私は毎朝空腹と痛みで目を覚ます。
毎日暴力を振るい夜中遅くに帰ってくるお父さんとお母さん。
こんなボロボロの家に住んでいるのに、お父さんはいつもお酒を大量に買ってくる。私にはご飯もくれないのに、いつもいつも大人しか飲めないお酒しか買ってこない。
時々早く帰ってきたと思ったら、私を殴ってくる。お父さんは大きいから殴られたら目の前が真っ暗になって、息ができなくなるほどに痛いけど、悲鳴をあげたり反抗的な態度をとるとまた殴られちゃうから、大人しくするしかない。
お母さんも、お金なんてないはずなのにいつも立派なお洋服にキラキラしたカバン、濃いお化粧に高そうな香水をつけている。それに、しらない男の人を連れ込んでいるのも知っている。
お母さんはまだ私にご飯をくれるけど、給食みたいに料理してあるものじゃなくて、お店で買ってきたものや、お母さんの食べかけだったりをいつもくれる。お母さんにお腹すいたっていったり、もっと食べたいっていったら暴力を振るってくる。けど、お父さんよりマシだからまだ好き。
朝、お母さんが置いていった食べかけのパンを食べて、二着しかない服を着て、近所の人がくれた男の子用のランドセルを担いで学校に行く。
でも、学校でも私の扱いは変わらない。
私のお家が貧乏だから、クラスのみんながいじめてくる。
先生はそれを知ってるはずなのに、止めてくれないし、注意もしてくれない。
悪いことしてるはずの子たちを叱ってくれない。
それに、私が世界でも希少な艦娘って言う存在だから、私をいじめてくるらしい。
私の整った容姿が、艦娘が生まれた時から持っている優れた才能があるから、私をいじめてくるらしい。
世の中では艦娘として生まれることはとても幸運だと言われている。
でも私は、艦娘として生まれて幸運だったことなんて一度もない。
両親は私を艦娘だから育ててくれないだ。
クラスのみんなは私が艦娘だからいじめてくるんだ。
きらいだった、両親もクラスのみんなも、艦娘も、全部全部きらいだ。
今日もまた、クラスメイトからいじめられる。
一着しかない体操服をトイレで汚されて、はさみで破かれて、私の机に見せつけるようにして置いてある。
それで泣きそうになる私をみて、いじめて来る子たちはまたニタニタ笑うんだ。
それでも、満足できない子たちが、私に暴力を振るってくる。
艦娘の体が丈夫だからって、手加減なんてしてくれない。
でも、ご飯もぜんぜん食べれなくて、いつも暴力を振るわれている私はみんなより小さくて、細くて、ガリガリで、傷だらけで、みんなが思っているよりずっと痛い。
でも、我慢するしかなくて…我慢するしかなくて、なにもできない。
痛い、辛い、いやだ、こんなのもういやだよと心の中で思っても何も変わらない、私の周りは何も変わらない。
ずっと、ずっと、辛いままなんだ。そう思うと、また涙が出てきてしまった。
泣いたって、暴力がもっと振るわれるだけなのに。
ただ、みんなの馬鹿にした笑い声だけか私の耳に響いてくる。
ガラララッ
ふと、私の耳に笑い声以外の音が響いた。
クラスの扉を開ける音。
私をいじめてくる子が増える音だ。
「そこ邪魔だから、どいてくれない?」
教室に入ってきた子は男の子たちに声を掛ける。なんだろう?私を殴りたいからどいてと言っているのだろうか?
「お、浦田じゃん。どう?お前もこいつ殴ってかない?スッキリするよ?」
その言葉に浦田と呼ばれた男の子はチラッとこちらを見て、男の子の方に向き直る。
「別にいいよ、殴ったって何にもスッキリしないから」
私は浦田と呼ばれる男の子の言葉に驚いてしまう。今まで私が殴られないことなど無かったから。みんながみんな私を殴って傷つけてきたから。
「にしても、止めろよ本当に、そういうことするのはさ」
もしかして、私に対するいじめを止めてくれるの?
