ゲームの世界に転生してしまった少年がダンジョンに潜って成り上がろうとするけど、なんとなく頑張り切れなくて萎んでいく途中の話。

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鍛冶師で薬剤師で魔法剣士

「ひひひひ……」

 

暗い部屋の中で奇妙な声が木霊する。

声の主は両手にフラスコを持って、赤い液体と青い液体を眼前に掲げる少年だった。

 

黒い髪に黒い瞳の少年は、ここしばらくの不養生で伸びた髪を後ろで無造作に縛っている。

髪を切るのも忘れるほど熱中した成果がその両手のフラスコである。

 

この二つの液体を混ぜればついに完成だ。

長かった……だがやり遂げた。ついにこの日が……!

 

念願かなった少年の顔はド外道の如く歪んでいる。

その下劣っぷりたるやとてもじゃないが普通の少年とは思えない。

 

「ひひひひひひひひ!!」

 

フラスコを傾ける。

決して零さぬよう慎重に青い液体を赤い液体に混ぜ合わせていく。

トクトクと注がれる音がして、フラスコの液体から煙がたつ。少年は面白くて仕方がない。

 

「ひひひひひひひっひっひひひひひひひひ!!!!!!!!!」

 

いよいよ狂人の域に達した。

沸騰し、泡立ち、煙が発生する混合液。

 

口角は吊り上がり、笑い顔はよりおぞましくなり、その視線はフラスコに注がれる。

 

「ついに、この時が……」

 

手に持っていたカップを後ろに投げ捨てた。

ほんのわずか一滴残っていた青い液体が絨毯を汚す。

 

「完成だ……完成したぞ!」

 

紫色の混合液を頭上に掲げ、喜びに叫ぶ少年。

周りのことなんて見えていなかった。近づく足音にすら気づかなかった。

部屋に明かりが灯されてようやく気づく。

 

「っ!?」

 

突然明かりのついた室内で、少年は振り返る。

扉の前に男が一人立っていた。

 

「……何してんすか? リーダー」

 

呆れたように言う男に、少年は一言「…………媚薬をね、ちょっと」と恥ずかしそうに答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「攻略会議に顔出さないで、何やってんのかと思えば媚薬? 舐めてんすか?」

「嘗めてんのはお前だ。媚薬を舐めんな。この試供品舐めさすぞ」

 

逆切れ少年の物言いに、男――――名はガントと言う――――は溜息を吐いた。

 

「リーダー、50層の守護は八つ首のドラゴンです。先遣隊が全滅しましたし、今度の攻略は全トップギルド一丸となって行うって決まってるんです。頼みますからもう少し腰入れてくれません?」

「腰……振り……」

「いい加減にしろや色魔獣」

 

ガントは怒る。

同時に色欲に捕らわれてない頃のリーダーは良かったと昔を懐かしんだ。

なぜこうなってしまったのだろうか。

 

ダンジョンに夢を見て、一攫千金を狙い潜っていたあの頃。

慢心と油断により死にかけたあの時。

目の前の少年に命を救われ、この人に着いて行こうと心に決めたあの瞬間。

 

少年の提案により作った二人だけのクラン。

二人だけで一層のガーディアンに挑み、勝利した輝かしき栄光。

 

それで調子に乗った二人ははっちゃけまくり、当然のごとく悪いうわさが立った。

そのせいでメンバーを集めようにも集まらず、リーダーはいじけて鍛冶スキルと薬剤師スキルを取得。

それが後々いい結果に繋がり、今や少数精鋭でありながらトップクランの仲間入りだ。

 

まだまだ道も半ばだと言うのに、思い返せば返すほどいい思い出である。

それがどうしてこうなってしまったのか。

 

自分がクランメンバーの一人と恋仲になったせいだろうか。

一人だけじゃ飽き足らず、もう一人手を出してしまったせいだろうか。

同じトップクランの一つ『戦乙女』の副団長と不倫したことも関係しているだろうか。

お気にの風俗でハーレムを形成したことも原因の一つだろうか。

 

少なくとも、リーダーが引き籠ったのは『戦乙女』たちとの騒動が原因だと言う事は理解している。

自分だけではなく、何故かリーダーまで責められたあの出来事は、まだ幼かったリーダーの心に深い傷をつけた。

リーダーが寛大だったことで何とか事なきを得た事件だが、あの出来事は本当に修羅場だったのだ。

 

思い返せば思い返すほど、ガントの言葉からは怒りが消え、声音は小さくなってくる。

攻略に向けた熱さえも萎んでいくのがひしひしと感じられた。

副リーダーを連れてくればよかったと後悔した。

 

