俺の名はジョー ~メカフェチジジィと世界を喰らう~ 作:稚拙
刻命編
俺の名はジョー。
前回、自分の造ったロボットに寝首を掻かれて一時住処を追い出され、便乗した喧嘩も鳴かず飛ばず、結局損だけして終わったジジィ。
自分と同等の頭脳を持ったキングが迎えた結末に思うところがあったのか、ジジィはいつになく冷静になっていた。2桁の大台に乗った記念すべき10棟目の『実家』で、ジジィは宣言した。
「しばらくは“充電期間”じゃ。きっかけが来るまでは待つことにする」
「隠居じゃないんだな?」
こう訊ねると、ジジィは胸を反らせた。
「フン、ワシャまだまだ現役じゃ!実現させていない理論や未完成のロボットが山ほどある!ただ、前回も前々回も『焦り』が原因でしくじったようなもんじゃからな。俗物共の世界を見下ろしながら、じっくりと策を練るのも悪くないと思ったまでよ」
まるで仙人みてぇな口振りだ。ま、ジジィにとって世間様は取るに足らず、見据えているのはパンツマンをスクラップにしてじーさんを見返すこと、それだけだしな。
―――そして3年の月日が流れた。
唐突か?……仕方ねぇだろ。ジジィはマジで丸3年の間、雌伏を貫いたんだから。
ただこの間に、何も無かったわけでもない。前回キングが起こした喧嘩が、世界に思わぬ波紋を生んでいた。
キングからしてみれば、前回の喧嘩は『人間からの独立』を謳った崇高な独立戦争だった。ただそれは、ロボット側から見てそうだっただけの話だ。
ロボット―――それはそもそも、人間が生み出した機械だ。俺がジョーとしてこの世界に生を受けた少し前から、ドラえもんファンのじーさんの手によって、ついに『“心”を持ったロボット』が誕生、それからは『ロボット三原則』という大前提はあれども、ロボットと人間の距離は縮まり、互いを“相棒”としてこの世界を回してきた。
だがここに来て、肝心要なコトを人間たちは思い出してしまったのだ―――
『“ロボット”は人間が造った“道具”』だったことを。
人間側から見たキングの行動はなんてことはない、ただの
『道具』が自意識を持つだけでは飽き足らず、人間を排除して独立国家を打ち立てようとした―――この事実は思いの
『自分の隣にいるロボットが、いつか自分たちを襲うかもしれない―――』
人間たちの中に大小なりとも芽生えたロボットへの不信感や不安は月日を経るごとに高まり、中にはロボット排斥を訴え、ロボットを問答無用で破壊するテロを実行する、過激な団体までもが出現しだした。
この事態に、ロボット社会を統括する
……これを読んでるアンタも、『明日から電気も水も火も家も服も無い状態で過ごせ』なんて言われても無理だろ?それと同じだ。
しかし、人間たちのロボットへの不信や不安を解消するには、何らかの手を講じる他はない。そして―――七転八倒の末に『ある法案』が捻り出され、WRU総会に提出された。
『普及型ロボットの新しい運用方式を定義・履行する法律』―――
通称、『ロボット新法』。
これからの時代のロボットと人間のあり方を、今一度定義し直すための法律―――だが、その中のひとつの条項が、世界中のロボット関係者、そして当の思考型ロボットたちに衝撃を与えた。
〈初期に開発された特定個体を除いた全てのロボットに、用途・稼働環境に応じた『安全稼働保証期間』を設定する。その期限が差し迫ったロボットは速やかに廃棄・処分する〉
堅苦しい文言だが、コイツはわかりやすくたった2文字で言い換えられる。
『寿命』だ。
そう簡単には傷つかない鋼の肉体を持ち、メンテさえ怠らなければ永遠の時を過ごすことも不可能じゃないロボットに、この期に及んで『寿命』を決めてしまおうって算段だ。こうすることで、ロボットがウカツなコトをできないようにしてしまおうと、WRUは先手を打った。『増えすぎたロボットの安定した管理・運用と、経年による機能不全を未然に防ぐことで、ロボットの信頼性を向上させるため』というお題目こそ掲げられていたものの、それが最早詭弁に過ぎないことは、誰の目にも明らかだった。
当然、WRU内でも意見は紛糾した。中でもライトのじーさんとコサックのオッサンは強硬に反対したらしい。
―――私はこの法案に反対だ!私はロボットを『道具』ではなく、我々人類と肩を並べられる存在に……『友』であってほしいと思い、ロボットたちに“心”を持たせた……だがこれでは、物言わぬ旧型機械と同じ扱いに、彼らを堕とすことになる!こんなに簡単に、彼らの『寿命』を決めてしまう権利は……我々にはもはや無い!
