俺の名はジョー ~メカフェチジジィと世界を喰らう~ 作:稚拙
俺の名はジョー。
ロボットに『寿命』を定める、というロボットの権利を無視した世紀の悪法『ロボット新法』に対抗するため、ついにジジィが立ち上がった。
3年ぶりの『野望の復活』と相成った今回、ジジィは手際よく8体の
「さて……今回のお前さんのボディじゃが、前から考えておった新型武装をジョー用にアジャストしたモノを装備しておる。調子はどうじゃ?」
既に新型のボディへと変えられ、数日を過ごした俺はこう答えた。
「重圧がハンパねぇな…………」
「むぅ?新型武装に合わせたバランサーの調整がマズかったかのう?」
「いや、仕上がりは完璧だよ。流石はジジィだ」
「ならば一体どこに不具合が―――」
「…………色だよ」
「は?」
「ついにシャ○専用の“赤”にこの俺を染めちまったコトだよ……」
そう、今の俺の全身は真っ赤っか、危険を示す警戒色だ。エースパイロット御用達の色であるとともに、“復讐” の象徴たる色―――
「さすがに3倍速くはなってねぇし、ツノも付いてねぇけど、赤を採用するなら、もっとこう、勿体ぶったほうが―――」
「……お前さんは何を言っとるんじゃ。まぁ、青はロックマンの色じゃし、黄色はピッケルマンと被るし、今まで使った色じゃとそれまでのモデルと区別がつかなくなるからの」
「つーかいーのけ?赤って長兄の色だろ。量産機が試作機の色とダブっちまうってのはさ」
「今更ブルースに何の遠慮をする必要がある。ロックマンをビビらせるに越したコトはないわい……さて、武装のテストじゃ」
俺はジジィと『実家』内の射撃場へと赴き、10mほど先のターゲットに左腕のバスターを向け、放った。
―――ズガガガガガガガガガガ!!!
けたたましい発砲音とともに、夥しい数のエネルギー弾がまっすぐ射出され、ターゲットは穴だらけを通り越して木っ端微塵になった。
「ヒュゥ……これまたエラい威力だな。パンツマンのバスターよりも手数がすげぇ」
「ロックバスターはいくら出力を絞ろうが、一度の連射では3発までが限界*1……その後は1秒ほどの
「そーいやアイツ、前回の喧嘩で出力を絞って手数を増やしてたっけか」
「圧倒的連射能力でロックマンを近づかせぬまま封殺する……これぞ名付けて『マシンガンジョー』じゃ!」
久々のジジィ自らの命名、気合いがノッてるなぁ。
だがこのバスターがバカ一のセッティングを参考にしているのはなんか複雑なんだが。
それにしてもバカ一のヤツ、前回の喧嘩以来音信不通になっている。どこで何しとるんだか
さて、今回の俺の配置はというと、最初の喧嘩以来の高所、空中気象調整所だ。ここを仕切ってるトルネードマン*2の職場だった場所で、現在はそのトルネードマンによって占拠され、要塞化されている。……というか今回、8体のライトナンバーズの全員が、元いた職場に立てこもっている状況だ。よほど仕事が好きで、職場にも愛着があったんだろう。
そう思ってから、俺はふと考えた。
この喧嘩の原因になった『ロボット新法』ってヤツは、そうした愛着やら仕事への情熱やら誇りやら、人間が当たり前に持ってる『感情』ってのを、あっさり無慈悲に取り上げて、無かったことにしちまうんだ。
その上『命』まで奪うとあっちゃ―――
「邪魔をしないでくれ!僕はトルネードマンに会わなくちゃいけない!」
―――来たか。
俺は振り返り、ヤツの顔を見た。
―――憔悴、していた。
「流石に……お前は悩むわな。この喧嘩、どっちに“正義”があんのか、わかったもんじゃない」
「それでも……僕は……!」
「同じ『親』から生まれた弟たちに、後ろ指差されて罵られても、か……果たして“どっち”だろうな、今回のお前は―――」
俺はゆっくりと、ヤツにバスターの砲口を向けた。
「世界を救うヒーローか、身勝手な人間に尻尾を振る
爆音にも似た発射音とともに、エネルギーマシンガンが吼える。
「く!」
