「……び……篝火、おい篝火起きろって」
「…………んあ?……ああ、着いたのか」
だれかの声が聞こえてきたので目を開けてみれば目の前には仁村が。どうやら俺は寝ていたらしい。
「起こしてくれて助かる。他の奴らは?」
「えっと南雲がドローン?みたいなのを飛ばして周りを見てる。それで、今から山道を進むんだってよ。……お前、よく車の上で寝れるな」
「慣れれば余裕だ。じゃあ行くか」
俺が車体から降りると、ハジメがすぐに魔力駆動四輪を宝物庫に戻した。ハジメは俺待ちだったらしい。
「主様……会話って疲れますね……」
「でも楽しかっただろう?」
「……はい」
頬を少し赤く染めて返事をした。うむ、どうやら仲良くなれたみたいでよかった。少し離れた場所からベルちゃ〜ん、と宮崎の声も聞こえるし、愛称を呼ばせるくらいの仲には慣れたようだ。……作戦通り。
それから俺たちは山道を登っていく。一応、万が一を考えて俺とベルが最後尾をついて行っている。しかし、先生たちのスピードが遅すぎる。途中まではベルと談笑していた女子たちも、ハジメたちの速さに着いて行けなくなり喋る余裕もないほどに全力疾走の状態だった。俺とベルは少し呆れながらその後を追って行った。1時間ほど歩き続けると魔物の情報があった六合目あたりに到着、いったん休憩を取ることにした。
「ベル、ユエさんたちと遊んできていいぞ?」
「いえ、この服では川に入りにくいので構いません。なので主様、またいつかいきましょう」
「そうだな」
体力が底をついて死にそうな表情をしている先生一行を横目に、俺たちは休息を取る。ハジメたちが先に行ったようだが、まあ俺とベルは意識的に護衛をしているので彼らの復活を待つことにした。
『影二、川の上流に盾やら鞄やらと戦闘の跡があった。当たりかもしれないから行くぞ』
『了解。すぐに向かう』
「ハジメから連絡が来た、戦闘の跡を発見したらしい。今すぐ向かうぞ」
えぇ〜と文句が返ってくる。どうやら休み足りないらしい。
「俺たちは同行を許可しただけ、別に置いていっても構わないのだが?」
ベルに翼を生やさせることで、飛んで先に行ってもいいのか?と言外に脅しをかける。するといそいそと準備し始めたので、終わり次第ハジメたちに合流した。
「影二……遅い。あと最近私の出番が少ない」
「あ、私もですぅ!もっと出たいですよ〜!」
「俺に言うなよ」
いきなりメタいことをぶっ込んでこないで欲しい。そのあとハジメの一言で急いで川の上流に向かった。いざ到着してみると、所々に破壊痕や飛び散った血液に折れた武器などが散乱している。血の匂いが食欲をそそるがウブな人間どもがいるので流石にやめておく。仕切りに鼻をスンスンしてたのでハジメが呆れたような目線で見てくるが未遂なので無視。
「ん……?ハジメ、あれはなんだ?」
「影二……何か見つけた?」
「いや、あの奥の方に何か光って……」
「ちょっと見てきますぅ!」
シアさんがわざわざ『身体強化』して俺が指を指したほうに走っていった。数秒後に何かを手にして戻ってきた。
「ハジメさん、影二さん、これペンダントでした〜」
「ペンダント?……いや、ロケットだなこれ。中身は……女の写真か。遺留品かもしれないし保管しておこう」
その後も手分けをして、遺留品らしきものをハジメの宝物庫にぶち込んでいくだけの作業。途中、ハジメが「お前の方が中身スカスカなんだから入れろよ」と言ってきたが一蹴した。俺がこれらについた血を啜ってもいいのか?と聞けばすぐに自分の宝物庫に入れていた。ハハ、ワロス。
そのまま野営の準備をするべきであろう時間まで捜索をしていると、なかなかに立派な滝壺が見えた。その1日の疲労を清涼感で少し癒していれば、ハジメがピクッと反応を示す。
「これは……おいおいマジか……気配感知に反応があった。……人だな。この滝壺の奥だ」
「へぇ……なかなか逞しい人間がいるじゃないか。召喚【絶刀】……ハッ!!」
【絶刀】を呼び出し、魔力を通しながら滝を縦に切り裂けば、水の流れは二つにぱっくりと割れる。
「流石影二……『風壁』」
そこへすかさずユエさんが風魔法で割れた水の流れを安定させている。その間に俺たちは滝壺の奥へと進む。俺たちにとっては普通だが、先生たちにはそうではない。彼らは呆然としながら目の前で行われている所業に驚いている。どうやらリアクションも取れないほどらしい。
そのまま奥へ奥へと進んでいけば、20代の青年が顔色を悪くしながら眠っていた。命に関わる怪我もなければ、食料や水もまだ残っていたので恐らくただ寝ているだけだろう。しかし、そんなことを許すハジメでは無い。彼は義手の方の腕でデコピンをギリギリと音がするほど構えると、しっかり青年の額を捉えて力を解放した。
「ぐわっ!?」
本当に痛そうな声をあげながら青年は目を覚まして悶える。
「貴方がウィル・クデタかな?クデタ伯爵家3男の」
「いっっ……ん?君たちは一体……?」
「早く答えないと今のがもう一度飛んでくるぞ?ほらっ」
ギチ……ギチ……
ハジメが限界までデコピンの指を絞っている。
「ひっ!?……はい!私がウィル・クデタです!!」
「そうか俺は南雲ハジメ、フューレンのギルド支部長イルワ・チャングからの依頼で捜索に来た。(俺たちの都合上)生きててよかった」
ウィルの話を聞くと、当初の想定通り魔物が出たらしい。ブルタールというオーガやオークような魔物が10体ほど、しかもそいつらからギリギリ逃げ切ったと思ったら目の前に漆黒の竜が現れたらしい。……いやぁ、いったいどこの駄竜なんでしょうねぇ?
