ありふれない家族が世界で最も幸せに   作:ゼノアplus+

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第一幕
全ての始まり


「見てしまいましたね?」

 

 

恐怖……それを感じたのはいつ以来だろう。5歳の時に交通事故で死にかけたこと?その事故で私の代わりに死んだお父さんの葬式で遺体を見たこと?お父さんを愛していたお母さんから虐待を受け続けていたこと?お母さんの新しい恋人にレイプされかけた事?自殺しようと、橋の上で遥か下の川を眺めた事?

 

 

いいや、もうそんな事すら忘れてしまいそうになるね。僕の後ろにいるのは書類上家族だったはずのナニカ。振り向いたらおそらく僕の命はないだろう。そう感じてしまうほどの気配を感じる。こんなことになっているのは、まあぶっちゃけて言えば僕が原因だ。

 

関係ないと言われるかもしれないけど、僕は壊れている。さっき恐怖を感じたことを思い浮かべたけど、全部経験談だ。でも、橋で自殺しようとした時に、僕にとっての運命の人が現れた。

 

 

ーーーーもう1人じゃない。俺が恵里を守ってやるーーーー

 

 

人が聞いたら、気休めだって言うかもしれない。自殺しようとしている他人にかける言葉なんて大体が薄っぺらい言葉だから。でも、そうであっても、僕はそう言ってくれた彼のことが好きだ。もう王子様に見えたよ。……今からの状況次第ではもう2度と会えないかもしれないけど。

 

そんな僕の恋路の邪魔をする者はたとえ誰であっても許さない。そう思い続けて数週間。僕はお母さんを脅し続けて生活費だけは入れさせるようにした。まあちょっとしたらすぐに居なくなっちゃったけど。そんな時だ、とある男の人が現れたんだ。

 

 

ーーーー君、僕に雇われないかい?娘としてねーーーー

 

 

意味が分からなかった。娘になってくれ、と言うのはまあ養子になってくれとかそう言う意味だろう。でも雇われる、と言うのがよく分からない。娘を雇う父親がどこに居るのだろうか、いやまず何のために?疑問に思いながらも、いなくなったお母さんから生活費は入ってこないから他に手段なんてなかった。そのままその男の人についていった先の家には、女の人と、僕と同じクラスの同級生がいた。なんでも、その男の人はかなりのお金持ちで、事故で家族を失いその寂しさを紛らわすために給料を払って家族を演じてもらっているそうだ。バカバカしいと思った。家族だと言ってもいつ裏切るか分かったもんじゃないのに。でも、演技力には自信があったからちょうど良かった。鍛える場にもなるし。

 

そんなこんなで僕は中学生になってちょっと過ぎた後のことだ。いくら家族を成り立たせていると言っても、所詮は他人。あの時の男のようにゲスなことを考え出しているかもしれないと思った私は、母親役、父親役、兄役、全員のことを本人がいない間に調べ回った。普段の性格から、そんなことをしないと心のどこかで思っていたのか、父親と母親からは何も出てこなかった時は少し安心してしまった。定期的に調べていたから大丈夫だろう。でも兄は違った。いや、違うとかそう言うモノじゃない。僕が家族の部屋を調べることをやめたきっかけ、最後の日だ。

 

兄がいない時に部屋を調べた。いつも通り整っていて、噂に聞く中学生男子の部屋とはかけ離れた清潔さ。でも、多分本棚の数は異常だろう。なぜなら四方八方、机がある場所以外は全て本棚に囲まれていると言っても過言じゃない。父親が金持ちなこともあって家も部屋も広い。その本棚には、有名どころの小説や、ライトノベル?って言うジャンルとかたくさんの本が並んでいる。あるスペースには兄が気に入っているドラマやアニメ、舞台劇などのDVDもある。たまに見つけるノートを開くと、自作らしい小説もあったりするからきっとそういうアレだと思った。ちなみに中学二年生はもう過ぎてるよ。ただ、すごく面白いから調査そっちのけで読みふけることもあったけどね。問題はその後、机を調べた時だ。几帳面な兄でもミスする事はあるって知った。書きかけのノートが2冊開きっぱなしだったからだ。そのノートは、それだけは見るんじゃなかったと本当に後悔している。現在進行形で。

