ギャリンッカキンッ……
月が美しい夜に金属のぶつかる音が聞こえる。俺のすぐ近くでだ。
「はぁッ!!」
「くっ……」
俺とベルの手合わせの音だ。今日のベルはいつもよりもやる気なのか、ハルバードを二本持ちだ。得物の大きさ故に地上での戦闘は得意ではないはずだが、それを克服するために彼女も努力している。対する俺も槍を2本持っている。今更ながら二槍流とでも名付けようか。
「相変わらずッ……堅い守りですね!!」
「穂先がでかいからなッ!攻撃を逸らすこともやりやすい。お前こそ、その攻めは健在だなッ!!」
ベルがハルバードを用いてなぎ払いからの突きなど、ハルバードだからこその攻撃で攻めてくる。しかし俺も負けてはいない。その7割を穂先でそらし3割は避ける。今のところ、お互いに一撃も加えられていない。
『ベル、来客のようだが無視でいい。これで実力を見せつけて諦めさせれればなお良しだ』
『分かりました。では続行します』
後ろから感じる気配に、俺たちは念話で会話をする。もちろん体は動かし続けたままで。
「……なんだアレ、本当に人間かよ?」
「あの女の子もすごい……天之河より強いんじゃ……」
あんなゴミカスとうちのベルを比べてもらっては困るんだがな?俺の後ろの方にいる生徒諸君。どうやら先生はいないらしい。その目や声色は驚愕に染まっている。
「ベル、今俺がよそ見をしたから油断したな?」
「なっ!?」
ベルがいつの間にやら俺の懐に入りハルバードを突き立てようとしている。大方よそ見で視界から外れたうちに一気に詰めにきたのだろう。だがまだ甘い。俺はイナバウアーの要領で体を後ろに曲げ、頭に迫っていたハルバードの刃を交わす。ついでに後ろでこちらをみている生徒諸君に向けて笑っておくことも忘れない。そのまま俺は両手の槍を地面に突き刺し、それを支えにジャンプしてベルのハルバードを蹴り落とした。
「チェックメイト」
「……参りました。流石は主様です」
槍を抜くことなくそのまま手刀を首元で止め、降参させる。
「大分上達したな。しかし、不用意に相手に近づくことはお勧めしない。ハルバードの特性は斧と槍のいい部分を掛け合わせていることだ。そのリーチを最後まで生かしきれ」
「分かりました。でも主様も、アピールのためとはいえ自らの得物を地面に刺す必要はなかったのでは?わたくし、いつまで手加減されるのでしょうか?」
「それは……すまんかった」
お互いに反省点を言い合い、宝物庫から水を渡す。
「ふぅ……それで、何か用事でもあるのか?」
どうやら、奴らは帰らなかったらしい。
「気付いてたの?」
「ああ、お前らがここに来たくらいからな」
姿を現した生徒たちを代表して園部が俺に聞いてくる。皆、ラフな格好をしている。
「篝火、お前すげーな!!いつの間にそんなに強くなったんだ?」
「仁村か。まあ、色々あったんだよ。『役者』の俺でもここまでになれる色々がな」
俺は別に、クラスメイトに興味がないわけではない。いや、興味はないがハジメほどではないからな。普通にクラスメイトとも喋っていたし、自分でも慕われていた方だという自信もある。そうなるように演じていたから。
「篝火が奈落に落ちてから……中村はずっと泣いてたよ」
「ッ……今の恵里は?」
どうやら、園部はわざわざ俺が一番聴きたかったことを教えてくれるらしい。そして、どうやら恵里は俺のことを心配してくれているのか。……嬉しい。
「いつも通りな感じに戻ってる。天之河のパーティーで頑張ってるよ。でもどこか辛そう。だって、お兄さんが死んじゃったんだもんね。生きてるけど」
「……そうか」
じゃあ大丈夫そうだ。どうせ恵里のことだ。天之河を落とす算段でも考えているんだろう。……はぁ、やっぱりそうだよなぁ。でも、早く再会しなければ……不安定な今の恵里は何をするか分からないしな。多少は手綱を引いておかないと。
「ねぇ……本当に戻ってこないの?」
確か……菅原か。彼女も確か食事の時にいたはずだが、聞いていなかったのか?
