【35】
「ハジメ、主犯の捕獲を完了しました」
「おう、こっちももうすぐ片付きそうだ……っていうか、見てみろ影二。お前、余計なこと言っただろ」
「………いえ、さすがの私でもアレは流石に予想外です」
力無く項垂れている清水を担いでハジメの元に来れば、少し退屈そうな顔で戦闘領域を指差してきた。そちらを向けば、リーダー格の魔物が殺され全力で逃げようとする魔物達がその逃げる方向の上空から延々分解の光で消滅させられているのが見える。
「はぁ……いつかはあんなのも俺達の敵になるのか……」
「聞いた話ではベルの3分の1程度のステータスしかないようですし大丈夫では?まあ分解に関しては何か対策せねばいけませんけど」
「そうだな。おいベルッ!!影二が戻ってきた。そろそろ帰ってこい」
ハジメが業を煮やしたように怒鳴り、それに気づいたベルが急いで飛んできた。特に理由もないので清水を地面と落とす。その乱雑な扱いに、いつのまにかやってきていた先生が怒っているが無視してハジメ達との会話に勤しむ。
「GG……グッドゲームだ。やはり無双系はこういうものだろう?」
「俺にしか分からないからやめろ。ほら、ユエ達混乱してるだろ」
擬態しながらオンラインゲームの用語を言えばハジメがオタクらしく突っ込んできた。なんでや……ええやろ。
「清水君、落ち着いて下さい。誰もあなたに危害を加えるつもりはありません......先生は、清水君とお話がしたいのです。どうして、こんなことをしたのか......どんな事でも構いません。先生に、清水君の気持ちを聞かせてくれませんか?」
悲痛そうな顔で倒れたままの清水に問いかける先生。
「 そんな事もわかんないのかよ。だから、どいつもこいつ も無能だっつうんだよ。馬鹿にしやがって......勇者、勇者うるさい んだよ。俺の方がずっと上手く出来るのに......気付きもしないで、 モブ扱いしやがって......ホント、馬鹿ばっかりだ......だから俺の価 値を示してやろうと思っただけだろうが......」
「てめぇ......自分の立場わかってんのかよ! 危うく、町がめちゃ くちゃになるところだったんだぞ!」
「そうよ! 馬鹿なのはアンタの方でしょ!」
「愛ちゃん先生がどんだけ心配してたと思ってるのよ!」
反省どころか周囲への罵倒と不満を口にする清水に、玉井や園部など生徒達が憤りをあらわにして次々と反論している。見ていて滑稽だが、彼らの言葉にますます顔を俯かせだんまりを決め込む清水。先生はそんな清水が気に食わないのか更にヒートアップする生徒達を抑えると、なるべく声に温かみが宿るように意識しながら清水に質問した。
「そう、沢山不満があったのですね......でも、清水君。みんなを見返そうというのなら、なおさら、先生にはわかりません。どうして、 町を襲おうとしたのですか? もし、あのまま町が襲われて......多 くの人々が亡くなっていたら......多くの魔物を従えるだけならとも かく、それでは君の価値を示せません」
愛子のもっともな質問に、清水は少し顔を上げると薄汚れて垂れ 下がった前髪の隙間から陰鬱で暗く澱んだ瞳を愛子に向け、薄らと 笑みを浮かべた。
「......示せるさ......魔人族になら」
「なっ!?」
勝手に会話を始めた先生達と清水を見て、俺とハジメはため息をつきながら近づく。ベルやユエさん達も俺達を見て共に移動した。
と、言ってもここから先、清水と先生は特に意味のないやりとりを繰り返す。いや、正確に言うと、先生の言葉は確かに清水の心に響いている。が、やはり無意味。何故なら……
「動くなぁ!!ぶっさすぞぉ!!」
立ち上がった清水は先生の首を腕で拘束し、どこからか取り出した針を首筋に向けた。何かが滴っているあたり毒だろう。
「ハジメ」
「ダメだ影二。たまには先生にも痛い目を見てもらう。過度の奴ならなんとかする」
そういうところが女誑しなんだよ……とか全く思ってない。ええ、全く思ってないさ。
