俺の名はジョー ~メカフェチジジィと世界を喰らう~ 作:稚拙
俺の名はジョー。
―――世界中に感染が拡大した、ロボットを暴走させる凶悪なコンピューターウイルス『ロボットエンザ』。
このロボットエンザを駆逐するため、ジジィとじーさんは2度目のタッグを組み、俺もまた、初めてタイツマンと目的を同じくして、この未曾有の危機に立ち向かう……ッ!!
……と言えば、正義と悪が争う中に突如第三勢力が乱入、正義と悪が一時休戦、それぞれの思惑が交錯する中共闘して第三勢力に立ち向かう……っていう、かなり盛り上がるシチュだと思うんだが―――
すんません。
そのウイルス、作ってバラ撒いたのはそこのジジィです。
つまりやろうとしていることは単なる『事故処理』なのだ。とたんに低次元な話になるのが俺達らしいっちゃらしいんだがな。
しかし、ジジィの造ったワクチン製造機を取り戻さなければ世界征服どころか世界滅亡なのはハッキリしている。前回に引き続きギャグは控えねば。
だが俺達『追跡隊』にジジィからのある報せがもたらされた時、俺は頭を抱えたくなった。
「八分割されたぁぁぁ!?」
字面の通りである。
感染ロボット軍団の一体をシメたタイツマンからの情報により、連中はワクチン製造機を8つに分解し、バラバラ状態になった製造機のパーツを1個ずつ管理していたコトが発覚したのである。
「ジジィ……アンタ本当は感染ロボット共を制御できてるんじゃねーか?あの製造機を器用に八分割なんざ、
《バカを言うな。ワシもライト共々驚いとるところじゃわい。……もしかすると、ロボットエンザウイルスが変異しとるのかもしれん。複雑な演算や情報処理が必要な『作業』プログラムを、人間で言うところの呼吸や瞬き同様の、『本能』とも云える高度なレベルで行わせるプログラムへと書き換えておるのかもしれん……》
「傍目で見て作戦めいた行動を本能で、か?ハッ、どこぞの宇宙怪獣じゃあるまいし、アンタのウイルスはまったくもって最悪だよ。自己進化に自己増殖か……あとは自己再生さえ会得すりゃ、立派な『デビルなんとか細胞』の完成だ」
《そうなるとワシらでも手に負えなくなるから断固阻止せねばならん。とりあえずワシはライトとウイルスの解析を続ける。お前さんはロックマンとは別ルートで製造機を取り戻すのじゃ!》
「……了解」
さて……どうしたものか。
俺たち製造機奪還部隊がいるこのハイウェイの近くには、確か感染ロボット軍団の一体、ニトロマン*1が居たはずだ。ヤツに気付かれずに製造機のパーツをこっそり、もしくは気付かれたとしてもドサクサ紛れにかっぱらう算段を立てねばならんが……
「おろ?“太郎”の反応が消えてやがる……」
“太郎”というのは、俺が率いていた奪還部隊の一人だ。部隊の
―――シュタッ!
「!?」
何者かの気配を感じて振り返ると、まさかまさかの―――
「やっぱり……ジョーも感染しているのか……!」
―――パンツマン!!
「―――何かあったのか?」
「勝手に先に行ってんじゃねーぞ!!」
それだけではなく、かなり久々にこの目で見る長兄と、あまりご無沙汰ではないバカ一までも、青タイツに引き続いて現れた……!!
タイツマンが動いてるのは知ってたが、まさか長兄とバカ一までいるとは完全な想定外だった!!
三大ヒーロー、ここに集結……!!
……って、感動してる場合か!?完全に臨戦態勢に入っていた青パンマンに、俺は慌ててホールドアップした。
「ま、待て!撃つな!俺は正気だ!ウイルスには感染してねぇ!!俺はジ……ワイリー博士の命令で、ワクチン製造機をかっぱらった連中を追ってるんだ!!」
「えっ…………!?」
呆気にとられたようで、パンツマンはバスターを下ろしてくれた。まぁ、いきなりだし、コイツもコイツで『ジョーを見れば射殺する』という行動がもはや本能のように刷り込まれているのだろう。……物騒な本能だが。
「―――本当か?」
「お、おうよ!」
やはり長兄、グラサンの奥から冷徹な視線が突き刺さる。
「だがさっき会ったザコ、攻撃してきたから
「何ィ!?」
“太郎”の反応が消えたのはお前の仕業かバカ一!!
