来馬隊の斧 作:焼肉定食
「さってと次の対戦相手っと。」
春樹は入隊して数週間がたったある日のこといつのまにかランク戦ブースに篭っていた春樹。
あいついつもボーダーにいるなという視線は気にしないでいる。
春樹のランク戦の勝率は8割を超えていた。
今のポイントは6000前後であり今季の新人王がほぼ確定していると言われている。
ボーダー内でもその動向は気にしているのもあり春樹をスカウトできるのはどのチームになるのか期待を寄せていた
そしてランク戦を行うと思っていたところ急にランク戦の申し込みが出て来る
「ちょっといいか?」
「はい?」
「ランク戦付き合ってもらえないか?」
「時間はありますしいいですよ。」
「おっ!マジ?それなら10本勝負な。それなら122ブースに入るからお前は。」
「119ですね。よろしくお願いします。」
と内部通信で話しているとランク戦開始という音に合わせてスタートする。
ここは市街地Aかな?
シンプルなステージなぶんだけやれることは限られている。
そして対戦相手を見た瞬間春樹は一瞬固まる
「ようスーパールーキー。お手柔らかに頼むぜ。」
とギラついた目で見るそれは獲物を狙う肉食獣みたいな目をしていた男性が春樹を見てくる。
春樹は知っていた。この青年が誰かを。いや。このボーダーに入ってから知らない人の方が少ないであろう。
太刀川慶
それはボーダーアタッカー1位の青年であり……総合一位の化け物だ。
しかし春樹は笑ってその瞬間前に突撃し斧を振るう。その反応に一瞬だけ慶の動きが遅くなった。
当たり前だ。春樹は自分から慶の間合いに入ってきたのだ。
春樹自身これは負けが濃厚な試合だと分かっていた。
それもそのはず。春樹はまだマスターランクと呼ばれる人とランク戦をしていない。春樹は常にランク±1000の相手しかしてなかったのだ。
実は春樹は大胆な戦法をとりながら結構慎重な人間である。一歩ずつ。同じランクの人々を相手にどこまで伸ばせるかずっと試していたのだ。
春樹はランク戦の申し込みをしてきた場合のみ普通に答えるようにしている。
それでも基本的に±1000くらいの人ばかりであることが大きくランクを見ずに承認してしまうことが多く全く気づかなかったのだ
それでも基本はマスターランクの人とは当たることが少なく一度だけマスターランクの人と当たったがその時は一本とり終わった後すぐに指導に入っていてランク戦どころではなかったのだ。
しかし負ける気はさらさらない。そしてログで何回も見た動きに
春樹はそして自分の身長の半分以上はあるだろう斧を慶の間合いで振り回す。実は慶自身これには驚きを隠せないでいた。
視線など少し甘いところがどちらかと答えるなら小南の戦い方と似ている。春樹のトリオン量は10ボーダー基準の評価だ。これはチームメイトの出水や二宮に劣っているのだがしかしトリオン体での身体能力が恐らくその二人以上であることはたしかだ。
実は春樹はボーダー内で随一のトリオン体の相性がいいのだ。なぜか分からないがトリオン体になると身体能力が他の隊員の1,5倍近く上がっている。
その分トリオンの減り方が少し多いという弱点があるのだがその弱点を無視してまでも春樹の身体的アドバンテージを生かしていた。
剣筋は素直であるため避けられているが実際慶が初戦から押されるということが全員の度肝を抜く
そしてもう一つ春樹の良さが発揮されていた
「っ!」
慶が押されている理由。それは春樹の得意な間合いを保っているからであり、オプショントリガーの使用ができないからである。
春樹は弧月特有のオプショントリガーである旋空、そしてオプショントリガーのグラスホッパーを使えない間合いに入り込んでいる。
一撃一撃が重く一瞬でも隙を見せたらそこを攻めてくるであろう。なのでいつも攻めている慶が守りに入るという珍しい自体に陥っていた。
その時慶は実感する
こいつかなり強いと
慶の戦い方は攻撃重視のグラスホッパーで間合いを自分から詰めていき旋空で仕留めることである。しかし逆に間合いを詰められ一度主導権を握られてしまい、さらに防御重視になってしまったことで春樹の流れを作ってしまった。公平の援護もないこの状況でこの勝負はついていた。
数分の攻防の末ついに春樹の斧が慶の弧月ごとぶった斬る。その瞬間慶も認めざるをざるを得なかった。何故ならば一度斬っただけですぐに追撃の準備をしていたからだ。
実はライバルである迅から言われたのがきっかけで春樹にランク戦をふっかけたのだ。
サイドエフェクト未来視で新人に負ける未来が見える。
