ありふれない家族が世界で最も幸せに   作:ゼノアplus+

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ドッペルゲンガーという現象

七大迷宮【ライセン大峡谷】最深部にて、現代のこの世界最大の戦闘が始まった。俺、篝火影二vs元神の使徒ヌル。両者の初撃は、お互いの得物を空中で叩きつけ合うことだった。

 

 

「「はぁぁぁぁぁあああ!!」」

 

「ぐッ!?」

 

 

俺が吹っ飛ばされた。ヌルは落下のエネルギーを含んでいるため、勢いで押し負けたのだ。

 

 

「なるほど……確かに異常な力ですね……」

 

 

少し痺れる腕を無視して、俺はヌルを見つめ直した。

 

 

「まだまだっ」

 

「おっとっ」

 

 

さらにヌルが追撃してくる。両手のハルバードの刃を外側にし水平に構えながら空中より急降下してくる。俺はそれを左にローリングすることでギリギリ交わした。ヌルはそのまま地面にハルバードを叩きつける。地面は豆腐を潰されたかのように簡単に破壊された。

 

 

「遅いですよっ!!」

 

「想定済みです」

 

「……なっ!!チィ!!」

 

 

地面に刺さったハルバードを抜こうとしているヌルの横腹目掛けて、俺は拳を握り殴ろうとする。しかし突然、ヌルの背中から生えた2対の銀の翼。俺はそれを見て一旦後ろに飛んで回避した。

 

 

「ほぅ……初見で回避するとは……」

 

「どういうことです……ここでは魔力が分解されるはず……」

 

『説明しよう!この空間では、ミレディちゃんが選定した者だけ魔力分解から逃れることが出来るのだ!ヤダ、ミレディちゃん天才!!』

 

 

突然響き渡る声。どうやらその通りらしい。おそらく魂魄魔法で対象を選んでいるのだろう。

 

 

「そういう事です。対等な条件でないのは、あまり好みませんがミレディの判断ですのでご了承を」

 

「……迷宮のコンセプトですので、いた仕方ないですねぇ。全く面倒な……召喚【銀腕】【歪鏡】」

 

 

俺は右手に【歪鏡】を、左腕に【銀腕】を装備した。

 

 

「先ほどまでガントレットや剣を使っていたのに、今度は扇子?器用な方ですね」

 

「貴女こそそんな大きな得物を2本もよく扱えますね……」

 

 

お互い軽口を叩き合ってまた構える。

 

 

「さて、これは耐えきれますか?」

 

 

ヌルは翼を大きく広げ羽を360度に撒き散らした。銀色に淡く光っているので分解が付与されているのだろう。こんなに悠長に語っているが、正直……

 

 

「これはっ……面倒っ……ですねっ!!」

 

 

ジャンプして空中に浮遊している足場に飛び移りながら羽を避ける。羽は直線的な軌道ではなく、少し離れると本物の羽のようにふわりふわりと落下し始める。予測が難しいその攻撃は、確実に俺の逃げ場をなくしていき、

 

 

「ッッッ!?ぐぁ……」

 

 

背中に一瞬当たってしまった。俺の体は不定形故に、全身に同じダメージが通る。人間の体のように急所に大ダメージを食らった後にダメージを食らっても痛くないとかそういうのがない。俺の体全ては繋がっているから。一瞬分解されたがな。

 

 

「隙ありです」

 

 

ヌルはまた分解能力の付与された閃光を放って来た。

 

 

「そちらにね!!『展開』」

 

「なんッ!?」

 

 

【歪鏡】を360度の円状に展開し魔力を通す。そしてヌルが放った閃光に向けて受け止める。過剰な魔力でコーティングしたため、魔力だけが分解されそれ以外は光の反射の要領で跳ね返した。

 

 

「きゃっ!?……やってくれますね!!」

 

「戦いですから、気は抜きませんよ」

 

「どこにッ!?ぐぅ!?」

 

 

