翔る空は蒼く   作:海 寿

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大変長らくお待たせいたしました。次回の更新も時間かかってしまうかもしれませんがどうかよろしくお願いします。m(__)m


第7話「二人が行く」

 まだ夜も明けない早朝4時半。外はまだ薄暗く、多くの人が寝ている時間である。ここはラハマと呼ばれる街。物流の最大手「オウニ商会」が本拠を置く街だ。

 そんな街の少し外れにあるお屋敷のような家に隣接される格納庫で動く影が三つ。なにやら慌ただしく動いている。どこかに出かけるのだろうか。

 

??「おーい、これは奥の棚に持っていってくれ。それはあっちの棚だ。」

 

??「あいよー任せろ!」

 

 指示を飛ばしているのはノボルという若い男。若干青みがかった黒髪を短く刈り上げツナギをビシッと着ている。いかにも整備士という格好。もちろん本職は戦闘機の整備士だ。イジツでは数少ない液冷エンジンを完璧に整備できる整備士の一人である。

 そして指示を受け、荷物をあちこちに運んでいるのはリューヤというこれまた若い男。細身ではあるが鍛えられたその身体は重たい荷物を運んでいてもブレることはない。そう、この男は先日若くしてイジツエアレースを制したチャンピオンである。

 もう一人。格納庫内で作業する男がいる。タキシードのような服を着こなし、その上からエプロンを着ている。右目にモノクルをかけているその男は朝ご飯の準備をしていた。二人の執事である。二人からは爺やと呼ばれているが本名は不詳である。

 

リューヤ「さっきのやつあの棚に運んだよ。」

 

ノボル「おっけ、そいじゃこれを零戦の胴体に積み込んで。」

 

リ「はいよー任せろ!」

 

 ノボルの的確な指示とリューヤの手際の良さが相まって、積み込み作業は順調に進む。これなら予定してた出発時刻に間に合いそうだ。そうノボルが思ったとき、爺やから朝ごはんができたことを伝えられた。

 

爺や「さぁ朝ご飯できたぞ、二人とも。」

 

 と、爺やが言い終わるや否や二人の腹が同時に鳴る。

 

グゥ〜、ギュルギュルギュルギュルゥ…

 

 なんとも間抜けな音だ。互いの顔とお腹をを見比べ苦笑いする。爺やもその様子を微笑ましそうに見守っている。

 

 

 お日様が姿を現し、辺りが明るくなり始めた。金色に輝く太陽はラハマの街を照らし、一日の始まりを告げる。時刻はおおよそ5時を過ぎたところ。

 隼二型のハ115と零戦二二型の栄二一型のエンジン音が奏でる心地よいハーモニーが格納庫内に響き渡っていた。

 格納庫の奥の方にはリューヤの所有する飛燕二型も置いてあるがレースやイベント以外では、ほとんど使わないので今回はお休み。というのもレース専用機で武装が無い。つまりこのイジツの世界を丸腰で飛ぶというのは自殺行為に等しいからだ。危険すぎる。

 

 ノボルとリューヤとそれから爺やの三人で機体のチェックを始めた。まずはリューヤの隼二型から行う。ノボルと爺やはそれぞれ左右に分かれて点検を手伝う。エルロン、ラダーにフラップやプロペラピッチなど全て動作させて正常であるか点検。そして計器に表示される数値も基準値内に収まっているか忘れずに確認する。

 あとは5分ほど暖機すればいつでも飛行可能となる。ノボルの零戦二二型も同様に期待各部の点検を行う。

 二機の点検が終わると爺やが僅かに開いていた格納庫の扉を全開にする。全開になったところでブレーキを解除してタキシングで滑走路に向かう。向かう途中でいつもの無線チャンネルに合わせた。

 

ノ<<こちらノボル。聞こえるか?>>

 

リ<<こちらリューヤ。はっきり聞こえるぞ。>>

 

リ<<ところでなんでタネガシになんて行くんだ?>>

 

ノ<<お前に召集される前、整備の武者修行してただろ?そんとk >>

 

リ<<あー、もしかしてそれでお世話になって立派になった報告に行くんか>>

 

 妙に鋭い発想力はさすがリューヤ。見透かされているようで少し気味が悪い。話し終えたところで滑走路の端に着いた。前にノボルの零戦、後ろにはリューヤの隼が並ぶ。早朝で飛んでる飛行機もいないので爺やからすぐに離陸許可が下りる。