「俺は名門の大学に入らないといけないから、中学高校共に頭のいいところに入学する必要があるの、俺のいた小学校の同じクラスであったいじめなんかのせいで将来に影響があったら困るんだよ。せめて、もっとバレないようにやってくんない?」
「え?ならバレないよにならいくらでもやってて良いってわけ?」
「そういうことだ」
違った、私の為の行為でもなんでもなくただ彼には都合が悪いから止めるという自己中心的な考えだった。
少しでも味方ができると希望を持ってしまった自分が恨めしい。諦めるしか私にできることは無いのに…
「にしても、よくお前らこんなことする暇があるんだな?」
「あ?どうゆうことですかぁ?」
「明日普通にテストあるだろ?勉強もしないでこんなことしてて、良い点とれるのか?」
その言葉に周りのいじめっ子が反応する。
「あ!やっべえ、ホントじゃん、次も点数下がったら親に怒られちゃう」
「お、俺ゲーム機買って貰う約束してたんだった」
全員それぞれ言いながら私のことなんて初めからなにもなかったように帰って行く。
その場には浦田と呼ばれた男の子と私だけが残る。
「お前、やりかえさないの?」
男の子が何か喋っている。
けど私はいじめがいつもより早く終わった安心感と、自分の泣き声で意識が全くそちらにむかない。今日も変わらず辛かったし、悲しかった、大事な体操服もグチャグチャにされて、殴られて痛かった。私だけいつもこんな事に、なんでなんでなんで?
「おい、お前!」
「は、はい!?」
私は強い口調で発された言葉に恐怖で反応してしまう。
「お願い、殴らないで…」
「鉛筆握る時に気になるから殴らなねえよ」
男の子はそんな事を言いながら呆れたようにこちらを見ている。
「それじゃあ、俺は勉強しなきゃいけないから」
そういって、男の子はクラスを立ち去った。私は一人そこで涙が枯れるまで泣いているしかなかった。
次の日も昨日と同じ様に親に怯えながら母親の食べ残しを食べて男子のランドセルを背負い学校に登校する。
あの浦田という男の子が言っていた通りに今日はテストがある。でも私は空腹と痛みで授業もまともに集中出来なくて、最近は保健室で休みがちだったのもあり、テストは満足に解けなかった。
授業を普通に受けていれば簡単に100点なんて取れるテストだというのに、私は周りと違って100点を取れていないんだろう。それを理由にまたいじめられるんだと思うと、暗い気持ちが私を支配する。逃れられないととっくの前に分かっているのに泣きそうになってしまう。
「おいおい貧乏、どうだったぁ?頭悪いお前がまともに解けたかぁ?」
そんなこと分かってるくせに、私を追い詰めたいからそんな意地悪な事を聞くのだ。
「解けてない…」
私がそういうと男の子は笑って他の友達の方に私が頭の悪い馬鹿だアホだノロマだと大きな声をだし言いふらしながら走っていく。そして笑ってくるのだ、私を罵倒してみんなで笑ってくるのだ。
私が勉強できないのは彼らのせいだというのに、私がまともに勉強できないのは親のせいだというのに、私は私のせいで勉強ができないわけではないのに…
悔しくて悔しくて、また涙がでそうになってくる。血が出そうなほど拳を握ってしまう。
けど、そんなことをしてもただ辛いだけだし、毎日ずっと泣いて枯れる寸前の涙をまた流したって昨日よりも辛くなるだけ。
私は彼らから逃げるように図書室へ走った。
私が唯一落ち着ける場所といったらこの図書室しかなかった。いつも司書の先生がいるし、図書室ではうるさくしてはいけないし、走ったりもしてはいけない。だから、少しの時間ではあるが、図書室にいると落ち着ける時間が作れる。
それに私は本を読むのが好きだ。本の中に広がる世界は主人公や仲間たちにとってとても快適で都合の良い世界で、何よりも幸せに包まれている。
私も物語の登場人物だったらどれだけ幸せだったんだろう?物語の中に出てくるお姫様だったらどれたけ良かったんだろう?と何度も思った。けど、本の世界に浸っている間はこの嫌な現実を忘れることができるから私は本を読むのが好きだった。
いつも読んでいる物語が置いてある本棚へいく。
でも今日は何故だか分からないがいつも避けていた、艦娘関連の書籍が置いてある本棚を前を通ってしまった。
艦娘、私が愛されない原因の一つでもあるからできれば見たく無かったし聞きたくも無かった。けど、今日に限ってその本棚の一冊の本に目がいってしまって、どうしても気になってしまった。
私はその本の背表紙を眺める。そこには、駆逐艦神風と書かれた本があった。私は自然とその本に手が伸び、本を手に取った。表紙には紅い綺麗な髪を腰まで伸ばし黄色くて大きな可愛いリボンを付けたキラキラとした女の子がいた。私とは全然違う、幸せそうな顔をして笑っている可愛い女の子だ。