ウィルは自らの状況を話していくごとに感情が高ぶったらしく泣き始めた。恐らく死んだ他の冒険者のことを思い出しているのだろう。
「わだじば……さいでいだ……みんなじんでじまったのに……なんのやぐにもだてず……ひっくぅ……わだじだげいぎのごっで……それを……よろごんでじまって……わだじはっ!!」
生徒たちは悲痛そうな表情をし、先生は彼の背中をさする。シアさんもあわあわとしている。ユエさんも無表情だが少しだけ眉が寄っている。ちなみに俺やベルは無表情だ。正直、で?と思っている。そんな時ハジメがウィルに近づき胸ぐらを掴み上げそのまま宙吊りにした。
「生きたいと願うことの何が悪い?生き残ったことを喜んで何が悪い?その願いも感情も当然にして自然にして必然だ。お前は人間として極めて正しい」
「だが……私は……」
「それでも死んだ奴らのことが気になるなら……生き続けろ。これから先も足掻き続けろ。足掻いて足掻いて……そして死ぬ気で生き続けろ。そうすりゃいつかは、生き残ってよかったて思える日がくるだろう」
珍しくハジメが感情的に何かを語っている。と、思い少し思い起こせば、なるほど。少し奈落に落ちたころのハジメに境遇が似ている。ウィルに言ったようで実は自分に向けて言っていたのか。ハジメは奈落で精神も大人にならざる負えなかったと思っていたが案外そうでも無いらしい。子供らしく癇癪も起こす。まだまだ未成年ということだけはある。この中で一番付き合いが長くても気づかなかったこともあるんだな。
「主様。わたくしもあれ、しましょうか?」
「この状況だ。俺たちくらいは冷静でいよう」
「分かりました(わたくしはいつでも構いませんのに)」
ベルが言うアレとは、ユエさんがハジメとイチャついている状況だ。手を握って2人の世界を作り上げている。そんな様子を他の連中はキャーキャー言ったり怨念を込めたりとカオスな状況を加速させているので、せめて俺たちは普通でありたい。
とりあえず、生き残りを発見することもできたので下山することにした。まだ日が落ちるまでは時間もあるし帰れるところまでは帰っておこうと言う算段だ。
そして滝壺を出たところで俺たちを待ち受けていたのは……ウィルの話に出た漆黒の竜。その金色に輝く眼は真っ直ぐとウィルを射抜いていた。
「戦闘準備ッ!!一番槍は俺が貰うぞ!!」
竜からは明らかな敵意が感じられたので、【撃鉄】を装備し、跳躍。
「『衝撃』」
「グルァッ!?」
その土手っ腹に向けて【撃鉄】の最大火力を我が自慢の筋力とともに直撃させる。少し吹っ飛ばされた竜だがすぐに体勢を立て直すと、口を開けて魔力を収束させ出した。
「……やべっ」
「あの馬鹿ッ……いや影二なら大丈夫か」
若干、ハジメに見捨てられたような声が聞こえたあと、竜と俺の直線上にいるウィル達へ向けて高熱のブレスを吐いた。
「うぐっ……人間体だから火傷が……おわっ!?」
「か、篝火くんッ!?」
「「「「「「篝火ッ!!」」」」」」
俺はその火力で滝の上まで吹っ飛ばされた。まだ空中にいたので踏ん張ることもできずに流れに身を任せた。どうやら先生たちがそんな俺を見て心配している。
「ちっ……全焼か。仕方ありませんねぇ!!」
今のブレスでいつもの白ローブやらの衣服が燃え尽き全裸になってしまっているので、『完全擬態』の派生技能『衣服投影』で服ごと『篝火影二』に擬態し直した。……どっちみち今の俺は全裸である。滝の上に着地し下を見れば、ハジメが宝物庫から大楯を取り出し必死に踏ん張ってウィルたちをブレスから守っている。銀に輝く魔力がちらほら見えることから、ベルが翼を出してブレスを分解しているのだろう。
「俺も負けるわけにはいかないな『禍天』ッ!!」
右腕を上げ、上空に重力球を作り出す。ユエさんは重力魔法習得時には使えるようになっていたが、俺は最近、魔法として完成した。そこそこの魔力を込めたこの重力球に川の水も少し流れを変えている。俺はそれを竜の真上から思いっきり叩きつけようとするが、俺の重力球と黒竜の間にもう一つ『禍天』が現れ……俺のを飲み込んで肥大化してしまった。しかも制御権も無くなってるしな。