苦し紛れかヤツはバスターを連射するも、全て俺のシールドが弾く。俺はもう一度エネルギーマシンガンを連射するが、今度は目の前の段差に入ることで射軸から逃れる。
心なしか、ヤツの挙動に違和感を覚えた。スライディングもチャージショットも行わない、まるで最初の喧嘩の頃のようだ。
「スライディングとチャージは封印か?……随分な舐めプじゃねぇか」
「く……博士のメンテナンスを受けられてないからか……後付けの機能から不具合を起こしてるみたいだ……!*3」
「弾もくぐれねぇ、一撃必殺のチャージも出来ねぇ、そんなズタボロになってまでどうして戦う!?えぇ!?」
俺は容赦なく、傷だらけのヤツにエネルギーマシンガンを浴びせた。ヤツは両腕を眼前で交差させ、防御態勢を取った。セラミカルチタン*4にエネルギー弾が命中する独特の手応えと金属音の間隙から、ヤツの視線が俺へと突き刺さる。
「……確かに……勝手に“命の期限”を決められてしまったロボットたちには同情するし、それを勝手に決めてしまった人間たちにも、言いたいことはある……でも!」
ヤツは、未だに死んでいない視線とともに、バスターを構える。
「そのために、何の罪もない人々やロボットたちの平和を、脅かしていいわけがないじゃないかッ!!」
決意のこもったロックバスターが閃光を放つ。俺は側転で回避して、受け身を取りながら立ち上がり、エネルギーマシンガンを撃ち返す。
「だから弟たちも手に掛けるってのか……?ハッ、流石は正義のスーパーロボット様だ……所詮、バーでくゆらすグラスの中身がバーボンでも泥水でも俺たちには大差ない……俺たちは戦うためのみに生まれた
「本当は戦うよりも、話し合う方が簡単なはずなんだ……!でも!それでも!!」
射撃姿勢のまま、ヤツは俺の攻撃の全弾をその身で受けた。
「『何が正しいのか』を見つけるために……僕は“彼ら”の分まで戦う!!」
ヤツのボディが、青と黄色のツートンに変わった。そして―――
光輝く三叉槍のようなエネルギー弾が迫り、俺はとっさにシールドを構えた―――が、光線槍はシールドを紙のように貫き、俺のボディを上半身と下半身に引き裂いた。
「…………!!」
ヤツの視線からは―――
ただ、気迫のみを、感じた。
倒れ伏す俺の横を、ゆっくりと通り過ぎようとするヤツに、俺は問うた。
「…………何故……そうまで戦える……?」
ヤツは立ち止まるも、振り返ることなく、ただこう答えた。
「僕は…………―――」
『ロックマン』だから
それが答えだった。
これ以上ない答えだった。
今まで9度、世界の危機を救ってきた『英雄の名』は、ヤツにとっては誇りであり、重圧であり、アイデンティティであり―――
その名に込められたあらゆる想念思念を受け止めながら、100億近い人間や、それと同じくらいにまで増えたロボットたちの―――否、この地球すべての運命を背負って戦う、世界のヒーローの小さな背中が―――
この時の俺には、遙かに巨大になって見えていた。
フッ…………今日はヤケに、ヤツの後ろ姿が眩しく見えるぜ―――
―――――――――
結局、手負いのパンツマンにさえ、8体の弟たち―――1体、“妹”が混じってたらしいが*6―――は敵うことなく散った。その最後に倒された“弟”が、重要な証拠を残した。8体のライトナンバーズたちと、ジジィが接触していた映像を記録したメモリが発見されたのだ。
コレはマズいとジジィはわざわざじーさんの研究所まで出向いてこの証拠映像入りのメモリをパクると、やはり『実家』に青タイツを招待した。結果は―――まぁ、お察しだ。
それにしても、土下座したジジィにタイツマンが見せたあの映像、思いっきりギャグだったなぁ。最初の喧嘩の時の土下座から始まって、この間の喧嘩の時の土下座まで、しっかり記録してあったんだもんな。*7あんな映像を見せつけてくるとは、パンツマンはよほど腹に据えかねてたんだろう。映像を見てツボにハマって爆笑してたらジジィに怒鳴られたなぁ。よし、この映像を今度バカ一に見せてやろう。きっとツボる。