 少しずつスロットルを開け、反トルクに負けないようにラダーを踏んで50キロクーリルを超えたところで尾輪を上げる。そして更にスロットルを開け70キロクーリルを超えたところで軽く手前に操縦桿を引く。フワッと浮き上がる感覚が全身を包み、大空へ羽ばたく。

 

 イジツエアレース、略してLARは一週間前のアレシマのレースで幕を閉じた。全8戦が行われ、各レースの順位に応じたポイントの合計でシリーズチャンピオンを争う。今シーズンは新人が連続チャンプのヨシナガを敗る、まさに波乱のシーズンとなった。

 今はオフシーズンでレースは無く、暇とまではいかないが様々な事に時間を使えるようになるので、今日はノボルの恩人に会うためにタネガシへと向かう。

 タネガシは昔からマフィアが統治していると言われているがどこにそんなアテがあるのかとリューヤは疑問に思う。

 

 2000クーリル程昇ったところで水平飛行に移り、ノボルと二機編隊を組む。そして空燃比をリーンに変更。

 まず目指すのは空の駅。空の駅で一度休憩しタネガシへ向かう。念のため増槽をぶら下げているのでガス欠は心配無用。

 朝早くに出発したので空賊らしき機影も見つからない。大型の輸送機ならまだしも、戦闘機2機を襲うのもどうかしているが。

 

リ<<なんか久しぶりだね、こういうのって>>

 

ノ<<毎日渓谷で練習してたもんな。何も気にせず飛べるのって良いよなぁ>>

 

リ<<わかるわかる!いつも時間に追われてたから伸び伸び飛べるのって最っ高☆>>

 

ノ「(あかんコレまた変なスイッチ入りかけたな。やれやれ。)」

 

 喋る話題も尽きることなくお喋りしていると、だんだん空の駅が見え始めた。大きな給油塔が目印の空の駅「マキ」だ。管制塔に着陸の許可、と言ってもごく簡単な左右にロールをして敵意がないことを伝える。そしてノボル、リューヤの順で滑走路に降りていく。

 駐機場には酒場で使う食材等を卸しにくる一〇〇式輸送機二型が停まってる以外はガラガラであった。一〇〇式輸送機の邪魔にならない位置に隼と零戦を停め、冷機運転を行う。

 冷機運転が終わるとダッシュでトイレに。空に上がるとどうもトイレが近くなるらしい。用を足すと酒場で軽食を頂く。ここのハンブルグサンドは超が三つ付くほど美味しいことで有名だそう。リューヤは二つハンブルグサンドを注文する。そしてすぐに頼んだハンブルグサンドが登場。お肉の香ばしい香りが鼻をくすぐる。

 

リ「ほらよ、奢りだ」

 

ノ「珍しいな、気前よくて」

 

リ「そりゃあチャンピオン獲れたしそれなりの賞金も貰えたしな。」

 

チャンピオンという言葉を聞いてハッとした店主。強面な人相で圧がすごい。

 

店主「お客さんもしかしてリューヤ選手じゃないですか?うわぁ、お会いできて嬉しいです!握手してもらってもいいですか?こんなところですがどうぞゆっくりしていってください。」

 

大ファンなのかめちゃくちゃ早口。舌を噛みそうな勢いだ。

 

リ「お、おう。応援アリガトナ。」

 

 店主のあまりの興奮具合にちょっと引き気味のリューヤ。思わずカタコトになる。このまま店主のマシンガントークが続くかと思いきや他の客に呼ばれた。お金はここに置いとくと店主に伝え店を後にする。

 さぁて残すはタネガシに向かって飛ぶだけだ。何もなければ良いが。

 

 やはり何もないと願う時ほど何かあるものだ。噂をすればなんとやら。タネガシまで残り15キロクーリルというところで何やら飛行船が空賊に襲われているのを発見した。隼6機が飛燕の迎撃にあたっているが空賊の数が圧倒的に多く、隼はなんとか持ち堪えてると言ったところか。状況はあまり良くない。

 

ノ<<リューヤ、あれ見えるか?>>

 

リ<<ああ、見えるぜ。どうするってんだ?俺らタネガシに向かうんだろ?>>

 

