ギィィィィン……
「さて……ここは、どうしましょうか?」
ミレディに案内された先の扉を開くと、そこそこ広い空間にまたもや一本道。しかし、両方の壁にこれでもかと騎士の像が並んでいる。おそらく50体ほどだ。
ガチャン……
中央付近まで進むと、これまで何度も聞いたトラップの発動音が聞こえてくる。そして、その音に連動して周りの騎士……ゴーレム達が動き出した。
「確か……奥の水晶のパズルを解くんでしたっけ?」
ガチャガチャと甲冑ならではの音を響かせながらゴーレム達は俺のほうに向かってくる。左手の盾をしっかり構え、右手の剣を突きのように持ってゆっくりと。
「まぁ……やるべきことは取り敢えず殲滅でしょう。修復すると言っても、バラバラにしてしまえば修復も時間がかかるでしょうし」
元々召喚していた【撃鉄】で構え直し、ゴーレムに突っ込む。先頭にいたゴーレムの頭を右腕で強打し粉砕しながら上に飛ばす。そのまま左腕で左足を殴り破壊。バランスの崩れたゴーレムの体を出来るだけ全力で上空に投げた。
「効率が悪いですね!!」
ゴーレム達は、俺が1人なのをいいことに全方向から走ってやってくる。
「すぅ……はッ!!」
腰を落とし正拳突きの要領で拳を振り抜く。万単位の筋力は伊達ではない。風圧により正面にいたゴーレムは漏れなく弾き飛んでいった。腰を落とし、空きだらけの俺の体に、5、6体のゴーレムが突っ込んできて剣で切ってくるが……もちろん効かない。
「効きませんよ……『
魔力分解を過剰な魔力でねじ伏せ、アーティファクトとしての力を発動させる。俺はゴーレムの周りを駆けながら、通り側に体に触れ、内側から魔力を暴発させる。もちろん、そんなことされたゴーレム達は、胴体の部分から体が弾け飛んだ。
「さて、水晶を……」
一通りのゴーレムをぶっ飛ばしたので、再生するまでの間にパズルを解く。
「……そこそこ難しいですね。ちっ……もう再生が」
ガチャガチャと、修復している音が聞こえてくる。
『とっけるかな〜、とっけるかなぁ〜』
『早くしないと死んじゃうよぉ〜』
『まぁ解けなくても仕方ないよぉ!私と違って君は凡人なんだから!』
『大丈夫!頭が悪くても生きて……いけないねぇ!ざぁんねぇ〜ん!プギャー!!』
扉にウザったい文字が出てくるが無視。凡人と言っても、所詮は人間に当てた煽り文句だ。俺にそんなものは効かない。
「もう一度ゴーレムをしばき回しますか。……いや、これでも食らいなさい!!」
宝物庫からハジメ印の手榴弾を10個ほど取り出し、ゴーレムの元へばら撒く。どでかい爆発音と共に、30近いゴーレムが破壊され、またもや修復待ちになった。ついでに、地面を少し削って置いたため、ゴーレムが普通に突っ込んでくるようでは躓いてこけるだろう。
「天才系のキャラでも演じればすぐに解けそうですが……今回は『役者』を封印するの決めたのです!!」
いちいち変なところで詰むように設定されている。これでも学年一位レベルには頭が良いはずなのに……!
