『ベル、体は大丈夫ですか?』
「問題ありません主様。もう慣れました」
現在、俺たちは広大な平原を爆走している。ハジメたち3人は魔力駆動二輪……もう名前で呼ぶか、シュタイフに。俺たちはいつぞや擬態した狼である『バトルウルフ』に俺がなり、ベルがその上に乗っている。シュライフに並走しているが、一応俺は体を動かしているので疲労は溜まる。しかも念話石を使っているので魔力をバカスカ使う。それでも余裕はあるが。
そういや、ハジメに頼んで神水をほんの少し貰った。生命力低下の状態を少しでも癒せるかと思ってな。まあ結果は大成功……元々の5分の3程度までには回復することができた。これ以上は自然回復でどうにかする事にした。
「このペースならあと1日ってところだが……影二、行けるか?」
『余裕です。まだ全快ではないとはいえこれくらいでへこたれる私ではありませんよ』
ユエさんはハジメの前に、シアさんはハジメの後ろに乗っているが念話石で脳内に直接響かせているため風の影響で声が遮られることもない。
「さすが影二……魔力オバケ」
「ですぅ〜……」
ユエさんの声は元々小さめなため聞こえにくい。シアさんは相槌を返したような声を出すが寝言を言っているだけだ。
『それで、今はどこに向かっているのですか?ほとんど話を聞けていないため情報が欲しいのですが』
「そういやそうだったな……湖畔の町ウルだ。どうやら稲作が盛んらしい。」
『ほぅ……米ですか……主食はパンばかりでしたからねぇ……カレーやチャーハン……料理のレパートリーが増やせそうです』
米か……穀物、というだけならそこそこ種類はあるが米は王都でも他の街でも見たことはなかった。なかなかいい物資だ。
「おお!影二、米料理……期待してるからな!!」
「ハジメさんがここまでテンションが高くなるとは……主様、わたくしも楽しみです」
俺たちはまだ見ぬこの世界の米に想いを馳せながらさらに平原を駆け抜けた。
俺たちは日落ちる少し頃ウルに到着した。湖畔の町と銘うつだけあって、湖が太陽の光を反射して美しく輝いている。ウルティア湖というらしい恵里と来てみたいものだ。
俺たちは、折角ならと米料理を食べることができる宿に泊まる事にした。主にハジメの要望だが。水妖精の宿といういかにも良さげな名前の宿に入り夕食をとる事にした。
カランカランと入店時の鐘の音が聞こえる。店内も整っていて上品な印象を受けるしここを選んで正解だったかもな。
「店員さん、5人なんだが……大丈夫か?」
「申し訳ありません。ただ今混雑していまして……4人席が残っているのですが3人ほどは4人席の方に、2人ほどは大人数用のお席のお客様と相席の形になるのですが……宜しいでしょうか?」
「ハジメ、別に問題はないな?組み合わせはどうする。男2人と女3人か、いつものか」
「「いつものでっ!!」」
「……らしいぞ。すまんが、相席で我慢してくれ」
ユエさんとシアさんの食いつきが早い。ちなみにいつものとは、俺とベルで1組、ハジメ、ユエさん、シアさんで1組だ。
「ではこちらへどうぞ」
店員に案内され、俺とベルはついていく。何やら鎧を来た人間がいるが、おそらく畑山愛子一行だろう。まさか、大人数席とはここのことか……?面倒だな……
「お客様方、申し訳ございません。相席をお願いしたいのですが宜しいでしょうか。先ほど申し上げた北の山脈への調査を行う冒険者様方なのですが……」
「はい、大丈夫ですよ!」
懐かしき畑山先生の声が聞こえる。相変わらずのほほんとしていて戦闘が出来そうにない。天職的に戦闘できないけどな。念のため仮面をしておこう。宝物庫からこっそりとシンプルなデザインの仮面を取り出し顔につける。ベルが怪訝な表情をするが察してくれたようで何も言わない。
「失礼する。……と、まさかあなた方は神の使徒様方かな?」
「おい貴様。何故仮面をしている?マナーがなっていないぞ?」
席に行くと、騎士が数人護衛をしている。畑山先生、その他生徒etc……だ。どうやら金髪のイケメン騎士様は俺が気に入らないらしい。
「これは申し訳ない。実は、冒険者としての仕事の途中に顔を焼かれてしまってね。あまりにも醜く人には見せられないような物だからこうして隠しているのさ。今日は、従者の食事に来ただけだ。俺は仮面を外さないので安心してくれ」
「……これは失礼した」
割と悲惨なことを言ったので金髪の騎士も引いたようだ。同情の視線を感じる。