―――わたしもライト博士と同じ意見です……彼らロボットもまた、考え、知り、学ぶことが出来る、我々と同様の『心ある存在』です。そしてわたし自身、彼らの『心』から、多くのことを学ばせてもらうことができました……しかしここに来て、我々が『寿命』を……『命の刻限』を一方的に突き付ける……これはあまりにも傲慢な行為ではないでしょうか……?今一度、法案の見直しを求めます
しかし法案賛成派の理事たちは首を縦には振らなかった。何しろ、『時限式自動停止装置を組み込んで、期限になったら問答無用で廃棄してしまえ』なんて過激な意見すら出たほどだ。まぁ、それは流石にやりすぎと判断されて法案には組み込まれず、最終的な処分施設へはロボットたち自ら、もしくは管理権限のある所有者たる人間の『意思』で行ってもらう、という形になったが。
結局じーさんとオッサンの反対もむなしく、法案は賛成多数で可決、採択され、『ロボット新法』は即日発効された。ロボットたちは否応無しに『寿命』という残酷な概念を受け入れざるを得なくなったのである。
―――――――――
「けしからんッッ!!!」
ある日の朝食の時間、新聞を読んでいたジジィは憤慨した。
「どーした?シャケの照り焼き、マズかったか?」
「そーではない。……ついに“あの愚法”がまかり通ってしまったんじゃよ。ライトもコサックも所詮は
「あぁ、ロボットに“保証期間”をつけるってアレか。テレビのワイドショーや週刊誌もコレばっかやってるな。ネットもこの話題で持ちきり……でもまぁトーゼンじゃね?いくら心があるっても、機械にゃ保証期間が必要だろーし」
「お前さんは元は人間じゃから気楽に言っとるが……考えてもみぃ。これはせっかく心があるロボットたちを、ただの家電製品並の扱いにする、まったくもって世紀の悪法じゃよ!いきなり、『お前さんは明日死ね』と突きつけて、問答無用で殺してしまうようなもんじゃ……恐ろしいことを考えおる……」
「……ジジィ……」
ジジィに言われて、俺も初めて気がついた。ロボットにしてみりゃたまったもんじゃない法律だ。いくらキングが“やりすぎた”とはいえ、ここまで極端に走るのもどうかと思う。
「で?清く正しい悪の天才科学者様はこの法律を守って、俺らにメーカー保証期間とやらを設定すんのけ?」
「バカバカしい!」
ジジィは新聞を食卓にたたきつけ、冷蔵庫から牛乳を取り出してコップに注ぎ、ぐいと飲み干して言った。
「ロボットたちがいつまで生きていつ死ぬか、そんなモンを赤の他人が決める権利など微塵も無いわ!何のために、今のロボットに『心』があると思っとる!?
「えらく人道的……いや、『ロボ道的』じゃねーか」
「ワシは基本的に放任主義での。ワシのロボットたちが、造ってからどうするかはロボットたち自身に任せておる。じゃが、皆自分の意志でワシについてきてくれておる……まったくもってワシの息子達は孝行者じゃよ」
「約一名家出中のヤツがいるけどな」
「“あれ”はそういう性格になったに過ぎんよ」
この3年で、ジジィは悟りを開いたんじゃないかと思うほど、俗世間のこと、ロボットのことに達観的になった気がする。あれほど手を焼き、前回の喧嘩で仕置きを敢行しようとしたバカ一にも、あまり強く言わなくなったほどだし。……逆にオシオキされて強く言えんようになっただけかもしれんけど。
テレビでも今回の『ロボット新法』のことをやってるかなと思って、俺はリモコンに手を伸ばした。ちょうど、女子アナが原稿を読んでいるニュース番組をやっていた。
《今回の『ロボット新法』施行に反対するロボットたちが、デモ行進を行っています―――》
テレビ画面には、ロボット新法反対、我々にも生きる権利がある、まだ私達は働ける、といったシュプレヒコールを上げながら、プラカードを掲げて練り歩くロボットたちの姿が映っていた。
「ま、ロボットも労働者だし団体行動権があるからこうなるわな。……どした?」
ジジィは、デモ行進の先頭にいる、8体のロボットたちにその目を凝らしていた。
「こやつら……どこかで見たことあると思ったが……ライトが設計しとったロボット共じゃな」