それだけで、暗い感情が湧き出して喚きたくなってしまうが、でもそれ以上にこの神風という艦娘がどんな子だったのか知りたくなってしまっていた。
私はその本を読み始める。
神風型駆逐艦、一番艦、神風、第二次世界大戦での激戦を生き残り終戦時には復員船としての任務にも就いていた船の魂が艦娘として蘇った存在とされている。深海棲艦との戦争で多くの戦果を挙げており、特に潜水艦相手に多くの戦果を挙げているらしい。勝ち気で気が強く、生真面目な性格として知られている。
本にはそんな事と共にどういう経歴を辿ってきたかと艤装という物について書かれていた。
そのことについては難しくてよく分からなかった。
けど、本の最後にはこの写真に写っているだろう本人が書いたであろう文が載っており、そこにはその艦娘の幸せだという様子があふれ出んばかり書いてあって、その生活が幸せそうで、大切な人がいて、大切な仲間がいて、大切な姉妹たちがいて、本当に満ち足りていて、私はその様子に、抑えきれない程の吐き気が襲ってくる。
図書室で走ってはいけないことなんて忘れて、トイレへ急いだ。
トイレで一通り吐いて、こみ上げてくる涙と嗚咽を抑えきれずに胃酸と共に流した。
理解したくなかった、人間だと理解されず、戦いの場に駆り出され、いつ死ぬかもわからない場で、私より不幸だといえる場で、彼女は笑っているのだ。幸せだと笑っているのだ。
私はこんなに不幸なのに、彼女はまるで幸せそうなのだ。
同じ顔をして、同じ髪をもって、同じ名前だってあるのに、その中身は全く違う、彼女と私は全然違う。
それがなによりも分かりたくなかった。
私は何もないのに、何も手に入れられないのに、なんで、なんで。
私はずっと泣いていた。
放課後、ずっと泣いていて、授業にでれなかった私は、それを理由にまたいじめられていた。
なにもしてくれない先生に叱られた後だっていうのに、その後にまた辛い思いをしなくちゃならない。
つくづく私には理不尽だ。
泣きたくても今はひとしきり泣いた後だから涙がでない。それに加えて泣きつかれてしまって声をあげる気力もない。
ただ、殴られて罵倒され、池に落とされた。けど、今日は物を壊されなかった分ましだ。
「ははは、今日こいついつにもまして元気ないなぁ」
「面白くねえなあ、これじゃあ、ストレス解消にならないよぉ」
いじめっ子たちはまた勝手なことを言っている。
私がこんな辛い思いをしているのに、私にはなんにもいい思いをする事はない。ただ辛いだけ、ただ痛いだけ。最近は痛みと空腹で夜も眠れなくなってきている。
この苦しみから逃れるためにはどうすればいいのか考えるようになった。昔観たニュースで中学生が自殺した理由うについて話していた。確かその中学生はいじめの辛さから逃れたくて自殺したんだったけ。確かにそれは良さそうだ。今でもとんでもなく辛いんだ、どうせ死ぬ時の痛みなんてこの辛さに比べれば全然ましなんだろう。その痛みもすぐに終わると考えればその苦痛も気にならない。
どうしようか、どうせやるなら早い方がいいよね?今日やる?その方がいいかな?飛び降りる場所は学校の屋上でいいよね。それ以外で高い場所に行けるとこ知らないし。
いじめっ子にも少しはやり返せるかもしれない。
「で、どうする?」
「どうするも何もこいつ面白くないし、今日はもう帰ろうぜ」
「そうだな、今日はもうこの愚図置いて帰るか」
「本当、こいつ頭もわりいしガリガリ過ぎて運動もできねぇ」
「うわっ、本当コイツいいとこねえじゃん」
「何それ笑えるw」
それはお前らのせいだと思ったが、思うだけ無駄だ。別にコイツらは気にしないし、反省もしない。それに親がどうしようもないということもある。結局根本的な解決はできないから逆らったって何の意味もない。
「にしてもコイツこれで艦娘なんだぜ?信じられる?」
「ないない、こんなヤツが艦娘なんてないだろ?」
「それが、本当なんだよ。なぁ、倉持」
私はいじめっ子にそう書かれながらも腹を蹴られる。反応する気力も無くて、うっという小さい呻き声がでるだけだった。
「ふーん、ならコイツが艦娘ならコイツにも姉妹艦ってヤツらがいるってことか?」
なんだろう?コイツらは何を話し始めたんだろう?
「へー、なんだそれ?どういう関係?」
「なんでも軍艦には型っていうのがあるらしくてさ、その型の中で作られた軍艦を姉妹艦っていうらしいよ」
「へぇー、それじゃあコイツは何型なんだ?」
「神風型っていうらしいよ?」
一体何を話し始めたの?このいじめっ子たちは?