「ベル、好きなものを頼むといい」
「はい主様……ではこのニルシッシルというものを」
先生と生徒たちはポカンとしている。何故かって?まぁ、ベルは絶世の美女。その容貌は女性だって魅了する。そして男子生徒2名はベルの巨乳に釘付けだ。女生徒……園部優花に冷ややかな目線を向けれている。
「貴殿が、北の山脈を調査しに来た冒険者らしいな?……2人でなのか?」
「いや、他にも連れはいるのだが、この店はどうやら繁盛しているらしい。分かれて席に座ったのだよ。ほら、この隣だ」
俺が親指で視線を誘導するとすでに、料理を注文し終わったハジメたちが談笑している。
「ハジメさん!!私、お料理すっごく楽しみですぅ!!」
「ん……ハジメの故郷の味……知りたい」
「もうすぐ来るからちょっと待ってお前ら」
これでもかと言うほど『ハジメ』という単語を連呼する女性陣。しかもハジメが声を出したため、先生と生徒たちは違和感を覚え始めたようだ。
「……何故亜人族風情が、我々と同じ店にいる?」
「おや?……敬虔なる騎士様にはお気に召さないかな?」
「デビットさん……ちょっと静かにしてもらえますか?」
「ッ……愛子、しかし!」
デビットと呼ばれた騎士は先生の一言で黙る。そして徐に先生が立ち上がると、隣席まで歩いて行った。
「南雲くん!!」
「あぁ?…………先生?」
「おまたせしましたお客様、ニルシッシルでございます」
「ありがとう」
ベルの料理が運ばれてきたようだ。うむ、スパイシーな香りが食欲を掻き立てる……俺も食べたい。
「南雲くん……やっぱり南雲くんなんですね?生きて……本当に良かった……はっ……篝火くんは!!南雲くんと一緒に落ちたとききましたが、篝火くんはどこにいるのですか?」
「……いえ、人違いです。その篝火?とかいうのも知らないですね。俺たちは食事をするので、では」
聞く限り、どうやらハジメは無視の方針のようだ。
「おい……アレ本当に南雲なのか?」
「別人に見えるけど……声が似てるし……」
チラッと生徒諸君が俺の方を向く。どうやらアイツらについて聞きたいらしい。
「主様、この料理すごく美味しいです!!主様も召し上がればいいのに……」
「ベル、食事中だ。落ち着いて食べなさい。ニルシッシルは逃げないから」
ベルの幸せそうな顔。くっ……マジで食べたい!!
「おい影二!!なに無視してやがる……助けろ……」
「「「「「影二?」」」」」
ついに観念したハジメが俺の名を呼んでしまった。あーぁ……
「……折角黙ってたのに、言うなよハジメ」
「「「「「篝火(くん)!?」」」」」
仮面を外しながら、俺は隣のハジメに向かって言う。篝火影二だと言うことを認識した皆は驚いているようだ。
「な、な、な……」
畑山先生は声にならない様子。
「ふむ……店員さん。俺もニルシッシルを頂こう」
結局すぐに仮面を外す羽目になったので遠慮無く注文を取った。
「篝火くん!!なに自然に注文を取っているのですか!!」
「ここは食事を取る場所。当たり前のことをしているに過ぎないが?」
「タメ口!?……うぅ……あんなに真面目な生徒だった篝火くんが不良に……」
「え……今の俺不良に見えるのか……」
スッと生徒……園部の方に顔を向けると、困った顔をしながら首を振っている。ちなみに、地球の頃は彼女の家が営んでいるレストランでよく食事をとっていたので割と親しい方だ。あそこのコーヒーは美味しい。
「そういえば!2人とも、こちらの女性たちはどちら様ですか?」
私、怒ってます。と言った表情の畑山先生。俺は説明した通りだが……
「依頼のせいで1日以上ノンストップでここまできたんだ。腹減ってるんだから飯くらい食わせてくれよ先生。コイツらは……」
「……ユエ。ハジメの女」
「シアです。ハジメさんの女ですぅ!!」
「お、女……?」
シアさんはまだ違うのだが……何も知らない先生や生徒には衝撃だろう。今まで散々無能と言われてきたハジメに、こんな女性が2人もいるように見えるんだからな。
「じゃ、じゃぁ……そちらの人はもしかして……?」
仁村だっけ……?まあそいつがそう言って俺とベルの方を向くと、ベルは立ち上がっていつものカーテシーを行いながら挨拶をした。
「リベルタと申します。主様の従者をしています。ハジメさん方と違ってそう言う関係ではございませんので無駄な詮索はやめてくださいな」