 

内容はシンプルだ。とある一冊には今僕や兄が通っている中学の人気者や身近な人の情報がこれでもかとびっしり記してある。これだけでもだいぶ恐ろしい。一体いつこんな事を調べたのか。いやどうやって、なぜ、寒気すらしてきた。もちろん僕の事も書いてあった。隠し通しているはずの僕の恋についても。何故か僕の欄だけ明らかに長いのも気になるけど、家族関係だからきっとその分情報も多いんだろうと割り切った。

 

でも問題はもう一冊だ。そっちには、さっきみたいな誰かのことは書いてない。いつも兄が書いているような創作が書いてあった。でも、これは他のとは何かが違う。創作物にしては文字に感情がこもっているように感じる。図書委員をしているだけあって、図書室で本を読むことも多い。本は好きだし。だからこのノートの物語は異常だ。感情がこもっているだけじゃなくて、文脈がどこかすごく生々しい。

 

家族の虐待に始まり学校でのいじめ、さらには死んで神様に出会って転生?したことなど、ありえないはずなのに実体験でもしてきたんじゃないかと言うレベルだ。その後、とある世界に生まれ落ちた人間嫌いな少年は、種族を変えて生き、とある狂気を宿す少女に恋をした。

 

と、ここまで来たあたりで冒頭に戻ろうかな。ちょっとした走馬灯とでも捉えてよ。

 

 

 

 

「見てしまいましたね?」

 

「ッ……お、お兄ちゃん、勝手に部屋に入ってごめんね?私……勉強のことで聞きたいことがあって……」

 

「演技なんてしなくともいいですよ。ノートを見たのでしょう?その通り貴女の性格は知っています。知っていていて敢えて放置していたのですから」

 

「……そうみたいだね」

 

 

振り返るな僕。絶対に……

 

 

「おや、何故其方を向いているんです?4年も共に過ごした仲ではありませんか?」

 

「その喋り方が素の君なのかな?君こそ随分と他人行儀だね」

 

「どうでしょう?秘蔵の品を見られたとあっては私も胸中が穏やかではいられませんがね」

 

「……それは、ごめんなさい」

 

「許しましょう」

 

「…………え?」

 

 

え、良いの!?結構覚悟決めてたつもりだったのに……

 

 

「素直に謝ることは大切なことです。それに、秘蔵の品なだけで別に見られてどうと言うことはありません。俗に言う黒歴史的なものは混じってますが」

 

 

黒歴史……さっきの2冊に?でも一冊は人間観察用っぽくて……てことは……

 

 

「ね、ねえ……黒歴史ってことはさ。この……人間嫌いな少年って……」

 

「私のことですが?」

 

「ッッッ!?」

 

「まあ色々ありましてねぇ……っていうかノートを見たのなら知ってますかね」

 

「じゃ、じゃあ……この最後に書いてあることって……」

 

「む?……ああ、その事ですか。いやぁ、変に書くんではありませんでしたね。まさかバレてしまうとは……」

 

 

てことは……僕の兄なはずの男はやはり……

 

 

「君は人間じゃないんだね」「貴女の事が好きだなんて」

 

「「……………………ん?」」

 

 

今この男……男?はなんと言った?僕のことが好き?なんで!?……あっ。狂気を宿す少女って僕のことかぁぁぁぁぁ!?

