【37】
オルクス大迷宮90階層では、今までに類を見ないような圧倒的な状況が窺える。何故かって?そりゃ僕がやって元凶だもん。
「欲するは炎。しかしそれはただの赤き炎にあらず。彼の者に害なす悪しき魂よ。復讐の炎に焼かれるがいい。我らが契約は永遠なりて決して途切れず。我らの邪魔を為すならば……苦しみを以て懺悔し後悔し恨み……そして恐怖しろ。それが我らの糧となり悦びへと変わるだろう。今こそ示そうではないか。誰が為の戦いなのかーーー『煉獄』」
「「「「「ギャァァァァァァ!?!?!?」」」」」
影二と僕の出会いを詠ったこの魔法『煉獄』。凄まじい威力だけどその分消耗も激しい。そもそも攻撃魔法は専門じゃないんだ!
「ハァ……ハァ……そろそろ、限界だってのにっ……」
こんなふうにここでは軽口言ってるけどわりとマジでキツい。影二が作ってくれるプリンが欲しい……
「なんだい、アンタのデタラメな魔法は!?」
「みんなは……私が守る!!」
対するは魔人族の女と、アイツが使役してる超強い魔物。後ろには限界突破が切れて弱体化してる光輝君を始めとした勇者パーティーのみんな。絶対絶命だね……
ああ、突然すぎて何のことかわからない?
いつも通りに迷宮攻略で戦闘訓練をしてた僕らは前人未到の90階層に着いたんだけど、そこで待ち伏せしてた魔人族の女にボコボコにされてるんだよね。アイツの魔物は一体一体が強くて歯が立たないし、本人に至っては人を石化させる土属性上級魔法『落牢』を使う。厄介この上ないよね。
(チッ……仕方ない。本当はやりたくないんだけど……死んじゃ意味ないし手札を一つ切っちゃうか)
「さぁ……行きな、僕のシモベ達!!」
「「「「「ガァアアッ!!」」」」」
「ッ!?なぜ!!」
今まで使えないと偽っていた『降霊術』を使って光輝くんや雫達が倒したキメラ?みたいな魔物を無理やり操って女を襲わせる。
ああもう!!あと『煉獄』1発分しか魔力は残ってないのに敵が多い!!香織も今役に立たない鈴を回復させるよりは『譲天』で僕に魔力を渡した方が生き残る確率上がるってのに……
「恵里ちゃん戻ってきて!!あとは光輝君がやってくれるから!!」
「っ……分かった」
僕の魔物達が頑張ってるうちに香織達の元まで下がる。入れ替わるように光輝君が僕の前に出て聖剣を振るう。流石に『神威』を使うほど詠唱時間は取れなかったのか分からないけどそれでも足止めには十分な技で退路を開いた。
…………負け、か。こんなんじゃ影二に笑われちゃうね。
「今だ!!退くぞ!!」
光輝君の声で僕達はいっせいに元来た道を走って戻る。はぁ……休みたい……
やぁ僕だ(鬱)
ちくしょう……こんな事ならあのゴミ叩き込めば良かったかな?