「ハジメが言っただろう?戻るつもりはないと。俺も同じ意見だ。俺たちには目的があるんでな。わかったらとっとと帰れ。もう夜も遅い」
「…………」
キツいことを言っている自覚はあるが、恵里の現状が聞けただけでも十分だ。それでも、こいつらは帰ろうとしない。
「篝火……そのさ、ありがとうよ」
「……なんのことだ?」
仁村が申し訳なさそうな顔で俺に礼を言ってくる。
「あの時……ベヒモスから逃げる時に、トラウムソルジャーを率先して倒して、俺たちの士気を上げてくれたことだよ、アレが無かったら俺たち……死んでた、からさ」
仁村の言葉で、ほかの生徒たちも俯く。よっぽどあの時のことがトラウマになっているのだろう。
「別に礼を言われる筋合いはない。どの道誰かがやらなければ全員死んでいた。その点を見れば、お前たちの中にはハジメに助けられた奴の方が多そうだが?」
「ッ」
園部がぴくりと反応した。図星だったのだろう。
「……はぁ。恵里のことを教えてくれたしな。ひとつだけアドバイスしてやる。多分、お前らは戦うことが怖くなったんだろう?その気持ちはわかる。別に戦う必要はないと思うしな」
「「「「「「……?」」」」」」
おそらく先生が教会に何か言って、迷宮攻略から離脱したのだろうけど、それでも負い目はあるはずだ。自分たちだけ怖くなって逃げました。なんて人に言えるはずはない。
「非戦系の天職だから戦ってはいけないなんて誰が決めた?俺とハジメは、能力こそ低いがしっかり戦っていたぞ。ならば、戦闘系の天職だから戦わなければいけないということもない。戦えと言われたから戦う?それはただの諦めだ。誰かにすがることでしか自分の目標を決めることができないんだったらお前らは戦うだけの奴隷に等しい」
「でもっ!!いきなりこの世界に飛ばされた俺たちに……誰かに頼らないで生きていく力なんて……」
「だから、それが諦めだって言っているだろう。要はな、使ってやればいいんだよ、この世界を」
「……どういうこと?」
園部が訝しげな視線を俺に送りながら聞いてくる。
「この世界は自分たちが輝くための舞台。その舞台上で主役を飾るのは誰だ?……お前たちだ!!この世界も、人も、神でさえも、舞台装置としてお前たちの引き立て役になって貰えばいいんだ。決められた台本だけじゃ面白くない。どんな演劇でも、アドリブが入れば面白くなるだろう?お前たちは自ら『自由』を放棄している。何かを成したいと思うのならば、『自由』を勝ち取れ。自分の手で、な」
「「「「「「…………」」」」」」
拳を握って、俺は生徒たちの前に突き出す。
「お前たちが決めるんだ。いつ、どこで、誰が、どうして、どうやって、何をするのか。お前たちの『自由』な意思の元でどんな選択をしても、それを後悔したくないんだったら足掻き続けろ。挫けたっていい。挫折やトラウマは十分味わったはずだ。落ちるとこまで落ちたんだったら、後は上がるだけだろう?俺たちは、奈落の底から這い上がってきたんだぜ?」
ニヤッと笑いながら俺は告げる。彼らはもう俺を見ていない。その目には意思が宿り、自分の『自由』な意思を再確認しているだろう。拳を強く握っている者もいる。
「アドバイスはこんなもんだ。じゃあ、俺たちはもう行く……って、ベル?立ちながら寝るとかどんな特技をしてるんだよ。起きろ。もう帰るから」
「………はっ!?……寝てませんよ。ええ、寝てませんとも」
「いつもの俺みたいな口調をするな。ほら、帰るぞ」
「あ、はい主様。それでは皆さん。おやすみなさい」
ベルの声は届いていないだろう。もう考えることに夢中なようだしな。
『珍しいですね。人相手にあそこまで。クラスメイト、というのはそれほどの仲なのですか?』
『いや、お前も覚えがあるだろ?全てを諦めた時の虚しさとかさ。……いつかの自分を見てるようで少しイラついてな』
『ふふっ……そうですね。それで、わたくしのことも救ってくれましたもんね?』
『……そうだったな』
そのまま宿に戻った俺たちは、ハジメに教えられていた部屋に向かった。途中、別の部屋からハジメが出てきたがどうやら先生の部屋にいたらしい。
「よぉ影二、ベル。鍛錬は終わったのか?」
「ああ、ついでに欠けた刃を研いでやってたんだよ」
「へぇ……珍しい。お前にしては随分なフォローじゃねえか」
「そういうお前こそ、わざわざ他人に話に行くとか正気を疑うぞ?」
「まぁ……お互い珍しいことをしたってことでチャラだ」
「ふっ……そうだな」
そのまま俺たちは各々の部屋に戻り、その日を終えた。
「おやすみなさい主様」
「ああ、おやすみ」
〜翌日明朝〜
「……なんとなく想像つくけど一応聞こうか。何してんの?」
そんな気の抜けた声はハジメが出したもの。今日はいつもよりだいぶ早く起き、支度を整えて依頼のために町を出ようとしていたところだ。
そして、北の山脈の方へ向かうために門に向かってみれば、畑山先生や生徒たちが待ち構えていた。
「私たちも行きます。行方不明者の捜索ですよね?人数は多い方がいいです」
「却下だ。行きたきゃ勝手にいけばいい。が、一緒は断る」
「なぜ……ですか?」
「単純に足の速さが違う。先生たちに合わせてチンタラ進んでいられないんだ」
