「ハジメたちはなんでここにいるの?」
ユエさんの一言は、ある意味で当然だっただろう。ここは奈落の底、普通の人間(俺を除く)が居るような場所ではないのだから。
「そうだな……どこから話そうか」
そうしてハジメはポツリポツリと話だした。確かに、同郷の俺では話せない事が多くあるはずだ。その点、ユエさんは何も知らない。偏見なく話を聞いてくれると、ハジメ自身も思っているのだろう。
ハジメはもう自らの経験を話すことしか頭にない。それを聞いているユエさんはもう泣きじゃくっているのだが、ハジメには聞こえてない。
「ど、どうしたユエ?」
「ぐす……ハジメ……辛い……私も辛い」
本当にハジメはいいパートナーを得た。少し羨ましく感じるよ。恵里以外の人間では務まらないだろうがな。
そしてハジメは自然体で手を伸ばしユエさんの涙を拭き取った。おお……これが天然、新しい発見。
「……影二は?」
「私……ですか?」
「そういや、影二が奈落に落ちた理由は知らなかったな。あれほど強けりゃ落ちる事なんてなかっただろ」
……素直に話していいものだろうか?まあ特に隠すようなことでもないのだが……
「途中までは大体ハジメと同じですよ。ただハジメがベヒモスとの戦闘で落ちたすぐあと、共に落ちようとしていたベヒモスが最後の足掻きとばかりに崩れかけの岩をこちらに飛ばしてたのです。そこで、その岩に当たりかけていた生徒を身を挺して守ったら、衝撃で奈落に真っ逆さま、と言うだけの話です」
「へぇ……俺が落ちた後にそんな事が。どれだけの勢いだよその岩……」
「おっとハジメ。誤解しないで頂きたいですね。その時は人間用のステータスでしたので魔力意外はゴミのような性能でしたのでね。ああもちろんあの時のハジメよりは高いですが」
「守られた生徒は影二に感謝すべき。影二が居なかったらグチャグチャ」
全くもってその通りだ。我ながら良くあのステータスで恵里の正面に立てたと思う。
「最後の一言が無けりゃ普通にいい話なんだがな。今の俺にはどうでもいい事だ」
「おや、ユエさんが同じ状況だったら迷わず助けるでしょう?」
「当たり前だろ」
「ハ、ハジメ?……本当?」
「ユエ?……お、おう」
迷いなく言えるハジメにユエさんはまたときめいているようだ。俺はまた2人の距離を縮めてしまった。……白崎、すまん。正直全くそんなこと思ってないけどすまんな(笑)
「私も想い人を守れただけで十分ですよ。結果的に両方無事なのですし」
その瞬間空気が凍った。現在進行形で甘い雰囲気を醸し出していた2人が壊れかけのロボットのように首を傾けてきたからだ。
「影二……好きな奴いたのか?」
「ええ、まあ叶わぬ恋ですよ。その方にはすでに別の想い人がいますし。何より私はバケモノですから。私は彼女が無事で、彼女が幸せならそれだけで十分です」
「関係ない!!」
「……ユエさん?」
急にユエさんが叫ぶ。おそらく今までで1番の声ではないだろうか。
「……バケモノとか関係ない。それを言うなら私だってバケモノ。直接魔力を操れるし。傷だってすぐに再生する。吸血鬼だから純粋な人間族じゃない。……それに、好きな人が幸せならいいなんてただの甘え」
「……ほう?」
甘え?……俺が恵里の協力をしている事が……?
「……本当に好きなら……奪い取る覚悟を持つべき。私ならそうする」
「何故……こっちを見るんだユエ?」
「ハジメは黙っててください」
「…………理不尽だろぅ」
ハジメは空気が読めないのか。
……奪い取る覚悟……ね。俺はただ、恵里の幸せそうな顔を見ていたいだけで……別に共にありたいとか……別に……
「影二。その人のこと本当に好きなの?」
「……は?」
「おいユエ!!」
「ハジメは黙ってて」
なんて言った?俺が恵里のことを好きじゃない?そんなことあるわけがないだろ?
「ユエさん。いくらハジメのアレだからといって、喧嘩を売られて買わない理由にはなりませんよ?」
「売ってない。影二……その人が、その想い人と一緒に笑っている姿を見て本当に、
「……どう言う意味です?」
「想像してみて」
「……」
恵里が、天乃河と笑っている光景。……天乃河と一緒で恵里は本当に幸せそうなのか?あんなクズゴミと一緒では恵里に負担しかかからないだろう。でも普段の様子を見る限り天乃河と一緒にいる時の恵里の笑顔は自然なものだし……?