「ひぃ!?…………夢か……」
ふふ……そんなに怯えちゃって……面白いじゃん……いや僕疲れてるんだ……
えー現在僕達は89階層の広い部屋の壁の中にいます。土属性得意な男子が違和感の無いように頑張ってくれたからその中で思い思いに休んでるよ。
最近気付いたんだどさぁ……僕って少し影二の性格に影響されちゃってるかもね。ああ、もちろんドッペルゲンガーの時の方ね?多分影二に自覚はないんだろうけど、人が怯えてたり絶望してたりするのを見るのって結構楽しいんだよねぇ。……流石に命に関わる今でそんなの楽しむ余裕も無いけど。
どうせなら今ここで光輝君と雫を殺して『降霊術』を使っちゃえばさっさと魔人族に売り込めるかな?いやいや……今は最近開発した
宴の時間が楽しみだね影二♪あはっ、考えただけでちょっと濡れてきちゃった♪
「し、知らない天井だぁ〜」
こんなことを考えていると、鈴が目覚めたらしい。影二と一緒に見たあの作品の往年のネタを言っている。そんな青白い顔で言っても我慢してるのバレバレだよ鈴。まっ、十分活躍したから何も言わないけど。みんなもそのネタを知っているのか少し笑ったりして雰囲気がほぐれた。ちなみに僕は少しだけ離れた場所で半目を開けて見てるだけ。寝てるように見えてるから誰も邪魔してこない。やっぱ『煉獄』からの『降霊術』は消耗がひどいね。
鈴がネタを言って雰囲気を和やかにしようとしてる時、空気を読まないバカ2号の近藤礼一(1号は満場一致で龍太郎)がそれを責め立て、自分のイラつきを他人に押し付けるように光輝君まで攻め始めた。
聞いてて腹立つ。『縛魂』してやろうか、うるさいんだよ。
興味も無いし体力の無駄なので無視。だけど、さっきからビクビクして挙動不審なゴミが近づいてきた。
「おい、お前起きてるだろ……これどうすんだよ!!」
「小声で叫ぶとか器用だね……どうもしないよ。それより僕は疲れてるんだ。邪魔だからどっか行きなよ」
「なっ……てめぇ……」
「なに?僕より良い働きしたの?あの魔人族の魔物何匹殺した?どう足止めした?今すぐ殺してお人形さんにしてあげても良いんだよ?」
「ぬっ、ぐぅ……チッ、クソがッ」
「安心しなって、君に香織はあげるさ。これからも頼むよ」
全く……みんながいる場でこういう感じで話しかけないで欲しいんだけどねぇ?ま、みんな疲労困憊だし、今起きてる騒ぎの方が気になるらしくて誰も僕達の話なんか聞いてない。
あっ、そうだ。ついでだしアレやっておこうかな。
「我は命を冒涜する。縛られし魂よ、我に宿り力となれーーー『憑依』」
オルクスに来る前にこっそり殺しておいた高ランクの冒険者の魂を私に憑依させる。これで近接の心得を理解出来るから万が一近づかれても大抵は何とかなるはず。
「ッ…………香織ちゃん、少しだけ魔力を分けてくれないかな?」
そろそろ来そう。第二ラウンドと行こうか。
……あぁん?死んでる癖に逆らうんじゃないよザコ君。こんな可憐な少女に憑依させてあげるんだからありがたく思ってね。
あっは♪
〜ホルアド〜
「お、おい。本当にバレて無いんだよな……?視線が痛いんだけど!?」
「お前にではないから安心しろ。ほとんどの奴がベルを見ているだけだ。目立つからな、色んな意味で」
やあ影二だ。新しく清水をパーティメンバーに加えた俺とベルは今ホルアドの街の中に入っている。さっきから清水がうるさいが、それも仕方がない。アイツには今俺が渡したアーティファクト『擬態の腕輪』を使って変装しているからだ。
俺がオスカーの館でハジメからパクったアザンチウム鉱石を覚えているだろうか?『生成魔法』が使えるかの実験台になってもらった鉱石に試しに付与したのは『完全擬態』。付与しただけというのももったいなかったのでハジメに腕輪として加工してもらったのだ。もちろんパクった事がバレたので重い一撃を右頬にもらってしまったがまあ必要経費だ、ダメージもほぼ無かったしな。
魔力を通して自分が望む姿をイメージすれば魔力がその姿を全身に反映する。この時は何と声も変化させる事ができ、何より素晴らしいのはステータスプレートも騙せる。これでホルアドの警備は普通に超えれた。そしてそれを使っている清水の見た目は金髪に碧の瞳のイケメン。見た目だけなら某ハウルのあの人。俺がいつも着ている白いローブも貸し与えているので聡明な魔法使いという印象がある。まあ、今は杖が無いんだけどな。ていうか要らない、魔物肉を食わせことで清水も『魔力操作』を覚えたので詠唱する必要が無いからだ。ちなみにこの姿の時のこいつの名前はエドリック、自分で決めたらしい。
