俺の名はジョー ~メカフェチジジィと世界を喰らう~ 作:稚拙
歯車編
俺の名はジョー。
全世界を震撼させたジジィの癇癪『ロボットエンザ事件』からしばらく経ち、ジジィはロボットたちに囲まれながら、12棟目の『実家』で慎ましやかに暮らしていた。
この日、いつもの朝の食卓に、ジジィは若干不機嫌そうな顔で姿を見せた。
「なぁ……今日はどーも虫の居所がよろしくないと見たが……寝てる間になんかあったのけ?
「あからさまに年寄り扱いするでないわアホタレが」
「それとも……やっぱゆうべの残りとはいえ朝からキーマカレーはマズかったか?」
「朝カレーは仕事を捗らせるから文句はないわい」
「んじゃなんだよ?メシ作ってる側としちゃ、渋い顔してメシを食われるのはどーも、な」
「……夢を見た」
ジジィは、どこか遠くを見るような視線を、テーブルに落としていた。
「大学の頃のことを、な。あの頃は―――」
そう言いかけ、ジジィは、ふっと目を閉じ、ふぅとため息をつくと、
「いや、なんでもない。ご馳走さん」
と、食卓を後にしたのだった。
「……夢、ねぇ」
かく言う俺は夢を見ない。電子頭脳には妄想を組み立てて非現実を睡眠中に見せる、なんて器用な機能はないらしい。
だがジジィの元気の無さには何かある、と感じた俺は、これを胸に留めて後片付けに入った。
―――翌日、またしても朝のジジィはムスッとしていた。
「……また、夢を見たのか?」
今度は俺の方から振ってみた。もっとも、まともに答えてくれるとは思ってなかったが。
だがジジィは俺の予想に反して。
「……忌々しいことじゃがな。あの時……ワシの研究を理解できなかった凡愚によって、現在のロボット工学の基礎が成り立っていると思うと、腹立たしくてならん……」
「……『ダブルギアシステム』、か」
「!?お前さん、何故それを……!?」
「前に、ライトのじーさんをさらったことがあったろ?『五度目』の時にさ。そん時の監視役やってて、話が弾んでさ。ジジィにゃ悪いけど、不仲の原因は聞かせてもらったよ」
「チッ……ライトのヤツ、余計な口を……」
「だったらよ……なんで“ソレ”、使わねぇんだ?」
「……一度、使ったわい。クイックマンな、アレはダブルギアシステムを応用した試作型じゃった*1が……結果は知っての通りじゃよ。やはり出涸らしの小細工はロックマンには通用せんて」
「らしくねぇじゃんか」
「何……?」
「11回喧嘩に負け続けて、それでも折れずにこうして『実家』を建てて、次の策を練ってるジジィにしちゃ、往生際が良すぎるんじゃねぇか?オッサンや長兄や悪のエネルギーやロボット新法を利用して、ミスターXに変装して、キングの尻馬に乗って……ついにはウイルスにまで手を染めたジジィがよ……今更過去のトラウマ引きずるなんざ、らしくねぇって言ってんだ。……もう一度ぐらい、過去の自分を、『昔のジジィ』を……信じてやってもいいんじゃないか、って……俺は思うがな」
ジジィは押し黙り、顎に手を当てうつむいた。
さらに―――俺はこう言った。
「それとも何か?他人のフンドシ穿き慣れちまって、もう自分のフンドシで相撲取るのが今更怖くなったのか?」
「何じゃとッ!?」
そうそう、ジジィは煽りには弱いんだ。プライドのカタマリだもんな。こーゆー言い方をしないと、火が点かない人間なんだよ。
「量産型風情が
まぁ、そうだよな。
これは俺が煽った喧嘩だ。責任を持って参加させてもらう。
「あぁ、いいぜ。前回みたいな八ツ当たりと違って、今回はジジィの青春のリターンマッチだ……何もおかしいところはないさ。存分に使い倒してやってくれ……!」
……というわけで、ジジィは12回目の喧嘩の材料に、ジジィとじーさんが袂を分かち、ジジィがグレるきっかけになった因縁の卒業制作『ダブルギアシステム』を使うことを決め、早速研究室に籠もり始めた。同時に俺達下っ端連中にも指示が出され、『実家』の大改装工事に着手。