ハジメたちにした時よりも簡易的だが、しっかりと挨拶をしている。ちょっと毒づいているが。食事を邪魔されたことで若干苛ついているのだろう。
ちょっとした騒ぎを起こしてしまったため、店主の提案で普段は席に数えていないVIP席に全員集合した。もちろん俺たちは食事をしながら……だがな。
「橋から落ちた後、どうやって生き延びたのですか?」
「超頑張った」
「何故白髪なんですか?」
「超超頑張った」
「その目はどうしたのですか?」
「超超超頑張った」
「何故すぐに戻ってこなかったんですか?」
「戻る理由がない」
「真面目に答えなさーい!!」
責任者はハジメだと言うことを先に通してあるので、先生の質問の矛先はハジメに向いている。最も、めっちゃ幸せそうにニルシッシルを食っているベルや俺を邪魔するのも忍びないと思われているだろう。そんな時、デビットが切れながら拳をテーブルに叩きつけた。
「おい、お前!愛子が質問しているのだぞ!真面目に答えろ」
「食事中だぞ?行儀良くしろよ騎士様」
「ふん、行儀だと?その言葉そっくりそのまま返してやる。薄汚い獣風情を人間と同じテーブルに着かせるなど、お前の方が礼儀がなっていないな。せめてその醜い耳を切り落としたらどうだ?少しは人間らしくなるだろう?」
礼儀がなっていないのはどちらだろうか。聖光教会が人間族以外を見下しているのは分かっているが、ここはそもそも食事処だ。ユエさんはその態度に眉を顰めながらデビットを見ている。
「主様、何も言わなくていいのですか?」
「ここからがおもしろいからまあ見ていろ」
ベルが小声で聞いてくるが、今は黙って聞いてみろって。楽しいからさ。
「なんだ。その目は?無礼だぞ!神の使徒でもないのに、神殿騎士に逆らうのか!!」
「フッ……小さい男」
騎士である以上、プライドというものを持っているデビットもそろそろ限界だったのだろう。ついに剣を抜いた……と思った瞬間に部屋中にとある音が響き渡る。
ドパンッ!!
ハジメの射撃音だ。そのままデビットの頭がガクンと後ろにそれながら壁までぶっ飛ばされる。その現場を目にした他の騎士たちはもれなく殺気を放ちながらハジメを見ている。さて……俺も動くか。
「【跪け】」
「「「「ぐぅっ!?」」」」
俺の一言で、騎士たちが強制的に膝をついた。とあるキャラの演技だが、皆は分かるかな?そして立ち上がり彼らに告げる。
「無礼だぞ?俺とハジメは神の使徒。貴様ら神殿騎士風情とは、その命が格段に違うのだよ。貴様らは、かの勇者様が、『亜人族を解放したい』と言ったらどうする?従うだろう?所詮貴様らは我々、崇高なる神の使徒が主役の舞台装置でしかないのだから」
そう、俺は今権力を振りかざしている。俺の言葉に、拘束を解かれた騎士も反論ができずに剣を収めるしかないでいる。先生や生徒も、今更のように『神の使徒』の地位について自覚が芽生えたようだ。
「俺は……あんたらに興味がない。関わりたいとも関わってほしいとも思わない。いちいち今までのこととかこれからの事を報告するつもりもない。もう俺たちの邪魔をしないでくれ。じゃないと……つい殺っちまいそうだ」
威圧をかけながらそう言うハジメに反論できるものはいない。怯えているからだ。
『ご馳走様でした。主様、今のは趣味が悪いですよ』
『やはりお前には分かるかベル?そうだ、『エヒトルジュエ』の『神言』を演じてみたのだが……恐ろしいほどよく効いて正直驚いてる。もう使わんよ』
『そうして下さい。エヒトの気配がして斬りかかろうか迷いました』
『そこまでかよ……』
念話石で内密に会話する。さて、そろそろ店を出るか。ニルシッシル美味かったな……今日で食えなくなるのも惜しいし、香辛料が買えないのも痛いから依頼は真面目にこなすとしよう。……うん、寝たい。
「南雲くんと……篝火くんでいいでしょうか。先程は隊長が失礼しました。なにぶん我々は愛子さんの護衛を務めておりますから、愛子さんに関することとなると少々神経が過敏になってしまうのです。どうかお許し願いたい」
チェイスと名乗る騎士の1人が俺たちに謝罪してきた。少なくともデビットくんよりは礼儀や態度がましなようだ。しかしそんなチェイスくんはハジメの持つドンナーに目を向けている。
「そのアーティファクトでしょうか?相当強力なものにお見受けしますがいったいどこで手に入れられたのでしょう?」