「へぇ……青パン小僧の弟たちか。デモに参加してるってことは、こいつらも“保証期間”が近いんだろうな……その割にはガッツマンやエレキマンとかの姿が見えんが」
「ロックマンや“最初の6体”は初期型じゃからな、ロボット新法の対象外になっておる。『初期型の思考型ロボットの稼働データはロボット工学界の貴重な情報財産だから“寿命”はつけない』と
ジジィはそそくさと食器を食洗機に入れると、ネクタイを締めて白衣を羽織った。
「ちょいと出かけてくる。少し、世の中のバカ者共に喝を入れねばならんようじゃ」
「……おい、まさか……」
嫌な予感がしてジジィの顔を見ると―――
ジジィはこれ以上ないほど悪辣、かつ神妙な表情をしていた。
「世界にわからせてやらねばなるまいて。もはやロボットは、ヒトの手から離れた存在じゃということをな」
―――――――――
丸一日ほどして、ジジィが帰ってきた。ジジィは例のデモ行進の先頭にいた8体のロボットを連れていた。そして研究室に招くと、『しばらく籠もる』と言って閉じこもった。
そして一ヶ月後―――
《ロボット新法に反対する工業用ロボットたちが、世界各地で破壊活動を開始しました!》
女子アナが緊迫の表情で伝えるのは、世界中を我が物顔で蹂躙し、破壊の限りを尽くす8体のライトナンバーズの姿だった。彼らを旗頭に、『ロボット新法反対派』のロボットたちが世界中で武装蜂起したのである。
―――思ってたとおりだ。
ジジィのヤツ、パンパンマンの弟分たちを焚きつけやがった。
そして、その『親』は当然―――
《今回の工業用ロボットたちによる破壊活動に際し、ロボットポリスは、ロボットたちの製作責任者である世界ロボット連盟名誉顧問、トーマス・ライト氏に対し、破壊活動煽動容疑での逮捕状を請求、もうまもなく……あ!新しい情報です!逮捕です!ライト氏逮捕です!トーマス・ライト氏が先程、自宅にて逮捕されました!世界をこれまで9度救ってきたヒーロー、ロックマンの製作責任者であるトーマス・ライト“容疑者”が先程、破壊活動煽動の容疑で逮捕、身柄を拘束されたとの情報が―――》
チャイム音とともに、画面の上方に〈CPSニュース速報 ロックマンの開発者トーマス・ライト氏逮捕 一連のロボットによる破壊活動煽動容疑〉と字幕が表示されたのを見た俺は、ため息をついてテレビの電源を切り、すぐ後ろでふんぞり返っているジジィを見た。
「これがアンタのシナリオか?……ジジィ」
そう問うと、ジジィはフッと鼻で嗤った。
「すべてはロボットたちを縛ろうとしたバカ者共が撒いた毒じゃよ。ワシは少しばかり、あの8体に力をくれてやったに過ぎん。……心の嘆き、それを強く伝えられるだけの、な」
「……パンツマンは動くと思うか?今回は道徳の授業だぜ。“どちら”にも大義名分があるように見えるが」
「フン、もはやロックマンにも大義は無いわ。ライトが投獄された今、ロックマンを見る俗物達の目も変わってこようて。果たして世間の逆風の中で、あやつは弟たちと戦えるかのう……?クックックッ…………」
……さて、今回の喧嘩は実に『重い』。この小説のノリからしてみりゃ異端の喧嘩だ。青タイツもまた、恐ろしく肩身の狭い戦いを強いられるに違いない。何しろ、今回ばかりは『敵』にも同情の余地がありまくる上、あまつさえその敵は実の『弟』たち。俺なら確実に白旗揚げるか精神崩壊する自信がある。
3年の月日を経て始まる、ジジィの『野望の復活』―――
はたして『正義』は……どこにあるんだろーな。
20XX年 キングの反乱に端を発するロボットへの不信感を払拭すべく、WRUは『ロボット新法』を提案。一部を除く全てのロボットに『使用期限』を設けるこの法案に、ライトとコサックは反対するも、結局賛成多数で可決
ロボット新法に反対する工業用ロボットたちのデモ活動が活発化する
新法制定から1ヶ月後、ライトが開発した8体の工業用ロボットが叛乱を起こし、世界中で破壊活動を行う。これを受けたロボットポリス、開発者のライトを破壊活動煽動罪で逮捕、収監する
ロックマン、ライトの無実を証明し、混乱を終息させるため、叛乱を起こしたライトナンバーズの鎮圧を決意、出撃する
工業用ロボットの反乱に乗じ、Dr.ワイリーの第十次世界征服計画発動