翔る空は蒼く   作:海 寿

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第5話「アレシマ渓谷 復路①」

 

実況「さぁレースはまもなく折り返し地点となりました!!トップを飛行しているのは飛燕を駆るリューヤ選手、そして雷電を駆るは

ヨシナガ選手が怒涛の追い上げを見せ、2番手に位置しています!!」

 

実況「リューヤ選手がヨシナガ選手に差を詰められてるようですが、これ抜いちゃうことってあるんでしょうか」

 

実況「あっ!リューヤ選手がトップで渓谷から飛び出してきました!ふたつ目の渓谷も難なくクリアしてきました!!本当に新人なのか疑いたくなりますね〜」

 

 

気づいたらトップで俺は2つ目の渓谷飛行を終えていた。あとは数キロクーリル先の空の駅に向かって折り返すだけだ。後方を見るとほんの小さくヨシナガの機影が見えた。

 

この調子だと空の駅を出て渓谷に入るあたりで追いつかれそうだ。だがそれは好都合である。リューヤはこれまでのレースでヨシナガの飛び方をリューヤなりに分析していた。

 

 

まもなく空の駅が見えた。小さく点のように見えたそれはだんだんハッキリと見えてくる。イジツでも有数の大きい空の駅だ。その大きさはちょっとした街と見間違うほどである。名前はイオと言う。

 

ちょうどいろんな街の中継地点にもなれるこの空の駅イオはイジツエアレースでも何度か使われる。全部で8戦ある内、3戦はこの空の駅が使われるほどだ。

 

空の駅では20分間の休憩が与えられる。主脚と尾輪の3点が接地した瞬間からカウントが始まり、主脚が地面を離れた時に20分を超えてはならないのがレギュレーションで定められている。

 

空の駅上空では空賊に襲われないよう、物流の大手「オウニ商会」のお抱え用心棒、コトブキ飛行隊が哨戒を行っている。女性だけで組まれた飛行隊らしいがその腕前は折り紙付きだ。

 

最終戦ということだけあって人も集まるためそれなりの警戒が必要となってくるからであろう。

 

リューヤはまず、左手のスロットルレバーを手前に引き、機体の速度を落としていく。それから上空で哨戒を行うコトブキ飛行隊にレース機ということをアピールしつつ着陸態勢に入る。

 

リ「こちらイジツエアレース参戦のゼッケン8番、リューヤだ。繰り返す、こちらイジツエアレース参戦のゼッケン8番リューヤだ。」

 

レオナ「こちら、コトブキ飛行隊隊長のレオナだ。ゼッケン8番了解した。今のところ空賊らしき機影は見えない。安心して着陸できる。」

 

レ「それから、念の為2機護衛を向かわせた。」

 

リ「了解。感謝する。」

 

リューヤは2機の隼に護衛されながら着陸する。垂直尾翼にはパーソナルマークなのか青い鎌に白薔薇の隼と何かのマスコットキャラが描かれている隼に護衛される。

 

ドスッと振動が全身に伝わり、地上に降りたことを実感する。そしてブレーキを目一杯かける。リューヤが着陸したことを確認すると護衛についていた隼は綺麗な2機編隊を組み、もといた持ち場に戻っていった。

 

リューヤはタキシングして駐機場に入りつつ護衛に対する感謝を伝えた。

 

リ「こちらゼッケン8番リューヤ、先程の護衛感謝する。」

 

エンマ「先程護衛したエンマと申します。礼には及びませんわ。レースは残りまだ半分あることですし頑張ってくださいまし?」

 

チカ「コトブキ飛行隊一番槍のチカだ!いいって事よ!それよりおっさん、1位になれよ?このチカ様が直々に応援してやるんだからさ!」

 

エ「チカ、はじめてお目にかかる方に失礼ではありません?」

 

リ「あー気にしないでくれ。」

 

チ「ほらエンマ、おっさんもそう言ってるし!」

 

リ「一応まだ20歳だからおっさんではないけどな、ハハハ…。」

 

苦笑いで答える。

 

エ「なんと!これだけの飛行技術をお持ちなのでわたくし達と同世代かと思いましたわ。」

 

そんな会話をしつつ飛燕の冷機運転をする。冷機運転を行うのは次にエンジンを始動する際、容易に始動できるようにしたりエンジンの寿命を縮めないためにしたりするためである。

 

冷機運転を終え、風防をガラッと開けるとヨシナガがこれまた2機の隼に護衛されながら着陸してきた。今度の護衛は赤い鳥のようなマークの隼と灰色の矢印のマークをつけた隼が護衛していた。なるほど、交代で護衛を行なっているのか。

 

リューヤは飛燕のエンジンを完全に止め、復路に向けて準備を始めた。まずは人間から。飛行機が良くてもそれに乗る人間の体調が良くなければレースはおろか飛び立つことも難しくなる。ストレッチをして異常がないか確かめる。

 

今まで飛んできたんだから大丈夫なんてツッコミはよしてくれよ?

