迷宮内に爆発音が響き渡る。
遅れて巨獣が倒れ、地響きが起きた。
巨獣と対峙していた者たちは爆発が起きる前に距離を取り、巨獣の再生に備え追撃の構えを取る。
しかしそれも無駄に終わり、巨獣が起き上がる様子はない。どうやら上手く急所を壊すことが出来ていたようだ。
「やったか?」
「フラグじゃないソレ?」
「一応確認しとこうか。遠藤くんいる?」
「………………………………………………返事ないね。まさかさっきの爆発で!?」
「いや、今までだって怪我一つなかったし問題ない……ないよな? 早く出てこい浩介!」
「いるよ! 何回返事すりゃ気付くんだ!!」
「ッ!? 大声はびっくりするからやめてよ! 何度も言ってるじゃない!」
「普通の声じゃお前らいつまで経っても反応してくれねぇじゃん! それでこの間忘れていかれたし!」
「いたならいいや。はいコレ。確認してきて」
「お前は大概マイペースだな。やってくるけどさ」
影の薄い少年が今にも破裂しそうな様子で光を放つ武器を受け取り、倒れ伏した巨獣に突き立て離れる。武器は見た目に反さず爆発し、巨獣の体を破壊しつくし再生の芽を確実に摘み取った。
彼らは地球から異世界『トータス』に一クラス丸ごと召喚された高校生。そのうちの戦闘班の一つ、永山パーティーと呼ばれる集団である。
リーダーは“重格闘家”永山重吾。190cmを超える巨体と老け顔が特徴の柔道部主将。
魔法使い役の“土術師”野村健太郎。僧侶役の“治癒師”辻綾子。支援役の“付与術士”吉野真央。
そして索敵と奇襲を得意とする“暗殺者”地球でいたころから影の薄い遠藤浩介に、武器の製造、整備を担当する“錬成師”南雲ハジメ。
この6人で構成されたパーティーだ。接近戦タイプがリーダーの永山しかおらず脆さはあるものの、バランスの取れたチームである。
「これでオルクス大迷宮100層攻略だな! まさか勇者パーティーより先に俺らが攻略しちまうとは思わなかったぞ」
「南雲君と遠藤君のコンボを止めれるボスいなかったからね。それより早くボスが隠してたもの見よう! 絶対何かあるよ!」
この世界の住人では65層到達が限界で、この世界に“勇者”として呼ばれたクラスメイトの天之河光輝が率いるパーティーですら90層を目指して攻略しているのが【オルクス大迷宮】だ。それの最下層と噂される100層で見るからにラスボスという風情で立ちふさがる巨獣を撃破したものだから、いつもは冷静なリーダーも含め全員のテンションが上がっていた。
だがそこで見たもので一気に冷や水を差されることになる。
「“六つの証を有する者に新たな試練の道は開かれるだろう”? え、どういうことコレ?」
「他の大迷宮の話は聞いたことあるけど、もしかしてそこ攻略してから来ないとダメなの? 今までのもしかしてチュートリアル?」
「もしくは篩かな? ここから先は高難度ダンジョンっぽいよね。入れないけど、もし今入ったらすぐに死にそう。いや、もしかしたら死ねないかも」
「怖いこと言うなよ南雲! とりあえず今は撤収しようぜ。ここでやることもうねぇし」
「……そうだな、撤収だ。だがその前にこの部屋の記録を取っておこう。手早く済ませるぞ」
永山の指示に従って、全員で分担し部屋の記録を細かく取る。
最終確認のための部屋だけあってトラップなどもなく、伝えることも石碑に浮かび上がった文字くらいですぐに済んだ。チュートリアルや篩に例えられるだけあって、ここまで踏破した程度ではご褒美なしである。
帰りの道中、野村が雑談を始めた。
「そういや南雲、お前帰った後大丈夫か? 白崎とか天之河とか檜山とか」
「そこはたぶん大丈夫だよ。白崎さんはともかく、他は対処できるし」
「そこで迷いなく言えるのがすげぇよ。でもよく考えたら向こうにいたころから檜山とか気にもかけてなかったし、元々図太かったよなお前」
南雲ハジメは学校中のアイドル的存在な白崎香織に好かれている。
そして不良グループのリーダーな檜山は香織が好きなので、ハジメは嫌われイジメのようなことを受けていた。幼馴染が別の男に好意を向けるのが気にくわない光輝も、普段の公正な態度を放り出してハジメにはきつく当たる。
それらは日本にいた頃だとハジメ自身の生活態度の悪さ―――遅刻、居眠り常習犯。完全な趣味人で高校も高卒資格を取りに来ているだけであり、交友関係を尊重する気はまるでなかった―――で問題だと思われなかったが、こちらの世界に来ると表面化することになった。
ハジメはこの世界だと趣味が役目と一致し、熱心な技術者として評価されている。クラスメイトとも同じ目的を共有する仲間としてコミュニケーションを十分に取るようになった。ハジメは変わったのに彼らの態度が変わらないので、ついに同じチームで行動することもできず、勇者パーティーと永山パーティーに分かれることになってしまったのだ。
そんなハジメが勇者より先に100層を攻略したのだ。厄介事が起きるのは様相に難くないが、ハジメ自身はどこ吹く風といった風情だった。
