【31】
「グルァァァアアアアア!!!!」
「ほう……いい咆哮だ」
「言ってる場合じゃねえけど?」
禍天から体勢を立て直した黒竜が吠える。しかしその目は確実にウィルがいる方向を捉えていた。
「主様。狙いはこの人のようです。執拗に狙ってきていますし、支配系の魔法でも受けているのではないでしょうか?」
「だろうな。大方、ウィル・クデタを殺せとでも命じられているんだろう」
ベルは感が鋭いらしい。これで俺も本来のシナリオ通りに動きやすくて助かる。
「ハジメ、大きな衝撃をぶち込んでやれば目も覚めるだろう。何かあるか?俺とユエさんの『禍天』以上の衝撃になるんだが……」
「殺せばいいだろ?」
「……今のお前の手札で足りるか?生憎と奴らがいるから元の姿には戻れんし、お前より少し下程度のステータスでしか相手はできない」
「……チッ、仕方ねぇ。パイルバンカーでいけると思うか?一応、アザンチウム鉱石製のミレディゴーレムを貫きかけた実績があるが」
「それでいくしかないな」
こんな会話をしているが、今なお黒竜からの攻撃を避け続けている。その合間に会話をしているだけだ。尾での薙ぎ払いに火炎弾と、某狩ゲーを思い出させる現状だが周りの地形は割と破壊されているしで悲惨な状況だ。シアさんは吹っ飛んだきり、ユエさんとベルは非戦闘員の防御並びに俺たちの援護。結局戦えるのは俺たちしかいない。
「ッ……やはり無理にでもウィルを狙うか…『STSRDUST∞FOTON』!!」
黒竜の顔面に向かって【撃槍】で魔力砲撃を行う……ダメージはあまりない。ハジメもレールガンで射撃しているが一向に注意を引くことができないでいる。
「ッ……ベルッ!!」
「問題ありません」
黒竜が火炎弾をウィルの方に向けてはなった。しかしベルは分解羽を四角形に展開させることによって面で火炎弾を受け止めて防御する。黒龍のプレッシャーに気圧されていた生徒たちもいつのまにかベルの姿に見惚れているようだ。
「……あっ、俺たちもっ!!」
黒竜の攻撃を躱し、注意を引きつけようとしている時に後ろから飛んでくる属性付きの魔法。おそらく生徒たちだろう。だが俺たちレベルで致命傷を負わせられないのだから当然……
「ガァ!!」
魔法は黒竜の咆哮だけで掻き消されてしまった。まぁ……一面をクリアした勇者が8面くらいのボスに挑むようなものだから仕方ない。
「『雷龍』」
後ろからユエさんの声が聞こえたと同時に、空中にスパークを放つ東洋龍が現れ黒竜に向かって行く。だが、いつのまにやらチャージしていたブレスによってそれも消されてしまった。
「……今回は2人に任せる」
「そうしてくれ……おらっ!!」
ハジメは宝物庫からシュラーゲンを取り出し電磁加速させて撃つ。負けじと黒竜もブレスで対抗するが、一点集中の銃弾と面制圧のブレス。拮抗した威力だがその性質上ハジメの銃弾がブレスを貫通した。
「グリャァ!!」
そのまま銃弾は黒竜の顎を捕らえその巨体を大きくのけ反らせた。そのまま地に伏した。
「召喚【絶刀】『千ノ落涙』+『影縫い』!!」
2振りの槍を戻し、【絶刀】を取り出す。そのままゴーレムたちにも使った面制圧の刃で黒竜の影を捕らえ動きを拘束する。
「ナイスだ影二。これで……どうだッ!!」
ハジメが『空力』で空中に魔力で足場を作り駆け上がる。そのままジャンプして黒竜に向かって『縮地』を使いながら急降下。仰向けで地面に縫い付けられたその腹に向かって思いっきり蹴りを入れた。おそらく『豪脚』で威力を上げているのだろうその一撃はほんの少し鱗を割りながら地面を陥没させていく。……今ので拘束が外れたな。
「召喚【鏖鋸】」
『影縫い』が解除されたのを見てから俺は【鏖鋸】を取り出し、魔力で糸を作り黒竜に向かって放つ。魔力操作の派生技能である『魔力圧縮』で魔力糸を強固に圧縮し『遠隔操作』で遠くに放った鋸を操作する。左右から包み込むように投げた【鏖鋸】は黒竜の巨体を翼ごと縛り上げる。魔力の糸なので長さは無限、ということで本体は手元に戻し糸だけで拘束している。
「ぬっ……ハジメッ、長くは持たない。決めるならさっさと決めろ!!」
「任せろ」
黒龍の抵抗が激しい。しかしその間にハジメは黒龍の腹に色々威力を増強した義手のパンチを叩き込み置き土産とばかりに離脱前に手榴弾も投げ込んだ。どうやらしっかりとダメージも通っているらしい。
「影二、もう一度仰向けに転がせ」
「了解【獄鎌】……はっ!!」
次に【獄鎌】を呼び出し、下段から振り上げる。魔力を乗せたその一撃は鎌の刃の形で黒竜へと伸び、衝撃でその体を反転させた。切れ味を薄くしているから体を切り裂くことなく体だけを吹っ飛ばした。器用だろう?俺が度々武器を変えているのは、生徒諸君に改めて俺の実力を見せようという魂胆がある。おそらくハジメもな。
