ピンポーン、と。りみはインターホンを押す。
しばしの静寂の後、玄関のドアが勢いよく開かれた。
「りみ〜! いらっしゃい! お誕生日おめでとう!」
「うん、ありがとう、ひまりちゃん」
ひまりは笑顔でりみの手を取ると、
「ほら入って入って! 今日は目一杯お祝いするって決めてるんだから!」
「わわっ、ひまりちゃん、自分で歩けるよ〜」
自室に案内したひまりは、小さな紙袋を取り出した。ピンク色をしたそれは、可愛らしいラッピングが施されていた。
「まずはこれ! 誕生日プレゼント!」
「わぁ、ありがとう! 可愛い〜」
「開けてみて!」
「うん!」
丁寧にリボンを解き、慎重にテープを剥がすりみ。そして袋の口から取り出したのは、
「──ヘアピン?」
「そう! 前に雑貨屋さんで見つけて、『これだ〜!』ってなって買っておいたの!」
薄いピンク色をした、花柄のヘアピン。決して目立つ派手さは無いが、アクセントとしては申し分ない。
「し、か、も、──ホラ見て!」
そう言ってひまりは、自分の髪を指差す。そこには、
「あっ、同じヘアピン……?」
りみが手に持っていたヘアピンと、全く同じモノが留められていた。
「そう! 私とお揃い!」
「わ〜! め〜っちゃ嬉しい! ありがとうひまりちゃん!」
お礼を言ったりみは、自分の髪に手のヘアピンを留める。
「えへへ、お揃いだね」
「〜〜〜〜っ! りみ〜! ホントにいい子だよ〜!」
「わわっ、苦しいよ〜」
感動し抱きついたひまりの腕の中で、りみは小さくバタつく。
「ごめんごめん、つい感極まっちゃって」
「でもありがとうね。素敵なプレゼントだよ」
すぐに解放したひまりは、なおも得意げに腰に手をやる。
「ふっふっふ……これで終わりだなんて、まだ言ってないよ?」
「え?」
「ちょっと待ってて!」
言うが早いか、ひまりは部屋を飛び出していった。バタバタと廊下を走る音が響き、すぐに静かになる。
待つしかないりみが用意されたクッションに腰を下ろしてすぐ、
「──お待たせ〜」
ひまりが戻ってくる。その手には、小さな箱が。りみがその箱に描かれたロゴを見た瞬間、大きく目が見開かれた。
「そ、それってもしかして、昨日駅前に出張オープンした期間限定の有名スイーツの……⁉︎」
「お、流石りみ。チェック済みだったか〜。でも食べた事は?」
ブンブンと首を横に振るりみ。
「な、ないよ! 物凄い行列で、三時間並んでも買えなかった人もいるって……」
「今朝早起きして、並んで買ってきた!」
「す、凄い……!」
「だってりみの誕生日がある今週末に、いきなりオープンだよ? これはもう、二人で食べるしかないって思って!」
箱からひまりが取り出したのは、ショートケーキとチョコレートケーキ。どちらもいたってシンプルな形だが、鼻腔をくすぐる甘い匂いは初体験と呼べる代物だった。
「りみが主役だから、りみから好きな方選んでいいよ」
「ホントに? じゃあ、チョコレートケーキに──」
りみは黒曜石のようなケーキを指差し、その直前で止まる。
「──チョコレート、大好きだけど……でも、このお店のショートケーキは一番人気で世界一って言われてるくらいやし……。きっともう、今日しか食べるチャンスは無いんやな……。うぁぁぁウチには選べん〜!」
「な、悩みすぎてりみが関西弁に……。──り、りみ落ち着いて!」
肩を揺さぶられたりみは、力なくひまりを見つめる。
「やっぱり私には選べないよ……。ひまりちゃん、先に決めて……?」
「ごめんてりみ! まさかそんなに悩むなんて思わなかったから……。──ちょっとだけ待ってて!」
ひまりは立ち上がると、再び部屋から飛び出していった。バタバタと激しい音が聞こえ、
「──お待たせ!」
すぐに戻ってくる。その手には、
「え、えええぇぇっ⁉︎」
煌めくナイフが握られていた。
「最初からこうすれば良かったんだよ〜」
ニコニコ笑顔で歩み寄ったひまりは、
「──えい」
ケーキを二等分。やや薄くなってしまったケーキ二種類をお皿に取り分けると、片方をりみに手渡した。
「あ、ありがとう……」
ありえないと分かっていても、若干顔が引きつってしまったりみ。
「?」
そんなりみに首を傾げたひまりだったが、すぐに興味は目の前のケーキへ。
「さ、いっただきま〜す! ──ん〜〜〜〜! 何これ! こんなケーキ初めて食べたかも!」
目を輝かせるひまりを見て、ようやくりみも自分のフォークを手に取る。そして、
「め〜っちゃ美味しい!!!」
同じように、瞳からお星様を飛ばす。
「いや〜、こうやってりみをお祝いできて、こんな美味しいケーキ食べられたんだもん。今日はいい日だな〜!」
「ぷっ……ひまりちゃん、それ私のセリフ!」
「あ、それもそっか。あはははは! ──りみ、これからも一緒にベースとバンド、頑張ろうね! ──えい、えい、おー!」
「おー!」