B組 宍田、円場、骨抜、鉄哲
「どういう作戦で行くよ? あとB組はどう来ると思う?」
「私の奇襲スタートで落とせる人落として真っ向勝負狙いかなー。B組もそうじゃない? どっちも搦め手で詰められるメンバーじゃないし」
「まぁそうなるよな。先に見つけた方が有利だし、頼むぜアニマ。お前が頼りだ」
「が、頑張る! でも動物が少ないから警戒は忘れないで」
A組4人が工場地帯を模したフィールドを駆けていく。
そして想定通りに事態は悪い方へ転がり、B組の奇襲を受けた。
「させっかよッ!」
透明で視認不可能なはずの
当然それをA組も読んでおり、
「ならこうです、なッ!?」
割り込まれるのも想定済みで、弾き飛ばす動きに切り替えた宍田が困惑する。相手は自分よりずっと小さく軽い。いくら硬かろうが掬い上げて放り投げれば無力。そのはずなのに微動だにしないのだ。
「前のままの俺じゃねぇんだよ!」
インターンで切島はヴィランの攻撃により吹き飛ばされて盾となることもできなかったことがあった。だが二度目は受けきり、プロヒーロー・ファットガムが決定打を打ち込む隙を作れた。
その時の経験を活かし、始めから靴を脱いでいる。
硬化し尖った足で地面を掴み、投げや吹き飛ばしへの耐性を獲得したのだ。地形走破でも障害物を掴んで乗り越えられるようになり、芦戸の協力もあって機動力が大幅に向上するという成果をあげられた。なお担任や一部の友人には「もっと早く気付け」と叱られた。
投げ飛ばそうと広げた宍田の掌に、硬化によって体から棘を生やして攻撃する。生命力が高く多少の傷なら問題にならない異形型、身体強化型へなら使える攻撃だ。それ以外相手だと殺傷力が高すぎる場合が多いが、今回は問題ない。数分もすれば回復するだろうが、それまで片手を使うことはできないだろう。
「まだまだ行くぜッ!」
「やぁっ!」
「食らうかよ!」
上鳴の“個性”は“帯電”だ。纏うのが基本で放出も一応できるが制御はできず、サポートアイテムを用いないと全方位にばらまくしかできない。それも10mが限界という射程の短さだ。
だから長い棒を持った。割と高性能なサポートアイテムで、普段は短くして持ち運びができ、必要に応じて数メートルは伸びる。なのに軽くて頑丈で扱いやすいという地味ながらこだわりの逸品だ。
中距離から助走をつけて勢いのまま殴り飛ばせば相打ちにはできる程度だった上鳴も、これだけで紙一重の回避では感電し動きが鈍ってしまう厄介なアタッカーとしての性能を得たのだ。ついでに放電を乱用しなくなったので継続戦闘能力も大幅に向上した。なお担任や一部の友人には「もっと早く気付け」と叱られた。
この攻防で円場がガードせず宍田が受けた場合、感電で動きが鈍りそのまま袋叩きにされていただろう。その辺りの判断の早さがB組の優秀さを示していた。
「こりゃもう無理だ! 引くぜジェボーダン!」
「承知しましたぞ!」
奇襲失敗を悟ると円場と宍田は即座に撤退を選んだ。切島の吹き飛ばし耐性に棘、上鳴の棒術、口田の索敵網の精度などの情報は得られ、傷も仕切り直せば問題なくなる程度。成果は十分と考え、この後の動きも考慮しての行動だ。
「どうするよ? 追う?」
「んー……追うしかないかな? どう見ても罠に誘ってる動きだけど、奇襲何回もされたらこっちがまいっちゃうもん。マーカーはつけといたけどいつまで気付かれずに済むかわかんないし」
「なら罠踏み潰して進むしかねェか。俺らの機動力じゃ宍田は捕まえられねぇし」
「追撃だと索敵は間に合わないかもしれないから、僕も戦闘に集中するね」
話しながら追跡を進める。
罠があるのは確定。そのうえで、
なおB組視点では、ヴィランがヒーロー狙いで行動しているので罠を仕掛けて一網打尽にしようとしている状況になる。実戦ではヴィランが諦めて追跡をやめどこかに行ってしまったり、一般人を攻撃してヒーローを釣りだしたりすることがあるので採用しづらい作戦だが、今回の訓練的にはそれらが起きない状況が作れていることになっているので問題なしとされる。
宍田に付けたマーカーはある位置で止まった。そこで骨抜を中心に罠を準備して待ち構えているのだろう。