「あとは任せようか」
いつのまにか黒竜の腹の上に乗っかっているハジメは宝物庫からパイルバンカーを取り出し固定した。ベルの元まで下がった俺は非戦闘員のどよめいた声を聞くが無視。【魔弓】を取り出し万が一に備えて弦を引いて待機している。
程なくして、最後の足掻きと暴れ回った黒竜はウィル目掛けて飛んでくるが上から現れたシアさんのドリュッケンによる本気の殴打でまたしても地に落とされた。そしてハジメはおそらくこの物語でも有数の暴挙に走る。パイルバンカーの射出機を戻し、地面に刺さっている杭だけを手に持ち黒龍の後ろに立ったのだ。
「……主様……その……ハジメさんは何を?」
「ベル、本当は教育に悪いから見せたくはない。でも……もう遅いんだ」
「え……?」
ベル以外の全員が、ハジメがやろうとする所業に気づき頬を痙攣らせている。正直俺もマジかで見ているがアレはない……本当にアレは無いと思うんだ……でも止められない。ここでとめてしまえばこの後の新たなヒロインの個性が一つ消え失せてしまうから……決してドMに翻弄されるハジメたちを見たいわけでは無いのだよ。
「ケツから死ね……この駄竜ッ!!」
ハジメの叫びと共に、その大きな杭が黒竜の尻の穴に突き刺さった……
「ひっ!?」
「……はぁ……ベル、感想は?」
「すごく……大きいです」
「なぜそのネタを知っている?」
「それと、1ヶ月はハジメさんの前に立ちません。立たれた瞬間に分解します」
「……1週間にしてやれ」
『アァーーーーーーーなのじゃぁぁぁっぁぁああああ!!!!』
とても呑気な会話をしていると、杭を刺された黒竜から女性的な声が聞こえてきた。
『お尻がぁ〜……妾のおしりがぁ……』
悲痛そうな声が聞こえる。でも少し息が荒いし艶のある声をしているのはなぜなのだろうか?ああ、オレニハナンノコトカワカラナイナ。
「ベル……状況終了。警戒だけは怠らずに戦闘態勢は解いていい」
「分かりました主様」
翼を消し地面へと降りるベル。俺はその手を取り着地の補助をした。
「お前……まさか竜人族か?」
『むむ?いかにも、妾は誇り高き竜人族の1人じゃ。偉いんじゃぞ〜凄いんじゃぞ〜?だから……そのぅ……早くお尻のそれを縫い欲しいんじゃが……そろそろ魔力が切れそうなのじゃ。この状態で戻ったら……大変なことになるのじゃ。……お尻が』
見せられないよ、の字幕が出てきそうなひと時が目の前で行なわれている。ハジメはやめてやめてと言う女性にさらにグリグリし、その声を放つ本人は体をビクンビクンさせている。……これでコイツが黒竜じゃなければ確実にアウトな絵面だ。
そして、いったん落ち着いたハジメは黒竜から話を聞く。話の内容を要約するとこうだ。
異世界の人間……俺たちの調査のためにやってきた彼女は、山脈の途中の山で竜の姿で眠っていた。そんな時黒いローブを着た男が彼女のの前に現れ闇系魔法などで洗脳と支配の魔法を行ったそうだ。ベルの予想が完璧に当たっている。
竜人族は肉体の強度はさる事ながら精神力の強さにも飛んでいると聞くではなぜ完璧に操られたのか?その答えをお聞きいただこう……
『恐ろしい男じゃった。闇系魔法に関しては天才と言っていいレベルじゃろうな……そんな男に丸一日かけて間断なく魔法を行使されたのじゃ。いくら妾といえど耐え切れんかった……』
とても悔しそうな声で言う黒竜だが、何箇所か話におかしい部分がある。
「それはつまり調査に来て丸一日、魔法がかけられていることにも気づかないほど爆睡していたって事じゃ無いのか?」
黒竜が目を逸らす。俺以外の全員の彼女を見る目が変わった。アホをみるかのような目に。
で、そのあとは色々小細工をしていたローブの男が、ウィルの調査隊に見つかったので口封じに殺せと命令されていてそれを実行したそうだ。
「……ふざけるな……操られていたから……ゲイルさんを、ナバルさんを、レントさんを、ワスリーさんを、クルトさんを……殺したのは仕方ないとでも言うつもりか!!」
被害者であるウィルがそう叫ぶ。誰もがウィルに目線を向けているが、ウィルの表情は怒髪天だ。
『影二、今この竜の話にあった魔物たちを探してるんだが……滝の上に1匹魔物がいた。仕留めてきてくれ』
「了解……召喚【魔弓】」
ハジメからの『念話』を聞き、俺は一度戻していた【魔弓】を再び手に取り、滝を駆け上がった。ベルが何事かと見てきたがすぐに戻った。優秀な従者で助かる。
「声……は届かないか。じゃあサクッといかせてもらおう。できれば清水は欲しかったが、ここまで来たらもう遅いな。ごめんな清水、君はやはりこの町で終わりらしい」
独り言を言いながら、魔力の矢を空に向かって放つ。弧を描くその矢は綺麗に一羽の鳥の頭に命中し貫通した。大方、清水が寄越した監視用の魔物だろう。
