翔る空は蒼く   作:海 寿

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第3話「アレシマGP その2」

格納庫の端っこにあるベンチで男が寝てる横で飛燕の点検整備をしてる一人の男がいた。

 

彼の名はノボル。ベンチで寝てる男、リューヤの専属整備士だ。リューヤとは従兄弟同士の関係である。

 

リューヤが持つ飛燕と隼、それから自らが所有する零戦二二型を専門に点検から整備、修理までこなしている。

 

リューヤも整備の知識がないわけでないが、液冷エンジンは部品点数も多く液冷エンジンと比べると整備が難しく、知識だけでなく専門の技術も必要となってくる。

 

広いイジツの世界でも、液冷エンジンを完璧に整備できる人間は両手で数えられるほどしかいないらしい。ノボルはその中に入れるくらいの実力を持った整備士の1人である。

 

リューヤの愛機、飛燕は元々リューヤの母親が乗っていた機体だ。譲り受けたといえば聞こえはいいが、実際は撃墜された機体を引き上げ改修を行ったものである。もちろんそのままの機体を使っているわけではない。

 

そして今はレース用に改造されている。一型丁に搭載されてたハ40を水エタノール噴射装置を付加し、高圧縮化・高回転化が図られたハ140に換装し、専用のチューニングを施したスペシャル仕様だ。

 

リューヤがムクっと起き上がったその時、すべての点検及び整備が完了した。と、同時に声をかけられる。

 

リ「飛燕の調子はどうだ?」

 

ノ「すこぶる好調だ。ヨシナガなんて目じゃないな」

 

リ「そうか。」

 

ノ「ただ、ヨシナガも何か対策はしてくるだろう。気を抜くなよ。」

 

リ「ったりめぇよ!」

 

ヨシナガはイジツ・エアレースで5年連続チャンピオンの凄腕パイロットだ。今シーズンはリューヤとノボルのコンビがヨシナガの牙城を崩す勢いでシリーズを圧巻。最終戦に勝てば連勝記録を止めることができるのだ。

 

なにやらリューヤがぶつぶつ呟いてる。ノボルは疑問に思ってリューヤに声をかける。

 

ノ「おめぇ、誰と話してんだ?」

 

リ「何でもない、それよりもう機体検査が始まるよな?」

 

ノ「ああ、こっちはOKだから早く準備しろ」

 

そう言ってリューヤを飛燕に乗せる。程なくして飛燕のエンジンが始動した。セルモーターを搭載しているため、パイロット1人でエンジンの始動が可能となっている。

 

念入りに暖機運転をし、プロペラピッチやラダーにエルロン、エレベーターなど、隅から隅まで動作点検を行なっていく。一つでも不具合があればパイロットの命に関わる。

 

 

丁寧に点検していると機体検査をするスタッフがやってきた。プロペラやフラップなど機体ごとの規定の寸法に収まっているかチェックするためだ。もし仮に収まりきっていないとレギュレーション違反で失格になってしまう。

 

ノボルは自分で整備した戦闘機には自信を持っていたので堂々と振る舞っていた。一方リューヤはソワソワしながら機体検査を目で追っていた。

 

「機体はオッケーです。頑張ってくださいね」

 

ああ、とリューヤが答えた。ノボルは半開きの格納庫の扉を大急ぎで開け、リューヤにグリッドまで移動を促す。

 

格納庫を施錠し、無線電話機などをリュックに詰め込んでノボルはタキシングするリューヤの機体を走って追いかけた。幸いにも4番グリッドは格納庫からあまり離れていなかったのですぐに追いついた。

 

リューヤがグリッドに着くと、ゼーハー言いながらノボルが追いついてきた。

 

ノ「言い忘れてたけど、今回のために許容回転数を上げておいた。いつもは2800rpmだけど2950rpmまで耐えれるようにした。十数馬力は上がるけど連続して使わないように。連続してt 」

 

リ「オーバーレブで壊れるんだろ」

 

ノ「その通りだ!ここぞという時に使ってくれ。」

 

リ「分かった。」

 

ああだこうだと会話をしているうちにレース開始5分前となった。5分前になるとパイロット以外は自チームの戦闘機から離れればならない。

 

ノボルは信じてるぞと伝え、リューヤの機体から離れた。そして管制塔横にあるチームごとに用意されたスタンドに足早に向かった。

 

スタンドにはパイロットとやり取りできる通信機器やレースがリアルタイムでわかるモニターが設置されている。ノボルは無線機のチャンネルを素早くIAR運営とリューヤの期待のチャンネルに合わせた。

 

ノ<<こちらノボル、こちらノボル。聴こえるか?>>

 

リ<<こちらリューヤ、ばっちり聴こえるぞ>>

 

ノ<<良かった!改めて今回のレース頑張ろうな>>

 

リ<<もちろんだ>>

 

 

ノボルはドキドキしながらレース開始の時間を待っていた。リューヤとは対照的にこの数分間を楽しんでいた。誰かに話しかけられたらニヤついた顔を見せることになるだろう。

 

ゴウッとエンジン音が大きくなったと思うと一斉に戦闘機が離陸し始めた。15機が離陸を終えると急に当たりは静かになった。実況の熱い声が会場に響いている。

 

街を一周するパレードフライトから間も無くして15機の編隊は、街外れに向かって進路をずらした。そしてレーサー同士の駆け引きが始まった。レーダーによるとリューヤは特に駆け引きを行ってる様子はない。どっしりと構えてることが想像できた。

 

ノ「アイツ、少しは成長したかな」

 

ポツリとノボルは呟いた。

 

実況「荒野を照りつける太陽より熱い戦闘機レーサーたちの熱い眼差し。その視線の先、その戦いの先には何が見えるというのか。それを確かめるべく表彰台の真ん中を目指してレーサー達は英雄となる!」

 

実況「さぁ、いよいよ始まります!IAR最終戦アレシマGP!チャンピオンの座を手にするのは一体誰なのか!」

 

実況「今、レースが始まります!!」

 

先頭の零戦五二型が2本の狼煙を通り抜ける。続いて前を行く2機も通り抜け、リューヤも通り抜けた。リューヤは大きくスロットルを開け、愛機飛燕を加速させた。

 

レーススタート。戦いの幕は切って落とされた。

 

 

 

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