ありふれない家族が世界で最も幸せに   作:ゼノアplus+

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館での日々

オスカー・オルクスの館で俺が落ち着いたあとまず始めたのは、神代魔法を会得する事だった。

 

 

「ここですか?」

 

「ああ、この部屋の真ん中にあるデカイ魔法陣に乗ったら生成魔法を得る事ができる。そん時にまあ映像が流れるからちゃんと聞いてやれ。俺たちは……2回聞いたから遠慮しとく」

 

「分かりました。ハジメはなにをするので?」

 

「新兵器の開発だ。俺の義手が出来ただろ?これで両手を使えるようになったから、新しい銃を持とうと思ってな。ドンナーに劣らねえような物を作る」

 

「ほう……ガン=カタですね。楽しみにしていますよ。では」

 

 

案内をしてくれたハジメと少し話してから、扉を閉じて椅子の方を向く。聞くところによれば、この椅子にオスカー・オルクスの骸があったそうだ。別に俺が宗教に興味はないが、一応祈っておく。人間なんぞ心底どうでもいいが、偉人に対しては話が違う。色々なことを学ばせてくれる、俺にとっては師匠ともいえるような存在だ。

 

大体の流れを知っている身として、特になんの感慨も覚えずに魔法陣の上に立つ。

 

 

「むっ……」

 

 

刹那光が爆発し俺の頭に何かが侵入するような感覚を覚えた。

 

 

「不快ですねぇ……思い出したくないことまで蘇ってきます」

 

 

この迷宮に足を踏み入れてから今に至るまでの出来事を走馬灯のように思い出させられる。……やっぱ天之河殺しちゃダメか?……ダメか。

 

 

「試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者といえば分かるかな?」

 

 

俺の目の前にローブを着た男性が現れた。どうやら俺はこの迷宮の試練に合格する事ができたらしい。

 

 

「ええ、存じ上げていますとも。なかなか愉快な魔物を配置してくれたのでね」

 

「ああ、質問は許してほしい。これはただの記録映像のようなものでね、生憎君の質問には答えられない。だが、この場所にたどり着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何のために戦ったのか……メッセージを残したくてね。このような形を取らせてもらった。どうか聞いてほしい。……我々は反逆者であって反逆者ではないということを」

 

 

そして体感では長いオスカーの話が始まった。

 

狂った神とそれに抗う、反逆者改め、解放者のお話。神代の少し後の時代、どうやら世界は争いで満たされていたらしい。この世界に存在する3つの人間族、魔人族、亜人族が絶えず戦争を続けていた。いろんな理由があったらしいが、1番の理由はそれぞれの種族が信じる神による神託によるものだったと言う。何百年と続いたその戦争を終わらせようとしたのが解放者。今話しているオスカー・オルクスが所属する集団だ。

 

彼らは神へと挑んだ勇敢な者達。その中でも先祖返りと呼ばれる強大な力を持った7人を中心した。しかし、どうやらその戦いは、始まる前に実質負けのような状況。神託でも使っただろう神々は、人々を巧みに操り解放者たちの事を神敵として認識させ襲わせたそうだ。過程は省略するが、解放者たちは人々から反逆者として認識され討たれていった。最後まで残ったのは先祖返りの7人のみ。自分たちの力では神々を倒せないと悟った解放者たちはそれぞれ大陸の果てに迷宮を作り潜伏した。試練を用意しそれを突破した者たちに魔法を託し、神々の遊戯を終わらせる者が現れる事を願ったらしい。

 

オスカーの話は終わった。随分と長話に感じたが、それは必要なもの。そしてオスカーは優しく微笑んだ。

 

 

「君が何者で何のためにここへたどり着いたかは分からない。君に神殺しを強要するつもりはない。ただ、知っておいて欲しかった。我々がなんのために立ち上がったのか。……君に私の力を授ける。どのように使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たすのに使わないでほしい。話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意思の元にあらんことを」

 

 

そしてオスカーの映像は終わった。

 

 

「……生憎、私は『零』を知らないので貴方方の軌跡を知りません。いつかミレディ・ライセンから聞く予定ですが、貴方がもうこの世にいない者だとしても謝罪しましょう。私がいた世界の神の身勝手な理由でこの世界を創造された事を。私というアドリブのために、完成された台本を汚すような真似を許せとは申しません。私はただ、恵里のために動くだけですので。アドリブが吉と出るか凶と出るか、見ていてくださいな」

