俺の名はジョー ~メカフェチジジィと世界を喰らう~ 作:稚拙
もう何度目かの『死』が俺の眼前にちらついた。
まさか引火したビア樽が俺に落ちてこようとは……後輩よ、とんでもない置き土産を残してくれたモンだ……俺まで冥府へ道連れするつもりだったのか。
『独りぼっちは、寂しいもんな……』って、某魔法少女じゃあるまいし。すまんがお前には寄り添えん。
……だが、お前のことは絶対に忘れん。お前の……そして、俺達の後ろにいたアーマーに乗った
生憎……俺は死ねない。
死ねないんだ。
俺が死んだら、誰がジジィの面倒を見るんだよ。
―――それと。
―――今回ばかりは一度で諦めてやらねぇ。
ジジィの青春のリベンジ―――信念を持った喧嘩を、そう簡単に捨ててたまるかってんだ。
そう―――俺は筋金入りのお節介焼きなんでな。
命からがら、俺は『実家』こと歯車城にたどりつき、真っ先に報告せねばならんことをジジィに伝えた。
「何じゃと!?ロックマンがダブルギアシステムを使っておったじゃと!?」
当然ジジィは驚愕した。
「どーゆーわけだか、な。お陰でワケワカランまま死にそうな目に遭った」
正直俺も驚いた。しかも、ジジィが2つしか造れてないはずの、パワー・スピードの両方が使える『完成型』だった。まさかと思って、俺は『実家』に帰って来るなりすぐさまジジィの研究室に行ったんだが、予備の『完成型』はそのまま保管されていた。つまりじーさんが盗んだわけではないらしい。もっとも、品行方正・公明正大を絵に描いたようなあのじーさんのコトだから、そんな姑息なマネなんてそもそもしねぇだろうけどさ。
「しかしどういうことじゃ……この世に存在するシステムはワシが造った12個だけ……『13個目』など存在するハズが……………………はッ!」
何かを思い出したのか、ジジィはカッと瞠目、そして上体を仰け反らせて哄笑した。
「…………そうか……ククク、そういうコトじゃったか!フハハハハハ!ライトも浅ましいコトをしおる!!まったく!笑いが止まらんわ!!!」
「あったんだな、心当たりが」
「そうじゃよ、思い出したわい!ロックマンが使っておるシステムは『13個目』などではない!いわば……『0個目』ッ!!」
「0……試作型ってことか!?なんでそんなモンをじーさんが……!?」
「ワシが大学の卒業制作として最初に造った、システムの試作型じゃ!別れ際にワシが捨てていったソイツをライトは後生大事に持っておって、ロックマンに組み込みおったのじゃ!!」
「先手を打たれたのか……今回の喧嘩でジジィがダブルギアを使ってくることを見越してたってのかよ……」
「いや、単純な話じゃよ。ワシが“例の8体”をかっぱらって来る時に、UFOにダブルギアシステムを組み込んでおいて、ライトの目の前でスピードギアを発動したからの。一目見ただけでダブルギアシステムと見抜くとは……目には目を、ダブルギアにはダブルギアを、ということか……フフ、流石はライトじゃ。それでこそワシの越えるべき壁、終生のライバルよ!!」
「青パン小僧、細かい見た目も変わってたし、チャージショットやスライディングも完璧修理したみてぇだし……その上ダブルギアまで積んだとなると……過去最強スペックなんじゃねぇか、今回のタイツマンは……」
「フン、上等じゃぁッ!!」
机をバン!!と叩き、ジジィは立ち上がった。
清々しく嬉しそうな顔をしていた。
「ジジィ……!?」
「これで条件が対等になったというものよ!そもそもダブルギアはワシの発明!ライトがワシのダブルギアを認め、ワシの発明と知りながらロックマンに積んだのならばソレもまた一興じゃッ!!ダブルギアを積んだワシのロボットとダブルギアを積んだロックマン!どちらが勝とうとワシのダブルギアの有用性が証明される!どちらが勝とうとワシのダブルギアの勝ちとなるのじゃッ!!まったくハラが捩れるわ!!面白いと思わんか!?なぁお前さん!?」
「……お、おぅ……」
久々にジジィの『マッドサイエンティスト』の側面を見た気がした。ちょいと喩えがアレだが、まるで冥王計画を遂行する木原マ○キだな。
「フフフ……それならば歓迎の準備は早めにせねばならんのう……!歯車城の警戒フェイズをフェイズ3に移行、いつでもロックマンを潰せるように準備せぃ!!……それとお前さん、『例の選抜』は?」
「……ああ。ブラストマンやアシッドマン*1の基地の生き残りの
「ならばそやつらを今すぐここへ連れてくるのじゃッ!……ロックマンの驚く顔が目に浮かぶわい!ダ~ッハッハッハッハッハッ!!!」
……たぶん、パンツマンだけじゃなく、コレを読んでるディスプレイの前の
『ジョー』の集大成ってヤツを、見せてやる。
―――――――――
暗闇に、真紅の光が一つ。
「……お前たち―――――よく聞いてくれ」
11の輝きが、俺の眼前に灯る。
「パンツマン……もといロックマンが、この『実家』……歯車城に侵入して暴れ回ってるのは知っての通りだが……ついさっき、第一防衛ライン……イエローデビルmk-Ⅲが突破されたという報告があった」
暗闇の中、ざわめきが響く。
「想定よりも速い侵攻だ……この第二エリアの突破も時間の問題だろう」
「でもそんなことは!」
「おうともよ!オレ達がいる限り!!」
「……そうだ。この場にお前たちが集められた意味はただひとつ―――!」
カッ!と、屋内の照明が灯った。
これぞ、俺の魂の遍歴にして、対パンツ小僧特殊部隊!!
