【32】
ウルの町に戻った俺たちは、ティオ・クラルスとの戦闘で披露したであろう勇者一行を優先した。優先、と言ってもあの金髪……捜索対象の名前は興味がないので忘れてしまったが、アイツはハジメの任せた。人間に擬態している時に使う重力魔法はステータス関係無しに負荷が大きかったようで久々に俺もまともな『疲労』を感じたからだ。
「ベル、疲れてないか?」
「問題ありません主様。今の状態なら主様にも勝てそうですね」
「辞めてくれ……すまないが今日は無しだ。重力魔法があそこまで疲れるとは思ってなかった」
忘れていたが、俺は今全裸である。服ごと擬態したので外見上はまともだが、ブレスに巻き込まれた時に焼失した。変えの服は宝物庫に入っているがいかんせん着替えるタイミングがない。そして何より……
「影二殿、是非ともあの鎖でもう一度縛ってはくれんかの?」
「…………ハァ」
「ああん……そういう反応もいいのう!!」
「…………」
「ベル、その視線はコレを喜ばせるだけだ。辞めなさい、分解しようとするな」
ハジメ達がコレ……改め、ティオ・クラルスを押し付けてきたのだ。あの野郎……自分で開発したくせに……
見てみろ、後ろの奴らも若干距離を離してるじゃないか。ベル、教育に悪いからお前は本当に観てはいけません。
「…………分かった。後で俺の取っておきをくれてやろう。だから今は大人しくしてろ。お前の態度によってはこの街に滞在することすら危ぶまれる」
「「「「「「ッ!?!?!?!?」」」」」」
「真か!?おっふ……焦らしプレイからのご褒美とな!!了解したのじゃ!!今は!!大人しくしておくのじゃ♪」
ククク……ここまで俺をイラつかせるのはコイツが初めてだ。擬態のために人間の構造は全て勉強している。いくら竜人族といえど人化していればその構造は人間と同じ。快感など得られないような『苦痛』だけを2時間ほど味合わせてやる。
「か……篝火くん?そ、そんな淫らなことを……一体どこで覚えたのですか……?」
「ふむ……何を勘違いしているのかは知らないが先生。俺はただ『生物』の延長として人体の構造を勉強していただけ。当然、内部にとどまらず感覚機能までも履修している。理系に進む気はないが勤勉なのはいいことだろう?」
「それは……そうですが……」
「安心してくれ。敵の体を効率よく破壊するための方法や部位もまだ覚えている。戦闘から離脱したお前たちに必要になるか知らないが、頼まれたら教えてやろう」
「そういうことを言っているのではありません!!先生として、生徒の淫行は許しませんよ!!」
「……先生にはこれが淫行に見えるのか?」
かたやゴミを見る目の男女、かたや身を震わせ悶える女。これだけ見て本当に淫行と言うならどちらかと言えば先生の頭の中はピンク色だろう。というか俺は繁殖の必要がないから性的欲求も沸かない。
「まあいい。とりあえず休め。俺達はハジメ達ち作戦会議があるんでな」
「ッ、そのことについて篝火くんにもお話があります」
「……聞こうじゃないか。お前らは先に休んでろ。ベル、案内してやれ」
「はい」
有無を言わさずベルに生徒諸君を連れて行かせる。二人きりになった状況でとりあえず近くの椅子に座った俺と先生は向かい合った。
「さっき南雲くんとも話しました」
「ああ、聞いていたが」
ハジメは人間。他の誰かの言葉に心を打たれることはある。ヒトは群れる生き物だからな。先生は信念が強すぎるから、抵抗も無駄だと判断したのだろう。珍しく他人の意見を聞いていた。
「ですが、篝火くんには響かなかったように見えました」
「…………よく見ている」
「先生ですからね!!」
人間のくせによく吠える。だが、裏表がない分扱いやすいだけマシだ。
「……何故、ですか?」
「……?」
「寂しい事、だと思ってはくれなかったのですか?」
「ああなるほど、まあ……価値観の違いとしか言えないのだが……先生は納得しないだろう?」
「当たり前です。篝火くんも、もしかしたら人を殺したのかもしれません。ですが、貴方はまだ他の全てを切り捨てているようには見えませんでした」
