翔る空は蒼く   作:海 寿

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第4話「アレシマ渓谷 往路」

実況「今、レースが始まります!!」

 

戦いの幕が切って落とされた。

ポールポジションの零戦五二型がぐんぐん高度を上げていく。同様にリューヤの前方2機も同じように高度を上げていく。

 

実況「先頭の零戦五二型から大きな混乱もなく予選順位と変わらずに各戦闘機は上昇していきます!先頭の零戦五二型はちょっと後続を引き離したか?あ、ここでヨシナガがスタートで一気に順位を2つ上げて6番手に浮上します!!」

 

ロケットスタートを決めたヨシナガが一気に8番手から6番手まで順位を上げた。観客席ではどよめきが起こっている。

 

 

リ「ノボルー!ヨシナガとの距離と順位、変わった瞬間教えてくれ!」

 

ノ「任せろ!今ヨシナガは6位。2つ後ろだ。油断はするな?」

 

リ「オーケー、オーケー。ここで油断したらレーサーの名が廃る。」

 

リューヤの愛機、飛燕は液冷エンジン故に全面投影面積を小さくすることができ機体の構造上、最高速度を出しやすくなっている。そのためジリジリと前をいく隼三型2機との距離を詰めていく。

 

ノ「前をいく隼三型だけど、2位争いで後方に意識が無いぞ!」

 

リ「んじゃ、これなら2機まとめてオーバーテイクできそうだな」

 

ノ「まぁ最初っからあんまり飛ばしすぎるなよ」

 

リ「わかってるさ」

 

リューヤは隼三型の下から死角に入り、スィーッと前に出る。呆気にとられた隼三型のパイロットは手元が狂い、2位争いをしていたもう1機の隼三型と接触してしまう。

 

実況「あーっ!!ここで隼三型2機の前にリューヤ選手の飛燕が躍り出ます!!」

 

実況「なんということでしょう!2位争いを演じていた隼が接触によりリタイア!!最終戦というだけあって序盤から波乱な幕開けです!!」

 

 

前に出たいという気持ちもわかるが焦って無理をする必要はない。この接触によりリューヤは2位、ヨシナガは4位まで上がってきた。相変わらずヨシナガの爆発的な追い上げには誰も太刀打ちできない。そして、すかさずノボルから無線が飛んでくる。

 

ノ「今の接触で2位浮上。ヨシナガも6位から順位が2つ繰り上がって4番手についた。2つ後ろだ。」

 

リ「わかった。また奴が順位を上げたら教えてくれ。」

 

ノ「もちろんだ。」

 

 

 

前をいく零戦五二型が右にバンクして下降を始めた。イジツエアレース名物、渓谷飛行の1つ目に差し掛かったのだ。渓谷飛行はレースによって何ヶ所通るか変わってくるが最終戦は難易度の高いルートが4ヶ所設定される。

 

通る渓谷の数で言えば少ない方だが操作を誤ればゴツゴツとした岩肌とお友達に、もしくは機体もろとも天に召される可能性もある。危険と隣り合わせのスリリングな展開となるため、渓谷飛行に入るとレースは大きな盛り上がりを見せる。

 

リューヤは前をいく零戦五二型に続いて渓谷飛行に入る。スロットルを頻繁に開け閉めし、速度の微調整を行う。

 

リ「やっときたぜ渓谷飛行!これが堪らないんだよ」

 

リ「あらよっと!おっそうくるか!よいしょっ、ハッ、どうだ!!」

 

機体を左右に傾け、まるでダンスを踊るかのようにリズミカルに切り返す。

 

リ「あぁ^〜、、よしよしいい子でちゅねぇ、飛燕ちゃーん!!」

 

リ「ンフ〜今日もいい子でボクは感激したよぉ〜」

 

アドレナリンが出始めるともうリューヤはノボルをもってしてでも止められない。このねっとりとしたちょっと気持ちの悪い喋りをノボルが毎回聞いてると彼の苦労にも同情できそうだ。

 

リューヤ劇場はまだまだ続く。

 

リ「てやぁっ!ソイッ!はあああああ」

 

リ「お〜よちよち、流石は僕の従兄弟であり専属整備士のノボル君が完璧に整備した飛燕ちゃんはやっぱり違いますねぇ」

 

いつになく素直に飛ぶ飛燕二型にさらに鞭を入れる。いや入れられてるのはリューヤの方か。

 

リ「あーもう最高ッ!このカンジ最高ッー!」

 

リ「とろけちゃいそッ☆」

 

そんなこんなで零戦五二型は遥か後方に消えていた。ノボルが無線で必死に呼びかける。

 

ノ「おい!リューヤ!返事しろ!あ?返事しねーなら晩ご飯抜きだぞ!!」

 

リ「ンヒィ!それはやべてくれ!頼む。ほんで何?」

 

急にいつものリューヤに戻る。

 

ノ「全く気持ち悪い声出すんじゃないよ。気付いてるか知らんが1位に躍り出てるからな。ちなみに2位には1分近く差がついてる。」

 