目が笑っていない。まぁ、纏雷使わない機構だけでの銃撃だったから量産できるとでも思っているのだろう。魔人族と戦争中の人間族にとっては良い武器が手に入るかもしれないチャンスだ。ここで逃す理由はないだろう。
「そうだよ!南雲、それ銃だろ!?なんでそんなもん持ってんだよ!!」
玉井?だったはずの男子生徒が正体をバラしてしまう。いや、隠してもないから別に問題ないけど。
「銃?玉井はあれが何か知っているのですか?」
「そりゃあ……俺たちの世界の武器だしな」
「ほぅ……つまりこの世界にもともとあったアーティファクトではないと。では作成者は当然……」
「俺だな」
毎回なんだけど、飽きたな。俺が作ったアーティファクトはないし、直接の会話に参加する理由もないから。話が長いのは好きじゃないんだよねぇ。ベルも退屈そうだしな。
「あっさり認めるのですね。その武器が持つ意味、理解していますか?
「戦争の役に立ちすぎる……だろ?量産さえ出来ればな。大方、戻ってこいとか作成方法を教えろとかそんなことを言いたいんだろ?当然全部却下だ。諦めろ」
ユエさんやシアさんはハジメの対応を一生懸命聴いている。そんな時、いつの間にやらベルが頼んでいたらしい紅茶が運ばれてきた。御丁寧に俺の分も含めて。……払うの俺なんだがなぁ。いや、ちょうど飲みたかったし良いんだけど。
茶をすすりながら俺たちはまたハジメの会話に耳を傾ける。おっと……吹っ飛んだデビットくんからの殺気が。ハッハッハッ……喰い殺すぞ?
「ッ!?…………ッ」
諦めたようだ。はん、所詮は人間。この程度で怯むような者に価値はないねぇ。
『大人げないですよ主様』
『身の程を知らない下等生物に序列を教えているだけだよ。それに、序列、と言うだけならばお前だってこの世界では上から3番目だからな?』
『理解していますが、今のわたくしはただのリベルタであり、主様の従者ですので』
『ふっ……それでいい』
ちなみに1番目がエヒト、2番目は魔人族が信仰するアルヴヘイト、3番目が真の神の使徒だ。チェイスとハジメ不毛な押し問答の途中、畑山先生が口を出した。
「チェイスさん。南雲くんには南雲くんの考えがあります。私の生徒に無理強いはしないでください。南雲くんもあまり過激なことは言わないでください。篝火くんも、俺は関係ない、みたいな顔をしないでください。……2人とも、本当に戻ってこないつもりなんですか?」
「ああ、戻るつもりがない。明朝、仕事に出て依頼を果たしたらそのままここを出る」
「そちらに戻ったところで、シアさんを教会の方針でシアさんを殺されるのがオチなのでね。何の意味もない。先生は俺たちを陥れるために戻ってこいとか言わないだろう?」
「当たり前です!!私は2人の先生ですから!!……でも、どうして」
先生が言い切る前にハジメは席を立った。それをみたユエさん、シアさんもハジメの後を追って二階に上がっていった。
「主様。食後の運動でも」
「ああ、昨日していなかった分は激し目に行くか」
俺たちも席を立つ。ふと見渡せば、騎士は悔しそうに口を噛み、生徒や先生は悲痛な顔をしながら深く考え込んでいる。無駄なことを……と思うけど、人間は考えて行動できる生物だ。これを糧に俺たちに面倒なことをしてこなくなればいいのだがな。
『ハジメ、少し立ち合いをしてくる』
『分かった。部屋は二階の端だ』
姿が見えなくても念話石に魔力を通せば一定距離ないなら声が届く。ハジメに連絡を入れてからベルを立たせる。
「邪魔したな」
「相席させていただきありがとうございました」
「あっ……」
畑山先生が何かを言いたそうな目で俺を見るが無視だ。もうここに用はない。
檜山と光輝の生殺与奪は君達にあるのだ!
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檜山殺
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光輝殺
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両方殺
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両方不殺
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クラスメイトも一緒に……殺?