……まぁわからんでもない。俺はともかく、ほかの連中はジジィの言いつけを忠実に守って、『隙あらばロックマンを始末する』ことも任務のひとつに入れているんだろう。俺はさすがにそんな気分にはなれなかったが。
―――たまたまバカ一を攻撃したことで天に召された“太郎”には……後で線香の一本でも供えてやろう。成仏しろよ、南無。
「……スライディングとチャージ、直したのか?」
ふと、俺は目の前のパンツマンに訊いた。
「ライト博士はロボットエンザの解析を休む間もなくやっている……僕より、ロボットエンザで苦しんでいるみんなのほうが辛い思いをしてるんだ……僕のために、ライト博士に手間を取らせてしまうわけには行かないよ」
つまり、前回の喧嘩から青パンマンはチャージもスライディングも出来ない、初期スペックのままらしい。我が身を省みず平和のために戦う、か。じーさんの息子は本当にいい子だ。それに引き替えジジィの息子はというと。
「ハッ!“半イカレ”のてめーなら、5秒でスクラップに出来るぜ」
「フォルテ……!」
「わぁってらぁ!……それにな、手負いのてめーに勝ったところでオレは満足できやしねぇ……とっととこの騒ぎを終わらせて、とっとと直してもらわねぇとなぁ!……全力のロックマンを倒さなきゃぁ、オレの最強は証明されねぇからなぁ……!」
つまり―――
全力のパンツマンと戦いたいけどパンツマンは故障中、直せるじーさんも手が放せない
↓
ならじーさんがヒマになればいい
↓
ロボットエンザをどうにかすればじーさんもヒマになる
↓
パンツマン修理完了、全力のパンツマンをブッ倒してオレ様が最強だァ!!
……というチャートがバカ一の
……にしても。
「……長兄までいるとは思わなかったな……」
思わず口から出てしまった。長兄は何かと暗躍好きというか、密かに裏で行動するダークヒーローなイメージがあって、こんな風に表で派手に立ち回るタイプじゃないと思っていたからだ。これまでもカリンカたん救出や偽物の正体暴露など、ジジィの野望の『要』をピンポイントでブッ壊してきた。いわゆる『オイシイ所を持って行く』役回りだったはずだが。
「―――今回はおれも裏方というわけには行かなくなった。ロボットエンザはこの世界の存亡に関わるからな」
「ブルース……」
逆に言うと、バカ一を動員した上、長兄も暗躍してる場合じゃねぇほど状況が深刻化しているということだろう。
……この三英雄の
「ところで……キミはどうして僕のことを―――」
「―――足を止めている暇はない。先に行くぞ」
パンツマンの言葉を遮るように、長兄は俺の横をダッシュですり抜けて行った。
「あっ、待ってブルース!」
慌てて青パン小僧は長兄を追いかける。去り際、俺に何か意味深な視線を向けていたのは……何故だろうか。
そうしてこの場には、俺とバカ一だけが残された。
「……来い、ゴスペル」
「WAOOOHHHHHHHHHHNNN!!!」
呼ばれて飛び出て何とやら、バカ一の横にゴッスィーが降り立った。
そして俺の顔を見上げた瞬間―――
「ばう!わんわん♪」
それはもう嬉しそうにシッポを振って、俺に駆け寄ってきたのだった。
「ゴッスィー!久しぶりだなぁ……元気してたかぁ?」
「わんわん!」
「……やっぱり『てめー』だったか」
「お前はゴッスィーがいなければ俺と他のジョーを判別できんのか?」
「ンなモンできるかッ!!どいつもこいつも『一ツ目』で同じ見た目だろーが!……てめーがこんなところで油売ってるってコトは、今回の騒ぎにゃウラがあるな?」
「ナ、ナンノコトカナー?」(棒)
バカ一は無表情で俺に向かってバスターを連射した。とっさにシールドで防いだが、やがてシールドが弾き飛ばされ、喧騒な音を立てて地面に落ちた。
「な、何しやがんだ!?いきなりクラッキング*2たぁビビッたじゃねーか!?」
「正直にゲロらねぇと次はてめーの頭の風通しがイイ感じになるぜ?」
「わぁった、わぁったよ……。ちょっと見ねぇ間に鋭くなってまぁ……大きくなったねぇ、バカ一や」