「………うるさいですねぇ!!召喚【絶刀】、『千ノ落涙』+『影縫い』!!」
十万単位で魔力が持っていかれた。宝物庫から【絶刀】を取り出し、上に掲げて魔力を絶刀に流す。短剣の形に魔力が固定され上空から大量の魔力剣がゴーレム達に降り注いだ。
しかし、それらは一発もゴーレムに当たらず、その周囲の地面に刺さった。
『『『『『『……………』』』』』』
ゴーレムは何も起きなかったので俺に向かって走ってこようとする。しかしその体は動かない。『影縫い』は相手の影に短剣を刺すことによって体を縫い付ける……つまり動けなくさせる技だ。
「…………解けました!!」
数十秒ほど経って無事にパズルを解いた。ここまで生きてきた中で一番苦戦したかもな。
それと同時に扉も開いた。よく見れば動こうと必死だったゴーレム達も機能を停止したように動きを止めている。どうやら、クリアと判定されたらしい。
「……結構な魔力を持っていかれましたね。まだ余裕はありますけど、これ以上の消費は流石に……」
いざと言う時の、チート野郎への擬態の時に必要な魔力分は確保しなければならない。少し、息を整えてから【絶刀】【撃鉄】を宝物庫に戻した。そして、扉を通るとそこには……足場がいくつも空中に浮かんでいる、広大な空間がそこにあった。
「さて……入り口に戻されませんでしたね。と言うことは今からミレディ・ゴーレムとのたたかッ!?」
全身に悪寒を感じた。俺は考える暇もなく体を捻った。
ヒュィン…………
「…………は?」
俺は今、本能的に何かを避けた。頭ではなにも考えていないのに、体が勝手に。今まで出たことはなかったのに、冷や汗が出ているような感覚もある。ばっと振り返って何かが通り過ぎた場所を見ると。先ほど通った扉の向こうで、機能停止状態だったゴーレムの一体が砂のようにサラサラっと粒子となって消えていった。
「……あら、ミレディに怒られてしまいますね。まあ必要経費だったと言うことで後で謝りましょう」
「ッッ!!……まさかッ」
声が聞こえた。ミレディしかいないはずのこの迷宮で、先程の疲れ切ったような声をしていたミレディとは違う声。
透き通ったその声はどこか人を魅了するような、しかしなんの変化も感じないトーンで呟く。また振り返って見てみると、両手に大きな……斧?槍?が混ざったような形状の武器を2本持っていて、ノースリーブの鎧に肘まで届くガントレット。その素晴らしい胸部装甲を持ちながらも決して下品に見えず、なんなら神々しさまで感じる鎧。そして頭には天使の羽らしきものを擬えたプレートも装備している。銀や白で統一された鎧に似合う腰まで届く長い白髪の女が空中から俺を見下している。
「真の神の使徒……何故……ここに!!」
「おやおや、わたくし達を知っているのですか……と言うことは、誰かと戦ったのですね。ノイントでしょうか、もしやエーアスト?」
聞き覚えがありすぎる二つの名前。神エヒトが作った、9体の忠実な神の僕。そのうちの2体の名前だ。
「私は
『ふっふ〜ん。それはね〜、私とヌルちゃんが友達だからだよ♪なんでか君は、神の使徒の事も知ってるらしいから特別に教えてしんぜよ〜♪』
先ほどとは打って変わって上機嫌でウザったい口調で聞こえてきたミレディの声。どうやら別の場所から声を届けているらしい。
『ヌルちゃんはねぇ……むかーしむかしにクソ野郎エヒトによって捨てられちゃったんだよね。神に相応しくない僕はいらない、って』
『ヌル』どうやら彼女の名前らしい。確か……ドイツ語で0の数字を意味していたはずだ。それにしても、こんな使徒は居なかったはず……
『それで辿り着いたのが、私が作った【ライセン大峡谷】。私もびっくりしたよ〜。クソ野郎の手の届かない所のはずの場所に、ヌルちゃんがやって来たんだから。で、瀕死だったから拘束して十字架に磔にしてからじんも……お茶会してたら仲良くなったんだよね〜』
「今尋問って言いましたね?」
磔にしてから行うお茶会とはなんだろうか?
『それでね?どうやらヌルちゃんって、他の使徒の試作体らしくてさ。『個』の能力に特化させたかったクソエヒトは、ヌルちゃんを強くしすぎちゃって制御できなかったんだって。プププ〜笑っちゃうよね〜ww……で、何千年もボロボロの状態で磔にされてから、クソ野郎への忠誠心が消えたらしいよ。ちゃんと神代魔法で確認済みだから安心してね♪』
エヒトへの忠誠心がなくても、神の使徒がいると言う事実だけで安心感もクソも無いのだが。神代魔法ということは……魂魄魔法でも使ったのだろう。しかし、無駄に強いエヒトが制御出来ないほどの強さの使徒とは……彼女はどれだけなのだろうか。彼女はエヒトから廃棄され、殺されかけたにもかかわらず逃げるほどの実力があるということだ。
「……で、磔にされていたはずの使徒がどうして武器を構えて私を睨んでいるのでしょうか?」
「睨んでいません。普通に見つめているだけです」
どうやら、目つきは元かららしい。
『いや〜、君ってさ、ちょ〜強いじゃん?今までの様子を見た感じ、私じゃ勝てないからさ〜……『お願い』しちゃった♪』
「……敵であるはずのわたくしに甲斐甲斐しく世話をしてくれたのです。この恩を返すべきでしょう?」
使徒なのに何故か、俺より一般常識がしっかりしている。ミレディはどういう教育をしているだろう……。だって、磔にされてたはずなのに世話って……確かの傷などもないし、鎧も綺麗だ。お茶会(笑)をしているうちに本当に友情でも目覚めたのだろうか?