ハジメがチラ見した方を見てみると、先生たちにの人数分の馬が用意されていた。山脈地帯を馬で行く気か……?いや、それは移動手段に優れた奴が言うことか。こいつらの今の最高速度は馬、というだけだろう。
「ちょっと……そんな言い方ないでしょ。南雲が私たちのことよく思ってないからって愛ちゃん先生にまで当たらないでよ」
正義感の強そうな発言をしたのは昨日も話した園部優花だ。どうやら、クラス内でのいつものハジメに対する扱いが悪かったことが原因と思っているらしい。……自覚があるなら最初からしなければいいのに。
「それに私たちは、私たちの『自由』な意思で行動してんの。それをわざわざとやかく言わないで」
「あぁ?……おい影二、何を吹き込みやがった?」
「言っただろう?欠けた刃を研いでいた、と」
「……はぁ」
俺がよく使う言い回しを園部が言ったことで、ハジメが俺を疑うがまったくもってその通り。しかし、教えただけでそれを決めたのは彼女たちだ。前半はともかく、後半に関して筋は通っている。ハジメはわざとらしくため息をつくと、宝物庫からシュタイフを取り出した。恐らく、バイクと馬の性能差を見せつけるのだろう。……その場合俺はこの場で擬態しなければいけないのだがなぁ……
シュタイフが突然現れたことに驚愕する先生たちを横目にハジメは告げた。
「分かったか?八つ当たりでもなんでもない。物理的な意味で移動速度が違うと言っているんだ」
「こ、これも昨日の銃みたいに南雲が作ったのか!!スッゲェ!!」
「ま、まぁな……ううん!それじゃあ俺たちは行くから、そこどいてくれ」
どうやらバイクが好きらしい相川が興奮しながらハジメとシュタイフに詰め寄った。ハジメくん、何故満更でもなさそうなのだね?
「待ってよ。そのバイクじゃ、乗れても3人でしょ。人数が足りないわ」
「……影二、ベル、見せてやれ」
「えぇ……マジ?」
「わたくしは構いませんが」
ハジメからの催促。どうやらユエさんとシアさんも同じ意見らしい。ベルもだ。……やるか。
「……ふぅ。出来たか」
「これでいいでしょうか?」
「「「「「「「ッ!?」」」」」」」
俺は、重力魔法を用いて自分の重力を操り体を浮かせる。ベルも翼を展開してはためかせ飛行した。割と制御が難しい。ミレディが言う通り適性が微妙というのもうなずける。ユエさんもまだまだよのぅ、という視線を俺に向けて送っているしな。
「ま、待ってください!!」
いち早く現実に戻ってきた先生がハジメに詰め寄り小声で何か話している。恐らく昨日先生の部屋で2人が会話したことが関係しているのだろう。
「ベル、もういいぞ」
「はい」
俺たちは地上に降りた……と、同時に生徒たちに詰め寄られた。
「篝火!!お前どうやって飛んだんだ!?リベルタさんも!!」
「俺は魔法で、ベルは元々飛べるから普通だぞ?」
「お前らには普通でも俺たちには普通じゃねえよ!!本当にすげえなお前ら!!」
俺は男子に、ベルは女子に詰め寄られたそれぞれ興奮した様子で質問されている。ベルが助けて欲しそうな目線を向けてきているが……無力な主を許せベル。
こんな感じでわちゃわちゃやっていると、ハジメが新たに魔力駆動四輪、まぁジープみたいな奴を取り出した。それを見て俺たちも真面目な雰囲気に戻る。
「乗れない奴は荷台な?」
ハジメの一言を皮切りにゾロゾロと俺たちは乗り込んだ。一番前の運転席にハジメ、その隣に先生、次にユエさん。2番目は園部、菅原、シアさん、宮崎、ベルの順で座っている。その他は荷台だ。俺はわざわざ女子陣と同じ列に座る勇気もないので自分から荷台を申し出た。ベルから「主様が荷台ならわたくしも……」と言われたのでシアさんを交えて説得し、却下した。
「お、おい篝火……そこ危なくね?」
「ん?……風が気持ちいいぞ、お前らも来るか?」
「「「全力でお断りします」」」
俺は荷台ではなく天井で寝転んでいる。移動中の車内は退屈で仕方がないので、外の景色がよく見える天井にしたのだ。
中ではハジメが先生と真面目な会話をしていたり、女子生徒たちが、シアさんにハジメとの色々を聞いたり、ベルに俺との色々を聞いたりと楽しそうに過ごしている。ベルには年ではなく、精神的に同じくらいの子と喋って欲しかったので園部たちには感謝しないとな。……スレンダーな宮崎の目が死んでいること以外は大丈夫だろう。うん……いや、シアさんとベルに挟まれてるのはマジで偶然だから……ごめん。
檜山と光輝の生殺与奪は君達にあるのだ!
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檜山殺
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光輝殺
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両方殺
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両方不殺
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クラスメイトも一緒に……殺?