リ「まじかぁ。あ、1個めの渓谷飛行も終わりだ。」

 

リューヤは渓谷飛行の終わりの狼煙が上っているのが見えた。スピードを殺さずうまく機首を上の方に向け上昇を始める。ピュンっと飛燕が1番に渓谷から飛び出る。

 

 

実況「信じられません!!リューヤ選手が1番に抜けてきました!あの難易度の渓谷をいとも簡単に!!」

 

実況「しかもまだリューヤ選手は今シーズンが最初のまだルーキーですよ!?!?信じられません!!」

 

実況「なんだか変な夢でも見てるのでしょうか。おっとそして2位が現れた!3位も一緒だ!!なんと3位は8番手スタートのはずのヨシナガ選手だっ!信じられません!!速すぎます!!」

 

 

信じられません!!を連呼する実況を横目にノボルはリューヤに檄を飛ばす。

 

ノ「リューヤ、ペースはいいがヨシナガも速い。75秒後半だ。気を付けろ!」

 

リ「うっす。やっぱりレースはこうでなくっちゃ!!」

 

ノ「とはいえまだあとレースは4分の3残ってるからな、気を引き締めていけ。」

 

 

 

程なく飛ぶと、2つ目の渓谷が見えてきた。この渓谷を抜けると、中継地点の空の駅が見えてくる。空の駅では20分間ピットインの義務がある。ここで燃料補給や小休憩がとれる。早く休憩のしたいリューヤは操縦桿を握る手に力が入る。

 

180度機体をロールさせ降下しながら2つ目の渓谷に突入する。1つ目と違い、カーブこそ少ないが幅の狭い箇所がたくさんあり、少しでも判断に遅れると岩肌にディープキスするかもしれない非常にスリリングなセクションとなる。

 

またも難易度の高いコースに高まるリューヤはゾーンに入る。

 

リ「うりゃ!せーのっ!はっ!」

 

巧みな操縦桿さばきで飛燕を右に左にとパンクさせ狭い渓谷をスラロームしながら抜けていく。

 

一方そのころ・・・・

 

ヨシナガはリューヤの50秒後方を飛行していた。何もない区間で雷電のエンジンパワーを活かし、差を詰める事に成功していた。このままいけば8位からの大逆転勝利も見えてくる。ヨシナガはチームメイトの×××に聞いた

 

ヨシナガ「リューヤとの差はどんなもんだ?」

 

チームメイト「およそ50秒だ。ヤツはもう2つ目の渓谷に入っとる」

 

ヨ「そうか、なら追い上げは順調やな」

 

チ「ああ、ミスらんといてな」

 

そしてヨシナガも2つ目の渓谷に突入した。幅は狭いが、比較的旋回することが少ない2つ目の渓谷は雷電にとってはエンジンパワーを活かすことができる。リューヤが乗る飛燕とはだいぶ差が縮まり始めていた。

 

 

一方リューヤは・・・

 

リ「フヘヘヘッ、いい子でちゅねぇ飛燕ちゃーん!!」

 

 

やはりと言うべきなのか、リューヤはゾーンに入ってしまった。こうなってしまえばヨシナガがいくらフルスロットルで追いつこうとしても引き離してしまうような勢いがある。

 

リ「いよぉし!そうだ!ンフ〜、ほんといい子ねぇ〜」

 

なんて言いつつも正確無比なコントロールで狭い渓谷を縦横無尽に飛んでいく。外から見ていてもその飛びっぷりは目を見張るものがある。実況も興奮が収まらない。

 

実況「先頭を飛ぶリューヤ選手ですが見てください!!あの飛び方、ほんとに新米のレーサーなんでしょうか!!」

 

実況「んん!?!?おやっ、リューヤ選手の1キロクリール後方には昨年度チャンピオンのヨシナガが猛烈な追い上げを見せています!!」

 

実況「狭くなってるところも果敢に攻め、スロットルを緩めようとしません!!空の駅にピットインするまでにどれだけ差を縮められるでしょうか!!」

 

レースは早くもヨシナガとリューヤによるチャンピオン争いと化していた。ポイント差は僅かにリューヤがリードしているが、順位に関係なくこのレースで先にゴールした人がシリーズチャンピオンを獲得する。

 

ノボルがリューヤに無線を飛ばす。

 

ノ「リューヤ、ヨシナガの追い上げが半端ない。奴は1キロクリール後方、時間にして大体40秒ってところだ」

 

リ「マジで!?」

 

たまらず声が裏返る。

 

ノ「おそらく空の駅で給油を考えているんだろう、残りの燃料を無視してでも差を詰めるつもりだろうな」

 

リ「なら、差を縮められないよう引き離す勢いで飛べばいいってことか☆」

 

ノ「簡単に言うけど機体は大事にな。壊れたらチャンピオンはおろか、完走すら出来なくなるでな」

 

リ「おうよ、リューヤ君にぃ〜、お任せあれっ☆」

 

ノ「…。」

 

リ「…無視だけはやめてください。すみません」

 

 

 

レースは続きます。

 

 

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