッドは、コンビニ弁当の袋を抱えて走っていくのだった。

 

 

3

 

 

「タカシ。戻りましたよ」

 

警察が巡回しているせいで外を出歩けないタカシは、冷房を効かせた部屋の中でパソコンに向かっていた。

昔は大手のIT企業にも務めていたらしいが、人間関係の拗れから辞めて引きこもりを始めたらしい。

最もプログラミングの腕があるので、アプリを自作してそれの広告料で収入を得ているらしいが、明らかに今の生活は不健康そのもの。

 

駄目人間。

 

私が生きた時代では考えられない生活習慣であるのだけれど、時代も国も違えば人種も違う。

「遅かったじゃないか! 全く役立たずめ!」

そう言って物を投げつけるあたり子供そのものだ。

 

「くそ、今に見てろ! 俺は必ずトッププレイヤーになるんだ! ヴェルサスを駆逐して他のプレイヤーに負けない戦聖女の部隊を築いてやる」

 

戦聖女はヴェルサスと戦う奇跡の乙女達であり、人間同士の争いの道具ではない。

 

彼はそれを理解していないようだ。いや、頭では理解しても感情がそれを拒んでいるのだろう。

 

このままだと彼は破滅するだろう。

 

かつて私の所属した騎士団が最後に崩壊したように、つまらない見栄とプライドだけの無能者が部隊を率いただけで、どんなに精強な人材が集まっても戦争には勝てない。

 

そしてタカシのプレイヤーレベルは2で、私は未だにレベル1。

きっとこのままだと複数のヴェルサスに囲まれたら終わりだ。

 

「タカシ。昨日の彼のところへ行きリベンジしましょう」

 

「は? 随分とやる気があるじゃないか。でも警察が巡回してるし奴の居場所なんて知らない。探すの面倒だからお前が探してこい。そんで見つけてボコボコにしたら呼んでくれ。止めは俺が刺すから」

 

そう言ってサバイバルナイフを構えるタカシだが、その構え素人の浅知恵からくる、全く不合理な見かけ倒しの構え。

 

私はタカシの腕を掴んで引っ張り倒すとナイフを取り上げた。

 

「お前何するんだよ! くそ! 逆らうなら強制命令するぞ」

 

彼が脅しのように告げる命令とは、戦聖女が逆らうことが許されない力。

その命令を無視すれば、体を呪印が蝕んでいく。お陰で私は昨日呼ばれたばかりなのに、呪印が胸を多いつくして首筋にまで広がっている。

 

もし私が呪印に呑まれたら、その時は戦聖女の力を失うことになる。

 

「いいですよ。お望みならしなさい。ですが私が呪印に呑まれた時はくれぐれも側にいないように」

 

その言葉に舌打ちをしたタカシは、野球帽子を被ってパーカーを羽織る。

 

「今回だけだ。あいつとアイツのヴァルキリーをぶっ潰してレベルを上げたら暫く外に出ないからな」

「結構です。では行きましょう」

 

 

私が先行して歩いて警察の巡回を警戒しながら公園に向かうと、少年は時間を潰すようにベンチに座っていた。

 

「お! 一人かよ。ヴァルキリーも連れずに無防備だな」

 

私の後ろではタカシが得意気な顔で嘯いているけれど、はっきり言って対人戦闘なら彼は格闘家より弱い程度で、タカシでは相手にならない。

 

「腕試しに来ました少年」

「早速か」

 

そう言って彼は立ち上がると、まるでそこにタブレットのタッチパネルがあるかのように、何もない空中で指を動かすと、突如小さな少女が姿を現した。

 

「いきなり呼びつけやがって! 今まさに絶対怪獣戦線バブロニアのいいところだったんだぞ!」

 

どうやら何かの途中で呼び出されたらしく、彼の戦聖女は大変ご立腹のようだ。

 

「戦聖女がアニメオタクって残念な奴だな」

「私も契約者がゲームオタクで残念です」

「おいアリアンロッド! お前二日目にして随分と生意気じゃないか! まあいい!どうせそのうち新しいの見つけるしな。レベルを上げないと新しい戦聖女呼べないんでね。このがきどもを倒してさっさとレベル3にする」