奇襲があるとすれば、罠ごと一網打尽にする攻撃を防ぐために罠の手前で潜伏しているだろう。A組チームもそこまでは読めていた。
「ッッッ!!!???」
奇襲が来ることは読めていたのに、奇襲を察知することはできなかった。
潜伏していた鉄哲に上鳴が殴り飛ばされる。もちろん上鳴だって黙ってやられているわけではない。電気を纏って殴り返すも鉄哲は意にも介さず殴りつけた。
「俺拳ッ!!!」
鉄哲の“個性”は自身を鉄に変える“スティール”だ。
鉄の塊となった鉄哲は呼吸をしないし、心臓も脈打っていない。合宿時のヴィランの襲撃で危機感を覚え、“個性”伸ばし訓練で炎の中で過ごす中で身に着けた力だ。こうなった鉄哲は生存自体が困難な環境でも平然と行動を続け、無くすことはできないはずの呼吸音や心音などで察知できない。鉄だらけの工場地帯ということもあって、A組チームは鉄哲が動き出すまでまるで気付くことが出来なかった。
また鉄の塊ということは、人体と違い電気が素通りする。地に足を着けた状況だと電気を逃がす先があるので、なおさら電撃ではびくともしない。上鳴にとって相性最悪の相手だった。
戦闘不能の上鳴を担いだ鉄哲が逃走する。逃走先でB組チームが待ち構えていて、A組チームは仲間を助けるべくそこへ飛び込むしかない。作戦を立てて敵を攻略するという意味ではA組チームは完全に負けていた。
だからそれを覆すのは個人の実力だ。
『鋼の闘士よ。止まりなさい』
口田の“生き物ボイス”は生物に指示を出して操る“個性”だ。
そして人間も生き物に違いはない。ただ理性と意志力で指示を拒否できるだけだ。
なら無視できないほど“個性”の強制力を上げればいい。すぐ振りほどかれるとしても、一時的に足を止めさせるくらいはできる。そこを恵まれた体躯で殴り飛ばせばいい。
「ッ、この!」
『鋼の闘士よ。弛みなさい』
鉄と言っても、超人社会では色々ある。プロヒーローが殴っても易々とは壊せない物から、雄英高校入学試験で使われた中学生が殴ってもガンガン壊せる物まで様々だ。
鉄哲は特訓によって自身の強度を上げてきたが、発動型の“個性”ゆえに意識が逸れれば強度は下がる。そこに口田の巨躯から繰り出される掌打が強かに突き刺さり、上鳴を手放し戦闘に集中せざるを得なくなった。
一対一なら“生き物ボイス”による妨害があろうと普通に硬くて重くて強い鉄哲が有利なのは変わらない。だが想定以上に強い口田に手間取り、足止めされることになるだろう。切島以外では有効打を打てず、足止めに動くとしても切島が残るしかないはず、というB組の思惑が外された瞬間だった。
「ここは任せたぜ! 俺が先に行く!」
鉄哲と殴り合う口田と、放り捨てられた上鳴の介抱に動く葉隠に声をかけ、切島が鉄哲を追い抜いて先行する。
切島の“個性”は硬くなることだが、同時に体が大きくもなっている。訓練で“硬化”発動状態で壁にめり込み抜けなくなるも、解除したことで体が縮み抜け出せたこともあったことから気づけたのだ。
その方向で“個性”を伸ばし、最大で15mほどまで巨大化できるようになった。巨大化すればサイズ相応のパワーを得られ、手足が伸びて歩幅も広がり速度も増す。ただし大きくなりすぎると小回りが利かなくなるし、密度も下がって脆くなる。この状況では宍田と同程度の大きさがベストと判断した。
「ッ、リアルスティールは捕まったか! ならこいつ倒して援護に行こう! ジェボーダン、
「了解ですぞ!」
予定と違い鉄哲は現れず、切島が強襲を仕掛けてもB組チームは柔軟に対応する。
メイン盾の鉄哲抜きに切島とやり合うのは不利と判断。“柔化”で柔らかくなった地面に沈めて、無酸素戦闘強要という作戦は即放棄した。液状化した鉄やコンクリートを宍田が掬って投げつけ、命中したところで“柔化”を解除。動きを封じ、出来れば口をふさいで酸欠により“個性”を維持できなくする作戦に移る。
「フッ! フッ! フッ! フッ!」
視認不可能な空気の壁が宍田の行動を援護する。切島の進路に設置して妨害、足に輪のような形で作り拘束、宍田の進路に続けて設置し空中を駆け抜けさせるなど非常に器用だ。
