side 中村恵里
まったく、面倒は続くねぇ。
イラついていたゴミムシこと……名前なんだっけ。あ、清水だ。清水が鈴の発言にキレて、それに反応して皆が言い争いを始めたんだよね。口論で叫ぶ分体力を消耗すると思うんだけど……まあ最悪ここで光輝君と僕さえ生き残れば問題ないし、うまい具合に損切りをしなくちゃ。
「グルルルルゥ」
「「「「「「ッッッッ!!!!」」」」
あ、あぶなぁ……!!いくらこの隠れ家が遠藤君によって隠されてるとはいえ、洞窟内は声が響く。こんなに喧嘩してちゃそりゃ動物系の魔物には勘付かれるって……
うーん……まずいなぁ。どうしようこれ。奥の手は取っておきたいし。
ドガァァァァァン!!!!
ッッ!!あ、ほんとにやばい。バレた!!
「戦闘態勢!!」
光輝君の号令で皆が武器を構える。僕はもちろん後衛職なので後ろに下がって一応杖を構えているよ。いやー、これ無理だね。まあ勝てない。それに……魔物の後ろにいる魔人族の女、のさらに後ろでボロボロで倒れているのは……魔力的にメルド団長かな?
「『限界突破』ァ!!」
まずい、僕はわかるからいいけど、皆は魔力を認識できないからメルド団長がいることが分かってない。
僕の予想通り、今日2回目の限界突破を使った光輝君は魔人族の前に出て攻撃しようとして……
「メルドさんを放せぇ!!」
ボロボロでほぼ瀕死のメルド団長を引っ張り出されて動きが止まってしまった。
……ハァ。死んでくれてたら、『縛魂』できたのに。
ッ!!
「鈴、危ない!!」
「恵里ちゃん!?」
鈴に奇襲をしようとした魔物を、護身用の短剣で切り裂く。
チッ……『憑依』させた冒険者、短剣使ってないのかよ。普段の得物は……直剣!?そんなの今光輝君しか持ってないって!!……仕方ない、体術でなんとかするしかないか。
「私は大丈夫だから、鈴は結界に集中して!!」
「恵里ちゃん……うん、任せるよー!!」
まったく……鈴はこんな時でも調子がいいね。そういうところ、嫌いじゃないけど……嫌いだよ。
『恵里、聞こえますか?影二です』
「え……!?」
『生憎そちらの声は私に届かないので一方的に話します。今、貴方達のいる一つ下の階層にやって来ました』
え……いじ?うそ、本当に?いやでも、頭に響くこの声は、間違えるわけがない。
『今、恐らく天之川がカトレアに足止めを食らっているでしょう?もう少しだけ時間を稼いでください。
必ず恵里を助けます』
ッッッッッッッッッッッッッ///////
か、カッコ良すぎるよ!?うっわぁ!!王子様ってやっぱり影二の事を言うんだね!?こ、こんなの誰でも惚れるでしょ!?
必ず助ける、だって!!えへ、えへへへへへへへへ!!!!!あっふぅ…////
…………ふぅ。流石に、イっちゃった。いや仕方ないでしょ、誰にもバレてないはず。足ガックガクだけど。
「恵里ちゃん?大丈夫!?すっごい顔してるけど!!」
「う……うん。大丈夫。ちょっと、びっくりしちゃって……」
ふふふふふふ、他ならぬ影二からのオーダー。何がなんでも時間を持たせてみせるよ。だって……恋する乙女は……最強で無敵なんだからね♪
ね♪えーいじ?
◆
side 影二
「さて、最低限伝えるべきことは伝えましたがここからどう立ち回るか、役者としての演技力が試されますね」
あーもう、恵里がすぐそこにいると言うのに飛び出していけないこのもどかしさが焦ったい。今すぐ突入したいところだが機を焦ってはいけない。そろそろハジメが上層をぶち抜きつつやってくるはずだ。
最高のタイミングは、同時に助けに入る事。
うーん……うん?いや別に、行ってよくね?今更クソ勇者になんて思われようが知った事じゃないし、最悪どさくさに紛れて檜山もろとも始末すればいい。
何より恵里が傷つくのを黙って見てられるほど……バケモノの心は腐っちゃいない。
「では、早速……んんっ!!やってやろう【撃鉄】」
俺は篝火影二になり【撃鉄】を構えて魔力を込める。
「『衝撃』!!」
ドゴォォォォォォォォン!!!!
天井に向けて、【撃鉄】の限界ギリギリに込めた魔力を放出する。天井が弾け俺は跳躍した。
そして俺が見たのは、意識を失い無様な姿になった天之川の姿だ。
「か、篝火……君?」
誰の声だろうか、別に誰でもいいか……そうだろう?恵里。
「影二!!」
「助けに来た、恵里」
お前が俺を見てくれる。ただそれだけで、下等生物だと思っていた人間にこんなにも、バケモノの心でも脈打つのだから。
「へぇ……アンタが報告にあった、バケモノ一味の1人かい?