ノ<<旅は道連れ、世は情けってユーハングの言葉がある。人助けしてから向かうのも悪くないんじゃないか?>>

 

リ<<それもそうだな>>

 

 二人は増槽を切り離し、空燃比はリッチに変更。すぐさま助太刀に入る。そして高度を取り状況確認をする。やはり空賊とはいえ連携はとれていない。数では有利だがバラバラに狙いたいように狙う。連携の取れていない証だ。そして後ろの警戒心がほとんど無かった。ノボルは目で合図し、リューヤがコクリと頷くと飛燕に向かっていった。高度を活かし速度をのせ、上から7.7ミリを浴びせそのまま下に抜ける。翼から火が出た。一機撃墜。一方リューヤも同じようにして一機撃墜。

 

??「隼二型と零戦二二型が我々に加勢している模様。」

 

??「加勢してくださるなら誰だろうと歓迎ですわ!」

 

??「エンマの言う通りだ、さぁ残りの敵機も片付けるぞ。」

 

 リューヤとノボルの加勢により隼6機はたちまち勢いを取り戻す。水を得た魚のように、次々に敵機を墜としていく。逃げ出す機体も見受けられる。早くも残るは3機ほど。

 

 わざと隙を見せたリューヤの隼の背後を飛燕が取った。すかさずブレイクするがしっかり喰らい付いてくる。空賊の中では手練れだ。シザーズで射線をかわしつつノボルが撃ちやすいように敵機を誘い込む。何度か射撃をかわした後、急旋回をやめ水平飛行に移る。飛燕が12.7ミリを撃とうとする瞬間、音も無く背後についていたノボルの20ミリの餌食となり飛燕は空に散った。どうやら敵の大将機だったらしく残りの2機は空戦をやめ、我先へと離脱していった。

 戦闘も終わったので離脱しようとすると、緑のユーハングの文字をモチーフにしたようなマークをつけた隼が近づき無線のチャンネルを合わせるように手信号を送った。おや、どこかで見たことがあるような?

 

レオナ<<こちらコトブキ飛行隊、隊長のレオナだ。先程は援護感謝する。ん、お前は…!!>>

 

リ<<やあ、こりゃ偶然だね。>>

 

片手を挙げて軽く会釈する。声でわかったようだ。

 

エンマ<<あら、リューヤさんではないですの。ご機嫌よう。>>

 

チカ<<加勢してくれたのリューヤのおっさん達だったんだねー!ありがとー>>

 

ノ<<なんだなんだ知り合いか?>>

 

 突然リューヤの名前が出て、ノボルは理解が追いつかなかった。レースを始めてからほとんどの時間をリューヤと一緒に過ごしてきた彼は彼女らと面識があるなら自分の名前が呼ばれてもおかしくない。しかしながら呼ばれなかった。ノボルの知らないところで彼女達に会うチャンスはあっただろうか。

 一部コトブキのメンバーも状況が理解できていないようだ。

 

ザラ<<あらあら?レオナのお知り合い?>>

 

キリエ<<え?なに?どゆこと?>>

 

ケイト<<恐らくイジツエアレース、アレシマGPで空の駅を護衛した任務の時のレーサー十三人の内の一人とケイトは推測。>>

 

レ<<ケイトの言うとおりだ。まあ詳しい話は後だ。リューヤとお連れさんは飛行船に着艦したことはあるか?>>

 

 自然な話の流れでどうやら第二羽衣丸にお邪魔することになりそうだ。リューヤは構わないといった感じだが、ノボルはどう反応するか。時間に余裕はあるが目的地もあるのであまり寄り道はしたくないだろう。

 

ノ<<何度かやったことあるから大丈夫だ。>>

 

リ<<えっ、寄り道しちゃって大丈夫なん?あ、俺らタネガシに向かう途中なんですよ。>>

 

レ<<実は我々もタネガシに向かうところなんだ。ここで会ったのも何かの縁だ。礼も兼ねて少し寄ってかないか?>>

 

リ<<そうだな、旅はナントカって言うしそうさせてもらうよ>>

 

 そうして二人は第二羽衣丸にお邪魔することになった。

 船内の駐機エリアに隼と零戦を止め、冷機運転を終えると小柄なツナギにタンクトップを着た少女(?)がイナーシャハンドルを片手に飛んでくる。

 