へばり付いた鉄もコンクリートも空気の壁も、どれも砕ける切島でもこの攻勢は厳しい。拘束の解除に手間取っているうちに次の拘束が行われ、徐々に追い詰められていく。他のメンバーが鉄哲を超えてくる前に仕留めようとB組チームも本気だ。
だがそれも間に合わなかった。
「ッ……!?」
最悪のタイミングで円場の首が締め上げられ、意識が落ちる。
視認できない葉隠の奇襲だ。後ろから忍び寄り透明な糸で締め上げるという単純な攻め手である。B組は「鉄哲が一人もダメージを負わせられないことはあり得ない。介抱で一人は割かなければならなくなるはず」と考えていたが、葉隠は「上鳴は時間をおけば自力で復帰可能」と判断し放置した。棒術を始めとする格闘術訓練の成果である。
葉隠は透明人間だが、それは肉体が透明なのではない。もしそうだった場合、食べたものは透けて見え居場所はバレバレだ。自分と認識しているものを透明に変えるからこその“透明化”の“個性”である。
なので自身の毛髪を元に作成したコスチュームを使用している。これなら自分判定で“透明化”を発動できるし、胃の中の食べ物と同様にマントなどの内側に物を隠せば透明にできる。多くのサポートアイテムを駆使する暗殺者スタイルで活躍する戦法を確立しているのだ。
なお“個性”の本質は光を操ることにあり、光を透過させることがデフォルト状態というだけだ。一瞬強烈な光を出して怯ませたり、幻を投影したり、レーザーを曲げたり拡散させたりして援護もできた。ただ今は“個性”頼りより、透明な体を活かして普通に戦闘技術磨いて奇襲仕掛けた方が強くなれそうと考えただけだ。今のスタイルで壁にぶち当たれば、もう一度“個性”を見つめ直して他の方法も探るだろう。
「隙見せたな!!」
空気の壁が作られなくなり、空中での足場が途中で途切れ飛び降りるしかなくなった宍田と背負われた骨抜に切島が迫る。
さっきまでは流れ弾で設備を壊し過ぎるのを考慮して、硬化で出した棘を自分で砕いて投げつける戦法は封印していたため防戦一方だった。その鬱憤を晴らすべく二人に飛び掛かる。
圧倒的硬度と鋭さを持つ切島という弾丸を真正面から防ぐことはできない。できるとすれば鉄哲くらいだ。だから二人でやり合わせるため鉄哲を奇襲に向かわせたのに、鉄哲の足止めを口田にされてしまったツケを支払う時が来てしまった。
やりすぎない程度に切られ戦闘能力を喪失した二人を放置して切島は引き返す。口田が鉄哲の相手をしたままだからだ。満身創痍の二人は葉隠が拘束してくれると理解しているので問題ない。
『弛みなさい。弛みなさい。弛みなさい。弛みなさい。弛みなさい』
「ぐッ……! ヌゥ……! ……アバババババババ」
「ようやく効いたか。爆豪ほどじゃねぇけどヤバかったな、こいつ」
駆けつけてみたら終わっていた。
あまり移動せず殴り合っていたせいで、上鳴のサポートアイテムであるモーターブーツ―――動力は上鳴が担当するのでとても小型で高出力。コレで平地での機動力はクラス上位になった―――が猛威を振るったようだ。周囲を移動しながら、同じくサポートアイテムの電磁石付きワイヤーで転ばして拘束したらしい。そこへ口田の“生き物ボイス”を重ね掛け。鉄化を維持できなくなりついに電撃で沈んだ。
「レッドライオットか。こっちは勝ったぜ! そっちは?」
「インビジブルガールが拘束してくれてるはずだ。戻る前に倒してはおいた!」
「じゃ、じゃあ早く戻ろう。万が一があったらいけないし」
『4-0でA組勝利!!』
最初の奇襲を受けた後、追いかけないと何度も奇襲を受けてました。
鉄哲が“生き物ボイス”が人に効くと知ってれば、耐えてそのまま上鳴連れて罠仕掛けてるとこまで釣られてました。鉄哲ごと切島が沈められ、残るメンバーは宍田を中心に狩られたでしょう。仕切り直しは困難です。
葉隠の奇襲のタイミングがズレてると、宍田が骨抜連れて逃走し仕切り直しされます。鉄哲と合流して口田、上鳴が捕まってたかもしれません。
4-0で勝ちましたが割と薄氷の勝利です。