 

幸いにも身体に異常はなさそうだ。そしてユーハング式ラジオ体操で全身をほぐして暖める。戦闘機の暖機も大事だが人間の暖機を忘れてはいけない。良い人間と良い飛行機、この2つが良くないと良いフライトは行えない。

 

ユーハング式ラジオ体操を終え水分補給していると不意に声をかけられた。

 

ヨシナガ「よう、調子はどうだ?」

 

リ「冷やかしにでもきたんですか?」

 

リューヤは少し身構える。

 

ヨ「いやぁそんなんじゃないさ。ちょっと相談があってだな。」

 

リ「まさかゆっくり飛べなんて言わないですよね?五連続チャンプのヒトが。」

 

図星なのか明らかにヨシナガの顔が引きつった。それでも隠すように喋り始める。

 

ヨ「(ぐ……)そんなまさか!!まぁただ、最終戦のこの局面、超接近戦を演じるのは良いと思わないかね?」

 

結局ゆっくり飛べってことじゃないか、と心の中で叫ぶ。

 

リ「確かに面白いかもしれませんが予定調和の決められたレースなんか観てて誰が興奮しますかね?ヨシナガさん、僕の答えは否ですよ」

 

リ「聞いてて呆れましたよ。それが五連覇してる人が言うセリフですかね。」

 

リューヤはニヤッと不敵な笑みを浮かべた。ヨシナガはと言うと見る見るうちに顔が真っ赤になっていった。

 

ヨ「テメェ、黙って聞いてりゃしゃあしゃあと抜かしおって。タダで済むと思うなよ?」

 

リ「ふん、勝手にしろ。」

 

全く面倒なやつだ。貴重な休憩が失われたでないか。さぁエンジンをかけて準備しよう。

 

 

定刻まで3分を切った。リューヤはタキシングで駐機場から滑走路の端に移動し飛燕を停めて離陸許可を待つ。するとノボルから無線が飛んできた。

 

ノ「ヨシナガは40秒あとに離陸する。出来るだけ距離を稼ぎたいから高度はあまり上げないでいこう。」

 

リ「わかった。速度の伸びで突き放す作戦だな。」

 

ノ「そうだ。だから高度は最低限でいい。じゃあ頑張れよ。」

 

無線が切れるとちょうど離陸許可が出た。スロットルを開け、飛燕を加速させる。30キロクーリルを超えたあたりで操縦桿を押して尾輪を上げる。反トルクに気を付けながら更にスロットルを開け、50キロクーリルになったところでそっと操縦桿を引いた。

 

フワッという感覚が全身に伝わり、重力を振り切る。すぐにフラップと主脚をしまって猛然と加速する。

 

実況「さぁ20分間の休憩が終わりトップをいくリューヤ選手が飛び立ちました!!続くヨシナガ選手は40秒後方!!」

 

実況「リューヤ選手はこの40秒間という短い時間でどれだけ差を広げることができるのでしょうか!!見ものです!!」

 

ゴーッとハ140の心地よいエンジン音が身体全身に響く。雲ひとつ無い青空はいつもより青く見える。ちらりと後方を見ると針の穴のような大きさ(ようはすごく小さい)だったヨシナガの雷電が豆粒くらいになっていた。少しずつではあるが確実に差が縮まっている。この調子だとノボルから無線が飛んできてもおかしくない。案の定無線が飛んできた。

 

ノ「どうした?差が縮まってるぞ?なにか調子でも悪いんか?」

 

リ「いや、飛燕は絶好調だよ。ただまだレースは半分ある。やはりただの水平飛行だと機体の差がでる。」

 

ノ「ユーハングで雷電は迎撃機として作られた戦闘機だからやっぱ加速力とか上昇力は流石だ。まぁリューヤのことだから追いつかれたとしてもやり返してくれると信じてるからな。」

 

リ「おうよ、任せとけ!」

 

 

15分ほど飛ぶといよいよ3つ目の、正確には2つ目に通った渓谷の逆走飛行が始まる。後ろを見るとヨシナガの機影はハッキリしていた。

 

リ「(ふっ、流石は雷電だな。だが、こっちは突っ込み性能の良い飛燕だ。どこまでついて来れる?)」

 

雲ひとつ無い青空を背にリューヤは飛燕を180度バンクさせ渓谷に降りていった。そして2本の狼煙が上がる間を通過した。

 

 

 

②へ続く・・・

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