 

 

「え、ちょ……どういう……へっ!?」

 

「すぅ……そっちかぁ……やらかしました……」

 

 

思わず振り向いてしまった。そこには、全身が真っ黒で、目?だと思われる部分だけ赤く光っている人型のナニカが頭?を抑えて蹲っていた。。

 

 

「えっと君は……」

 

「……ああ、この姿では分かりませんね。…………俺だよ」

 

「……影二、なんだね」

 

 

突然、姿が僕のよく知る兄の姿になった。

 

「ああ、君……いや恵里の事が大好きな篝火影二だ」

 

「そ、そういう事を真顔で言わないでよ」

 

「……?事実なんだが?」

 

「むぅ……」

 

 

コイツ、女心がわからないんだろうか。

 

 

「ああ、別に返答は求めていないさ。恵里の気持ちは知ってるし、なんなら応援してるしな」

 

「……なんで?」

 

「好きな人の幸せを願うのは当然だろう?」

 

「えぇ……そういう……モノなの?」

 

「さあ、俺は人じゃないし。人間の感覚はよくわからん」

 

「…………」

 

 

空気は依然重いままだ。兄が人間ではないことに突っ込むべきか、その……ああもう言いにくいな!!ぼ、僕の事が好きなことに突っ込むべきか……

 

 

「えっと……その……色々と衝撃的過ぎて思考が追いつかないんだけど……影二はその……何がしたいの」

 

「君が幸せになるための協力をすることかな?」

 

「…………」

 

 

オカシイ…… 僕もなかなか壊れている自信があるけど、影二はもっと壊れている……

 

 

「ま、気にすることはない。俺たちは今まで通り父さんや母さんと一緒に家族を演じてればいいんだよ」

 

「いや、僕の事を好きな人が身近にいる状態で気にするなって言う方が……あっ」

 

「どうした?」

 

「今まで何度かイレギュラーに光輝くんと2人っきりとかの状況があったけど……」

 

 

すごいいい笑顔でサムズUPされた。

 

 

「……僕が君の気持ちに答えてあげることはないよ」

 

「分かっている」

 

「君のメリットが無さすぎると思う」

 

 

好きな人がその好きな人と結ばれるのを協力する。こんなバカな事をどうしてするの?逆に不安だ。いま排除しておかないと……いや、無理だね。あれは人が相手してどうにかなる存在じゃない。

 

 

「さっきも言っただろ?俺は恵里の幸せを願ってるんだ」

 

「…………」

 

「まあ信じてもらわなくていいよ。そうだねぇ……俺のことに対する口止め料ってことでどうかな?」

 

「口止め料?」

 

「恵里の恋路の協力。どう?」

 

 

口止め料ねぇ……例え僕が影二の事を言ったとしても誰も信じないよ。光輝には劣るけど人気あるんだからね。

 

 

「はぁ……分かったよ。でも、裏切ったら許さないからね」

 

 

悪魔の契約だったかもしれない。でも仕方ないじゃないか。初めて見つけた、狂った人。人って言っていいのかわからないけど、ただ純粋に僕のことを好きなんだろうってことは分かる。……自分で言うのすごい恥ずかしいね。

 

それから約2年とちょっと経ち、高校2年生になった僕たちはあんな事になるなんてね。誰も予想のできないイレギュラー。きっとあの影二でさえも。多分ね?

 

 

 

 

 

 

でもまあアレが起こったのは結局僕たちにとって必要な過程だったんだろう。影二はやっぱり知ってたんだろうね。全く、最悪で最低で、最高のカイブツだよ。僕にはもったいないくらいのいい『家族』だ。

 

え?なんだか雲行きが怪しい?当たり前だよ、これから始まるのは『ありふれた職業で世界最強』になった主人公くんが活躍する物語じゃない。

 

『ありふれない家族が世界で最も幸せに』なるための物語なんだから。

 

さて、ここからは影二に頑張って貰わないとね。()()()()()()()()だから言えるけど、影二が記した物語でもこの物語だけは、僕からしたら面白くはなかったね。

 

じゃ、精々楽しむといいよ。またね。




「絶対に……絶対に……死なせはしない……恵里ッ!!」

影二が演じるキャラの性能に制限は必要?

  • いる
  • いらない
  • どうでもいいから続き書けよ
  • もはや、他作品キャラやめて
  • どうでもいいから恵里との絡みを増やせ
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