「それもさ、信じられない事にコイツその中で一番年上、長女らしい」
「え?マジw、信じられん、こんなバカが長女w?」
「え?じゃあコイツの妹たちも全員バカじゃないの?」
「あ、それ言えてるw」
「絶対バカだ、コイツの妹たちw」
私はその言葉を聞いた時に無意識のうちにいじめっ子たちの方を睨んでいた。何故だか分からない、ただ原因不明の苛立ちが溢れて仕方なかった。
睨みたくないし、逆らうことも良くないって分かってる。けど、どうしても、どうしても見たこともない妹たちをバカにされたことが憎くて憎くてしょうがなかった。私の知らないところにある、よく分からない気持ちが妹をバカにしたことを許せないと叫んでいた。
「なんだコイツ睨んでるぜ」
「お、やっとやる気でてきた?でもいつもの反応と違うなぁ」
「いいじゃんいいじゃん、反応無いよりかは数倍面白いよ」
そう言って一人が私を蹴ろうと足を振りかぶってくる。私はよく分からない怒りに流されるままに動かない体を無理やり動かしていじめっ子の足にしがみついた。
反撃にでるとは思ってなかったのか、いじめっ子はバランスを崩し倒れた。
「痛った、コイツ何して」
私はいじめっ子の上に馬乗りになり、頬にビンタをした。けど、殴ることに慣れてない貧弱な私の手の方が逆に痛んでしまった。
「お前、全然痛くねぇんだよ!!」
そういうと、いじめっ子は私の顔面にパンチをしてきた。私は避けられずに無様にそのパンチを食らった。一瞬痛みで意識が飛び、気が付いたら地面に倒れていた。
「はぁ、何だよコイツ、サンドバックが反撃してくんじゃねえよ」
いじめっ子たちはそういうと倒れてた私を次々に蹴ってくる。全身を蹴られて鈍い痛みが、骨に響く痛みが絶え間なくやってくる。意識を失っては痛みで覚醒して、また気絶して覚醒しての繰り返し。
しばらくして、やっと暴力が止んだ。
「おいおい、コイツとうとう血吐いたぞ、バッチィ」
「ま、コイツが暴力振るったんだ、コイツが悪いんだから仕方ないよな」
そんな事をゲラゲラと笑いながら私の髪を掴んで持ち上げる。
私はコヒューコヒューと息しかできない。
「どうしようか、次はコイツの顔面ボコボコにしようか?」
「お、それいいねぇ」
「よしよし、そうしよう」
そんな風な会話をどことなく聞きながら、意識を保つので精一杯で頭に入ってこない。霞む視界でいじめっ子がゲラゲラ笑いながら手を振りかぶる。
ガラララッ
その時、扉の開く音がした。
「おい、お前ら、何やってんだ」
「あ?お前浦田じゃないか?お前こそ何やってんの?」
「違う、俺がお前に聞いたんだ、答えろよ」
「は?何ってコイツが暴力ふるってきたからボコボコにしてあげてるだけですけど?何?」
「俺、言ったよなぁ、やるならバレないようにやれって」
「はぁ?何?全然この程度でバレませんけど?」
浦田くんはそこで私の状態を確認する様に一歩前に出た。
「コイツ、血吐いてんじゃねえか、やり過ぎだ」
「それはそうじゃん、コイツから暴力ふるってきたんだからそれ相応の仕返しはするよぉ、てかお前こそなんなの?邪魔しないでくれる?頭いいからって調子乗ってじゃんないよガリ勉が、お前もボコボコにしてやろうか?」
「じゃあしてみろよ」
バチィィィン
教室に乾いた音が響いた。
「ほら、お前のいうガリ勉ぐらいボコボコにしてみろよバカのアホの愚図野郎共!!」
「やったなぁ、浦田ぁ!!」
その叫びを合図に浦田という男の子といじめっ子たちが殴り合い始めた。私は何がなんだか分からなくて、ただ呆然とそれを見ているだけだった。
でもそのうち、喧嘩も終わって、いじめっ子たちは面白くないと帰っていって、そこにはボコボコになった浦田という男の子だけが残った。
「大丈夫かお前」
私は無言で首を振った。
「相当酷いことされたんだな、すまん助けるのが遅くなった」
私はその言葉にも無言で首を振った。
そもそも助けてくれるなんて思ってなかったし、実際に助けてくれた。それだけでも私からすれば全然良い。
「何で、助けたの?」
「どうでもいいだろ、そんな事」
どうやら答えてくれる気はないらしい。
「それよりもお前名前なんて言ったっけ?」
私はその問いにまだ震える声音で答えた。
「倉持神風、私の名前は倉持神風」
「そうか、そうだった気がするな。俺は浦田白兎だ、よろしく」
夕陽が刺すこの教室で、私は浦田白兎という奇妙な男の子と初めて言葉を交わした。
ちなみに、この世界での艦娘は姓は親の名前を継いで名をその艦娘の名前を付けることになります。成人すれば、本人の意思で親の付けた名に変える事もできますが、それは稀なパターンです。
因みに、姓が生まれてきた艦娘と被ってしまった時は名を親が付けられます。