「と、とにかくですね。今回は本当に強敵なんです。武具やポーションの作成みたいな支援だけじゃなく前線に出てほしいんですよ」

「魔法剣士は中途半端な職業ですから皆様の足を引っ張るだけかと存じ上げまする」

 

リーダーは卑屈に自虐する。まだ根にもっていた。

 

昔、トップクランたちとの顔合わせの際に似たようなことを言われ、馬鹿にされたリーダーは、それ以降前線に出る頻度が極端に減った。

 

しかし、既にトップクランの面々はそんなこと欠片も思ってはいない。

44層でのリーダーの活躍を見てそんなことを言うものなら、クランのトップたちにぼこぼこにされるからだ。

 

44層の守護。名は『死神』

黒いローブに鎌を持った骸骨。

ローブによる魔法無効効果で遠距離攻撃の無力化。

鎌による攻撃力は絶大で、唯一の弱点は物理攻撃。

だが、奴は瀕死になると天井近くまで浮遊し手の届かない場所で回復に尽力する酷いガーディアンだった。

リーダーのよく分からないクソ知恵があってこそ、あれに勝てたのだ。

 

今回は是が非にでもと言うのが会議での総意だった。

だが、昔ならいざ知らず、今のリーダーに素直に頼み込んでも了承するとは思えない。

この数年で、数々の修羅場を潜り抜けたリーダーは、完全にひねくれてしまった。

頼まれ事には色々な条件を付け、最後には「だが断る」と言ってしまうのが常となってしまった。

 

「昔の可愛いかったリーダーを返して!」と副リーダーは良く泣いている。

 

そんなリーダーの説得役に白羽の矢が立ったのは何を隠そう、全ての元凶のガントである。

「お前責任とって説得して来い」と元恋人やら元不倫相手やらに尻を蹴り上げられ会議室を追い出された。

これで何の成果も出さず帰ろうものならぼこぼこにされるだろう。

不倫のことまで話は遡りぼろ雑巾の様になってしまうだろう。

それは避けたい。

 

「リーダー。聞いてください。俺はリーダーに命を救われました。あの時に、俺はこの人に着いて行こうと決めたんです。でも、今のリーダーは何ですか。日がな一日中部屋に籠って媚薬をつくる毎日。そんなんでいいんですか?」

「別に毎日媚薬作ってるわけじゃねえよ」

 

棚にずらっと並んでいる色とりどりの媚薬が説得力を無にさせる。

最近、奴隷商人や国のお偉方相手に媚薬を卸しているリーダーは、すっかり成金の風格をを手に入れていた。

 

「いいですか、リーダー! ダンジョンの攻略は人類の悲願です! 

 攻略が進むたびに発掘されるオーパーツ。古代帝国の技術書。喪失したはずの古代魔法書。

 しかし、数百年かけようやく40層しか攻略できなかったダンジョンを、僅か数年で50層まで攻略した! 国中の人々が俺たちに期待を寄せているんです!」

「期待なんかより女体寄せてほしい。揉みたい」

 

ダメだ……。手ごわい……!

これだから童貞は……!!

 

ガントは己の力不足を痛感する。

 

「どうすれば、前線に出てもらえますか……?」

「…………世界中の美女でハーレム作れるって言うんなら、まあ」

 

無理だ……。

世界中の美少女の中には元恋人のミレイも入っているだろう。

ミレイがリーダーの物になるなんて絶対に嫌だ。

もし本当にハーレム作るって言うなら戦争しかないだろうが。

 

「わかりました……」

 

ガントは一度出直すことにした。

今のまま話しても、絶対に首を縦に振らせることは出来ないだろう。

それどころか剣が振り下ろされる結果になりかねない。

今はここが引き時。

 

「あ、そうだお土産買ってきてたんです。これ、よかったら」

「うん? お……」

 

去り際、ガントが差し出したのは一冊の本。

オーパーツ射影機により写し出された写真本である。

 

リーダーはそれをまじまじと見つめる。

 

「これは……」

「ボンッ、キュッ、ボンッです」

「ほう……」

「リーダーの好みに合わせてあります」

「ほほう……!」

「お好きにお使いください」

 

ガントは部屋を後にする。

二時間後ぐらいにまた来ようと思いながら。

 

 

 

二時間後。

部屋に訪れたガントは、悟った表情のリーダーから「攻略に参加する」と、言質を引き出すことに成功した。

ただし条件は付いていたが。

 

「……また、持ってきてね」

「リーダーのためとあらば」

 

下卑た笑いを浮かべる二人。

ガントはわざとだが、リーダーは笑うと基本下劣である。

俗物的で、下品な表情。

 

こんなんだからモテないんだよなあ、とはガントは言わなかった。




昔小説家になろうというサイトに投稿してたやつです

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