 

タカシの挑戦的なものいいに、少年は疲れたように肩を竦める。

 

「クラスか個人差なのか知らないが、俺はレベル1毎に枠は一つ増える。あんたはどうやらそうじゃないらしいな。貴重な情報ありがとよ」

「な! くそ! お前のせいだ」

 

またもや責任を押し付けられる。本当に困った人だ。

 

「さっさと始めようぜ。早くアニメ見たいんだよ」

そう言って少女がその手に魔導書を顕現すると、自動的なページが次々と捲られる。

 

 

「へぇ。昨日は驚いたが、あの槍は強すぎて扱いが苦手らしいな。あの槍を使わないなら怖くねえ」

 

「いや、あれを上手く扱えると大問題なんだよ。地面に着弾したら大変なことになる。レベル1で半径一キロが吹き飛ぶんだぞ? 使っていいなら迷わず俺はこの場から逃げるが」

 

「チート過ぎるだろ!」

 

少年は他人事のように言っているが、序盤でプレイヤーが契約する戦聖女の強さとは思えない。

 

「では、卑怯と思われるかもしれませんが、遠慮なく接近させて貰います!」

 

 

私は早々に武装顕現して剣を構えると、少女に向かって斬りかかる。

 

が、その動きを読んでいたかのように間に少年が割り込んできて、私の腕を掴むと相手の力を利用した柔術で投げてきた。

 

「まさかプレイヤー自ら!」

「卑怯とか言うなよ。実戦を想定した戦いなんだからな」

 

「てめぇ・・・・・戦聖女相手にするとか普通無理だろ!」

 

今のはやはり一般の高校生ではあり得ない動き。ましてや躊躇いなく飛び込んでくる度胸と、気取られない身のこなしは・・・・・・

 

 

「貴方、何人殺してきたのですか?」

 

「・・・・・そう見えるのか?」

 

「何言ってんだよアリアンロッド! たかが高校生だろ! しかもそいつは昨日覚醒したばかりの素人だ! お前の目は節穴か!」

 

それは私が貴方に言いたいセリフです。あの少年の目は座りすぎている。

 

「私達戦聖女がこの世界に存在するように、プレイヤーも戦闘に身を晒されることから、特殊なものも含め、レベルに応じたスキルを獲得できる。貴方、死を恐れていませんね?」

 

「さあな。しゃべって無いでこいよ」

 

やはり構えは私の契約者と違い、明らかに近接戦闘で磨かれた構え。構えに至るまでの所作すらスマート過ぎて、気持ち悪いくらいだ。

 

普通なら刃を持つ相手に、素手の素人は臆した様子を少なからず見せるか、警戒色を見せるもの。

 

全くそれがないのはスキルに頼っているか実戦慣れしている証拠。

 

本来ならこの戦いでタカシに学んで貰いたかったのですが、彼は興奮しすぎてそれどころではない。

 

「いい気になるなよ! 容赦するなアリアンロッド! 殺すのが嫌なら腕や足の一本は切り落とせ!」

 

「タカシ、これはあくまで」

「おめぇいい加減にしろよ! 誰を呼び捨てにしてんだよ! 命令に逆らうをじゃねえ」

 

サバイバルナイフを持った手で私の顔面を殴ってきたタカシ。

 

その時、私の呪印がいよいよ首を通り越して頬を伝い、顔にまで侵食を果たした。

 

 

「おい楓! こいつ反転しかけてるぞ」

戦聖女なら誰でも知っていることで、契約するプレイヤーも知っておかなくてはならない。

 

この時初めてタカシは私に怯えたような瞳を向けてきた。

 

「やっちまったなお前」

 

少年はタカシに近づくと、私から無理やり引き剥がすようにその場から引きずっていった。

 

「オティヌス・・・・・」

 

「おう。なんだ?」

 

 

 

 

私は残りわずかな自我の中で、声を振り絞った。

 

 

「私を殺してください」

 

 

 

 

 

 

 

 

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