「エドリック、金渡すから適当なところに3人分の宿を頼む。俺達は今からオルクス大迷宮に潜る」
「え、ああ分かったよ。でも何で行くんだ?お前はもうクリアしたんだろ」
「ベルの分の神代魔法を取りに行く。大丈夫、半日もあれば戻る」
「2ヶ月以上経って勇者達が100層攻略出来ない迷宮を200層で半日とか……やべぇなお前」
「まあ近道するからな」
ハジメ式オルクス攻略術を使わせてもらう。皆さんご存知のとおり地面を打ち抜いていく。RTA?ハジメが空間魔法手に入れた瞬間そんなものは価値が無くなるさ。
「リベルタさん、マジで篝火を頼みます。ぜっっっったい、迷う」
「大丈夫ですよエドリック。ハジメに地図は貰っています」
おい清水、何でそんな腰を90度レベルで曲げる?そんなに俺の方向感覚は信用ならないか?……ならないなぁ。
「それじゃあ頼んだぞ。余った金は自由に使え、お前にやる」
「へ……余ったって……うおっ!?めっちゃ入ってる。いいのか?」
「お前のストレスの方が心配だ。風俗でも何でも行って英気を養ってこい」
「篝火様一生ついて行きますッ!!」
「一生は来るな、鬱陶しいから」
大金の入った袋を大事そうに抱えて清水は走り去って行った。何気にちゃんと最初に宿の方へ行く辺り律儀である。調子に乗って変なこと口走らなければいいが……
「じゃあベル、迷宮に入って22階層のトラップで一気に65階層へ、さらにそこの橋を飛び降りてから地面に向かって『分解』な?そのあとは適当に進んでボスのヒュドラを倒し館の3階にある部屋の魔法陣から神代魔法を覚えにいくぞ」
「分かりました。シンプルで良いですね主様」
ハジメはどうせフューレンの街でミュウって言う子供を拾っただろうから後数時間もすればホルアドに来るだろう。その間にベルには生成魔法を覚えてもらって、俺は90階層へと向かう。恵里の救出だ。迷うって?ああ、ちゃんと地図を見ながら行けば大丈夫。地球でそのレベルに達するまでどれだけ恵里に迷惑をかけたか……
正直に言おう。100階層までの魔物弱すぎない?ラットマンとかロックマウントとか撫でるだけで死んだんだが??ベルも退屈そうだしここから地面打ち抜いても良いんじゃないかと思うが、この辺りはまだ冒険者も来るだろうから出来ない。
とりあえず22階層まで来た俺達は、事故で触らないように厳重に取り締まられてる件のグランツ鉱石を触って55階層に飛んだ。
「これが……主様を奈落に突き落とした魔物ですか……そこまでの覇気は感じられませんが」
「周りに事情を知らないクラスメイトが沢山いたからな。現にこうやって今も人の姿だろう?」
「なるほど」
「じゃあベル、やれ」
「はい、『分解』」
「グォォオオオオオ!?!?!?」
哀れ、ベヒモスとトラウムソルジャー達。魔法陣から出て着てすぐに分解されてしまった……でも仕方がないんだ、ちゃんとベルが倒さないと攻略したという判定にならないかもしれない……これは必要経費なのだよベヒモス君。どうせすぐリスポーンするから良いだろ。
「………ナイスだ。じゃあ次はここを飛び降りるぞ。大丈夫、ステータスが平均10ちょっとしか無かったハジメが落ちて運良く死ななかった程度だ。俺達ならどうということはない」
「はい、行きましょうか主様」
そして躊躇無く飛び込む俺達。一応簡易的な火で灯りを確保しているため穴などに気をつけて地面を待っていると意外にも30分程度で地面についた。
「さて……じゃあベル、健闘を祈る」
「ちょうど良い時間で迎えにいくからオスカーの屋敷でゆっくりしていると良い。まあ上に向けて分解しながら飛んできても構わないが……」
「いえ、主様にお任せします。お気をつけて」
そういうとベルは時短の為か翼を広げて勢い良くジャンプし……
「へみゅ!?……おっふ」
「べ、ベルゥゥゥゥゥ!?!?!?」
やはり洞窟、もちろん天井は低い為思いっきり頭をぶつけてベルは倒れた。
俺の方向音痴よりベルを1人にする方が不安だ……
運命の分岐点(勇者パーティー救出後の主人公)
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ハジメ達についていく(恵里離脱)
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王都に帰還(ベル離脱)