言葉で俺を止めたハジメは後ろの女性陣に視線を向ければ、全員が分かったとでもいうように頷いた。ひとまずは動かないようだ。
「なんで……なんで南雲なんかがそんな力を手に入れてるんだよ……それがあれば俺だって…俺だって!!篝火、お前もだよ!!あの勇者に負けず劣らずの人気の癖にいつもいつも気取ったような態度で…しかも、しかもそんなにつよいとかよぉ!!」
「ハジメ、俺は別に誰が死のうがどうでもいい。早く終わらせたいんだが……」
「少し黙ってろ影二。今はツッコミ入れてる場合じゃない」
そこまで強くいうことはないだろう……
「ッ!?ダメです、避けて!!」
急にシアさんが叫び、身体強化を施して飛び出した。
「「「「ッ!?」」」」
俺以外の全員が咄嗟のことに驚いた。もちろんハジメも珍しくシアさんのことで焦っている。
シアさんが無理やり先生を清水から引き剥がすと同時に、清水の胸を水系らしく魔法が貫いた。
「ハジメッ!!召喚【魔弓】!!」
「分かってる!!」
後ろではユエさんとベルが倒れ込んだシアさんへと駆け寄っている。良い判断だと思いながらも俺は【魔弓】を召喚。魔力で矢を作りすぐに弦を引き発射。ハジメもドンナーを抜いて射撃をした。目標ははるか上空で飛行する魔物とその上に乗っている人型。
「チッ、魔物の足だ」
「俺も片腕を持ってくぐらいしか出来てねぇ。けど今はっ」
2人とも命中はしたが仕留める事はできなかった。
俺はすぐに神水を取り出すとハジメに投げた。
「これを」
「ナイスだ!!」
今は一分一秒でも時間が惜しい。俺が渡した方が早い。
「召喚【獄鎌】」
俺は【獄鎌】を呼び出し連結。両手で持ち倒れ伏した清水の首に刃を突きつけた。
「生きてるか清水?」
「ごふっ……あ…あぁ……か……りび……お前……
「ふっ、パーフェクトな演技だ。安心しろ」
「そう……か……ぐふっ……」
清水が息も絶え絶えな様子で聞いてきたので周りに気づかれないように返事をする。そうだな、あえて言うなら『計画通り』って奴だ。
「後は任せろ」
「…………あぁ」
「清水君!!ああ、こんな……ひどい……」
俺と清水が話している間に、ハジメが先生に口移ししたりシアさんとちょっと良い感じになったらしい。いや、見たんじゃなくて知識として知っているだけだが。今まで触れてこなかったが、先程の攻撃が清水の胸を貫通し穴を開けているため誰が見ても重傷だ。
「南雲君さっきの薬を!!今ならまだ助けれます!!
「おっと、それ以上近づかないでくれ先生。コイツの狙いは貴女なんだ。万が一がある」
「そんな……」
「影二の言う通りだ。それに、助けたいのか先生?いくらなんでも『先生』の域を超えてるぞ」
先生の1番の特徴にして欠点。生徒の事をどこまでも思い行動できると言う点は確かに評価に値するのだろうが、自分を殺そうとした相手をまだ生徒だと思う余裕があるとは思わなんだ。
「うぅ……あぁ……」
「ああ?」
「篝火君!!」
「……どうなっても知らないぞ」
清水が動こうとしたので、俺がさらに【獄鎌】の刃を近づける。しかし先生が非難するような目で俺を見てきた。これ以上何か言われても面倒なので仕方なく刃を遠ざけた。流石に納めはしないが。
「清水、聞こえているな?」
「……あぁ」
「お前を救う手立てがある。だが、その前に聞いておきたい……お前は、敵か?」
ハジメは清水へと近寄り、問いた。この質問の意味だけなら誰でもわかるだろう。しかし、その真の意味が分からなければ……
「て、敵じゃない......お、俺、どうかしてた......もう、しない......何でもする......助けてくれたら、あ、あんたの為に軍隊だって......作って......女だって洗脳して......ち、誓うよ......あんたに忠誠を誓う......何でもするから......助けて......」
「……そうか」
「ッ!!ダメェェェェ!!!!」
ドパンッ!!ドパンッ!!