 

 

俺はオスカーがいた場所に向かって腰を折る。詳しくはまだ言わないが、俺自身にも十分原因がある。

 

 

「ふむ、魔法の刷り込みが終わったようですね。さて、ハジメからパクったこのアザンチウム鉱石に早速使ってみましょうか。与える性質は……って、持っている技能でなければ反映されないのですか。今知ったはずなのに、知っているような感覚……違和感しかないですね。仕方ありません。今度にしましょう」

 

 

さて……擬態状態の技能を付与……ん!?そういえば俺、擬態状態では技能を持っていない……使えているような技能は全て、『使()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()』だけだ。……仕方ない。ステータスプレートも

 

 

「……適性があるかだけ確認しましょう。アザンチウム鉱石に、そうですね……適当に『完全擬態』でも付与しますか。……出来ました!?」

 

 

どうやら適性はあるらしい。完全に宝の持ち腐れだ。

 

その後部屋から出た俺は、ハジメの作業場に邪魔に入る事なく自らの時間を過ごしていた。時に、訓練で演じたキャラの魔法でハジメの作業場の壁に風穴を開け、訓練で演じたキャラの豪腕で照明の鉱石の一部を吹っ飛ばし、適当に演じたキャラで希望の花を咲かせたり、訓練で演じたキャラでハジメに【10まんボルト】したりとなかなか楽しい1週間だった。俺が何かするたびに、神結晶アクセサリーの充填魔力の試運転がわりにユエさんが『蒼天』をしてきたんだ。激しい激闘でレベルアップしたユエさんなら何気に俺にもダメージが通るから割と痛い。

 

……すまん、真面目に答えよう。

 

まず、俺もハジメから宝物庫を貰った。なんでも、いつもの人間体への擬態の時の服を主に収めるのに使用しろとのお達しだ。……国宝級のアーティファクトの扱いがクローゼットで良いのだろうか?

 

そしてハジメさんや、俺に演技用の武器は貰えないのだろうか?…………あ、入ってるんですね。後で確認します。

 

……服は自分で作れ?え、あの……滞在期間全部使っても間に合うかどうか……オスカーの私物の仕直しじゃ……あ、ダメですか。……はい(白目)

 

 

気を取り直して宝物庫に入っている武器の確認をしよう。広い場所で一気に全てのものを出したのだが、意外と殺意が高い武器が多い。

 

 

一つ目、【撃槍】

 

これは俺が王国に貰っていた、ボロボロのアーティファクトの槍を修復、強化してくれたものだ。シンプルに強度向上、放出可能魔力向上だ。何気に槍自体の長さも拡張してくれた。オレンジ色なのは俺の趣味だ。

 

 

2つ目、【撃鉄】

 

名前が現品と合ってないけど、ハジメ曰くガントレットらしい。能力は2つ。1つは相手を殴った時に敵肉体の内側に魔力を直接流し込み爆発させる『衝撃』。2つ目は触れた相手が発している魔力をガントレットに貯める『吸収』。【撃槍】と同じくオレンジ色に白、黒のワンポイントが追加されている。

 

 

3つ目、【絶刀】

 

名前の通り刀だ。アザンチウム鉱石を使って強度は抜群。能力は【撃槍】に似て魔力で斬撃を飛ばすことができる。おそらく一番出番が多いのではないだろうか。柄の部分だけ青色にしている。持ち手の下の方のスイッチを押すことで刀身を魔力で肥大させラ◯ダーキックの要領で蹴りつけることで大出力の攻撃をすることができる。魔力を上に放出することで、上空に魔力が散らばり短剣型の魔力を降り注がせることも可能だ。

 

 

4つ目、【魔弓】

 

持ち手のところにある黒いスイッチを押すと真のオルクス大迷宮産の魔物の糸が飛び出して弦になる。反対側の白いスイッチを押すと魔力が糸上に紡がれて弦になる。それぞれ実物の矢でも魔力の矢でも好きな方を放つことができる。魔力が分解されてしまう【ライセン大峡谷】などで真価を発揮するだろう。全体的に赤色が目立つ。ハジメから、銃器に変更しないか一応聞かれているが断った。

 

 

5つ目、【烈槍】

 

【撃槍】と対になる槍。穂先を回転させることで竜巻状の魔力衝撃波を放つことができる。黒いカラーリングで、正直【撃槍】と同時に持つのはカラーリング的な問題でマッチしてないと思う。漆黒のマントの着用を勧められているが丁重にお断りした。作るの俺だぞ?