跳ね返した分解の光がヌル真正面を捉えその体を貫くはずだったが、可愛らしい悲鳴を上げながら回避した。まあ、そんな奴を見逃す俺ではない。

 

すぐにヌルの元までジャンプして【銀腕】から鞭を出し拘束した。

 

 

「こんなもの……わたくしには効かない!!」

 

「む……ですよねぇ……」

 

 

全身を分解能力で包んだらしいヌルはすぐに鞭を分解した。そのまま翼をはためかせて足場に着地したヌル。

 

 

「魔法は使わないので?」

 

「使いたいのは山々ですが、恥ずかしながらほとんどの魔法を忘れてしまいまして」

 

「……そうですか」

 

 

無表情で自分の恥を言う彼女の姿にはもはや尊敬するレベルだ。思わず俺も絶句してしまった。

 

 

「唯一使えるのはこれだけなのです。『断罪』!!」

 

 

いたずらが成功した時のように悪い笑みを浮かべ、ヌルは体を回転させながら飛び上がる。そして翼を大きく広げたかと思えば……翼から無数の閃光……いや、レーザーが所々で曲がりながら襲ってくる。

 

 

「見た目どう考えても『セラフィックウイング』なんですけど!?【歪鏡】!!」

 

 

いやぁ……『ダンボール戦記』の『ルシファー』は強敵でしたね。……とか言っている場合じゃない。どうやら光系魔法のオリジナルとかそういう類だ。【歪鏡】で問題なく跳ね返すことができる。

 

 

「それは見ましたよ篝火影二!!」

 

「光が後ろからッ!?」

 

 

跳ね返したはずの光は、返された先でさらに曲がり俺の後ろから背中に狙いを定めていた。

 

 

「この魔法は回避不可能。わたくしの魔力が尽きるか、貴方が死ぬかのどちらかです。さぁ……存分に踊ってくださいな♪」

 

「さてはヌルさん、ミレディにそっちの教育されましたね!?」

 

 

本格的にマズい。いくら敏捷がアホみたいに高いと言っても、対するは光。光のスピードにまでは届かない。それが無数にだ。流石に避け切る方が馬鹿らしい。

 

俺は、とにかく足場を変えながら考える。あの魔法を攻略するにはどうすればいい……久々の『痛み』や、生まれて初めての『傷』に少々違和感を感じる。そしてめっちゃ痛い。まともな思考ができているかも正直怪しい。少なくとも完璧に誰かを演じることはできないだろう。

 

ああいう光系魔法は俺にとって大分相性が悪い。それと同時に、あのレベルの光が存在していることは俺にとってとても相性がいい。矛盾しているだろう?しかし、()()()()()

 

この空間の雰囲気が変わる。ヌルは少し温度が差が多様に感じたのか、寒そうにしている。そして響き渡る声。

 

 

【あなたはだぁれ?わたしはだぁれ?】

 

「っ?……何を言って」

 

 

走りながら、光線にこの身を焼かれながら、俺は詠う。ヌルは突然聞こえてくるその声に、周囲を見渡す。しかし、見えるのは彼女の放った『断罪』から必死に逃げている俺の姿のみ。

 

 

【あなたはわたし。わたしはあなた】

 

「だから……一体何を……ッ!!いない!?」

 

 

俺の次の言葉に、ヌルが気づいた頃には彼女の視界に俺の姿はない。俺は彼女の影の中にいるからだ。

 

 

【わたしはあなただからしっている。あなたはわたしだからしっている】

 

 

彼女の感情を覗き見る。

 

エヒトにいらないと言われた時の疑問、後悔、絶望。

 

ミレディと出会った時の歓喜、感激、至福。

 

ミレディに捕らえられた時の諦念、残念、断念。

 

ミレディと過ごした時間での愉快、幸福、満足。

 

俺と戦っている時の驚愕、望外、愕然。

 

彼女が自覚してないだろう、未成熟な感情が溢れている。色んな感情を体験して、何千年も生きているはずなのに若々しい印象を覚える。

 