……まぁ、結局この『叛乱』も、全部ジジィのせいにされた。……元々の非はロボット新法を一方的に押しつけたWRU、そして暴力という手段に出ちまったロボット連中、その両方にあるんだが、そのあたりの責任も全部ジジィに押しつけられ、『今回の騒ぎも全部ジジィの野望!はい終了!』みたいなノリで世間が一致団結しちまった。ジジィは今回の喧嘩でも、見事に貧乏クジを引き当てたのである。
当然、ライトのじーさんは濡れ衣を着せられたということで、程なく無罪放免、釈放と相成った。
もっとも、今回はこれで終わらず、少しだけ続きがある。
今回のそもそもの原因となったロボット新法については、当のロボットたちのみならず、人間たちの間でも賛否が別れ、議論の的になっていた。しかしデモやこの喧嘩が始まってからは、最初こそ家や街を壊された人々の怒りの声が上がったものの、次第にロボットたちに同情的な意見が増えていき、喧嘩が終わってからは『ロボットたちもまた、行き過ぎた法律の犠牲者だった』という世論が大半を占めていた。ロボット新法の撤回を求める書簡が各国からWRUに提出され、民間からも多くの署名や要望書が出されていた。そして―――
喧嘩の終了から3ヶ月後―――
世界を二分した争いの火種となった、ロボット社会史上最悪の法律と称された『ロボット新法』は、ついに廃止されることとなったのである。WRUのトップが会見で深々と頭を下げ、世界中のロボットに謝罪する姿が放送や配信で流されると、ロボットの人権、あるべき権利が認められたと、世界中のロボット達から歓喜の声が上がり、この日は『新たなるロボット社会の夜明けの日』として、後世に語り継がれる日になったのである。
……まぁ、こんなところか。
ロボットたちと人間との軋轢もなくなりメデタシメデタシ―――なんだが、よくよく考えてみ?
―――人間、手のひらドリルやん。
キングが喧嘩を起こしてからは『ロボット怖い』と罵っときながら、イザその要望を聞いて作ったロボット新法が施行され、ロボットたちが騒ぎを起こしゃ、『ロボットの方が可哀想』と来たもんだ。世論ってこんなもんさ。今も昔も、さ。
だが、ひとつ考えてみてほしい。
もしも、だ。
―――ジジィが何もしなかったら、どうなってたと思う?
答えはひとつ、簡単だ。ロボットたちの抗議活動は黙殺され、ロボット新法の名の下、『寿命』を迎えたロボットたちが次々と“殺処分”される、ロボットにとっての
ロボットに『心』を与えた、そのひとりであるジジィが、そんな時代を認めるはずもなく、ジジィは抵抗するロボットたちに『力』を与えた。だからこそあの8体のロボットは、滅びゆく者の嘆きを、叫びを、社会に、そして人間に伝えることができたのだ。その結果、人の心は変わり、世界はより良き方向へと変わった。
ジジィはどう思ってるかわからんが、俺は自信を持ってこう言える。
ジジィは勝負にゃ負けた。でも、確かに世界を変えた。
ジジィの思い通りに世界は変わった。
世界は一度、『Dr.ワイリーに負けた』のだ。
20XX年 ロックマンが撃破したライトナンバーズの1体から、ワイリーがライトナンバーズ達を煽動する証拠映像が収録されたメモリが回収される。ワイリーによってそのメモリが奪われるも、ロックマンによって奪還され、全世界にその映像が公開される
Dr.ワイリーによる第十次世界征服計画、ロックマンによって頓挫
ライト、冤罪が証明されたことで釈放
今回の反乱がワイリーによる陰謀だったことが判明し、ロボットたちに対する人々の感情は次第に軟化、反対にロボットたちに対する同情、ロボット新法への批判が、世論の大半を占めるようになる
3ヶ月後、ロボット新法廃止。ロボットに定められていた『安全稼働保証期間』は撤廃。同時に、反乱に参加していた8体のライトナンバーズへの分解処分も白紙撤回、名誉が回復される
代案として、ロボットたち全員に安定稼働のため、年に一度、ロボット病院やロボット研究所にてオーバーホール=健康診断を受けることを義務付けた『ロボット保健法』が制定される