そして1ヶ月の時を経て、12棟目の『実家』は劇的にビフォーアフターされたのだった。
「見るがいい!これこそワシの因縁の清算に相応しい大要塞……名付けて『歯車城』じゃぁぁぁぁッッッ!!!」
表にはジジィ名物シャレコウベが堂々と飾られ、その周囲を複数の直径ウン十メートルともあろう巨大な歯車がギシギシガチャガチャと駆動音を上げて蠢く凄まじい外観だ。何気に『実家』の外観にこうした『動くギミック』が取り付けられたのは史上初ではなかろうか。時代の変化を感じる。
「なんということでしょう……こいつ……動くぞ……!」
「フッフッフ……凝ったのは見た目だけでは無いぞ。もちろん内装も、ロックマンが攻めてきた時に備えて大幅改造しておるからのう。苦節“30年”の集大成じゃよ!」
「……ん?ジジィっていくつだ?」
「何でもない、忘れろ。次は研究室じゃ!」
ジジィは出会ったときからジジィだったし、30年なんて経ってないんじゃ……あ、あれか。ジジィのダブルギアシステムがボツにされてから30周年記念か。いやしかしそれだとジジィの大学卒業から30年、浪人や留年をしてなけりゃジジィはまだ50代前半ということになる。う~ん、やっぱありえん。あの太陽の如き頭頂部の輝き、50の前半でアレはなぁ……
まぁいい。俺は深く考えんことにした。
そうして案内された研究室でジジィが俺に見せたのは、赤と青、二つの歯車が組み合わさった基盤だった。
「これこそが『ダブルギアシステム』じゃ。動力炉の出力リミッターを一時的に解除して限界以上のパワーを引き出す、赤の『パワーギア』!そして駆動系の循環エネルギーを一時的に大出力化して通常時以上のスピードを発揮させる、青の『スピードギア』!この二つの組み合わせこそ、『ダブルギアシステム』のキモなのじゃ!」
「へぇ……」
だが、『ダブルギア』という名前の割に、赤と青の歯車が両方備わった基盤は、12個ある内のわずか2つだけだった。残りの10個は、赤の『パワーギア』だけ、青の『スピードギア』だけの基盤が、それぞれ5個ずつだ。
「……にしちゃ、片方しか無いヤツがほとんどだな」
「……フッ、あの頃のワシは発想も青かった……幾らでも量産可能と踏んでおったが、いざ全力を尽くして造ってみれば、完成型を形に出来たのは2つだけ……残りは“片割れ”にすることで何とか造れた廉価版じゃよ。もっとも、切り替えが出来ん以外は問題なく発動可能じゃが」
「妥協とは珍しいじゃねぇか」
「ワシは確かに『天才』じゃ。しかし『万能』ではないよ。だからこそ、破局に至らぬ妥協点を探し、ベストでなくともベターに巧く着地させる……それもまた、これまでの経験で得た知恵じゃよ」
「その割に『
「それはたまたま、『天才』の領分で運良く造れてしまったに過ぎんよ。この世には『運』や『偶然』で発見されて、未だに完全な原理が解明できとらんまま実用化されとるモノなどごまんとある。そうした『ひらめき』も科学には付き物でな。コレが面白いから、『科学者』はやめられんのじゃよ♪」
まるで少年のような笑みを、ジジィはニカッと浮かべた。
ホント、臆面もなく自分を『天才』と称しておきながら、自分が出来ること、出来ないことをキチンと弁えて、それでいて好きなことを楽しんでやってるようなジジィがさ―――
「どーして世界征服なんかやってんだろーなぁ……」
「ん?何か言ったか?」
「うんにゃ。……で?この二つしかない完成型のダブルギアはどうすんだ?……ひとつ、良かったら俺に使わせてくれないか。……パンツマンには積もりに積もった借りもあるからな……」
「悪いがそりゃ無理ぢゃ」
期待せずに言ってみたが、そりゃそうだよな……ジジィはあっさりと突ッぱねた。
「ダブルギアシステムを搭載できるロボットは、条件が限定されておる。パワーギアは動力炉と伝達系、スピードギアは駆動系とフレーム強度、ダブルギアはそれらすべてのキャパシティにある程度の余裕があるロボットでなければ、ボディが耐えられんからの。ましてやジョーは量産型、構造が簡素になっとるから余裕が無いわい。気持ちは嬉しいが諦めぃ」