 

「うぐっ……これは……っ!!」

 

 

おそらく彼女にも、俺の今までの感情が流れ込んでいるだろう。負の感情が多いだろうから申し訳ない。

 

 

【さあ……なまえをよんで……わたし(あなた)は……?】

 

「ッッッ!!呼んではいけない!!……なのに……()()()()()()()()()気がする……あぁ……」

 

 

頭を抱えながら、彼女は唸っている。苦しませたいわけじゃない。でも、魔力がまともに使えないこの空間で勝つにはこれしかない。本当にすまない。

 

さあ、呼べッ!!

 

 

『『ヌル』』

 

 

さてと……ドッペルゲンガーとしての真の力、お見せしようか。

 

 

「はぁ……はぁ……一体何が……それに……篝火影二も……」

 

ファサ……

 

「ッ!?なんで周りにわたくしの羽が……」

 

『ヌルちゃん?……どうしたの?』

 

 

ヌルは、自分のものではないはずの分解羽に驚き周囲を見渡している。そして、彼女が上空を見上げた。そこにいたのは……

 

 

「そんなっ……どうして……わたくしがいるのですかッ!!」

 

「…………」

 

 

『ヌル』の体、防具、武器、翼。全てを持っている、もう1人のヌルの姿。詰まるところ『俺』だ。

 

 

『ヌルちゃん!?何言ってんの!!ヌルちゃんが2人も居るわけないじゃん!!』

 

 

ミレディは様子のおかしいヌルに向かって叫ぶ。当たり前だ。ミレディには俺……もう1人のヌルの姿は見えていないのだから。

 

 

さて、唐突だが、『ドッペルゲンガー』とは何か。これを正確に理解している者は何人ほどいると思う?これは俺の自論だが、恐らく0人だろう。何故かって?『ドッペルゲンガー』とは本来、超常現象の一種だからだ。そう、()()。決してそういう生物が居るわけじゃない。超常現象を完璧に、それも証拠や理論を用いて説明することは出来ないからな。

 

『自己幻像視』とも呼ばれるこの現象は、自分と瓜二つ、まるで分身のような存在を見てしまうこと。

 

ドッペルゲンガーとして現れる存在にはいくつか特徴がある。

 

その存在は他の存在と会話をしなかったり、本人と関係のある場所に現れたり、ドアの開け閉めが出来たり、急に消えたり、本人が見ると死んだりと、多岐に渡る。

 

では『ドッペルゲンガー』である『俺』はなんなのか?俺は現象の一つなのか?違う。俺は俺だ。ちゃんと生きている。

 

では『生物』なのか?微妙だ。生きているのだから生物という括りで良いのかもしれないが、神によって創造されたオリジナルの存在。どういう位置付けをしていいのか分からない。

 

そしてこの現象には、第三者が認識できるものとできないものがあるそうだ。俺は俺のこの能力を初めて使うから今知ったが、どうやら今の俺は第三者に認識されないらしい。ミレディに俺の姿は見えていないからだ。

 

まさしく『正体不明』。その事実がヌルをさらに混乱させ、この場を混沌とさせている。

 

 

「…………」

 

「黙ってないでなんとか言いなさい!!…………まさか、篝火影二の影響?しかし……これほどの魔法を発動するには、ここの魔力効率では不可能なはず!!」

 

 

ヌルの言う通りだ。でも、これは『ドッペルゲンガー』である俺のチカラ。魔力?そんなものはいらない。今空中にいるもう1人のヌルは、『俺』の意思をトレースしたただの現象。『ヌル』と言う存在を映し出すただの虚像に過ぎない。

 

さて、『ドッペルゲンガー』は急に消えてしまうらしい。早急に決着をつけなければならない。さらに『ドッペルゲンガー』を知るにあたって、重要な部分がある。それは先ほども述べた『ドアの開け閉め』ができる点だ。これはどう言うことか。幻像であるはずなのに、物質に触ることができる。……つまり、