「……これが最終試練というわけですか。全く、何処に本物の神の使徒をボスとして配置する解放者がいることやら……」
『ここにいるよ〜』
あ、ウザい。この迷宮に入ってから初めてミレディのことがウザい。
『お、ウザいって思ったでしょ?プププ〜流石の君でも今のはウザいって思っちゃうんだ〜。……さてと、さっき聞きそびれちゃったんだけど、君はなんで神代魔法を求める?』
急に真面目なトーンで話しかけて来たミレディ。シリアスとウザさのチェンジがハッキリしすぎだ。
「……愛する人のために、ですかねぇ」
『へぇ……?』
「…………」
「わたしの目的はただ一つ。愛する人と共に幸せになること。そのためには……ええ邪魔なのですよ、エヒトが。先ほど説明した通り、別世界からやって来た私たちですが、エヒトを残したまま帰ったところでまた再召喚されるのがオチです。だったら、ぶっ殺してから帰るしかないのですよ」
『ほうほう、私的にはクソ野郎を倒してくれるなら嬉しいね!君強いし!』
「でも、私はエヒトを殺しません」
『……え?』
矛盾したセリフに、ミレディが疑問の声を上げた。
「エヒトを殺すのは私の役目じゃありませんので。この後に来る挑戦者。ああ、私の知り合いなのですがねぇ?そちらの方が貴女好みですよ、ミレディ?」
『……君にそこまで言わせるんだ?へぇ……楽しみだね〜♪……よし、ならば戦争だ!意地でもクソ野郎を殺してもらうために、私が誇るヌルちゃんを倒してみよ!』
「なにがよしなのか分かりませんが、まあ良いでしょう。どの道戦わなければいけないようですし」
『というわけで……ヌルちゃん、君に決めた!!やっちゃえ♪』
「了解」
電気ネズミをパートナーにしてそうな10歳児の決め台詞が聞こえて来たが、ミレディがそれを言ったと同時に、蚊帳の外だった使徒が返事をした。
「ミレディ・ライセンの友人にして、堕ちし元神の使徒、ヌルと申します。残念ながら、わたくしもまだ己の力を制御し切れていないので殺してしまったら残念です」
「異世界『地球』出身のドッペルゲンガーにして世界最高の『役者』篝火影二です。この度は愛する人のため貴女には負けていただきます」
お互いが改めて恭しく挨拶をする。
「時に……ヌルさんは、エヒトからの魔力供給を受けてらっしゃるので?」
「いいえ、ここはエヒトの力の及ばない場所。魔力が分解されるのでエヒトからの供給も断絶されています。よって今のわたくしには、エヒトが創造した通りの力しか持ち合わせておりません」
エヒト……神の使徒が自らの創造主を呼び捨てにするとは笑えない話だ。いや、『元』神の使徒だ。
「では始めましょうか……」
「ええ、そうしましょう」
俺は腕だけ、本来のドッペルゲンガーとしての姿に戻し鋭い爪を構える。対するヌルも両手に持つハルバードを構えた。
「「…………はぁ!!」」
俺は跳躍し爪を、ヌルは飛行しその手に持つ武器……ハルバードを、お互いに全力で叩きつけた。
【ライセン大峡谷】最後の試練が幕を開けた。
檜山と光輝の生殺与奪は君達にあるのだ!
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檜山殺
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光輝殺
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両方殺
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両方不殺
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クラスメイトも一緒に……殺?