「んー……どんな報告か知らんが、お友達の片腕を吹き飛ばした一味ならウチだな」
「篝火!?篝火か!!生きてたのかよ!?」
「ん?おお、ゴm……じゃなかった。檜山じゃないか。久しぶりだな、元気そうでなによりだよ」
ありえないものを見るような目でゴミムシが俺に言って来た。
「あたしの事は無視かい?随分と余裕があるじゃないか、いいご身分だねぇ」
「まあそりゃな、【
パンッ
「…………はっ?」
パンッ、パンッパンッ………
断続的に響く破裂音に、魔人族のカトレアが周囲を見渡し始めた。この前と同じく、演じたのはエヒトの『神言』。たった一言で、実力差のありすぎる魔物どもが弾け血の雨が降り始める。
「ッ、報告以上のバケモノ具合じゃないかい!?」
「よく言われる、褒め言葉だ。さて……実力差は理解していただけたところで、ここから去れ。今なら命だけは助けてやる」
「……へぇ、勇者と同じくらいの甘ちゃんだったのかい?とてもそうとは思えないけどね」
「ん?そう聞こえたか。じゃあ分かりやすく言ってやる。ウチの妹苦しめたゴミムシを、どう惨たらしく嬲ってやろうか俺が考えている間に必死こいて逃げろと言ったんだ」
「ッ……ッッッ!?」
魔力を放出する。人間としてではなく、ドッペルゲンガーとしての最大魔力量を放出しているからか、カトレアは大量の冷や汗を掻きながら尻餅をついた。
「なッ……なぁッ!?」
「「「「「「うわぁァァァ!?!?」」」」」」
恵里以外の全てのクラスメイト達が若干の恐慌状態に陥った。悪いとか別に思ってないけど、見てて滑稽だ。一方の恵里だが……ん?……イッてる?……これだけの魔力を食らって余裕ができるか。成長したな。マジで良い女だ。今すぐ抱きしめたい、いやしよう。
「恵里、おいで」
「えいじぃぃぃぃぃ!!!!」
両手を開けると、恵里が胸に飛び込んできた。そして俺は優しく抱き止め、強く抱きしめた。
「あいたかった、無事でよかった……ばか……!!」
「恵里、恵里……!!俺も会えて嬉しいよ」
幸せ、か。ユエさん達の言っていた事……今なら分かる。そうだ、これが俺の幸せだ。
魔力を放出しながらも、俺たちは抱き合う。何秒、いや何分経っただろうか。
ドゴォォォォォォォォン!!!!
チッ……邪魔が入ったか。
「そこら辺にしとけよ影二。こっちが胸焼けするわ」
「いつもお前らに見せつけられてる光景なんだが?というか邪魔すんなよ。流石に今回は許さんぞ」
「えぇ……ガチじゃん……いや、まぁ……俺もユエと当分会えないとなれば……うん、妥当か」
「だろう?でもまあ、この辺にしとこうか恵里」
「やだ」
「おい……」
「やだ!!」
「……中村って、そんな感じだったか?」
「いや、初めて見る……良いな」
「色ボケ野郎が……」
コキリ、と首を鳴らしながら上層から降りて来たハジメが呆れたような顔をしながら近づいて来た。少し遅れてユエさん達も降りて来た。
「ん、影二……良かったね」
「感動の再会ですぅ!!影二さん、おめでとうございますですぅ!!」
「2人ともありがとうな。うん……いや、後でちゃんとお礼を言わせてくれ。まずは」
「「「「………」」」」
「ひィ!?」
ハジメ一行がまとめてカトレアの方を向いた。もうすでに敵意もなく、ただ恐怖しているカトレアはとても情けない。ここまで来た事を悔いているのだろうか。
まあ、知ったことではないが。
「影二、殺してもいいけど死体は残しておいて」
「分かってる。まかせろ」
(ああもうホント好き!!影二愛してる❤️何も言わなくても分かってくれるなんて///)
小声で恵里がそう言ってくる。全身で抱きついているのでそのまま移動しながら、ハジメの話を聞く。
「おい、そろそろ圧がけやめろ。アイツらがウルセェ」
「ああ、そうだった。悪いなお前ら」
「南雲君?南雲君なの!?」
「白崎……元気そうだな」
そういうハジメもすぐにいちゃつき始める。しかも白崎で。節操ないなぁホントに。
「さて、魔人族……カトレア」
「アンタ、あたしの名前を!?」
「もう一度言う。失せろ、命だけは……逃してやる」
「…………分かったよ。このままじゃ任務を何もないからね。貸にしておくよ」
「じゃあ早速返してもらおう。これをアルヴェヘイトに渡せ。ただの手紙だ」
「分かった…くっ、情けない限りだよ」
ハジメ達がいちゃついてる間に、俺はカトレアとこっそり会話をする。
「怪しまれないように1発殴る、逃げ先は用意してやるから受け入れろよ」
「アンタ……この手紙、まさかッ」
「じゃあな、フリード君とミハイル君によろしく。『衝撃』!!」
「こんのッ…がっはっ!?」
吹き飛ばす瞬間に『オーバーロード』の『〈転移門〉』を演じて国境付近まで転送する。
「おい、殺したのか」
「あー、【撃鉄】の限界魔力量まで込めて殴ったんだが、間一髪転移されたらしい。あの威力で生き残れるわけないんだが……微妙だな」
「大事な女の前だ、今回は見逃してやるが……徹底的にやれ」
「すまない。気をつける」
どうやらバレていない。これは俺の演技力を誇ってもいいな。
「殺したのか!?」
「「ああ?」」
「彼女は人だぞ!?なんで殺した、おかしいだろ!!」
勇者(笑)がほざいている、そういえばいたなお前。気絶してたんじゃなかったの?あ、俺の魔力放出で目が覚めたのか。そのままずっと眠っていればいいのに。
俺は天之川の目の前まで来ると、這いつくばっているので目線を合わせるために恵里を剥がしてしゃがみ込む。
「えいじ……」
ぐっ……!!引力、圧倒的な引力が……!!耐えろ、耐えろ!!