「ユエさん……やりやがったな……これユエさんの手柄じゃないか……」
俺は上からその様子を見る。2倍ほどの大きさになった『禍天』はそのまあも黒竜に叩きつけられ、
「グゥルアァァァァァ!?」
思いっきり地面に落とされた、ブレスも中断された。そんな黒竜へ向けてシアさんも彼女の武器であるドリュッケンを構えながら飛び出してきた。しかし黒竜も負けじとユエさんに向かって火炎弾をはなった。それを回避するためにユエさんは『禍天』を中断してしまい、結果的にシアさんがその大きな尾で吹っ飛ばされる結果になった。
「あ〜れ〜」
とか言いながら俺の後ろへ飛んで行ったので恐らく大丈夫だろう。余裕そうだ。
「ベルッ!!『許可する』……護衛対象を守れッ!!」
「了解しました。主様」
俺が叫べば、黒竜の鱗に負けない漆黒の翼をはためかせながらベルが空中に飛び出す。両手にハルバードを持ち、全身に銀の魔力が淡く光っている。俺が許可すると言ったのは、全力を出すことだ。こうなれば今のハジメでも負ける。
そんな時、突然黒竜が後ろに吹き飛んだ。どうやらハジメが銃撃をしたらしい。俺も行こうか。
「召喚
【撃槍】『STARDUST∞FOTON』
【烈槍】『HORIZON † SPEAR』
吹き飛べ駄竜」
右手に呼び出した【撃槍】で魔力の槍を複製し射出。左手に呼び出した【烈槍】の穂先を展開し、魔力をチャージ、収束……そして発射。俺の魔力光は『黒』なので、黒い魔力砲撃の周りを黒い槍が回転しながら累乗の威力となって黒竜を飲み込んでいく。
「これくらいでいいだろう」
砲撃を終えた後、俺は滝に向かって飛び込み、先程の滝壺の入り口で着地した。
「先ほどの強大な魔力……流石は主様です」
「お前も、惚れ惚れするほど美しい翼だ。しっかり守ってくれよ?」
「了解」
「あっ、篝火……行っちゃった……」
「前に出ないでください。巻き添えを食らっても気にしませんよ?わたくしが守護すべきはウィル・クデタだけですので」
俺はさらに跳躍しハジメの隣に立つ。
「川に突っ込んで頭は冷えたか戦闘厨?」
「残念ながら見事な着地を決めたさ」
軽口を叩いてから黒竜を見れば、所々が焦げている。殺すつもりで打ったんだが……魔力に対する耐性が高いのかもしれない。
「ガァァアアア!!」
「「ッ」」
黒竜がまた吠え、火炎弾を放つ。それは俺たちの真ん中を通り過ぎて、一直線にウィルを狙う。
「なんですか……この柔な炎は」
ベルは呆れながら羽を火炎弾に向かわせ分解している。あくびもしているし、守りはベルに任せれば問題ないだろう。
「お前の従者はおっかないな……あんなのが後9体もいやがんのか?……地獄かよ」
「ベルよりはレベルダウンしいているらしいから余裕だろ。それよりも……」
「あぁ……ユエ、一応ウィルの守りに参加しろ」
「んっ!!分かった」
後ろにいたユエさんはハジメの声を聞きベルの元まで下がり、氷の壁を魔法で作った。岩ではないのは、透けて見える戦闘を先生達に見させるためだろう。生徒たちが戦闘に参加しようとしているが正直邪魔なので2人にはしっかり止めていただきたい。
「さぁ……第二ラウンドだ」
檜山と光輝の生殺与奪は君達にあるのだ!
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檜山殺
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光輝殺
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両方殺
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両方不殺
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クラスメイトも一緒に……殺?