当たり前だ。俺の存在意義はもはや恵里ただ一人。彼女の幸せの為なら俺は人間とも上手くやっていく。切り捨てるなどという非効率的なことはしない。実際、娯楽に関しては世話になっているレベルだ。
「ベルさんに対してもです。その……ティオさんを遠ざける姿はまるで子供を育てているような感じがしました。大切に思ってることがよく伝わってきました」
「まぁ……ベルは実質子供のようなものだからな」
俺と同じ唯一の存在にして自分の信じていた絶対的なモノの裏切られた存在。それなりに情も湧いているし、何より命を削って助けた。彼女の自由な意思による選択を俺が拒む事はない。戦闘面でも助かっている。
「すまない先生……話の主旨が分からない……ストレートに言ってくれ」
「……せっかちなところは相変わらずですね」
「先生が周りくどい言い方をするからだ」
俺達は少し軽口で笑い雰囲気を和らげる。もちろん俺は別に何も思っていない。というより面倒なので擬態を解きたい。開放感に包まれていたい……
「では単刀直入に言いますね。王宮に帰ってきてくれませんか?」
「断る」
「ッ……どうしてですか?」
「戻る理由は……ある。恵里が居るからな。だがそれは今じゃない。勇者達は俺とハジメが死んだものと思っている。王国も教会もだ。つまり、今の俺達を縛るものは何もない。幸い実力もある。自由に動けるチャンスは今しかない……準備を整えるには」
「じゅん……び……?」
珍しく語気の強い俺に気圧されたのか先生の声は小さい。
「後でハジメが話すだろうから詳しいことは言わないが、ハジメにはハジメの目的があるように俺には俺の目的がある。その達成のためには王宮などという低レベルな場所にいるわけにはいかない。見ている場所が違うのだよ、俺と先生達ではな」
俺が見ているのは恵里の笑顔。ハジメを含めたお前達が見ているのは地球に帰還する自分達の姿。遥かに遠い故郷を目指すか、手を伸ばせば届く距離にいる最愛の人を目指すか、クリアなら簡単、だが俺はそこで終わる気はない。この世界全てを舞台にして、俺と恵里で演じる最高の物語。役者の俺にはおこがましいは脚本・演出も俺だ。エヒトは今この舞台の演出に拘っているようだが……アドリブほど演出家が恐れるものはないだろう?役者の自分勝手な行動で破壊される物語を、舞台に干渉できない客席から眺めているがいい。気づけばソレは俺の物語に変わっている。
「だが、ハジメが認めた」
「……え?」
俺の言葉に考えさせられるものがあったのか俯いていた先生は唐突な言葉で顔を上げ俺を見た。
「例え目的が違っても、今はハジメと共に行動を共にしている。指針を決めるのはハジメに任せているからな。明日の戦争は任せておけ」
「か、篝火くん?」
「失礼します主様。案内が終わりました」
完璧なタイミングでベルが来る。話の折もついたので俺も席を立った。
「ちょっと…まだ話は終わってないですよ!?」
「休んだ方がいい。明日はきっと……メンタルもやられるだろうからな」
うむ……きっと……崇拝されるんだろうな(目逸らし)
流石の俺でもアレは全力で遠慮したい。人間に崇拝されるなんてもはや自殺レベルだ。
「さて……ここからは楽しい時間。脚本・演出担当の意見を聞きに行こうか」
「はい、主様」
さあハジメ、お前の溢れる厨二魂を見せてくれる。お前は役者の才能もあるが、そこは俺の領分だからな。
檜山と光輝の生殺与奪は君達にあるのだ!
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檜山殺
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光輝殺
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両方殺
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両方不殺
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クラスメイトも一緒に……殺?