「親戚のジジババゴッコはいーんだよ。早く言え」
「……察しの通りさ。ロボットエンザはれっきとした『メイド・イン・ジジィ』だ」
「ケッ……また回りくでぇマネしやがって……」
「悪いがバカ一……このことは―――」
「言うと思うか?このオレが?」
「思っているから、口止めしている」
「……言いやしねぇよ。言ったらその場でポンコツロックマンとグラサン野郎と闘りあわなきゃならなくなるだろーが、メンドくせぇ。それに……“
「ばう!」
「……世界の危機も退屈しのぎか……大したタマだよ。今日ほど『お前がそーゆー性格で良かった』って思った日は無ェな」
「ッるせぇ。……いずれジジィには仕置きをする。てめーはてめーの仕事をするんだな」
そう言い残して、バカ一はゴッスィーと合体、先行するパンツ小僧&長兄を追っていった。
今回、パンツマンとの直接戦闘、一切無し。
まぁ、今回の俺はそもそもジジィの『ウイルス喧嘩』に乗り気でなかったし、ワクチン製造機さえ戻ってくれば、正直パンツ小僧にジジィにド熱い灸を据えてやってもらいたいとも思ってる。ジジィの不平不満の解消のために世界滅亡なんざシャレにならんからな。反省するがいい。フハハハハハ!!!!
「……あ」
忘れてた。
このあたりにいるジョーは全員味方だということを伝えるのを。
―――俺の
―――――――――
そうして、三大ヒーローは割と呆気なく感染ロボット軍団を撃破、かくしてワクチン製造機の再生は成った。
ジジィは手筈通りにワクチン製造機をかすめ取り、『実家』へと三大ヒーローをご招待。バカ一のエクストリーム帰宅はこれで二度目だな。
最後は無重力実験棟での壮絶な死闘の末、ジジィはのべ11回目のジャンピング土下座をするハメになったのである。これで懲りただろう。もうウイルスなんかに手を出すんじゃねーぞー。
……いつもならこれで終わりなんだが、今回は……というか、今回ももう少しだけつづくんじゃ。
どうやらジジィは『実家』に帰宅したあたりからインフルエンザを再発させたらしく、三大ヒーローと戦う頃には、高熱とひっきりなしに襲うクシャミとも戦っていて、最後の『ジジィカプセル』が墜とされるころには完全にこじらせてしまっていたらしい。困っている人間やロボットを放っておけないパンツマンによって、ジジィは警察病院へと担ぎ込まれたのだった。
3日ほど経ってから、俺は『ヘルスケアジョー』を装ってジジィを見舞った。
ジジィは窓際のベッドで、上体を起こして窓の外を見ていた。
哀愁漂う姿だった。
「うっす。元気か?」
「……元気じゃったらこんな辛気臭い
「違いねぇな。……もっとも『実家』の方がよっぽど辛気臭ェがな」
「うるさいわ、アホタレ」
ふと、窓際のテーブルのバスケット、その中の真っ赤なリンゴが目に留まった。
「…………リンゴ、食うか?」
ジジィは黙って頷いた。
リンゴの皮むきなんて、何年ぶりにやったろうか。だが不思議なもんで、身体が……いや、『頭』が覚えてくれてるもんだ。割とキレイに剥ける。
「こうしてるとさ」
「……む?」
「なんか、俺がジジィを介護してるみたいだな」
「何を言うか。ワシャ老人ホームやデイサービスに世話になるほど老け込んどらんと何度も言うとろうがバカタレめ」
「でも、同じ介護してもらうんなら……人間よりもロボットの方がいいんだろ?アンタの場合」
「…………………………フン……」
ジジィは再び、窓の外に視線を逸らした。
俺はリンゴと果物ナイフの手を止め、そんなジジィの横顔に言った。
「なぁジジィ」
「ん?」
「…………流石に………………今回はやりすぎたんじゃね?」
「…………………………」
ジジィは黙って俺の話を聞いていた。
「カゼなんて誰だってひくさ。なのにそれでヘンに世間を
「…………………………」
「いつもはジャンピング土下座カマして許してもらってるだろーけど、今回は土下座だけじゃ許されん空気だぜ。……せめて世間様に何かしらの誠意を見せといた方が、少しは評価はマシになるぞ」
「フン!……悪の天才たるこのワシが、今更何を世間に遠慮せんといかんのじゃ……!」