最初は信じられなかった。
しかし現実は無情である。しかしどこかスッキリした気分で慶は最後斬られた。
完敗だな。
一瞬の油断を突かれた敗戦。これが新人として、そして中学一年だと思うと軽く恐怖を覚える。ベットに飛ばされた衝撃が響く。
しかし慶は笑顔だった。まるで好敵手を見るような目で
そして二戦目からは春樹が蹂躙される方に回った。
春樹は慶相手に何もできなかったのだ。
慶の本気の攻めに春樹は最初の5本反応さえできなかった。
そして残りの4本は一本を止めることに成功するが1セット持たずに斬られる
結局9−1。
これが最終スコアだった。
「……」
ベッドに叩きつけられた衝撃で起き上がる。
春樹は歯を食い縛る
悔しい。
負けて当然と思われていただろう。それでも新人で一本取れたのはかなり貢献した方だろう
しかし春樹は満足していなかった
あれからも春樹は勝とうとして挑んだにも関わらず一本を取れるどころか、ほとんど何もできずに負けたのだ。
春樹は一瞬の隙を見て一本をとっただけってことは春樹自身が一番分かっている
「畜生。」
つい呟いてしまう。もっとこうすればよかったとか色々なアイディアが思いつく。
悔しい。
何よりも相手にならなかったこと
自分の試合展開をできなかったのが何よりも悔しい。
「おい。スーパールーキーいるか?」
「……すいません。その呼び名やめてもらっていいですか?ちょっとイラってくるので。」
内部通信で話しかけられるとむくれたように春樹は慶に告げる。慶は一瞬いつもの雰囲気と違うことに固まるがしかし理由が分かっているので苦笑してしまう。
「お前負けたのは初めてか?」
「いや。藍先輩に一敗したくらいです。基本的には同じランク体の人しかランク戦をしてないので。」
藍先輩と言われて少し誰の事か分からないがそれでも気にせずに慶は続ける
「そっかそっか。悪いな本気出してしまって。」
「いえ。勉強になったんでいいです。てか本気を出してもらえないとこっちが困りますし。」
「……は?なんで?」
「えぇ。だって超えなくちゃいけない相手の実力を分からないなんて少し嫌ですから。それに」
一呼吸おいて
「自分の手の内を晒さずに済みましたから。」
すると慶が少し納得してしまう。恐らくどこかのチームに入った際に当たる可能性。もしくは観客にデータを見せないためにしたのだろう。
そういえばランク戦をしているのに春樹は一度も斧型の弧月しか使っていなかった。
それに対して慶は思う存分グラスホッパーや旋空などを初手から使っての勝負。
シールドで防御しなかったことを考えると舐めているわけではなく。ただ純粋に慶の力量差を測りたかったのだろうと推測できる。その結果が瞬殺だっただけ。
実際ボロボロになりながらも慶はオプショントリガーを使わされて、本気のやり合いで自分の手の内をさらされた。
「お前本当に中学生か?」
つい慶は口にしてしまう。それに対して春樹は苦笑してしまう
「二宮さんから習いました。新しいことを試すのもいいがまずは自分の武器をみがけって。それと自分の手の内はなるべく人に見せるなって……三日くらいボコボコにされましたけど。」
春樹は笑いながらいうのだが、内容はリンチに近く二宮隊の隊室でボロ雑巾になっている春樹が目撃されたことがどれだけ厳しい訓練をつけられた。二宮隊の他のメンバーも少し引き気味だったのだがそれでも何度でも立ち向かい言われたことを吸収していく春樹に二宮さんはさらなる厳しいメニューを取り入れるようになっての悪循環だったのだが。英才教育を受けたおかげでシューターでもある程度は戦えるようになり、今も時々二宮隊のオペレーター室でくつろいだり、新技の訓練をしていることも度々あるのだ。なお、気になったことをすぐに聞きにくることや、明るく人懐っこさから二宮も含め二宮隊の面々から可愛がられているのは言うまでもない。
それには慶も少し驚いてしまう。二宮の指導するなんて天地がひっくり返ってもないと思っていた。
「……やっぱお前面白いな。そっか今度またランク戦しようぜ。」
「はい。こちらこそお願いします。」
と内部通信で話しかけ終わる。そしてぐったりとした姿で春樹はランク戦ブースのベットに寝転ろうとした時だった
すると急にランク戦の申し込みが大量に入ってくる。ほとんどがマスターランク以上の相手であり、慶との対戦で刺激を受けた相手ばかりだった。
その後全ての試合を受け春樹はその日初めて勝率が半分以下の4割程度でボコボコにされたことは言うまでもないことだった。