「うるさいだけで実害ないから、父さんの職場とか母さんの作業場での騒動に比べたらなんてことないからね。暴力沙汰だって天之河君を盾にすれば問題ないし。ご都合解釈でも正論にこだわるから利用しやすいし楽なもんだよ?」
「いやそんな風に考えれる奴多くねーよ。特に天之河関係。南雲の働きで天之河の粗が目立ってねーと、カリスマで流されるから自分が悪者だって思っちまう」
俺も私もと、他のメンバーから同意の声が上がる。それだけ天之河光輝という少年は凄いのだ。
だがハジメはそういうカリスマが効きにくい、自分の価値観優先で相手を特別視しない精神を持っていた。
だから真っ当な説教も聞き流せば済むと学べば聞き流すし、プライドを捨てて土下座すれば見たくもないものを無くしてすっきりできるならやる。平和な世界では些事を無視して趣味に走る問題があるが、カリスマが悪い方向に作用している時でも流されず周囲の目を覚まさせることもできる希少なメンタルだ。
問題点があるとすれば、敵意を向けてくる相手に半端な対応をして痛い目を見た場合だろうか。周囲に合わせず自分の価値観で動くから、敵意を向けてくる相手は過剰なほど潰すようになりかねない。それで上手くいってしまえばさらに悪化するだろう。
幸いにしてこの世界線のハジメはそんな目に遭うこともなく、弱者や気に入った相手を気遣う優しさを持っていた。
「それより僕は八重樫さんのほうが心配かな。僕は気にしないけど、八重樫さんは気にして間に入って問題が起きないよう動いてくれる―――というか動かずにはいられない損なタイプだし」
「……ちょくちょく思うけど南雲君って白崎さんより八重樫さん優先するよね。あれだけアプローチされてるのに」
「そりゃ白崎さんからアプローチされて嫌な気はしないけど、厄介事持ってくるし。八重樫さんはその厄介事がこっちに来ないよう骨折ってくれてるんだから対応は変えるよ」
男子は納得がいったという顔をして、女子は香織に同情しつつ頑張っている雫を評価する点を認めて反応に困っていた。
ハジメの日本での問題はほぼ香織が原因だ。彼女がアプローチをかけなければ檜山も光輝もハジメに興味などなく、ハジメも居心地が悪くならない程度に周囲に合わせて学生生活を送ったかもしれない。だが日本での生活はそうはならなかったし、改善するのも天之河のカリスマがある限り無理だ。香織自身は悪くないが、香織はハジメにとって疫病神染みた存在になっていた。
一方雫はと言うと、厄介事に関する防波堤だ。香織優先だが、ハジメも気遣い庇ってくれていた。そして今も香織や光輝の手綱を取って大きな問題にならないように頑張ってくれている。
どちらも美人だが、こうも条件が違うと態度を変えるのも仕方ないとハジメも開き直っていた。
「なら振ればいいじゃん。いつまでもキープしてないで」
「その程度で離れると思う? 態度で関わらないでって示し続けてるのに全く変わらない相手だよ? こっちが逃げたら絶対追いかけられる。絶対悪手だってソレ」
ハジメの危惧はあながち間違ってはいない。香織の父も女友達と飲みに行った次の日に、香織の母に監禁されたことがあった。その血と気性を引き継いでいるのだ。望み薄だろうが気にもかけずに突撃を繰り返すのは確定だし、最悪「ハジメくんのためだから!」と言って監禁しかねない。振ったり、他に相手を作った程度で諦める相手ではないのだ。
ただ周囲はそんなことまで察せないので、ハジメの評価を少し下げた。後日「南雲が正しかったわ」と言うことになるとは全く思っていなかったのである。
「おい、皆! ちょっと聞いてくれ!」
「ッ、浩介か。どうした?」
「毎回驚かれると傷つくんだけど? まぁ今はいいや。帰り道先行して見てきたんだけどさ……」
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「魔物が一体もいなくて隠蔽の跡? 誰が一体そんなこと……?」
「俺も心当たりがなくて戻ってきたんだけど。皆は何か思いつくことないか?」
言われていきなりパッと思い浮かぶものでもない。話を振られても皆困った様子だったが、南雲だけは顔色を悪くしていた。
「南雲。ひょっとして何か思いついたか?」
「……うん。やれそうなのはそこしかないって消去法だけど。この世界の人間にここまで来れる人はいない。魔物同士で潰し合っても隠蔽はしない。僕ら転移者に魔物を倒しつくす理由も隠す理由もない。なら誰ならできるかって言うと」
「! 魔人族か! でも外に人がいて管理してるんだぞ? 来てるならもっと騒動になってたんじゃねぇか? それに先行した俺らは遭遇しなかったし」
「それはそうなんだ。だから消去法。いるはずがないけど、できるとしたら魔人族だけ。永山君、とりあえず急ごう。勇者パーティーは僕らより戦力が多いから大丈夫だとは思うけど、万が一があったらまずい」
「そうだな。戦利品で嵩張るやつは置いていこう。何もなきゃまた取りに来れる。急ぐぞ」