ジジィが修理・保管していた、今まで俺が使ってきた歴代ジョーのボディに、生き残りのジョーたちの電子頭脳を移植した『ジョー・オールスターズ』!!
……と言いたいんだが。
「……ひとり足りないな」
「仕方ないですよ……『ライダージョー』は水上仕様ですから……」
「同期として、ライダージョーの分までボクが戦う……!見ていてくれ、ライダージョー部隊のみんな……!!」
固く拳を握り締め、“アパッチ”が天を仰ぐ。
「最後に言っておく……『死ぬな』……ってのは、さすがに無理強いになるよな……命懸けて喧嘩やってんだ……だからよ―――」
俺は、俺の後輩達に静かに、そしてささやかなる願いを込めて告げた。
「……『犬死に』だけはすんじゃねえ!いいな!?」
「「「「「了解ッッ!!!」」」」」
「よぅし行くぞお前ら!!この部屋が突破されれば後はモンバーンとボスラッシュ、それからジジィ……もとい博士だけだ!絶対に死守するぞ!!」
「「「「「押ォォォォォッ忍ッッ!!!!」」」」」
脂ぎった野太い気合いが響きわたる。持ち場に着く面々の中、“クリスタル”が俺の前で足を止める。
「センパイ、いっしょに頑張りましょうね♪」
「お、おう……」
まさかまさかの女の子である。ジジィのヤツ、カリンカたんの一件で何かを思ったのだろーか。本当に女性型電子頭脳のジョーを造ってたとはな……
もっとも顔はモノアイなんだが。しかも他の連中が割と濃い。可憐な花も雑草に埋もれりゃ目立たんもんだなぁ……
「ロックマン、来ます!」
“クラシック”の叫びが室内にこだまし、空気が冷却されたように、静謐に押し黙る。最奥に立つ俺にも、最前線にいる連中の緊張が伝わってくるようだ。
そして、ついに"蒼いアイツ"は上部の入り口からこの部屋へと降り立つ。それを確認した俺は
「一斉射ァッ!!
マシンガンが、エネルギー弾が、クリスタル弾が、骨ブーメランが、ハンマーが―――
少年型ロボットへと殺到する。
ガンスモークで塞がれる視界。その煙幕を、青白い閃光が四方八方に切り裂き、迸る。
―――一瞬。
俺には、青白い光のラインが走ったようにしか見えなかった。閃光が消えた時には、既に“クラシック”と“01”の頭に風穴が空けられていた。
ジジィめ、何がロックマンの驚く顔が目に浮かぶ、だ!淡々と殺しに来てるじゃねぇかッ!?