「少なくとも……恵里は幸せそうですし問題は特に……いやしかしたまに出る奴の言動には苦笑いをしているような……いやしかし……ん?」
「……ユエ。流石に今のは俺でもわかるぞ」
「んっ、影二すごい。……悪い意味で」
パシンッ……
「……ユエさん?」
急に頬の部分に衝撃が走った。痛みはないが。
「その人のことは聞いてない。私は……影二のことを聞いてる。その未来で、
「私……?申し訳ありません。ユエさんの言っていることがよくわからないのですが……?」
「私は……ハジメと一緒にいて幸せ。まだ少ししか一緒にいてないけどそれでもそう思う。ハジメは……?」
「そこで俺に振るのか!?いや……俺も、だ、ぞ?」
俺は何を見せられているのだろうか?
「んっ。嬉しい」
恵里が俺のこと……?いや、ないだろう。日本生まれの彼女に、バケモノを好くような感性はない。しかも天乃河に狂気的なまでに恋しているし。ていうか、俺が恵里を好きになったのは、そんな彼女だからだ。普通の人間では好きになるわけがない。どこか人間離れしている感性を持つ彼女だから、恋をしたのだ。
「……ユエさん。まだよく分かりません。ですが、心には留めて置きましょう。いつかユエさんの仰ることが分かればいいのですが」
「んっ。そう思えるなら十分。これから教えてあげる」
……300年以上封印されている彼女から何を教わればいいんだ。まあ、本人は自信満々だから言わないが。……俺の幸せねぇ。
「話は終わったか?」
「んっ……でもそんな事を言うハジメは馬に蹴られたらいい」
「だから理不尽だろ!?たくっ、俺は地球に帰れればそれでいいんだ。他のことを気にする余裕なんてねぇよ」
「……帰るの?」
「うん?そりゃあな……こんな感じになっちまったけど、やっぱ家に帰りたい」
「……そう」
ユエさんは先ほどの俺に対しての尊大な態度から一転悲しそうな顔になる。
「先ほどの流れで私が何か言える立場ではありませんがハジメ、彼女の境遇をちゃんと考えてあげてください」
「境遇……?あっ」
「……私にはもう、帰る場所がない……」
「……」
カリカリと頭を掻くハジメ。今までユエさんを撫でていた手を引っ込めたようだ。別に、ハジメは難聴鈍感系主人公じゃない。さっきの発言もあってユエさんの気持ちにはもう気付いているはずだ。だからこそハジメは気まずそうにしている。
「はぁ……思ってたより、俺は甘かったらしいな」
「……ハジメ?」
「ユエも来いよ」
「……え?」
ああ、なんだか雲行きが怪しくなってきた。俺のシリアスだったはずなんだが……アビスゲート卿でも演じて影の薄さを発揮していようか?
「だからさ、俺の故郷にだよ。まあ普通の人間しかいないし……ん?……んんッ!!」
あっ、今俺のことを見て目を逸らしたな?
「普通の人間しかいないし!戸籍やらなんやらと窮屈かもしれないけど……あくまでユエが望むならなんだけど……?」
ゴリ押したなハジメ。完全に俺のことを棚に上げてやがる。ユエさんだって呆然としてるぞ。
「……い……いの?」
「ああ」
遠慮がちに聞くユエさんに対して自信を持ってうなずくハジメ。ああ、ユエさんの表情が地上波ではお見せできないほど蕩けたものに…… ハジメも見惚れているし、俺は少し退散して、ちゃんとユエさんの言っていたことを考えるとするか。
◇
俺が黙ったのを見て2人は遠慮してくれたのだろう。少し離れた場所で、ハジメは新兵器を作りユエさんはそれを見ている。やがてハジメは腹が減ったのだろうか、サイクロプスやサソリもどきの肉を準備し始めていた。
「なあ影二。料理が上手いキャラとか出来ないのか?ほら『食戟のソーマ』とかさ」
「……肉だけでは無理です。調味料も調理用具もありません。十全ではないのに演じたくはありません」
「やろうと思えば出来るのか……」
俺にだってプライドはある。そして演じるキャラへの敬意を忘れてはいけない。
「はぁ……焼くか。ユエ……は食ったらヤバイか。あの痛みは流石に……でも吸血鬼だしなぁ……」
「なら私が代わりに……「お前はただ食べたいだけだろ、こないだ死ぬほどサイクロプス食ってんだから遠慮しろ」……仕方ありませんね」
「ハジメの血を吸ってるから大丈夫」
「血?……ああ、吸血鬼だもんな。血があればいいのか?」
「食事でも栄養は取れる。……でも血の方が効率がいい」
人間の血ねぇ……確かに美味かった。肉もだが、動物の肉とはまた違った食感がたまらなかった。
ユエさんは舌舐めずりをしてハジメをキラキラした目で見ていた。
「何故見てるんです?」
「ハジメ、貴様を見損ないました」
「今はネタ言うタイミングじゃねぇ!!」
ナゼェミティルンディス!?作者の諸事情で半角が使えないが、そのセリフを使うならこれだろう。
「ハジメ、美味」
どうやら魔物を取り込んだハジメの体は熟成されて美味しいらしい。