 

 

6つ目、【獄鎌】

 

死神が持つような大鎌だ。ハジメ曰く、わざわざ付与するような魔法が思いつかなかったらしくこれからの発想によってまた別個強化していくらしい。一応【絶刀】と同じように魔力の斬撃を飛ばすことができる。大型の武器が使いづらい洞窟などの時用に、鎌の分割が可能で小さな小鎌2本に変形させることができる。緑色がパーソナルカラー。

 

 

7つ目、【鏖鋸】

 

鋸という割には、鋸の形状をしていない。【魔弓】の時のような魔力の糸で丸鋸を手元で操作ができる。刃のついたヨーヨーだ。魔力を丸鋸状にすることで大量に射出することもできる。可愛らしいピンク色だ。だいぶ凶悪だが。

 

 

8つ目、【銀腕】

 

ハジメが、お前も俺のような感覚を味わえという趣旨で用意した銀色の左腕鎧。左腕全体を包み込むような形状で、手首の位置に付いている三角形のアーマーから短剣やら刃のついた鞭やら、魔力を付与することでバリアになるよく分からない物まで多彩な装備がくっついている。

 

 

9つ目、【歪鏡】

 

 

正直一番好みの武装だ。見た目は持ち手がついた大きな扇子だが円状に展開することで鏡のような形になる。魔力を内包させることで光系魔法を反射することができる。普通に殴打も可能。魔力を放出も出来るためできることが多い。

 

 

10つ目、【殲琴】

 

 

遂には楽器だ。ハジメはこんな物にまで精通しているのかと思ったが、どうやらオスカーの資料の中にこういったものがあったらしい。どうやったかは知らんが闇系魔法の一部を付与することで、奏でると相手にバッドステータスを及ぼす。糸を魔力でコーティングして弾くと、振動のエネルギーが充填され魔力を自発的に貯めることができるらしい。何故かこだわりに拘って神結晶を使ったそうだ。紫色だが、一部青、赤、緑、黄の装飾が施されている。王国に貰った杖がボロボロ過ぎて修復不可能だったため再利用された。……ほんの一部。

 

 

なんと10個も用意してくれた。製作者のハジメさん曰く、

 

 

「ほとんどが魔力を放出したり斬撃させたりだったからまだ作りやすかった」

 

 

だそうだ。まあ演技の幅も広がるし、おそらく私の姿で力任せに振っても大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

「で、神様にもらった技能ってなんだよ?」

 

「あの……今あなたに言われて料理をしているんですが……」

 

「わざわざ演技しなくとも料理できるんだろ?別にいいじゃねえか」

 

「作ってもらう立場の人間とは思えませんね……」

 

 

ハジメに宝物庫を貰って数日。寝食を惜しんで俺は服を作り続けた。それこそ、ハジメとユエの食事を作らない程度には。どうせハジメは魔物肉を食える。ユエさんもハジメの血を吸えば問題ない。俺も普段は食うけどなんかこう気分じゃなかった。ハジメにはそれが随分と効いたようで、せっかく調理器具や、自立ゴーレムによって栽培されている食材があるんだから飯を作って欲しいと頼まれた。別に演じなくても料理を含めた家事一通り(裁縫以外)は出来るので素の姿でやってる。

 

 

「別にチートとかそういうのでは無いですよ。今の私のような『演技力』と『文才』、そして『ドッペルゲンガー』です」

 

「……文才?」

 

「ええ。あ、ハジメそこの塩取ってください」

 

「はいよ。なんでわざわざ文才なんだよ?」

 

「趣味ですよ。演技力、まあ才能ですがそんな良いものを相性の良すぎるドッペルゲンガーと共に頂けたのです。一つくらい趣味のために使っても良いかなと思いましてね。どんな世界かも言われなかったので戦闘もできるし日常も個性を持って過ごせる。良い塩梅の選択ですよ」

 

 

実際あっちでは創作小説投稿サイトなどで投稿していたしな。割と好評だったので文才ヤバいなと感じた。ちなみに、偶に俺の部屋に恵里が侵入してきて自作小説を読んで帰っていくのだが、素で顔が綻んでいるのでよほどハマっているのだろう。

 

 

「へぇ……ちゃんと考えてんだな」

 

「私は私の好きなように生きます。私を拘束するものはほとんど無かったでしたからね」

 

「……そうか」

 

 

