【神樹】
“星漿体”と同化出来ず進化してしまった天元。
五条悟と夏油傑が任務を失敗した段階では10年くらい余裕を見ていたが、その後も代わりは見つからず。
四国と本州の勇者は“星漿体”にするには足りないが、天元と適合できる資質を持った者を指す。
北海道と沖縄の勇者は神降し(呪霊の憑依)の術式を持つただの少女。
【天の神(バーテックス)】
特級仮想怨霊。
「人はいつか神に裁かれる」という思いと呪力を宇宙空間で蓄え続けていた存在。
二度の世界大戦による負の感情と呪力は大体天の神が回収したのでスペックがバカ高い。
使い魔である星屑すら【物理攻撃及び人間の呪力、術式無効】という力を持ち、すべてを炎で覆いつくす『領域展開』は地球全土に及ぶ。
天の神とその配下を傷つけられるのは人類の進化系である天元とその力を授けられた勇者、呪霊、呪骸、呪力を持った動物などに限られる。
人々の祈りが轟く。
声を上げているわけではない。太鼓などを打ち鳴らしているわけでもない。ただ祈っているだけだが、その身から放たれる
その呪力は部屋を満たし、祭り上げられた神体に吸い込まれていく。
激しい呪力の消費に何人も座っていられず倒れていく。だが助ける者はなく、倒れた者も含め誰も祈ることをやめない。意識が落ち祈ることもできなくなる者が出る手前で、新たな者が部屋に入って祈りを捧げ始める。
三回ほど祈る者が補充され、床に多くの失神した者が転がった頃、不意にこの異常な空間に不釣り合いな音が響く。
携帯電話のアラームだ。その音で祈る者たちは外で何が起きたか理解した。
「勇者様の勝利だ!」
「被害も放棄区域だけか。良かった!」
「「「「「「「勇者様、カムイ様、ありがとうございます!」」」」」」」
残った全員は口々に喜んだ後に倒れるまで祈り続け、それ以外の者は次に祈り始める予定だった者たちに回収されていった。
「いやー、今回も快勝快勝! いい感じですにゃあ」
精霊に伝えられバーテックス迎撃に赴いたが、スムーズに殲滅成功した。被害はほぼゼロだ。
以前はこうはいかなかった。
バーテックスは神社などの特定の建物を除くと、人が多くいるところを狙ってくる。漁や山での狩りの途中なら逃げるのも覚束なず死人が出たり、住宅近くならまだ住める建物が壊され住人が追い出される。それが当たり前の事だった。
そんな環境だから人の心も荒んでいく。誰もが腹に一物抱えており、自分と自分の大切な人優先だ。このまま状況が安定してしまうと、権力を握って横暴になっていく人や勇者という力を我が物にしたいと考える人なども当然のように出てきただろう。
だが夏油という自称呪術師がやってきて、呪術を教えてくれてからソレは変わっていった。
呪術という名前にそぐわない気もするが、まず身体能力が上がった。バーテックスが来ても逃げ切れる人が増えて犠牲はグンと減り、人の味を覚えた熊が他所から流れてきても数人で長物持ってかかれば苦労せず駆除できる。少し足を延ばして他所で生き残っている人がいないか確かめに行くことが出来るほどの余裕だってできた。
次に治安が良くなった。皆が呪術という力を持てば諍いも増えるかと思ったが、自警団の人が強かったのだ。なんでも自身の行動や他人との契約などの『縛り』を行うことで呪術師はパワーアップするらしい。「自警団団員としての規則を破らない。破れば力を全て失う」という『縛り』は強力で、勝手なことをする人をあっさり倒して見せた。規則を破ろうとして本当に力を全て失った人も出たから、彼らが民間人を虐げることはあり得ないと誰もが理解出来たのも安心できただろう。
そして指導者だ。『縛り』は自身の行動だけでなく、他者との契約でも使えるらしい。「下は上の言うこときちんと聞いて、上が役目に相応しい報酬を得ることを認める。上は報酬に釣り合うだけ役目を果たす」これを守れないと報いを受けることになるんだとか。まだそんな事態にはなっていないが、弱い『縛り』でも数が多いから大きな報いが訪れることになってしまうだろうという話だ。結果、指導者たちは私利私欲に走らず公平な差配を行い、民間人もそれを疑うことなく受け入れられていた。
そして一番大きな影響が出たのがカムイそのものだ。