「今回の喧嘩……今まで以上に人にもロボットにも迷惑かかってんだよ……発起人のアンタが責任取らねーと収拾つかなくなんぞ」
「………………どうしろと言うんじゃ……」
不本意げなジジィの顔に、単純な答えを俺は見せる。
「いつもツンツンしてんだ。たまにはデレてもいーんじゃね?俺にも見せてくれねぇか?アルバート・W・ワイリーって人間の、器のデカさってヤツをさ」
―――数日後。
ジジィは警察病院から“自主退院”した。
その去り際、ジジィは病室からあふれんばかりの、大量のロボットエンザワクチンを置き土産にしていったのだ。
そして同じ日、世界各国の関係機関に、ロボットエンザワクチンの製造方法が公開されたのだった。
―――フッ、ジジィもやればできるじゃねぇか。
俺の中で、底値だったジジィの株が爆上がりだぜ。
そして―――
12棟目の『実家』に残されたロボットエンザのデータは、俺立ち会いの元、ジジィの手により『実家』のありとあらゆる記憶媒体から、キャッシュデータを含めて完全消去され、オリジナルデータが記録されていたHDDに至っては、データを消去の上で物理的に木っ端微塵、さらにその破片を焼却の後、残った灰を小型ロケットで宇宙空間に放出、後に遠隔爆破するという、まるで親の敵でも討つかのように徹底的に破壊、完膚無きまでに滅却された。
喧嘩終結から3ヶ月後、ついにロボットエンザの最後の感染者が回復。ジジィが生み出した悪夢のコンピューターウイルスは、地球上から完全根絶されたのである。
思えば、最初にジジィがインフルにかからなけりゃ、こんな乱痴気騒ぎは起きなかった。健康管理がしっかりしてりゃ、ジジィはウイルスをバラ撒くなんて最悪な発想に至らなかったんだ。ジジィだけじゃない。今回の喧嘩、俺にも責任がある。
そして気付いた。
今まで俺はジジィを老人ホームにブチ込むことばかり考えてたが、逆に考えてみた。
―――俺が『実家』でジジィの介護をすればいーんじゃね?
まさに『俺が老人ホームだ!』というヤツだ。今回のようなことを二度と起こさせないために、ジジィの健康管理は徹底する。
専門学校にでも通って、介護福祉士の資格、取ろうかな。
これじゃ本当に、『ヘルスケアジョー』になっちまうかもな、俺……
…………これで終わっていたら、キレイに終わってただろう。
俺はこの時、すべてのロボットエンザウイルスは、あのHDDが壊された時点で消滅したと思い、ジジィもそれは同じだった。
だがジジィは、うっかり忘れていたのだ。
ロボットエンザウイルスには『試作型』が存在していたことを。
そしてその『試作型』が、ジジィが造っている“
『試作型ウイルス』―――真の名を、『ロボット破壊プログラム』。
この物騒な名前のプログラムが100年後―――21XX年にあらぬ突然変異を起こし、ジジィの喧嘩が子供のイタズラレベルに見えるほどの、空前絶後最凶最悪の大迷惑を世界中に掛けることになるのだが―――
それはまた、別の話―――
いや―――
20XX年 ロックマン&ブルース&フォルテ、ロボットエンザワクチン製造機の奪還に成功するも、直後にワイリーによって製造機が強奪される
ロボットエンザウイルスはワイリーが製造したものとワイリー自ら公表
Dr.ワイリーによる第十一次世界征服計画、ロックマン&ブルース&フォルテによって頓挫
ワイリー、戦闘後に高熱を発して警察病院に緊急搬送、そのまま入院
一週間後、ワイリーが病室から姿を消す。病室内には大量のロボットエンザワクチンが残されていた。同日、ロボットエンザワクチンの製造方法が世界中に無償公開される
ロボットエンザワクチンにより、世界中でロボットエンザの感染者が短期間で激減
3ヶ月後、ロボットエンザの最後の患者が回復し退院
WRU、ロボットエンザ流行の終息を宣言
後にロボット保健法改訂、これから開発されるロボットに、ロボットエンザワクチンプログラムのプリインストールを義務づけ、現在稼動中のロボットにもワクチンの追加インストールを義務づけた