??「くらぁっ、私の許可無しに着艦してくるとはいい度胸じゃねぇか。ああん?ケツの穴にイナーシャ突っ込んでかきまわし…て、どっかで見た顔だと思ったらノボルじゃねぇか。」

 

ノ「あ、どうもですナツオ班長。その節はお世話になりました。」

 

ナツオ「おう、まぁ昔の誼だ。ゆっくりして行ってくれ。」

 

ノ・リ「ありがとうございます」

 

 ナツオ班長と喋っている間に続々とコトブキ飛行隊のメンバーが飛行船に着艦してきた。流石はコトブキ飛行隊、皆きれいな三点着地で着艦させる。あまりに綺麗な着艦で思わずリューヤは見惚れる。隼から降りてきたのは可愛いらしい女性たち。先ほどまで空戦をしていたのが嘘のよう。なにやら先程の空戦を楽しげに話している。リューヤは腕を組み眉を1ミリも動かさず、戦闘機から降りた彼女たちをジッと見ていた。

 

リ「(うひょー!あんな子たちが戦闘機乗りなんて信じられない☆可愛くて空戦強くいなんて最強ですか?☆)」

 

 横からノボルの痛い視線が向けられてるようだが気にも留めず彼女たちを眺める。後でノボルから何を言われるか。ふとこちらの視線に気づいたのか、高貴そうな金髪の女性が会釈をし微笑んだ。思わずリューヤの顔がポッと赤くなる。

 

レ「おーい、こっちに来てくれ。船内の酒場まで案内する」

 

 我に帰ると聞き覚えのある声がが二人を呼んでいた。声の主は赤髪を高い位置で結んだ女性、レオナだった。コトブキの他のメンバーはすでに格納庫から出るところだ。ドタバタと我先へと出ていく女性二人に、それを微笑ましく見る三人が後に続く。リューヤとノボルの二人は、はーいと返事をしレオナの後ろをソロソロついて行く。

 

 酒場では先に着いていた5人が出迎えてくれた。そして自己紹介。コトブキ飛行隊隊長のレオナさん、副隊長でお酒大好きなザラさん、レースの時護衛してくれた一番槍のチカさん、レースの時のもう一人の護衛で先程会釈して微笑んでくれた貴族出身のエンマさん、表情の変化が少ないが時折鋭いツッコミを入れるケイトさん、パンケーキが好きで好きでたまらないキリエさん。自己紹介ではじめて名前と顔が一致する。みんなとても個性的だ。

 リューヤとノボルも自己紹介をする。

 

リ「リューヤと申します。戦闘機レーサーやってます♪以後お見知りおきを☆」

 

ノ「リューヤの機体の整備担当のノボルといいます。こう見えてリューヤとは従兄弟です。」

 

 自己紹介を終えるとレオナさんの奢りで食事会が始まった。カレーやパンケーキ、ハンブルグサンドにアホウドリの唐揚げなどが注文され、次々にテーブルに並ぶ。リューヤはドライカレーにアールグレイの紅茶を、ノボルはハンブルグサンドとサイダーを注文する。

 紅茶が運ばれてくると同時にエンマさんに話しかけられる。

 

エ「お目が高いですこと。」

 

リ「この香りがたまらないんですよ!」

 

エ「わかります!特にこの・・・」

 

 エンマさん、丁寧な口調だがものすごい早口で紅茶について語り始めた。時折知らないような豆知識も飛び出てとても参考になる。本当に紅茶が好きで好きでたまらないのがよく伝わってくる。なんだろうこの気持ち、一生懸命喋るエンマさんが愛おしく感じる。いかんいかん。

 

 

 楽しく紅茶談議をしているとあっという間。第二羽衣丸はタネガシの飛行船用駐機場に到着した。駐機場のすぐ近くには滑走路に隣接された大きな整備工場がある。名残惜しいがエンマさんと別れ、零戦と隼を搬出する手伝いへ向かった。飛行船の格納庫では出迎えてくれたタネガシの住民が搬出の手伝いに来ていた。ノボルはその中に見覚えのある人影を見つけた。腕を組み、まじまじと自分の零戦を眺めてボソッと。

 

??「ええ整備されてる機体やなぁ。」

 

 

 




次回、某氏が書く某小説の某整備士が友情出演!?乞うご期待☆
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