「しゃーないか……で?具体的にはどんなロボットならシステムを積めるんだ?」
「それこそ、何らかの用途に特化したワンオフ機……ナンバーズロボットか、それに匹敵するロボットならば可能じゃろう。……例えば……ロックマンとか、な」
いきなりパンパンマンの名前を出すか。まあ、それならわかりやすい。ダブルギアシステムは、あのレベルのロボットでなければ扱えないほどの高尚なシロモノだったのか。それならアッサリ諦めがつく。所詮俺はしがない量産型、ワンオフの連中とはボディの出来が文字通り違うからな。
「この『完成型』のダブルギアじゃが、ひとつはコイツを使うことを前提に設計したワシのマシーンに組み込む。もう一つは……本来、フォルテにくれてやろうと思っとったのじゃが……」
「アイツは前回の喧嘩の後から音信不通だぜ」
「そうなんじゃよ……あやつは肝心な時に連絡が取れん……全くもってアホンダラが……
「せっかく使えるモノを遊ばせちまうのは惜しいな……」
「仕方あるまい。前にも言ったじゃろ?作ってみたが結局使わなかった、というのはよくあるコトじゃよ。……後は残りの廉価版じゃが、スピードギアはイエローデビル*4タイプの改良型*5に、パワーギアは前に造ったサークリングQ9*6をベースに設計したマシンの試作型*7に組み込むつもりでおるが……残りのパワーギアとスピードギア、4つずつをさてどうするか……」
ジジィは顎に手を当て思案に入った。こうなっちまうと、ジジィはこちらから呼びかけても反応が薄くなる。
しゃーない、暇潰しにテレビでも見るか。そう思って、リモコンの電源ボタンを押した。
《……年に一度の『ロボット健康診断』が始まり、多くのロボット達が各地のロボット病院やロボット研究所を訪れています。この健康診断は以前施行されていた、『ロボット新法』に代わる法律『ロボット保健法』に定められたもので、ロボット達の性能安定のため、年に一度のこの時期に、すべてのロボットに義務づけられていて、今年で―――》
ちょうどニュースをやっていた。そうか、もう健康診断の時期か。時が経つのは早いなぁ。
それにしても、『あの』ロボット新法の代わりに作られた
そう、ロボットの『質』を保つために、何も古いロボットをブッ壊しちまう必要なんぞ全くなく、年に一回、キチンと健康診断を受けて、『ロボット自身』が健康管理をすればいいだけの話だったんだ。
というかあの頃、誰もその事実に気付かずに、やれ使用期限がどうだの、ロボットの信用がどうだのと世界中がアホみたいに騒いでいたと思うと、呆れて何も言えなくなる。
……一体何だったんだ、あの喧嘩は。
ちなみにジジィはというと。
―――そんな最初から知れたこと、今更気づきおったのか!揃いも揃って凡愚なアホタレ共めが!!ゥワッハッハッハッハッ!!!!
……と、テレビに向かってそれはもう嬉しそうに笑ってたさ。
「……健康診断、か……」
ジジィがいつの間にか、テレビを食い入るように見ていた。
「そーいや、俺たちの一斉メンテもそろそろだったよな」
「もうすぐ“大仕事”じゃからな。コトを始める前にキチンとメンテしてやるわい。……ふむ……」
ジジィの頭の上に豆電球が点灯したのが、もはやはっきりと見えるようになった。
「これは………………使えるな……!」
20XX年 ロボット新法に代わり制定された『ロボット保健法』に基づく『ロボット健康診断』が、全世界の各ロボット病院やロボット研究所で開始される
健康診断でライト研究所を訪れていた8体の作業用ロボット、突如乱入したDr.ワイリーにより拉致
2週間後、Dr.ワイリーによる第十二次世界征服計画発動
ワイリーに改造され、各都市を襲撃・占拠した8体のロボットを鎮圧するため、ロックマン出撃