 

 

「…………!!」

 

「なっ……ッ!!」

 

 

俺は両腕に持つハルバードを、最初のヌルのように、彼女に叩きつける。避けられはしたが、足場は砕け、一つ減った。

 

そう、触れるのである。今の俺は、ヌルにとっては幻像。実体を持たない霊的な存在として認識されている筈だ。そうだな、『質量を持った残像』に近いのだろうか?…………違うな。

 

 

「…………ッ!!」

 

「分解能力までッ!?わたくしもッ!!……きゃぁあああ!?!?」

 

 

俺は翼を広げて、分解の付与された羽を撒き散らす。ヌルも同じことをして相殺している。しかし、徐々に俺が押していき、トドメとばかりに閃光を追加で彼女に放った。

 

 

『ヌルちゃん!!さっきから1人で何やってるの!!誰もいないのに!!』

 

「ミレディ!?そんなはずはありません……現にわたくしの前には、わたくしがいるのです!!」

 

『何を言って……ッ、篝火影二が何かやってるの……?』

 

 

ミレディには、ヌルが1人で虚空に攻撃し、1人で吹っ飛んでいるように見えるのだろう。

 

 

「はぁ……はぁ……わたくしが……ここまで……」

 

 

使徒であるヌル、しかしその表情は辛そうだ。当たり前だ。全ての使徒の試作体としてデザインされた彼女はエヒトによって創造された。そのエヒトがヌルを作る際に参考にした物で一番身近な存在といえば……『ヒト』である。ヒトの構造を参考に作られ、創造された彼女にはもちろん感情がある。そして何より、『体力』など、神の使徒としては相応しくない不完全なものまで備わっている。そんな彼女は、もともとの俺との戦闘で飛び回り、大きなハルバードを2本振り回し、分解能力を使い、さらには大出力の光系魔法まで使っている。体力的にも、魔力的にも残り僅かな彼女はもちろん……疲弊していた。もう満足に体も動かないだろう。恐らく魔力も枯渇している。『断罪』の燃費はどうやら悪いらしい。

 

 

「げほっ……げほっ……篝火影二……わたくしに何をしたのかさっぱり分かりませんが……ふふふっ、楽しかったですよ。貴方との戦いは……戦闘がここまで心躍る物だとは知りませんでした。貴方に最大の敬意と感謝を。さぁ……一思いにやりなさい」

 

「…………」

 

 

目を閉じて、自分の死を待つヌル。敗者には死が与えられる物だと知っているのだろう。俺は彼女の元に降り立ち、右手に持つハルバードを彼女の首元に添える。

 

 

「ふふっ、わたくしが使徒として創造されていなければ、また違う出会い方もあったのかもしれませんね……しかし、使徒として創造されなければここで貴方に会えていなかったのもまた事実。甲斐甲斐しく世話を妬いてくれたミレディのお願いを聞き届けることができなかったのは残念ですが……」

 

「…………」

 

 

それはまるで、神に祈るシスターのように儚く、淡く、そして美しい。しかし、俺はそれを認めない。

 

 

「……もういいでしょう」

 

「…………ぇ?」

 

 

俺は全ての現象を消し、元の真っ黒な体で彼女の影から這い出る。ヌルの目の前からは、もう1人の彼女の姿が消えているはずだ。

 

 

「ミレディ・ライセン。ヌルさんはもう戦えません。私はまだ戦える、そしてヌルさんは自らの敗北を認めた。これ以上の戦闘行為は彼女を殺すだけです」

 

『…………なんなのさ、君』

 

 

ため息をついたような、呆れるような声が空間に響く。

 

 

「私ですか?……ただのドッペルゲンガーですよ」

檜山と光輝の生殺与奪は君達にあるのだ!

  • 檜山殺
  • 光輝殺
  • 両方殺
  • 両方不殺
  • クラスメイトも一緒に……殺?
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