「どぉっせぇぇぇぁぁぁあ!!!!」
不意を突き、“ハンマー”が至近距離で鋼鉄の塊を投げ放つ。だがヤツは、今度は赤い閃光を放った。数百
「おのれぇぇぇぇぇ!!!!」
「止まれーーーーぇぇぇッ!!」
“マシンガン”と“帰ってきたマシンガン”が、怒りの咆哮を上げて乱射する。
ヤツのボディカラーが緑と紫のツートンに変わり、さらには頭部パーツとバスターの形状まで変化した。緑色の見るからに不健康そうな液体が球状になってヤツを覆い、マシンガンバスターのエネルギー弾を蒸発させる。
さらにはその液体をヤツはバスターからバラ撒いた。“マシンガン”と“帰ってきたマシンガン”はとっさにシールドを構えるが―――
「う、うわぁぁ!?」
「盾が!!盾が溶けるぅぅぅ!!??」
2体の
地を這う雷撃が2体を捉え、スパークして炸裂する。一瞬で、2体は物言わぬ金属塊と化した。
「これ以上は……させない!」
両の掌をヤツに向け、“クリスタル”がエネルギーをチャージし、クリスタル弾を放つ。しかしヤツはジャンプでかわすと、空中から―――
無数のキューブ状の岩塊が、“クリスタル”に降り注いだ―――
「そんな!?きゃぁぁぁーーーっ!?」
痛々しい少女の悲鳴が一際響き、“クリスタル”の姿は岩塊の下に消えた。
「く……バケモノめぇ!!“アパッチ”!どうにか攪乱してくれ!おれがあのキレイな顔をフッ飛ばしてやるぜ!!」
「了解!ボクが一番、このアパッチを上手く使えるジョーなんだ!!」
空中から“アパッチ”が不規則な軌道で飛行しながら、ヤツに向けてエネルギー弾を連射する。ヤツが気を取られる中、"キャノン"が的確にヤツを捉える。
―――だが。
ピンク色の無数の球形弾が放たれ、壁や天井で跳ね返り、縦横無尽に暴れ回る―――!
「な、なんだこの弾幕はァッ!?」
「撃ち落としきれない!メ、メーデー!メー―――」
爆発音とともに、ピンク色の煙幕の向こうに“アパッチ”と“キャノン”は消えた。
「よくも……よくもオレのダチを
「“トラック”!同時に仕掛けるぞ!!幾らロックマンとて、大型メカ二機分の質量は容易に捌けまい!!」
「おうさ!!」
“トラック”がフルアクセルで突貫し、“帰ってきたスナイパー”の旧式スナイパーアーマーが、ガシーン!ガシーン!と、連続ジャンプでヤツに迫る。挟撃の形だ。
ヤツはちらりと両者を睨むと、蒼い輝きを全身から放った。
―――――――――――――――!!!
気が付くと、ヤツは旧式スナイパーアーマーの『背後』にいた。
そしてアーマー全体に、ボール型の爆弾が無数に貼り付いていて―――
「…………………………え…………―――」
爆炎がアーマーを包み、火柱を上げた。
「て…………てめぇぇ!!ブッ壊す!!!絶対ブッ壊ァァァす!!!!」
激昂した“トラック”が、モノアイを激しく点滅させる。その怒りに呼応するかのように、エンジンから獣のような唸りを上げる彼の愛車。それをヤツは一瞥すると、赤いボディに更に灼熱真紅を纏った。
バスターから撃ち上げられた3発の火炎弾が、運転席の“トラック”目掛け、急降下して殺到する。
「ひ、火が!!い、ひ、いぎゃゃぁあァァァーーーー!!!」
運転手諸共に大破炎上する殺人トラック。その最期を見届け、くるりとヤツは振り返る。
「―――――――――
―――気配が消えていた。
人間の骨格標本を思わせるその姿はまさしく『死神』に相応しい。
ヤツの背後から、“スケルトン”はヤツの
「動クナ……動ケバ
「………………どいてくれ」
「冥府ヘノ旅路ヲ選ブカ、愚k」
「ごめんよ」
突如、ヤツを中心に冷気の渦が巻き起こり、たちまちの裡に“スケルトン”は凍結し、砕け散った―――
―――わずか数分だった。
俺の“魂の遍歴”を文字通り継承した、歴代ジョー軍団―――『量産戦隊ジョーレンジャー』は、呆気なく壊滅に追いやられたのである。
「…………マジ、かよ………………」
戦慄する俺を視界に入れたヤツは尚も迫り来る。この場を
「……だがよ……!」
俺には責任があるんだ。
ヤツを通さないという責任が。
そして―――
11人もの
それらすべてを
「お前を…………、ここから先には……、進ませねぇしか―――!」
「ねぇんだぁぁあぁぁあッッッ!!!!」
「……僕にも……止まれない理由がある!!」
今までに見たこともない、右半身が橙、左半身が黄、タイツ部分が黒の三色へとヤツのカラーが変わり、バスターから尖った金属杭が突き出るのが見えた。
そして、その言葉通りに―――
ヤツは止まらず―――
足裏のエアジェットを使い、水平突貫―――
盾でいなせるか―――否、あの勢いを殺し切れるとは思えん……!