「ほう……ハジメ、ちょっとわたしにもくださいな。できれば肉も」
「悪魔かテメェ!?誰がやるか!!ユエ、影二からもらえばいいだろう?」
「……血が流れてるようには見えない」
「……この姿なら血は出るが……吸うか?」
人間時の体になってユエさんに聞いてみる。
「物は試し……いただきます。……はむっ……ッ!?」
「……ユエ?」「ユエさん?」
俺の血を吸ってからユエさんが動かなくなった。
「不味かったかユエさん?だったら早く離して欲しいんだが……うおッ!?ちょ……あの……吸いすぎ……ハジメ助けろ!!」
「ユエ!?」
言葉も発さずひたすらに首筋に吸い付いているユエさんをハジメが羽交い締めにして引き離した。ユエさんの目はすごく必死そうだ。
「はぁ……はぁ……美味しすぎる。影二の体、なに?」
「何故でしょうか……奈落に落ちてから初めてです。こんなに疲労したのは……一体なにが……ああなるほど」
ステータスプレートを確認すると一目瞭然だった。
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???(篝火影二) 17歳 レベル50
天職:役者
筋力:37000(低下状態−300)
体力:30000(低下状態−300)
耐性:19000(低下状態−300)
敏捷:35000(低下状態−300)
魔力:220000(低下状態−300)
魔耐:19000(低下状態(−300)
技能:完全演技・完全擬態・文才・言語理解
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「どうやら、魔力を吸われたことになるらしいです。私の体は全て魔力で形成していますから、それを吸われる。つまるところ生命力を直接吸われたと言うことですね」
「んっ……でも吸い切れる気がしない」
「それ、吸いきったら影二死ぬじゃねえか。素の体の時もか?」
「いえ、大丈夫でしょう。この体の時は魔力を使っていませんから。全く、意外な弱点ですね」
おそらくユエさんが美味しすぎると言ったのは純度100%の魔力だからだろう。正確には血ではないから栄養補給ができているのかはわからないが、少なくとも魔力は上昇している筈だ。
「すごい……今ならあのサソリ……一撃で倒せそう。影二……蒼天……試させて?」
「何故私なのでしょう……いえ、まあ良いのですが」
「やり過ぎるなよ?ただでさえ、ここは迷宮のど真ん中なんだからな」
俺とユエさんは結構離れた場所に立ち、構える。
「んっ……『蒼天』」
「おお……美しいですねぇ」
サソリとの戦闘で見たものよりもさらに大きく、しかし高密度にまで内包したその魔力は蒼き炎に留まらず、さらに上位の焔とまで言えるだろう。
「えい」
なんとも気の抜けた掛け声だろう。しかしその威力はこの世界に来てから見たものでは1番の魔法だ。凶悪過ぎる。逃げ場もなく俺はその焔に飲み込まれる。だが……
「確かに、威力は上がっていますね」
「嘘……無傷?」
なんて事はない。人間基準で考えれば確かに、絶大だが俺は違う。素のスペックが違うのだ。焔の中で俺は、両腕を思いっきり振る事で掻き消す。見えてくるユエさんの顔は驚きに染まっている。
「一部とはいえ、私の魔力も混じっていますからね。仕方ありません。ハジメ、どうでしたか?」
「……いや、すごいとしか。ユエも、影二も」
「ハジメ……女性の褒め方……なってない」
「魔法適性がないんだから仕方ないだろ。だが、戦力としてはバッチリだな。影二、期待してるぜ?」
「いやですよ、誰が好んで死に近づいていかなければならないのですか」
ユエの吸血行為は流石に勘弁だ。あの感覚は嫌だ。
「食事にしましょう。……少し疲れました」
「全力で蒼天を使ったから……ハジメ……血」
「お前らなぁ……分かったよ。影二はサソリの一部だけだ。サイクロプス合計して一体分しかなかったぞ?」
「そんな殺生な!?」
「お前はいつから食いしん坊キャラになった!?」
影二が演じるキャラの性能に制限は必要?
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いる
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いらない
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どうでもいいから続き書けよ
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もはや、他作品キャラやめて
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どうでもいいから恵里との絡みを増やせ