恐らくこの間話した俺の人生のことを思い出しているのだろう。

 

 

「ちなみにあっちにあった『ありふれた世界で人類最強』を書いていたのは私ですよ」

 

「はぁ!?あれお前が書いたの!?俺が一番最初にブクマした作品だったんだぞ!?」

 

「おや、光栄ですねぇ。これからも作者:ドッペルゲンガーと作品をよろしくお願いいたします」

 

「……そうだ。作者ドッペルゲンガーって名前だった。今更考えれば確かにお前だわ」

 

 

左腕の義手で顔を抑えているハジメ。お気に入りのこういう表情を見るのもなかなか愉悦だ。愉悦部というものを作り出した方にはひどく敬服する。

 

 

「紙とペンさえ有れば続きを書きますが、どうです?」

 

「なに!?……いや、一読者としてそういうのは……しかし……ううむ……」

 

「あ、出来ました。ハジメ、テーブルに持っていってください。次のを作るので」

 

「ん……ああ、了解」

 

 

今日のメニューは熊肉のステーキにサラダだ。……いつもこんな感じだよ。ドレッシングも無ければマヨネーズもない。醤油もない。あるのは塩と砂糖だ。別に俺が作る必要はないと思ったが料理しているのとしていないのでは精神的な差が凄いらしい。

 

 

「それで、いつ頃出る予定なのですか?」

 

「そろそろだ。俺の準備もだいぶ出来たしな。ユエもお前の協力のおかげで神結晶の調整も完璧だ。お前は?」

 

「私はいつでも構いませんよ。どっちみち1人ではどこにも行けませんからねぇ」

 

「治す努力をしろよ……方向音痴になっていない演技でもすれば良いだろ?」

 

 

方向音痴になってない……演技だって?……ふふふ、ハジメよ。ついにそれを聞いてしまったか……

 

 

「…………ましたよ」

 

「あ?なんだって?」

 

「もうやりましたよ!!それでもダメだったんですよ!!筋金入りなのですよ私の方向音痴は……何故だ……別の人物を演じている時でさえ……それに方向音痴が追加されるというのに……ハジメ!!」

 

「は、はい!!」

 

「今すぐ、方向音痴を無視できるようなアーティファクトを作りなさい。ええ、今すぐに……」

 

「無茶言うな!!生成魔法じゃ無理に決まってんだろ!!何か、行きたい場所への方向が分かる魔法を鉱石に付与させるくらいしか出来ねぇよ!!案としてはコンパスみたいな感じにしかならん!!」

 

「十分過ぎます!!設計までしっかりしているではないですか!!だったら早くそういう魔法を習得しなさい!!」

 

「それこそ無茶だろ!?」

 

「2人とも……うるさい……」

 

「「ギャァァァ!?!?!?」」

 

 

言い合いをしていた俺たちの元へ、小型版『蒼天』が飛んできた。小型ながらも威力は減ってないのか、割とダメージがあった。特に魔耐が俺より余裕で低いハジメには。

 

 

「はぁ……はぁ……いってぇ……ユエ、奔放になったな……」

 

「ああ、調理器具が!?ちょっとユエさん、なんてことを!!」

 

「せっかくの料理……冷める……調理器具はハジメが作る」

 

「俺!?いや、流石にこれ以上の素材の消費は……」

 

「あ、それならハジメからパクったアザンチウム鉱石が結構余っているので使ってください」

 

「最近何故が少ねえなと思ってたけどお前か!!なにテメェ『仕方ねえな』って感じで出してんだよ返しやがれ!!」

 

「ハジメ?」

 

「さあ、影二早く食べようぜ。せっかく作ってくれた料理が冷めちまう」

 

「……早速尻に敷かれてますねぇ。さて、残りも完成しましたし食べましょうか」

 

 

ユエさんの冷たい目線と冷たい一言で急に掌を返したハジメ。俺は知っている。ほぼ毎晩、ヤっていることを……大体がユエさんにタジタジにされていることを……

 

「「「いただきます」」」

 

 

魔物肉をユエさんに食わせて大丈夫なのかって?……ちょっとズルをして毒性を除去したので、ただの熟成された肉だ。野菜も、ここのゴーレムが育てていたものをパクっただけだしな。

影二が演じるキャラの性能に制限は必要?

  • いる
  • いらない
  • どうでもいいから続き書けよ
  • もはや、他作品キャラやめて
  • どうでもいいから恵里との絡みを増やせ

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