ならば男らしく―――
真正面から撃ち落として―――
「センパイっっ!!」
不意に、俺は何かに突き飛ばされた。
驚き振り返ると―――
“クリスタル”の背後から金属杭が突き刺さり、貫通した杭が胸部の中心から突き出ていた―――……
「……センパイ……無事で…………よかっ…………―――――――――」
その言葉は爆発に遮られ、最後まで聞こえなかった。
「う…………う、ぅ…………」
背筋を、恐怖を通り越した“ナニカ”が這い登り、灼けるように全身を染める。
「うう゛ううぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァ!!!!!!」
その感情に任せ、俺は蒼い少年型ロボットにバスターの銃口を向けていた。
「何が正義だ!何が世界平和だ!!何が!!!何、が………………ッ……」
ヤツは俺を撃つことはせず、俺の横を素通りし、進路である上の足場へと渡った。
「…………僕は……負けられないんだ」
「……ンだと……!?」
ヤツは振り返らずに答えた。
「僕が無事に帰ることを……待ってるみんながいるから」
「……!ッざけん―――」
「ワイリーを止められるのは……僕しかいないんだ……!」
それだけ残して、ヤツは隔壁の向こうへと消えていった。
「……………………………………」
体から力が抜け、俺は両膝をつき、ひざまずいた。
―――結局……所詮……ヤツは正義の味方で、俺は悪の手先で―――
―――『屈辱』だ。
どう足掻いても勝てない、ワンオフの戦闘用ロボットとの性能差の前に、俺達量産型ロボットは蹂躙される以外にないんだ―――
「でも…………それでも………………」
俺は、今までの、そしてさっきのヤツを見て、気付いてしまったことがある。
ヤツに、ひいてはヤツを造ったライトのじーさんに―――
『欠けているモノ』があることを―――
そして、それをヤツにわからせるためにはただひとつしか方法がないことを―――
俺は―――
ヤツを―――
だが……どうすればいい…………
今の俺ではロックマンはどう足掻いても倒せん……
まして、12人がかりでもゴミの如く蹴散らされたのを身をもって知った今では、それを強く実感する……
俺に……力が……
……力が、あれば…………!!
「わん!」
反射的に、俺はその鳴き声に振り返った。
「………………ゴッスィー……………………?」
確かにその姿はゴッスィーだった。
だが、ゴッスィーの『主人』たるバカ一―――フォルテの姿はそこには無かった。
「どうしたんだ……バカ一はどうした……?」
「わんわん!」
ゴッスィーは俺の問いには答えず、まるで俺を導くように歩き出した。
「お、おい……どこに行くんだよ?ゴッスィー!?」
わからないことだらけの中、俺はゴッスィーについていくしかなかった。
―――――――――
「ここは……」
ゴッスィーが足を止めたのは、ジジィの研究室の前だった。ゴッスィーに促され、俺はドアの開閉スイッチを押した。
両開きのドアの先、デスクの上に置いてある『それ』が目に入った瞬間。
「ばう!」
『それだ』と言わんばかりに、ゴッスィーは吠えた。
「『コイツ』を……俺が……?」
「わん!」
頷くゴッスィー。
……気持ちはわかるさ。でも―――
俺はしゃがんで、ゴッスィーの頭を撫でてやりながら。
「ありがとな……お前、ホンットいいヤツだよ……今の俺に何が必要なのか、わかってくれてるんだもんなぁ……」
「わうん♪」
「……でもさ、俺に『コイツ』は使えないんだよ。俺は―――
「……ばう!!わんわんわん!!がるるるるるる!!」
ゴッスィーは納得してくれない。ゴッスィーはデスクの上の『コイツ』を咥えると、俺の足元へと運んできた。
「ゴッスィー…………」
“
そう、お前は言うのか。
ちょうど、大きな振動が『実家』を揺らした。どうやらモンバーンが撃破されたらしい。
もはや―――猶予はない。
そして―――『見込み』もない。
あとはまさしく、『理屈』もない―――
ハッ、ないない尽くしじゃねぇか―――
「はぁーー……………………」
…………………………………………………………でも。
「ここで諦められるほど……往生際は良くねぇよな……!」
仮にも俺とて“ジジィの息子”、しぶとさと懲りなさはきっちりと受け継いでる。それは俺の中に―――
「あるんだよ……『心』ってヤツが―――!」
『心』があるから悔しくて、『心』があるから勝ちたいと願って―――『心』があるから―――
まだ、『諦めたくない』って、そう思える―――
“使えない”?それがどうした。それは単なる、理屈に過ぎねぇ!
『理屈』なんざ―――
『心』で蹴ッ倒してやる……!!!
俺は決意の下―――『コイツ』を手に取った。
まだ―――終わらない。終われない。
教えてやるよ―――ロックマン。
お前に『欠けているモノ』が、『何』なのかを。
お前をブッ倒して、刻み込んでやる―――
お前が知らない、『唯一の感情』ってヤツを―――!