「天之川」
「な、なんだ!?」
「うるさい」
「は?」
「寝てろ」
「あがっ……うっ」
とりあえず殴って気絶させた。これ以上うるさくされても敵わん。
「あ、あの……」
「皆、何か見たか?」
「「「「「「ナニモミテナイデス!!」」」」」」
「よろしい。じゃあ帰ろうか、衝撃的な光景を見せて悪かったな。人死になしで帰れて良かった」
「ッ、たす……かった?」
「そうだ八重樫。お前達は助かったんだ」
少し落ち着いて現状を再確認したクラスメイト達は緊張の糸が解けたのかその場にへたり込んだ。
この程度でへたるようなら死んだほうがマシだな。
「ッ、そうだわ。メルド団長が瀕死なの!!」
「それも問題ないさ」
「ハジメさーん!!言われた通りに神水使いましたけど、良かったんですか?あ、無事ですぅ〜!!」
「「「「「「メルド団長!!!!」」」」」」
シアさんが死にたい間近だったメルド団長を保護し回復させたようだ。うむ、流石だ。
「よし皆、少し休憩したらホルアドに戻るぞ。安心してくれ、ちゃんと無事に帰れる。信じろ」
「ありがとう篝火君!!」
「命の恩人だぁ!!」
「……ハジメ、影二って元の世界であんな感じなの?」
「あー……そういやアイツ、クラスのNo2だったな。他のことの印象がデカすぎて忘れてたわ」
「影二さん、戦闘も魔法も演技も女子力もあるのに……カリスマ性まであるんですか!?ずるいですよ!!」
いやそんなこと言われても……出来るんだから仕方ないだろ。
「影二、助けてくれてありがとう。信じてた」
「当たり前だろ。お前のためなら俺は神だって殺せる」
「〜〜ッッッ////」
「アイツ……凄いな」
「吹っ切れすぎ……でも、いい成長」
「私もハジメさんにあんな熱烈なこと言われたいですぅ!!」
「……帰るぞ」
会話の全てをぶった斬り、ハジメ達を前に、中間に勇者一行、俺は恵里と共に最後尾で固めている。
「これ付けてろ。念話が出来る。意味はわかるな」
「うん、さっきのでしょ?」
「ああ……、こういう感じだ』
『冷静になるとこそばゆいね。いやー、流石に今回は僕も覚悟を決めてたよ』
おお、『念話』の飲み込みが早いな恵里。流石天才だな。
『だから……本当に、ありがとう影二。すっっっっっごく、嬉しい』
『ッ……ああ、その言葉に勝る幸福は……ありませんよ。愛しています恵里』
『僕も愛してるよ』
『!?!?!?!?』
『色ボケもいい加減にしろバカども!!オープンチャンネルで喋ってんじゃねえよ影二!!個チャで言えや!?』
『黙りなさい!!私は今!!猛烈に感動しています!!今ここで果てても後悔はありません!!』
『テメェ確信犯なんだな!?そうだろ、そうだな!!後でぶっ殺す……!!』
『受けて立ちますよハジメェ……恵里の愛を受けた私に勝てるとは思わないことですね!!』
『あのぉ……その会話も全体発信するのやめてください……頭が割れそうですぅ……』
『え、ちょ、あの、これみんなに聞こえてるの!?影二!?教えてよぉ……』
『ん……中村恵里だっけ?影二に惚れられるくらい良い女なら……この程度受け入れたほうがいい』
『ひぇぇ……は、恥ずかしい……』
よしよし、恵里もハジメ一行と打ち解けられたようだな。
ここからは個人チャンネル。恵里に向けてだけ発信する。
『裏切るの、超楽しいだろうな。恵里』
『うん!!さいっこうに素敵なパーティーにしようね!!えーいじっ♪』
まだすれ違い、解消されて居ないんですけどね。