「山のカムイのパワーアップ、これが大きいよね。本当、大助かりだよ」
結界を張ってバーテックスを遠ざけ、勇者に戦う力を与え、インフラや食料など生きるのに必要な物を作り出す。こんなのノーリスクで出来るわけもなく、カムイの力をすり減らしていく事になる。
だが全員が呪術を覚え、呪力を意識的に捧げられるようになって状況も改善。勇者の戦力は増し、食料も増え、ついでにやることが出来た民間人の精神も安定した。
今はまだカムイは移動できないが、夏油なら移動できるようにできるらしい。そうなれば寒冷な旭川から離れて、暖かい土地に移ることもできるだろう。全てが良いように変わってきている。
「夏油さんには頭が上がりませんにゃあ。今度きちんとお礼言っておきたいな」
夏油は飛行できる呪霊というのを従えていて、今も単独行動で周辺の様子を遠くまで探りに行ってくれている。おかげで保護できた人は多い。また防衛用に一級や準一級という等級の呪霊――かなり強い奴らしい。細かいことは雪花は知らない――を置いて行ってくれている。パワーアップした雪花には及ばないにしろ、バーテックスの攻撃対象にならずに一方的に攻撃できるとても便利な戦力だ。
いつもお世話になりっぱなしで雪花としては申し訳なかった。子供は大人に頼ればいいと言ってくれるが、頼りっぱなしは居心地が悪い性分なのだ。
「ま、とりあえず今は私の仕事きっちりこなしておくことかな。離れてても安心できるよう、めいっぱい頑張るとしますか!」
「ここまで上手くいくとはなぁ。失敗前提でデータ取るくらいのつもりだったんだけど」
夏油傑は上機嫌で空を飛んでいた。
思い返すのは予想より遥かに己の理想に近づいた旭川のこと。
呪霊は生まれず、統治者は腐らず弱者生存のために作戦を考え、治安維持組織も理性を持って行動し横暴はなく、民衆も自分のできることを全力で務める。まさに呪術師たちが手を取り合う、夏油が望んだ世界が小さな
「実施してみて、この仕組みが権力者に受け入れられなかったのはよく分かる。この状況は本来、どうあがいても創れなかっただろう」
『縛り』で行動を制限された権力者や治安維持組織の術者はまさしく【公僕】だ。今は夏油が目を光らせているから加減は十分されているはずだが、悪い方向に転がれば締め付けば厳しくなり民衆の奴隷としか言えない立場になりかねない。
自分から奴隷になりに行く権力者がいなかったのは当然だ。
また『縛り』は第三者が強制したものでは効果が薄い。ろくに仕組みを理解できていない者を、夏油という権力の外にいる者が誘導しなければ実現することはなかっただろう。今後はこういう『縛り』を自発的に行うという風潮を作らないと続かない。
だが現状上手く回っている。コレをシステム化出来れば他の場所でも同様の理想社会が築けるはずだ。
「とはいえ、上手くいっているのはまだ悪さを考える余裕と時間がないからだろうな。規則の調整を加え、他の組織と合流するたびに組織を一新。前の組織がなくなり消えた『縛り』を改良して定め直す。その繰り返しの中で完成形を見出さないといけない。
組織がある程度固定化された後も改良できる余地を残しつつ、悪用されない安全弁を設けるのも必要だな。悟のような特例が生まれた場合の対処も考えておかなければならないか。
クックックッ、やることが山積みだ。だがこれを超えた先に目指したものが確かにある。その手応えが感じられる」
空を見上げる。
目には見えないが、そこでは特級仮想怨霊「天の神」と、それを『領域展開』にて封じ続ける五条悟がいるはずなのだ。
「さっさと祓って帰ってこい悟。ここまで被害が広がれば敵対する理由はもうない。共に新世界の礎を築こう」
この後北海道勢力は南下し、ぽつぽつ残った集団とモブ勇者(アニメで大量にあった墓の勇者)を吸収し新組織になるを繰り返す。
諏訪に着いた時点で大組織になったので、一度腰を据えて組織を再構築。全員で四国に到着した。
そこからは元呪術界重鎮によって構成された大社と夏油の政治闘争が始まる。
なおのわゆ本編の始まりは神託で
・五条悟が死んだ
・最後に命を懸けた『領域展開』で天の神本体は抑え込んだが部下は動かせる状態
・黄道十二星座モチーフのバーテックスが攻めてくる
と告げられて始まる。