こうなる。全てを察した先生が駆け寄ろうとしてきたが、時すでに遅し。ハジメの放った2発の銃弾は迷う事なく、額と心臓を直撃。生命活動を停止させた。
「『火葬』」
俺はすかさず今組み上げた火の魔法を使い清水の遺体を骨も残らないように燃やした。人間なんぞどうでも良いが、アンデッド化されても困るからな……まあ
「……どうして?」
俺達以外の全員の気持ちを代弁するような先生の言葉。燃えてゆく清水の遺体を見つめながらポツリと呟いた。
「敵だからな」
「ハジメがそう判断したからだが?」
「そんな……だって今の言葉……清水君は!!」
すでに終わった事を嘆く先生。
「あれで改心したと?無理だな。あれは自分が死ぬ状況で命乞いをする目だ、まさか改心なんてそんな……なぁハジメ?」
「ああ、俺は自分の目が曇っているとは思わない」
俺の同意を求める問いかけに当然のように答えてくれるハジメ。しかし先生が悲しそうな目をしているせいか、ガヤの護衛騎士共が不躾にも出張って来ようとした。
「そこで見てろ。これは我々の問題だ。実力差を理解出来ないほど落ちぶれてはいないだろう?」
「ぐっ……ぬぅ……」
【獄鎌】を向けて威圧すれば、流石の騎士様でも簡単には動けない。
「これからも俺は、同じことをする。必要だと思ったその時は......いくらでも、何度でも引き金を引くよ。それが間違っていると思うなら......先生も自分の思った通りにすればいい......ただ、覚えておいてくれ。例え先生でも、クラスメイトでも......敵対するなら、俺は引き金を引けるんだってことを......」
「南雲君!!先生は……それでも!!」
「......先生の理想は既に幻想だ。ただ、世界が変わっても俺達の先生であろうとしてくれている事は嬉しく思う......出来れば、折れないでくれ」
それだけ言ったハジメは有無を言わせないほどの『威圧』をし、ユエさん達を呼び寄せた。そのまま宝物庫から4輪を出し乗り込む。
「ハジメ。バイクを貸してくれ。すぐに追いつく」
「んあ?まあ別にいいが……ベルはどうするんだ?」
「ついて来てくれ。俺1人では迷う」
「分かりました主様」
ハジメからバイクを借り受け、出発を見送る。ウィルが訝しげな視線を向けてくるが手でしっしとすれば前を向いた。
「ベル、行くぞ」
「はい」
「あ、篝火君……」
懇願するような先生の視線。少し鬱陶しいので突き放そうか。
「俺はハジメみたいに言葉をかけたりはしない。終わった事を何度も思い出すのも可笑しいだろう?まあ……なんだ、園部」
「ッ、なに?」
突然俺に名前を呼ばれてびびった園部が緊張した声で返事をした。
「自殺させんなよ(これから舞台の演出として必要だから)」
「ッ!!……うん!!」
それだけ言って俺は魔力を流し発進させた。目的地は先程俺達が戦闘をした場所だ。
数分ほど走れば目的地に到着した。清水を捕獲した崖である。
「ッ……主様、これは一体……」
「見ての通りだ。なぁ
「見て分かるだろ……最悪だよ。誰が自分の死ぬ姿見て気分が良くなるんだ……」
俺とベルがフードを深くかぶって体育座りをしている清水の姿がそこにあった。
檜山と光輝の生殺与奪は君達にあるのだ!
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檜山殺
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光輝殺
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両方殺
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両方不殺
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クラスメイトも一緒に……殺?