「……清水は生徒たちの中でも特に優秀なんだがなぁ。奴がいれば、恵里の屍兵と合わせて何体の騎乗兵が作れると思ってるんだ。全く、魔人族も面倒なことをしてくれる」
従順な兵士に従順な魔物。そして魔法の天才である清水と恵里、素晴らしいコンビネーションを見せてくれるだろうに。人?帝国の野蛮な人間共が大量にいるじゃないか?あの国は別になくても舞台に大きく影響しないだろう。なんとかして清水は確保したいけどなぁ……無理だな諦めよう。死体さえあれば適当に保管して恵里に『縛魂』して貰えばいいんだが……先生たちがそれを許さないだろう。降霊術を使える時間制限にも間に合うかわからないしな。
『主様、終わったのなら早く帰ってきてください。主様抜きでこの光景を見るのは辛いです』
『分かったよ。今行く』
どうやら黒竜のあられもない姿も佳境らしい。早く戻ってベルの心の安寧を守らねばな。
「清水、今からでも気が向いて俺の方に来ないかな?俺はお前を『生かす』ことができると言うのに」
俺は滝から飛び降り重力魔法で自分に衝撃が来ないよう調整しながら着地した。
「……主様、アレは一体なんなのでしょう?」
「アレ?……あぁ、マゾというものだ。痛みを快楽に変換できる性癖の持ち主だから絶対に真似してはいけない。分かったか?」
「はい」
意志のこもった目で黒竜……ティオ・クラルスを見るベル。どうやら彼女はベルの反面教師になってくれたらしい。
「おお、これはまた……こりゃぁ三千、四千ってレベルじゃないな。桁を一つ追加してしないといけないレベルだ」
ハジメが圧巻の表情でそう呟く。おそらく、ウルの町に侵攻している魔物の数だろう。万か……余裕だろう。
「早く町に知らせないと!避難させて……王都から救援を呼んで……それから、それから!!」
万の軍勢と聞いてすぐにここまで考えれる先生はやはり大人としてもしっかりしているのだろう。まぁ……なんとか出来るかは別問題だろうがな。生徒たちも、俺たちが奈落に落ちたことによる戦闘による『死』の恐怖をトラウマとして味わっているから無理そうだ。
「……あの、ハジメ殿や影二殿ならなんとか出来るのでは?」
ウィルがとてつもなく無責任な一言を放った。チラッと横を見れば、ベルも何言ってんだコイツみたいな目を向けている。
「そんな目で見るなよ。俺の仕事はウィルをフューレンまで連れて行くことなんだ。保護対象連れて戦争なんてしてられるか。いいからお前らもさっさと町に戻って報告しとけって」
「ハジメの言う通りだ。ウィル・クデタ、今のお前は冒険者だろう?お貴族様ならともかく、同じ冒険者である俺たちに頼り切りで冒険者が務まるのか?」
「ッ……それは……」
ウィルが言葉に詰まる。貴族の家を飛び出して無理やり冒険者になったウィルには効く言葉だろう。一時的に黙らせる分には十分だ。しかし、謎の正義感に駆られている生徒たちが俺たちに、なんとか出来るだろうと言ってくる。そんな彼らにハジメが苛立った表情で言った。
「さっきも言ったが、俺の仕事はウィルの保護だ。保護対象連れて戦争なんかやってられねえよ。仮にやるとしてもこんな起伏が厳しくて障害物が多いところで殲滅戦とかやりにくくてしょうがない」
ハジメ……その言い方は準備万端ならば出来るって言っているようなものだぞ。
そして俺たちは結局ウルの町に戻ることになった。ハジメが動けないティオさんの足を掴み引き摺って運ぶと言う珍事があったがさほど重要なことではない。たとえティオさんの顔が恍惚としていても問題じゃない。ないったらないのだ。
「…………」
「ああッ、何処からか汚物を見るような目線を感じるのじゃッ!こう言うのも悪くないッ!!」
「……………………」
「ベル……逆効果だからやめときなさい。見るなら敢えて喜ぶことをしているハジメを見るんだ」
「いやその理屈はおかしいだろ影二。おいベル、俺を見るな。別に俺はSじゃねえからな?」
「「「………………」」」
何も……問題はなかったのである。
檜山と光輝の生殺与奪は君達にあるのだ!
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檜山殺
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光輝殺
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両方殺
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両方不殺
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クラスメイトも一緒に……殺?